Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Actual Usage of a Pamphlet for Families of Terminally Ill Patients With or Without Cancer at Home
Yuki KumagaiYasuko TabuchiKazuko Muroya
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2021 Volume 16 Issue 2 Pages 139-145

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Abstract

【目的】がん患者の家族と非がん患者の家族に対する看取りのパンフレットの使用実態を明らかにする.【方法】全国の訪問看護ステーション2,000カ所に質問紙調査を行い,看取りのパンフレット使用経験を有する224カ所の回答を分析対象とした.【結果】パンフレット使用頻度は,がん患者の家族(95.1%)が非がん患者の家族(76.8%)よりも高かった.使用時に「家族の心配や不安の程度」「家族の在宅死の希望」「患者の在宅死の希望」が,両家族ともに84%以上考慮された.渡す時期では「(最期の)1週間から1カ月」が最も多く,その割合は,がん患者の家族で56.8%,非がん患者の家族で63.4%であった.渡す時期の決定に難しさを感じている割合は,がん患者の家族で59.6%,非がん患者の家族で69.7%であった.【結論】パンフレットを渡す適切な時期を明らかにすることで,パンフレットの使用が広がると考える.

緒言

わが国の総人口のうち65歳以上が占める割合は年々増加し続け,2025年には30.0%,2065年には38.4%になると予測され,多死社会を迎える1).合わせて,少子化の加速によって医療従事者が不足し,その結果,終末期ケアにも大きな影響を及ぼすことが懸念される.

そのようななかでも,患者が望む場所で生活の質を高く保ちながら最期を過ごすことを可能にする終末期ケアを確立するために,さまざまな試みが行われている.その一つとして,患者や家族に対して死にゆく際の身体の変化(dying process)やケアに関する教育がある.Dying processを家族が理解していない場合,患者を在宅で介護する家族はその兆候を急変と捉えて救急車を呼び,搬送中や病院での死を迎えることも少なくない.入院後に家族は治癒を目指した積極的治療を望み,積極的治療を望まない患者との関係性を困難にしたり,積極的治療に伴って患者の苦痛を死の間際まで増強させる場合もある.また,患者の療養場所を問わず,家族は最期に残された少ない時間に患者に対してできなかったことを,死別後に後悔したり,罪悪感を抱え続ける場合もある.

近年,死の準備教材として,dying processや家族にもできるケアの方法を示した「看取りのパンフレット」が開発されている.看取りのパンフレットに関する研究では,国外では救急現場2),国内では病院(緩和ケア病棟もしくは一般病棟)35)・在宅3,68)における終末期において,パンフレットを使用した医療従事者と遺族を対象に,パンフレットの有用性と課題が検証されている.有用性としては,「家族の看取りに対する覚悟につながる」「家族が患者の現状を理解するのに役立つ」などが明らかにされている.とくに,終末期を在宅で療養する患者の家族においては,医療従事者が側にいない状況下でも,看取りのパンフレットで正しい情報を何度も確認し,不安を軽減することが期待できる.しかし,使用時期や説明の仕方によっては家族に不安をもたらすという課題もある7).また,医療従事者が看取りのパンフレットの有用性を認識していても,使用時期の決定が難しいなどの課題があるために,パンフレットを積極的に使用しない訪問看護ステーションもある7)

非がん患者では終末期か否かの判断に加え余命予測も難しいため9),パンフレットの使用状況ががん患者家族と非がん患者家族で異なることが推察される.そこで本研究では,がん患者の家族と非がん患者の家族に対する看取りのパンフレットの使用実態を,全国の訪問看護ステーションの管理者の意見をもとに明らかにする.

方法

対象

一般社団法人全国訪問看護事業協会10)に登録されている全国の訪問看護ステーションにおける各都道府県の訪問看護ステーション数の割合に基づいて,各都道府県から抽出すべき訪問看護ステーション数を割り当てた.そして無作為抽出した2,000カ所の管理者に,独自に作成した質問紙を 2018 年5月に郵送した.回収率が低かったため,2018年8~9月に197カ所に電話での研究協力依頼を行い,430カ所からの回答が得られた(回収率21.5%,有効回答率21.5%).本研究では,このうち看取りのパンフレット使用経験を有する224カ所の回答を分析対象とした(パンフレット使用率52.1%).

調査内容

質問紙は,訪問看護ステーション概要(設置主体,2018年 4 月中の加算等の届出状況,従事者数,利用者数)と,看取りのパンフレットの使用状況(使用の有無,がん患者家族と非がん患者家族に対するパンフレットの使用経験,渡す際に考慮すること・渡す時期)から構成した.なお,家族に渡す際に考慮すること(19項目)については,先行研究7)をもとに決定した.

家族に渡す際に考慮すること19項目については,「考慮する」「考慮しない」の二肢択一法で尋ね,提示以外の項目がある場合にはその項目の記載を依頼した.

がん患者の家族と非がん患者の家族にパンフレットを渡す時期の決定方法については,「訪問した看護師による判断」「訪問看護ステーション従事者全体での話し合い」「在宅医療チーム全体での話し合い」「その他」の四肢択一法で回答を求め,「その他」を選択した場合には決定方法の記載を依頼した.渡す時期については,「亡くなる3日以内」「4日前から1週間以内」「1週間から1カ月」「1カ月以上」,渡す時期を決めることに対する困難の程度については「難しくない」「あまり難しくない」「少し難しい」「とても難しい」の四肢択一法で尋ねた.

分析

パンフット使用状況については記述統計を行った.

倫理的配慮

本研究への協力の有無は対象者の自由意思で選択できること,個人を特定する可能性のある情報は取り扱わないこと,成果公表後にシュレッダーで裁断することなどを訪問看護ステーション管理者に書面で伝え,協力を依頼した.本研究では,質問紙の返送をもって同意が得られたとみなした.

本研究は,佐賀大学医学部倫理委員会(承認番号:29-65)の承認を得て実施した.

結果

看取りのパンフレットの使用状況および概要

看取りのパンフレットを使用している訪問看護ステーションの概要を表1に示した.なお,使用していても家族に渡していないステーションが1カ所あったが,本研究では使用経験を有する訪問看護ステーションとして扱った.

ステーションの設置主体の大多数は医療法人と営利法人であった.

表1 看取りのパンフレットを使用している訪問看護ステーションの概要

使用されている看取りのパンフレット

使用されている看取りのパンフレットは,独自に作成されたパンフレットが最も多く(116カ所;51.8%),次いでOPTIMプロジェクトで作成されたパンフレット「これからの過ごし方」(92カ所;41.1%)であった.日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が作成した「旅立ちのとき」・「おかえりなさい」プロジェクトで作成された「あなたの家に帰ろう」は,それぞれ15カ所・14カ所で使用されていた.ほかにも,エンドオブライフ・ケア協会,診療所や病院,医師会,訪問看護ステーション協議会,市,全国国民健康保険,日本看取り士会などが作成したパンフレットを使用しているステーションもあった.

なお,独自に作成する際に参考にしたものとして,OPTIMプロジェクトの「これからの過ごし方」以外に,地域包括ケアネットワーク協議会の「ご自宅での看取りのために」や尊厳死のインターネットの情報などが挙げられた.

がん患者の家族または非がん患者の家族に対する看取りのパンフレット使用経験

パンフレットを使用しているステーション224カ所のうち,がん患者の家族に対しては213カ所(95.1%),非がん患者の家族に対しては172カ所(76.8%)のステーションがパンフレットを使用していた.がん患者と非がん患者の両家族に使用した経験を持つステーションは164カ所(73.2%)であった.

家族に看取りのパンフレットを渡す際に考慮すること

がん患者の家族と非がん患者の家族に渡す際に考慮している項目の割合を図1に示した(無回答のステーションは含めていない).パンフレットを渡す際に考慮する項目の中で,上位3項目は「家族の心配や不安の程度」「家族の在宅死の希望」「患者の在宅死の希望」であり,いずれも84%以上のステーションで考慮されていた.

パンフレットを渡す際に考慮されている19項目中16項目の割合は,がん患者の家族と非がん患者の家族間でほとんど同じであった.一方,「家族の介護への関与度」「患者のキーパーソン」「在宅療養期間」では,がん患者の家族に対する考慮割合が非がん患者の家族よりもそれぞれ7.1%,8.1%,7.1%低かった.

その他の考慮項目として,家族の理解力や,Performance Statusなどが記載されていた.

図1 がん患者の家族と非がん患者の家族にパンフレットを渡す際の考慮項目

看取りのパンフレットを渡す時期の決定方法

図2に示すように,パンフレットを渡す時期の決定方法は4項目とも,がん患者の家族および非がん患者の家族間にほとんど差はみられなかった.決定方法のなかでは,「訪問看護ステーション従事者全体での話し合い」が最も多かった.その他の決定方法として,主治医に相談・主治医が決定,責任者の判断などが挙げられた.

図2 がん患者の家族と非がん患者の家族に看取りのパンフレットを渡す時期の決定方法

看取りのパンフレットを渡す時期(表2

パンフレットを渡す時期は「1週間から1カ月」が,がん患者の家族で56.8%,非がん患者の家族で63.4%と最も多く,その割合はがん患者の家族が非がん患者の家族よりも少なかった.一方,「4日から1週間以内」は,がん患者の家族(26.8%)が非がん患者の家族(16.3%)よりも多かった.

表2 がん患者の家族と非がん患者の家族に看取りのパンフレットを渡す時期

看取りのパンフレットを渡す時期決定の困難さ(表3

がん患者の家族,非がん患者の家族共に,パンフレットを渡す時期の決定は「少し難しい」と感じているステーションが最も多く,その割合はそれぞれ46.9%,52.3%であった.この割合に「とても難しい」を加えた割合は,がん患者の家族(59.6%)が非がん患者の家族(69.7%)よりも低かった.一方,「難しくはない」に「あまり難しくはない」を加えた割合は,がん患者の家族で39.0%,非がん患者の家族で28.5%であった.

表3 がん患者の家族と非がん患者の家族に看取りのパンフレットを渡す時期決定の困難さ

考察

本研究は,「終末期在宅療養を支える看取りのパンフレットに関する全国調査」で得られたデータのうち,看取りのパンフレットを使用している訪問看護ステーション管理者の回答を用いて,がん患者の家族と非がん患者の家族に対する看取りのパンフレットの使用実態を比較,分析したものである.

看取りのパンフレットの使用頻度は,がん患者の家族(213カ所:95.1%)が非がん患者の家族(172カ所:76.8%)よりも高かった.また,パンフレットを渡す時期の決定に難しさを感じている割合は,がん患者の家族(59.6%)が非がん患者の家族(69.7%)よりも低かった.これらの要因として,非がんの場合は余命予測が難しい9)ことが考えられる.次に,死別に対する心の準備の程度が考えられる.それを裏付けるのが,がん患者の遺族が心疾患患者・脳血管疾患患者・肺炎患者のいずれの遺族よりも,「死別に対する心の準備」が「ある程度できていた」と「できていた」の割合が高いという宇根底らの報告である11).これらの要因が,がん患者の家族と非がん患者の家族間のパンフレットの使用率の違いにつながった可能性がある.パンフレットを渡す適切な時期と死別に対する心の準備を無理なく進められるような支援方法を明らかにすることができれば,疾患にかかわらずにパンフレットがより効果的に使われると考える.

看取りのパンフレットを渡す際に考慮する項目19項目のうち,「家族の心配や不安の程度」「家族の在宅死の希望」「患者の在宅死の希望」が,がん患者と非がん患者の両家族共に上位3項目を占め,考慮の割合はいずれも84%以上であった.これらの項目の考慮の割合は,九州地区の調査結果7)とほとんど同じであった.「家族の心配や不安の程度」が考慮項目の1位となったのは,がん患者および非がん患者と家族の不安の軽減を訪問看護師が最も心掛けていることの現われであろう.また「家族の在宅死の希望」「患者の在宅死の希望」における考慮の割合が84%以上を示した.先行研究において,在宅死の割合の高さには,患者と家族の在宅死の希望が強く関連することが明らかにされている12).そのため,パンフレットを使用している訪問看護ステーションの多くが,がん患者と非がん患者および両家族の希望に添って在宅死を叶えようと努力していることがうかがえる.

看取りのパンフレットを渡す際の考慮項目のなかで,がん患者の家族が非がん患者の家族に比べて7~8%低かったのは,「家族の介護への関与度」「患者のキーパーソン」「在宅療養期間」の3項目であった.これらの項目において違いを認めた理由の解明には今後さらなる検討が必要である.一方,残りの16項目には,疾患による違いはみられなかった.このことから,訪問看護師は疾患にかかわらず,終末期患者の家族に対してdying processやケアの方法を伝えるために看取りのパンフレットを使用していることがうかがえる.

看取りのパンフレットを渡す時期の決定方法4項目のなかで,「訪問看護ステーション従事者全体での話し合い」は,がん患者の家族および非がん患者の家族共に最も多かったが,その割合はいずれも約50%であった.訪問看護ステーションの体制(受持ち担当制・チーム制),パンフレットを渡す前の医師から家族への説明の内容と程度,医師との連携の影響も含めてさらなる検討が必要である.

パンフレットを渡す時期は「1週間から1カ月」が,がん患者の家族で56.8%,非がん患者の家族で63.4%と最も多く,その割合はがん患者の家族が非がん患者の家族よりも低かった.山本らの調査3)でも同時期に最も多く(49.7%)パンフレットを渡していたが,その割合は本研究よりも低かった.「4日から1週間以内」は,がん患者の家族(26.8%)が非がん患者の家族(16.3%)よりも多かった.これらの違いを明らかにするために,退院後から自宅で亡くなるまでの経過を踏まえた検討が必要である.

本研究には,いくつかの課題がある.まず,回収率が低いことである.次に,各訪問看護ステーションが終末期患者の家族全員に看取りのパンフレットを渡しているかは不明である.今回,パンフレットを家族に渡す際に考慮することを質問したので,対象者はこれまでにパンフレットを渡した家族のみを想定して考慮することを回答した可能性もある.ほかにも,各ステーションが使用しているパンフレットの構成内容が異なっているだけでなく,がん患者の家族と非がん患者の家族に渡すパンフレットが異なっている可能性もある.また,非がんの場合,急性増悪を繰り返しながら衰弱が進行して死に至る疾患がある一方,ゆっくりとした経過の中で衰弱して死に至る疾患もある13).さらに,複数の疾患を抱える患者もいる.これらのことが,パンフレットを渡す際に考慮することや渡す時期,渡す時期の決定の困難さの回答に影響を及ぼしている可能性がある.今後,がん患者の家族と非がん患者の家族にどのようなパンフレットを使用しているか,症状や経過の違いによってどのようにパンフレットを使い分けているかなどを調査して,パンフレットの効果的な使用方法を明らかにする必要がある.

結論

看取りのパンフレットの使用頻度は,がん患者の家族(213カ所:95.1%)が非がん患者の家族(172カ所:76.8%)よりも高かった.パンフレットを渡す際に考慮する項目19項目のうち,「家族の心配や不安の程度」「家族の在宅死の希望」「患者の在宅死の希望」が,がん患者の家族と非がん患者の家族共に上位3を占め,考慮頻度はいずれも84%以上であった.パンフレットを渡す時期として最も多かったのは,がん患者の家族(56.8%),非がん患者の家族(63.4%)共に「(亡くなる)1週間から1カ月」であった.渡す時期を決めることに難しさを感じているステーションが,がん患者の家族と非がん患者の家族にそれぞれ59.6%,69.7%みられた.パンフレットの渡す適切な時期および渡した後の効果的な支援方法を明らかにすることで,パンフレットの使用が広がると考える.

謝辞

本研究にご協力いただいた訪問看護ステーション管理者の皆様に,心より感謝申し上げます.

研究資金

本研究は,科学研究費助成事業 基盤研究(C)(JP 17K12527)(研究代表者:熊谷)の助成を受けて行った.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

熊谷は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起案に貢献:田渕・室屋は研究の構想およびデザイン,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021 by Japanese Society for Palliative Medicine
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