2021 Volume 16 Issue 1 Pages 85-91
【目的】進行がん患者の遺族からみた多剤併用の状況と内服負担に関する体験や認識を明らかにする.【方法】がん患者の遺族303名に自記式質問票を郵送し,回答を得た.1回6錠以上の内服を多剤併用群,1回6錠未満の内服を非多剤併用群とし,内服負担や体験,認識について単変量解析を行った.102名の結果を解析した(有効回答率33.7%).【結果】多剤併用群(65名)は,非多剤併用群(37名)よりも遺族が患者の内服負担を感じた割合が高値であった(43.1% vs 10.8%,p<0.01).内服負担が少ない服用方法としては,現状よりも1回の服用錠剤数を減らしたいと希望していた.多剤併用群の遺族は,内服薬が多いことの懸念が強く,医療者からの内服薬に関する説明や相談できる医療者を希望していた.【結論】医療者は,服薬状況の確認とともに薬に関する家族の懸念についても十分に配慮する必要があることが示唆された.
進行がん患者は,がん自体の症状のほかに,多くの身体的・精神的苦痛症状が発現する.緩和ケアの役割は,全がん患者における身体的・精神的苦痛を薬物治療や非薬物治療により和らげ,Quality of Life(QOL)を改善するアプローチとされている1).緩和ケアにおいては,患者の状態に応じた多くの薬剤が使用されているが,個々の患者における原病の進行程度,優先度,合併症やサポートの必要性などにより,薬剤の選択が異なっている.また,がん患者は,5分の1以上が慢性疾患を罹患していることが報告されており2),症状緩和の薬剤だけではなく,慢性疾患の薬剤の服用により多剤併用の状況になりやすいと考えられる.
近年,多剤併用の問題は,高齢者に限らず,進行がん患者においても重要とされている.1日6種類以上を多剤併用とした進行がん患者の調査結果では,服薬アドヒアランスの低下,経口摂取困難による内服負担,服薬過誤,臓器機能の低下による薬物の有害事象のリスクおよび医療費の増加が報告されている3〜6).進行がん患者における多剤併用の実態調査では,1日あたりの服用錠剤数の平均値または中央値は,9.2から10.3錠7,8),進行がん患者の1日あたりの服用種類数の平均値は7.8種類と報告されている9).本邦においては,進行がん患者の1日あたりの服用種類数の中央値は7種類と報告されている10).
一般的に,多剤併用は6種類以上の薬剤の使用と定義されているが,過去の報告では,服用種類数だけではなく,服用錠剤数で評価している報告が散見される7,8).また,多剤併用とは,多剤の服用に伴い健康上の別の問題が生じやすい状況を指すとも報告されている6).多剤併用の改善には,服用錠剤数や服用種類数のみの検討だけではなく,服薬支援からみた処方内容の適正化を実施し,各々の患者に合わせた対応が必要である.
現在までに,多剤併用のがん患者本人を対象としたアンケート調査では,服薬錠剤数の増加は患者自身に苦痛を与えることが明らかとなっている11).また,遺族は進行がん患者の服薬管理に関与していると考えられ,在宅における高齢患者を対象としたアンケート調査では,42.9%の家族が服薬管理していたと報告されているが,進行がん患者の近くで内服状況を目の当たりにしている遺族の体験や認識を調査した報告はない12).また,がんの進行期におけるケアやQOLの評価は,患者のみならず,その経験をした遺族の悲嘆や抑うつに影響することが知られている13).
そのため,遺族調査により,これまで得られなかった進行がん患者の内服薬の実態を明らかにすること,さらには,多剤併用に着目して,遺族からみた進行がん患者の内服負担や患者の内服に関する遺族の体験や認識について検討することは,よりよい遺族ケアを考えるうえで重要と考える.
本研究の目的は,遺族を対象とした調査研究を行い,進行がん患者の内服状況を把握するとともに,多剤併用と遺族からみた内服負担や体験,認識の関連および内服負担が少ないと考える服用方法について明らかにすることである.
調査対象は,2011年11月から2015年5月までに,坂の上ファミリークリニック有床診療所,聖隷三方原病院ホスピス,国立がん研究センター東病院緩和ケア病棟において亡くなった,進行がん患者の遺族を対象とした.質問票は2015年5月に郵送し,返答期限を1カ月以内とした.2015年5月より連続的にさかのぼり計303名を同定し,遺族による緩和ケアの質の評価に関する研究の付帯研究として,質問票による調査を行った.
質問票の調査項目は,がん患者の緩和医療に携わる医師・看護師・薬剤師による討議により決定し,遺族に対して,進行がん患者が最後に入院する前の自宅で過ごした1カ月間の内服の状況について調査を行った.
調査項目1.質問票に回答した遺族の背景
遺族背景は,年齢,性別,続柄について回答を得た.
2.遺族からみた進行がん患者の内服および多剤併用の状況
遺族からみた進行がん患者の内服状況を明らかにするため,1回の服用錠剤数「0〜5錠,6〜10錠,11〜15錠,16〜20錠」,1日の服用回数「1回,2回,3回,4回,5回以上」,1日の服用時間「0〜5分,6〜15分,16分以上」の各項目について,当てはまるものに○を付ける形式で,回答を得た.
多剤併用の明確な定義はないが,高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015では,薬物有害事象の危険因子として6種類以上の薬剤の服用が挙げられている5).さらに,1種類であっても1回の服用量が多ければ薬物有害事象の危険性が高まることから,本研究においては,1回の服用錠剤数が6錠以上を「多剤併用群」,1回6錠未満を「非多剤併用群」と定義した.多剤併用の内服状況については,服用錠剤数,服用種類数や服用回数について調査した報告がある4).しかし,経口困難時の内服やPTP包装シートからの薬剤の取り出しなど,1日の服用に時間を要することは,多剤併用の要因になると考えられる.そこで,本研究においては,多剤併用の状況について1回の服用錠剤数,1日の服用回数,1日の服用時間を調査項目とし,遺族からみた進行がん患者の内服状況を調査した.また,多剤併用群および非多剤併用群の両群において,これら多剤併用状況を調査した.
3.多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服負担との関連性
遺族からみた進行がん患者の内服錠数に関する質問に対して[もっと減らして欲しかった],または,[もう少し減らして欲しかった]との回答を得た場合を「内服負担あり」,[薬の数は問題なかった]との回答を得た場合を「内服負担なし」とした.多剤併用の有無と遺族からみた内服負担との関連性について評価するため,多剤併用群と非多剤併用群において,「内服負担あり」の割合を算出し比較した.
4.多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服状況に関する体験や認識に関する比較
多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服状況に関する体験や認識に差があるかを明らかにするため,「遺族からみた進行がん患者の内服状況」,「遺族からみた進行がん患者の内服薬に対する認識」,「遺族からみた医療者に対する認識」および「遺族からみた内服の経済負担」の四つのカテゴリーについて質問をした.それぞれのカテゴリーにおける各質問項目に関しては,4件法(1=全くなかった;2=ほとんどなかった;3=たまにあった;4=よくあった)で回答を得たうえで,多剤併用群,非多剤併用群において比較した.
5.遺族が考える進行がん患者の負担や遺族の薬剤管理の負担が許容できる内服方法
遺族に対して,「進行がん患者」および「遺族の薬剤管理」の両者の立場に立った場合において,負担が許容できる内服方法を質問した.質問内容は,1回の服用錠剤数および1日の内服回数とした.前者は「1〜2錠,3〜4錠,5〜6錠,7〜8錠,9錠以上 」,後者は「1回,2回,3回,4回,5回以上」の各項目について,当てはまるものに○をつける形式で回答を得た.
倫理的配慮対象者に対し,文書にて調査の趣旨,サンプリング方法,プライバシーの保護(無記名であること),参加の自由,参加しない場合も不利益を被らないことを説明した.これらの内容が記載された文書を郵送し,回答をもって参加の同意とした.本研究は,国立がん研究センター東病院の研究倫理審査委員会の審査を受けた(承認番号2015-173).参加各施設は施設内倫理審査委員会の審査または施設の承認を得た.
統計解析各調査項目について記述統計を算出した.多剤併用の有無と遺族からみた内服負担との関連性の評価については,カイ二乗検定を行った.
多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服状況に関する体験や認識に関する比較については,多剤併用群と非多剤併用群にて各質問項目の平均値を算出し,ウィルコクソンの順位和検定を行った.統計解析は,IBM SPSS Statistics Version 20.0(日本IBM,東京)を用いた.有意水準は,p<0.05とした.
質問票を郵送した進行がん患者の遺族303名のうち158名から回答があった.そのうち,調査項目が未記入であった回答は除外し,最終的に,102名を解析対象者とした(有効回答率は33.7%).遺族の背景を表1に示す.年齢は62±11歳(平均値±標準偏差),男性は38名,女性は64名であった.遺族の続柄は,配偶者が56名(54.9%)と最も多かった.
2.遺族からみた進行がん患者の内服および多剤併用の状況遺族からみた進行がん患者の内服および多剤併用の状況を表2に示す.1回6錠以上を内服する多剤併用群は65名(63.7%),1回6錠未満の非多剤併用群は37名(36.3%)であった.多剤併用群で最も多い内服方法は,1回の服用錠剤数については6〜10錠であり50名(76.9%),1日の服用回数については3回の39名(60.0%),1日の服用時間については0〜5分であり52名(80.0%)であった.
3.多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服負担との関連性多剤併用と遺族からみた進行がん患者の内服負担との関連性を表3に示す.遺族が患者の内服負担を感じていた割合は,多剤併用群において43.1%であり,非多剤併用群の10.8%に比べ有意に高かった.
4.多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服に関する体験や認識に関する比較多剤併用の有無と遺族からみた進行がん患者の内服に関する体験や認識に関する比較について表4に示す.遺族からみた進行がん患者の内服状況については,「薬を飲み忘れることがあった」,「薬を飲むとおなかがいっぱいで,ご飯を食べられないことがあった」の項目において,多剤併用群は非多剤併用群に比べて有意に高かった.遺族からみた進行がん患者の内服薬に対する認識については,「こんなに薬を飲んでも大丈夫かと感じた」,遺族の医療者に対する認識では,「具体的な飲み方の工夫についての説明がほしいと思った」,「その薬を飲むと,どのような効果があるのか説明がほしかった」,「どのような副作用に注意すればよいか説明が欲しかった」および「薬について気軽に相談できる人がいてほしかった」の項目において,多剤併用群は非多剤併用群に比べて有意に高かった.遺族からみた内服の経済的負担については,「薬代は,経済的に負担であった」の項目において,多剤併用群は非多剤併用群に比べて有意に高かった.
5.遺族が考える進行がん患者の負担や遺族の薬剤管理の負担が許容できる内服方法遺族が考える進行がん患者の負担や遺族の薬剤管理の負担が許容できる内服方法について,表5に示す.遺族が進行がん患者の立場に立った場合,内服負担が少ないと考える内服方法は,1回3〜4錠および1日3回が最も多く,回答割合はそれぞれ53.3%と61.3%であった.また,遺族が薬剤管理の立場に立った場合,薬剤管理の負担が少ないと考える内服方法は,1回3〜4錠および1日3回が最も多く,回答割合はそれぞれ62.7%と59.3%であった.
本研究は,専門的緩和ケアを実施している有床診療所,ホスピス,急性期型の緩和ケア病棟で死亡した進行がん患者の遺族を対象とした質問票の回答を解析することで,進行がん患者の内服状況を把握するとともに,多剤併用と遺族からみた内服負担の体験,認識の関連および内服負担が少ないと考える服用方法について調査した.その結果,進行がん患者の63.7%が1回6錠以上を内服する多剤併用の状況であることが明らかになった.また,多剤併用群の遺族の43.1%が内服負担を感じており,多剤併用と遺族の内服負担との関連性が示唆された.さらに,多剤併用群の遺族は,内服薬が多いことの懸念が強く,医療者からの内服薬に関する説明や相談できる医療者を希望していることが明らかになった.内服負担が許容できると考える服用方法としては,進行がん患者や遺族の立場に立った場合の両者においても,現状よりも1回の服用錠剤数を減らしたいと希望していることが示唆された.これらの結果は,進行がん患者の遺族の視点で,患者の内服薬の状況および負担について明らかにした初めての研究であり,家族に対するケアを考えるうえで重要な示唆を得ることができたと考える.
この研究で一番重要な点は,進行がん患者が多剤併用の状況だった遺族にとっては,内服薬が多いことの懸念が強く,遺族は,内服方法の工夫,薬剤の効果,副作用の説明を求めており,薬に関して気軽に相談できる医療者がいて欲しいと考えていたことである.これらの結果と同様に,がん患者本人を対象とした多剤併用の実態調査においても,内服負担や薬剤費に対する懸念が問題であることが報告されている3,4).また,多剤併用の高齢患者本人を対象としたアンケート調査では,内服に対する不安の解消には医療者の支えが重要であることが報告されている14).つまり,多剤併用は,患者本人と同様に,その遺族においても薬に対する懸念や内服負担に影響することが考えられ,医療者は,内服状況の確認とともに薬に関する遺族の懸念について十分に配慮する必要であることが示唆された.
多剤併用の負担を軽減するためには,薬剤情報を提供する医療者の存在が重要とされている.先行研究では,適正な薬物療法を提供する医療の担い手である薬剤師の介入は,内服負担や経済的にも有用であることが報告されている15).Blakeyらは,多剤併用による薬物関連の疑義照会を薬剤師が行った結果,98.6%は承認され,平均減少薬剤数はコントロール群0.4剤に対して,薬剤師関与群では3.4剤と有意に減少させ,薬剤師の介入により年間7,788ドルの医療費が削減できたと報告している15).また,薬剤師の訪問服薬指導が在宅高齢者の薬剤知識や服薬コンプライアンスに影響するかを評価した研究では,薬剤師が訪問服薬指導をした場合,コンプライアンス良好(服用率80%以上)の割合は71.1%で,本人,ホームヘルパーまたは介護者である場合と比較し有意に高かったことが報告されている12).これらの結果と本研究結果より,患者だけでなく,その遺族に対しても,薬剤師が服用錠剤数,服用回数,服用時間の減少に向けた取り組みを実施し,内服負担の懸念を改善する薬剤情報提供や経済的な負担を解消する処方提案を行うことが重要と考えられる.
次に興味深い点は,遺族が考える負担が許容できる内服方法としては,遺族が進行がん患者の立場に立った場合,また,遺族の立場に立った場合の両者においても,1回3〜4錠および1日3回との回答が最も多かったことである.進行がん患者の内服状況では,1回6〜10錠および1日3回と回答した遺族が最も多かった(表2).このことから,1日の回数については,3回に負担を感じている遺族は少ないと考えらえる.しかし,1回の服用錠剤数については,現状に比べ半数に減らしたいと希望していることが示唆された.
本研究は,多施設における進行がん患者の遺族を対象とし,アンケート調査を実施した遺族調査である.本研究の限界の一つ目は,遺族のリコールバイアスがあることが予測され,研究期間の空いていない遺族を対象とした場合と結果が異なる可能性がある.二つ目は,遺族の評価には,施設背景の影響を受けている可能性が予想される.そのため,より詳細の施設背景(規模,人員配置,緩和ケアサービス)を収集し,遺族の評価が施設背景に影響するか検討する必要がある.三つ目は,内服負担の評価は,本来患者自身にアンケート調査することが望ましいが,本研究の対象である進行がん患者が最後に入院する前の自宅で過ごした1カ月間の内服の状況の特定が困難であることや,後方視的研究では欠測値等により結果の信頼性が落ちる可能性があるため,本研究では遺族調査を行ったが,患者自身のアンケート調査と結果が異なる可能性がある.さらに,内服負担を服用錠剤数のみで評価しており,散剤や水剤等の内服状況により,異なる可能性がある.四つ目は,多剤併用の有無を1回の服用錠剤数が6錠以上または6錠未満で定義をしたが,現在までに定まった多剤併用の定義はないため,広くコンセンサスを得られたものでないことや多剤併用のエビデンスは限られているため,一般化の可能性には限界があること.五つ目は,有効回答率が33.7%と低いため,未回答者は,進行がん患者における多剤併用の評価が低い,または,本研究で得られた回答が,多剤併用の評価が高い方へ偏っている可能性があることである.六つ目は,本研究は遺族からの視点での評価であるため,進行がん患者本人の評価とは異なる可能性がある点である.負担の少ない服用錠剤数などについて患者本人の調査と今回の遺族調査では同様の結果が示されているが,進行がん患者と遺族の評価の差を示すためには,両者に対し同じタイミングで別々に調査を行う必要がある.しかし,本研究は,これらの限界を踏まえても,進行がん患者の内服状況の実態が把握でき,多剤併用と遺族からみた進行がん患者の内服負担や体験,認識,および内服負担が許容できると考える服用方法について明らかした点においては重要であると考えた.
本研究では,進行がん患者の遺族を対象とした調査を行った.その結果,多剤併用は,遺族の考える進行患者の内服負担と関連しており,遺族が進行がん患者の内服負担を許容できる服用方法については,現状よりも1回の服用錠剤数を減らしたいと希望していることが示唆された.多剤併用の状況だった進行がん患者の遺族は,内服負担に対する懸念を強く感じ,薬に関して気軽に相談できる医療者を要望していた.今後は服用状況の確認の際に,内服に関する懸念についても聴取することで,進行がん患者だけでなく家族に対するケアも向上させることが期待される.
本研究は,公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団(2014年度)助成(研究代表者:内藤明美氏 課題名:在宅支援診療所の有床ベッドと緩和ケア病棟の連携による終末期ケアと遺族の評価に関する研究)を受けて実施され,主研究の分担研究として実施された.アンケート調査に御協力をいただきましたご遺族,医師・看護師・薬剤師の皆様方に深く御礼を申し上げます.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
阿部,藤城,沖崎,三浦は研究の構想およびデザイン,結果の分析および考察に貢献;内藤,森田は研究の構想およびデザイン,結果の回収・データクリーニングに貢献;真野,吉野,青木,齊藤,山口は結果の分析および考察に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.