Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
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Clinical Implications of the Interdisciplinary Psychosocial Approach and Integrative Care for Patients with Advanced Cancer and Family Members in the Nutritional Support and Cancer Cachexia Clinic
Koji AmanoDaisuke KiuchiHiroto IshikiHiromichi MatsuokaEriko SatomiTatsuya Morita
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2021 Volume 16 Issue 2 Pages 147-152

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Abstract

人は生きるために食べるが,食事は社会的存在である人にとってそれ以上の意味をもつ.進行がん患者は,腫瘍・治療の副作用・がん悪液質のため「食べないといけないが食べられない」「食べるようにしているが痩せてしまう」というような食欲不振・体重減少を主因とする食に関することで苦悩し,生活をともにする家族も患者とは異なる苦悩を有することが近年の研究でわかってきた.これらを踏まえ,われわれは患者と家族の食に関する苦悩のような心理社会的苦痛における緩和ケア・サポーティブケア・栄養ケアを統合した多職種連携ケアの重要性を指摘し,患者と家族の食に関する苦悩の評価尺度を作成している.現時点では,患者と家族の食に関する苦悩のケアは世界的に確立されておらず,これら苦悩の多職種による統合ケアを開発すること,さらにこの統合ケアの効果を検証すること,また将来的には,本邦のがんセンター・がん診療拠点病院での実践・普及を目指す.

緒言

がんが進行するにつれがん悪液質は強まり,がん治療の継続と効果・予後・身体機能・Quality of Life(QOL)に影響を及ぼす.がん悪液質は栄養摂取障害とタンパク質・脂質・糖質の代謝障害による骨格筋減少を主とした体重減少を特徴とする1,2).この体重減少において栄養摂取障害は大きな要因で,がん悪液質により活性化された炎症性サイトカインが摂食中枢である視床下部に影響し引き起こす食欲不振だけでなく,さまざまな身体的・精神的症状もその誘因となり,これらは栄養摂取を障害する症状(nutrition impact symptom: NIS)といわれる3,4)

人は生きるために食べるが,食事は社会的存在である人にとってそれ以上の意味をもつ.実際に古今東西を通じて,食卓での会食は一家団欒の場であることが多く,食事の準備は家庭での重要な役目である5,6).ところが進行がん患者は,がん悪液質だけでなく腫瘍そのものの影響・がん治療の副作用なども加わり「食べないといけないとわかっているが食べられない」「無理してでも食べるようにしているが痩せてしまう」というような食欲不振・体重減少を主因とする食に関することで苦悩し,生活をともにする家族も患者とは異なる苦悩,例えば「患者に食べてもらいたいが食べてもらえない」「患者がもっと食べられるように工夫するが応えてもらえない」など,を有することが,近年の研究でわかってきた35,711).このような患者と家族の食に関する苦悩はそれぞれのQOLの低下に直結する.すなわち,がんの進行で食べられなくなることによる患者と家族の苦悩をいかに和らげるか,という観点でのケアが重要であろう.

近年のがん悪液質治療の主軸はNISの緩和と栄養サポート・エクササイズであり,さらに食欲の増進・骨格筋の増加・増強などの作用を有する新薬の開発にも力が注がれている12,13).しかしがん悪液質治療には限界があり,とくに進行がん患者と家族では食に関する苦悩の緩和を含めた全人的で各専門領域を統合したケアが必要である.これらを踏まえ,われわれは進行がん患者と家族の食に関する苦悩のような心理社会的苦痛における緩和ケア・サポーティブケア・栄養ケアを統合した多職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・公認心理師・臨床心理士など)によるケアの重要性を指摘するとともに,一つのモデルを提示した(図14).また,患者の食に関する苦悩の暫定的評価尺度を作成するとともに,患者と家族の食に関する苦悩の本格的な評価尺度を開発中である11,14)

図1 多職種連携による統合ケアのモデル

がん悪液質の治療と影響

がん悪液質治療の新薬としてアナモレリン(選択的グレリン様作用のある経口薬)が,非小細胞肺がん・胃がん・膵がん・大腸がん限定ではあるが,欧米に先駆けて本邦で2021年1月22日に国内製造販売の承認が得られた.国際コンセンサス基準1)でがん悪液質とみなされる進行がん患者を対象に国内で実施した二つの臨床試験の結果に基づいており,患者の食欲を増進し体重・除脂肪体重を増加する効果を示した15,16).しかし,これら臨床試験の対象患者は,進行がんというもののそれなりによい状態の集団,すなわち適格基準は4カ月以上の余命が見込めEastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS)0-2で,実際には約90%の患者がECOG PS 0-1で観察期間は12週間での結果であり,緩和ケアが主体となるような余命3カ月未満の見込みの患者集団にそのまま外挿するのには無理がある.このような集団では,アナモレリンあるいはステロイドを服用しても期待通りの効果が得られにくい可能性が高い.このような場合,がん悪液質は身体だけでなく精神にも影響を及ぼすと考えられることから,われわれは進行がんにおいてがん悪液質の本態である全身性炎症と予後・身体機能・身体的症状・精神的症状の関連を緩和ケアでの大規模コホート研究で示してきた1719).ちなみにこれらの対象患者の70〜90%がECOG PS 3-4であった.これら一連の研究から,がん悪液質は患者と家族の多様な心理社会的苦痛の根源となりうることがわかってきた.がん治療中であるがそろそろ治療の限界に近づいている患者,あるいは緩和ケアが主体となるがまだ状態が維持できている患者とその家族の統合ケアで目指すべきことは,「患者ができるだけよい状態を維持し,できるだけ長く大切な人と過ごすこと」と考える.そのために日々の生活の土台として重要なのは,①栄養の摂取,②適度の運動,③夜間の安眠であり,がん悪液質の影響を考慮しこれらをさまたげる症状の緩和と問題の解決が必要であろう(図2).この土台の安定が患者と家族の心理社会的苦痛を和らげるだけでなく,ぎりぎりのところでがん治療を継続している患者においては,うえにのるがん治療のさらなる継続と効果にもつながると思われる.ただし,これらについてのエビデンスは乏しく,今後の研究が求められる.

図2 統合ケアで目指すべきこと

栄養サポートのニードと効果

人にとって食事は生きるためだけにする行為でなくそれ以上の意味をもつため,進行がん患者と家族の心理社会的苦痛のなかでも食に関する苦悩は極めて重大となる4,5).しかしながら,これまで患者と家族の食に関する苦悩あるいは栄養サポートについての信念・認識・ニードについて充分に研究されてきたとはいい難い.そこでわれわれは,これらについて患者および家族を対象とした複数のアンケート調査を実施した3,710). これらの結果より,患者と家族の食に関する苦悩は強く,栄養サポートのニードは高いことが明らかになった.この栄養サポートのニードの根底には,患者側のがん悪液質についての適切な情報・知識の不足があり,また医療側の根拠の乏しい栄養サポートからの撤退が患者と家族の食に関する苦悩をさらに増強させるという悪循環の構造がある.一方でわれわれは,これまで緩和ケアではあまり重要視されてこなかった進行がん患者への栄養サポートの効果について探索してきた13,20).これらの結果から,緩和ケアの患者でも,選別した患者において適切な栄養サポートの予後・身体機能の改善効果が期待できると示唆された.患者・家族の信念・認識・ニードに合わせ,状態にあった栄養サポートを実施することで,両者の食に関する苦悩を軽減できる可能性がある.

食に関する苦悩の評価方法

食に関する苦悩を評価する方法として,海外の臨床試験ではThe Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy(FAACT)anorexia/cachexia subscale(A/CS)が使用されており,もともと12項目で構成されているが,そのうち9項目を以下のように分類することができる21)

〈5-items Anorexia Symptoms Scale〉

・食欲がある

・ほとんどの食べ物が自分にとってはまずいと感じられる

・食べようと努めても,すぐ食欲を失ってしまう

・脂肪分や糖分の多いもの,腹だまりのするものは食べにくい

・食べるとすぐにお腹が一杯になったような感じがする

〈4-items Anorexia Concerns Scale〉

・自分が必要な食事の量は充分にとっている

・自分の体重が心配だ

・家族や友人に,もっと食べなさいと言われる

・自分の外見が気になる

FAACT A/CSはがん悪液質の観点で開発された患者のQOL評価尺度なので,これまでの食に関する苦悩の質的研究・アンケート調査の結果と比較すると,食欲・栄養摂取を中心に体重・外見に関する項目はあるが苦悩の評価としては充分ではない.そこでわれわれは患者の食に関する苦悩の暫定的評価尺度を作成した11,14).それには「患者の思いからくる苦悩」「対処方法からくる苦悩」「患者と家族の関係からくる苦悩」の3カテゴリーにそれぞれ4項目あり,「なし(1点)」から「常にある(5点)」まで5段階で評価する.国際コンセンサス基準1)に基づきがん悪液質の有無で比較すると,それぞれのカテゴリーごとの合計点と12項目すべての合計点は有意差をもってがん悪液質群のほうが高得点であった11,14).これらの経験と結果を踏まえ,現在では患者と家族それぞれの本格的な評価尺度の開発を進めている.この過程で両者の食に関する苦悩の因子構造が見えてきており,例えば「食べられないことからくる苦悩」「外見の変化からくる苦悩」「家族内での関係性の悪化からくる苦悩」などがある.これら因子構造を考慮したケアプログラムを開発・実践し,さらに新たに開発した尺度で患者と家族の食に関する苦悩を評価すればケアの効果判定ができる.

栄養サポート・がん悪液質外来と多職種連携統合ケア

近年,北米や豪州でがん悪液質外来が設立され成果をあげているが,その対象は早期のがん悪液質(pre-cachexia,cachexia)患者であり,その主な目的は食欲増進・栄養摂取促進とPS向上である2227).もちろん本邦でもそのようなケアプログラムが必要であるのは間違いなく,これからはがん悪液質治療薬としてアナモレリンと栄養サポート・エクササイズの相乗効果が大いに期待される.しかし,不可逆的に進行したがん悪液質(refractory cachexia)患者に対するケアについてはどうだろうか.この患者層には海外で実践されているケアプログラムの効果はあまり期待できず,多くの患者と家族が苦悩しているのにもかかわらず,まだまだ未開拓な領域である.そこでわれわれはこれまでの知見を踏まえ,そのような患者と家族の食に関する苦悩に代表される心理社会的苦痛における緩和ケア・サポーティブケア・栄養ケアを統合した多職種連携ケアの重要性を指摘し4),患者と家族の食に関する苦悩の評価尺度を開発している11,14).現時点では,がん悪液質の観点からの患者と家族の心理社会的苦痛のケアは世界的に確立されておらず,がん悪液質専門外来で患者と家族の食に関する苦悩への多職種による統合ケアの開発は世界的に初めての試みである.この統合ケアでは「患者ができるだけよい状態を維持し,できるだけ長く大切な人と過ごすこと」を目的とする.ここに多職種連携による統合ケアの具体的なケアプログラム案を示す.また,この実践のためには医療者用と患者・家族用のそれぞれの手引書の作成が望まれる.

〈ケアプログラム案〉

・NISの評価と緩和

・患者と家族の食に関する苦悩の評価

・がん悪液質の説明

・栄養の摂取・適度の運動・夜間の安眠の重要性の説明

・栄養管理の考え方の説明

・家庭での栄養摂取の工夫のアドバイス

・経口栄養剤(oral nutrition supplement)の紹介および提供

・生活指導(習慣の改善・環境の調整・患者と家族の仲介など)

・栄養指導(食事の栄養バランス・形態・1回の摂取量・1日の回数など)

・患者と家族とのend-of-life discussion

結論

われわれは本論文で,進行がん患者と家族の食に関する苦悩のような心理社会的苦痛における多職種が連携した統合ケアの重要性を指摘する.現時点では,患者と家族の食に関する苦悩のケアは世界的に確立されておらず,これら苦悩への統合ケアを開発すること,さらにこの統合ケアの効果を検証すること,また将来的には,本邦のがんセンター・がん診療拠点病院での実践・普及を目指したい.同時に,Assessment and Management of Cancer Cachexia(AMaCC)をモットーに,本邦独自のNutritional Support and Cancer Cachexia Clinic (NSCCC)を発展させていきたい.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

天野は研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;木内,石木,松岡,里見,森田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021 by Japanese Society for Palliative Medicine
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