Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communication
Evaluating the Pilot Usability for Telenursing-based Cancer Pain Monitoring System
Shiori YoshidaFumiko SatoKeita TagamiMakoto ShimoyamaShin Takahashi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2021 Volume 16 Issue 1 Pages 99-108

Details
Abstract

研究目的は,遠隔看護によるがん疼痛モニタリングシステムのパイロットユーザビリティ評価である.方法は,外来進行がん患者と医療者各10名にシステム使用後にWeb Usability Scale(WUS)と自由記述を用い評価した.WUSの7項目中「構成のわかりやすさ」および「内容の信頼性」がよい評価を得られ,「操作のわかりやすさ」,「見やすさ」,「反応性」,「役立ち感」,「好感度」はよい評価を得られなかった.自由記述では,システムはがん疼痛セルフマネジメントを高める評価,運用拡大への要望と社会面への課題が示された.患者のユーザビリティ改善が課題であり,効果検証では十分なオリエンテーションが必要である.

緒言

外来進行がん患者の約60%が疼痛を自覚し,約20%は中程度から高度の疼痛を経験し1),外来がん患者の除痛率が低いと報告されている2).外来患者は医療者の直接介入機会が減るため,がん疼痛セルフマネジメント獲得が望まれている3).支援の担い手は,薬理学的知識と患者を生活者として見る視点を持ち,身体的,心理的,社会的な疼痛への対応可能な看護師がふさわしい3)とされている.

日本は,Information and Communication Technology(ICT)を活用した遠隔医療を推進している47).海外では外来がん患者の症状マネジメントにICTを用い,苦痛症状や抑うつの軽減8,9),救急受診率低下による受診費用の抑制10)および化学療法期間の延長によるQuality of Life(QOL)と生存率の改善が報告されている10,11).しかし,本邦では外来がん患者の疼痛セルフマネジメントを支援するICTシステムは開発されていない.このため,われわれは遠隔看護によるがん疼痛モニタリングシステム(Cancer Pain Monitoring System: CAPAMOS)の開発を行った.CAPAMOSが利用者にとって有効に,効率的に,心地よく,受け入れやすいか評価するユーザビリティ評価は,ニーズを捉えたシステム構築には欠かすことができない12)

本研究の目的は,外来進行がん患者および医療者を対象にCAPAMOSの効果検証に先駆けて,ユーザビリティ評価を行い,実施可能性を検証することである.

方法

CAPAMOSはがん患者の遠隔疼痛マネジメントシステムであり,患者が体調,疼痛および服薬状況を入力することで疼痛を自己管理するとともに,看護師が遠隔よりモニタリングおよびフォローアップするシステムとして開発した.構成は,先行研究810,11)をもとに,①がん疼痛に関する教育ツールである「がんの痛みと痛み止めの注意点」1318),②服薬状況を入力する「服薬チェック」,③バイタルサインおよび疼痛の程度を入力する「体調チェック」,④服薬状況および体調の変化をグラフで確認できる「これまでの体調の変化」,⑤医療者とテレビ電話やメールが行える「医療者へ連絡する」の計5要素である(付録図1).患者の疼痛が高度な時やレスキュー薬の服薬回数が多い時には看護師へアラート通知される.管理者側のシステムは,患者が入力したデータを閲覧できる「問診結果」,「経過グラフ」およびシステム設定を操作する「システム」で構成した.電子媒体は,患者対象者が高齢であることを想定し,大きい画面,操作の直感的で簡便であることを重視し,Apple 社のiPad (6th Generation 9.7インチRetinaディスプレイA10 Fusionチップ)を選択した.

調査は2019年7~8月に実施した.対象者は先行研究1921)をもとに患者および医療者各10名とした.患者は,がん診療連携拠点病院1施設の腫瘍内科および緩和医療科に通院中で医療用麻薬服薬によりがん疼痛緩和を行っている進行がん患者とした.医療者は,調査者とは独立した組織に所属し,がん疼痛看護に関する研究歴がある研究者,臨床でがん疼痛ケアに携わっている医師・薬剤師・専門または認定看護師とした.医療者と患者は連結せず,独立した対象者とした.

患者対象者の背景は年齢,性別,罹患部位,Performance Status(PS),Numerical Rating Scaleによる24時間の平均および最も強い疼痛程度,医療用麻薬使用期間を収集した.医療者対象者は職種,専門資格,がん疼痛研究またはケアに携わった期間を質問紙で収集した.患者のICT機器使用歴は,CAPAMOS操作時に口頭で聴取した.

同意が得られた同日に,両対象者にはCAPAMOSの構成および操作を理解してもらうために,調査者が操作方法を説明し,対象者がCAPAMOS操作方法を確認した後,ユーザビリティ評価を行った.調査はWeb Usability Scale(WUS)および自由記述を質問紙にて収集した.

WUS22,23)(付録表1)は,7つの評価因子各3項目から成る「好感度」,「役立ち感」,「内容の信頼性」,「操作のわかりやすさ」,「構成のわかりやすさ」,「見やすさ」,「反応のよさ」の計21項目で構成される.5点:大変そう思う,4点:そう思う,3点:どちらでもない,2点:そう思わない,1点:全くそう思わない,の5段階評価であり,平均点を算出する.本研究では4点以上は肯定的な評価を示すと定義し,回答率80%以上がよい評価が得られたとした.自由記述はシステムに対する意見として「このシステムに対するご要望を自由にご記入ください」とした.

分析は,SPSS 24.0 J for Windows(日本IBM,東京)を用いた.自由記述はデータの意味を理解するために内容の類似性によって分類した.分析過程は質的研究歴のある共同研究者間で討議し,妥当性確保に努めた.

本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認(2019-1-33)を受け実施した.

結果

対象者の背景(表1

患者の平均年齢は56.2歳,PS1が7名,平均医療用麻薬使用期間が24.3カ月だった.

医療者のがん疼痛の診療に携わった平均期間は11.4年だった.

表1 対象者の背景およびWUS得点

WUS(表1,付録表1)

患者および医療者の肯定的な評価を示したWUS回答割合は65〜80%であり,よい評価が得られた項目は7因子中「構成のわかりやすさ」および「内容の信頼性」の2因子だった.

患者および医療者のシステムに対する意見(表2, 3

患者および医療者はシステム活用方法や活用へのメリットを評価した.一方で運用拡大への要望,社会面への課題を指摘した.

表2 患者によるシステムに対する意見
表3 医療者によるシステムに対する意見

考察

本研究の患者対象者は30代から70代まで幅広く,活動は制限されるが,軽い家事ができる者が多かった.また平均医療用麻薬服薬期間が2年であり,患者固有のセルフマネジメントで疼痛に対処し生活していたことが推察される.

本システムは,患者のWUSが操作および構成のわかりやすさ,見やすさ,役立ち感,好感度においてよい評価を得られず,自由記述では運用拡大の要望が示された点が課題である.対象者は簡易な表現への修正や画面移行の簡易化,使用できるデバイス拡大等の要望を指摘した.患者が医療者のWUSに比較し,偏りがみられた原因は,医療者は電子カルテの利用等によるICT機器に抵抗が低かった可能性や,入力に必要なデータが普段の診療で頻用される表現であり,患者よりもシステムに馴染みやすかった可能性がある.患者へのわかりやすい表現,操作性,画面移行の簡易化を行い,効果検証では十分なオリエンテーションが必要である.

また,役立ち感では時間の浪費であると回答した患者割合が30%だった.自由記述では現在の社会制度ではシステム運用が困難との社会面への課題が指摘された点や70代の患者1名は毎日のシステム入力に抵抗を感じるとの要望があった点が影響していると考えられる.しかし,50〜70代は本システムを電話と比較して医療者に相談しやすいと評価している点が重要である.社会面への課題は今後の効果検証により,新たな政策的示唆を得る知見が得られるかが今後の課題である.また,システム入力への抵抗はICT機器使用経験がないことが要因と推察する.救急時に医療者に電話相談を行う場合に20~30代,女性では自身で電話相談を行うことが多いが,65歳以降では家族が電話することが多いと報告されている24).このことから本システムは,高齢者であっても患者自身で医療者と相談できるシステムとして期待できる.

急性期の患者への使用は難しいとの意見も認められたが,本システムは患者が容易に医療者と相談できること,そして医療者は患者の経時的状態をモニタリングできることから,今後の効果検証によるがん疼痛の急性期患者に対するシステムの有効性検討が期待される.また,日常生活自立度の低下や高度の疼痛で本人が入力できない場合でも家族や支援者が代わって入力し,医療者と相談できるため,早期の症状緩和に繫がることが期待できる.

患者と医療者は本システムによって,症状セルフマネジメント能力が高まると活用のメリットを評価している.遠隔医療の利点は,自宅にいながら患者が医療者から見守られている安心感である25).さらに,症状対処をリアルタイムで確認し,相談できるシステムは,患者が疼痛緩和を図るために必要な知識を習得する教育効果をもたらしている26).そして,患者は遠隔看護システムによって培った経験と学習を通して,医療用麻薬を服薬し,疼痛をセルフマネジメントする能力を獲得する26).本研究においても,患者はシステムを用いた生活に安心感を抱く結果が得られ,システムが日常生活を支える有効な支援と成り得ることが示唆された.

本研究は,評価に用いたWUSのカットオフ値設定が未検証であることが限界である.

次の研究課題は,本知見を踏まえてシステムを改修し,システム効果の実証である.

結論

CAPAMOSのユーザビリティ評価により,患者および医療者のWUSにおいてよい評価が得られた項目は7因子中「構成のわかりやすさ」および「内容の信頼性」の2因子であり,「操作のわかりやすさ」,「見やすさ」,「反応性」,「役立ち感」,「好感度」の5因子はよい評価を得られなかった.自由記述では,システムはがん疼痛セルフマネジメントを高める評価,運用拡大への要望と社会面への課題が示された.患者のユーザビリティ改善が課題であり,効果検証では十分なオリエンテーションが必要である.

謝辞

本研究にご協力いただきました皆様に心より深く感謝申し上げます.

研究資金

平成30~31年度文科省科研費(研究活動スタート支援)を受け実施した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

吉田は研究の構想,データの収集・分析・解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献;佐藤,田上,霜山,高橋は研究の構想,データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top