Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
A Survey of Palliative Care Ward Nurses’ Awareness, Feelings, Behavioral Intentions and Hands-on Experience in Supporting an Environment in Which End-of-life Cancer Patients Nurture Love with Their Partners
Akihiko KusakabeHironori MawatariKazue HiranoKouichi TanabeMari WatanabeTakaomi KessokuAsuka YoshimiMitsuyasu OhtaMasahiko InamoriMiyako TakahashiTatsuya Morita
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2021 Volume 16 Issue 2 Pages 153-162

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Abstract

【目的】終末期がん患者のセクシュアリティへの支援に対する看護師の現状を明らかにする.【方法】2018年12月に神奈川県内緩和ケア病棟18施設の看護師313名を対象に終末期がん患者の「パートナーとの愛を育む時間」に対する認識,感情,支援への行動意図と実践について質問紙調査を行った.【結果】165名中(回収率52.7%)「パートナーとの愛を育む時間」への支援経験があるのは82名(49.7%)であった.行ったことのある具体的な支援内容は「スキンシップを勧める」,「傾聴」,「ハグを勧める」,「入室の際に,ノックや声掛け後に返事を待つなど十分な時間をとる」が多かった.一方,病棟カンファレンスで「パートナーとの愛を育む時間」について話したことがあるのは11名(6.7%)であった.【結論】現状,「パートナーとの愛を育む時間」への支援は個人に任され,組織的には行われていないことが示唆された.

緒言

緩和ケアとは,Quality of Life(QOL)を改善するアプローチであり1),QOLにはセクシュアリティの問題が含まれる.セクシュアリティとは性別,ジェンダー,ジェンダー・アイデンティティ(性自認),性行動,生殖,エロティシズム,性志向・性嗜好,他者との情緒的愛着・親密性を含んだ広い概念であり,どのような年代や人生のステージにおいても重要なQOLの要素であり,人間の営みと切り離せない2,3)

近年,緩和ケアの一環としてセクシュアリティに対する支援を行うべきという指摘が増えており,そのなかでもintimacy(親密性)の重要性が強調されている4,5).しかしながら,これまでのがん患者のセクシュアリティについての研究では,疾患別,臓器別にがん治療に関連した性機能や妊孕性への影響が対象となることが多く68),パートナーとの情緒的愛着・親密性や自己のアイデンティティを含んだ心理的な側面への支援を対象としたものは少ない911)

わが国においても,がん患者のセクシュアリティに対する医療者の支援についての調査がいくつかあるが,国外の研究と同様に主に性機能や妊孕性を念頭に置いたものに限られている12)

医療者がこの問題に対する意識が薄い,問題に気づいても関わる方法がわからない,患者側からの訴えもない等の理由により,支援は不十分であることが指摘されている1315).にもかかわらず,終末期がん患者のセクシュアリティ,とくにパートナーとの情緒的愛着・親密性に対する医療者の支援に関する調査報告は乏しい.

今回われわれは緩和ケア病棟看護師を対象に,終末期がん患者がパートナーとの情緒的愛着・親密性を確認するための行為への認識,感情,支援への行動意図とその実践経験を明らかにする目的で調査を行った.

緩和ケア病棟を調査の場として選んだ理由は,①終末期がん患者のセクシュアリティに関するニーズがあるかもしれないが見逃されている可能性があること,②終末期がん患者の療養場所は,主に自宅,一般病院,緩和ケア病棟だが,自宅よりも施設においてプライバシーの関係でセクシュアリティへの配慮が重要であること,③緩和ケア病棟では一般病棟よりもより終末期がん患者に専門的に,個別的にケアを提供していること,以上の三点からである.

方法

用語の定義

「セクシュアリティ」という用語は性機能,妊孕性,生殖の要素が認識されやすいため,本研究は「セクシュアリティ」を,性欲や性行動を意味するだけではなく,「人間と性のありよう」を指す包括的概念として定義し,さらにパートナーとの情緒的愛着・親密性も含むことを表現するために「パートナーとの愛を育む時間」という用語を用いた.「パートナーとの愛を育む時間」とは,パートナー同士の愛情や親密性を確認するための行為やムードであり,スキンシップ(手を握る,顔に触れるなど)やハグ(相手を抱きしめる),キス,性行為一般までを包括した表現であることと定義した.

「パートナーとの愛を育む時間」に対する看護師の認識,感情,支援への行動意図を小松らの先行研究に倣い認識,感情,支援を以下のように定義した16).認識とは看護師が経験や文化あるいは教育等から獲得しているがん患者の性問題に対する情報・知識と,それに基づいてなされた個人の理解,感情とは情緒的態度,支援への行動意図とは支援を行おうとする意志や関心とした.

対象・方法

研究デザインは,無記名自記式質問紙による横断研究である.

対象者は,緩和ケア病棟に勤務する看護師とした.神奈川県内すべての緩和ケア病棟21施設のリストを作成し,すべての緩和ケア病棟の看護管理者にメールまたは電話での趣旨説明を行った.協力を得られた18施設の緩和ケア病棟に勤務する看護師全員計313名を対象とした.

全対象施設に研究の趣旨説明書と無記名自記式質問紙を郵送し,各施設の看護管理者から看護師へ配布を依頼した.回収は返送用封筒を使用し,回収先を調査会社とした.調査期間は2018年12月1~28日であった.督促は行わず,報酬は用いなかった.

調査項目

終末期のがん患者を想定して「パートナーとの愛を育む時間」に対する看護師の認識,感情,支援への行動意図の評価を行った.評価する尺度はなかったため,高齢者の性問題への看護師の認識,感情,支援への行動意図を調査した小松らの先行研究16)で信頼性,妥当性の評価がなされた尺度を用いた.緩和ケア病棟の患者は高齢者と同様,性的な存在とみなされにくいとの背景を持つ17)と考えたためである.調査用紙には,緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師向けの調査であること,前述の「セクシュアリティ」と「パートナーとの愛を育む時間」の定義を明記した.「そう思わない」,「あまりそう思わない」,「ややそう思う」,「そう思う」の4件法で評価した.支援経験については,研究者間で討議し,緩和ケア病棟での経験を質問することとした.

1.看護師の認識

高齢者の性に関する看護師の認識質問紙を用いて,緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」についての認識を尋ねた.合計45項目で構成され,八つの下位尺度〈性行動の低下〉〈あるべき性への固執〉〈夫婦関係の揺らぎ〉〈夫婦の絆〉〈性役割の喪失〉〈他者とのつながり〉〈個別的な性のありよう〉〈引きこもり〉がある.以下,下位尺度名を〈 〉,項目を「 」で示す.

2.看護師の感情

高齢者の性に関する看護師の感情質問紙を用い,緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」についての感情を尋ねた.合計13項目で構成され,三つの下位尺度〈同情〉〈受容〉〈タブー視〉がある.

3.看護師の支援への行動意図

高齢者の性に関する看護師の行動意図質問紙を用い,緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」についての支援への行動意図を尋ねた.計11項目で構成され,二つの下位尺度〈消極的行動意図〉〈積極的行動意図〉がある.研究者の討議により以下5項目の追加質問を行った.「性の問題はトータルペインに含まれる」,「自分はがん患者の性について勉強する必要がある」,「自分はがん患者の性についてすでに学んでいる」,「がん患者からの性の問題になんらかの対応ができる自信がある」,「患者から医療者への性的な話題は,セクシャルハラスメントであると考えている」.

4.看護師の支援経験(表1

患者の「パートナーとの愛を育む時間」に対する具体的な支援8項目について,緩和ケア病棟において,「行ったことがある」,「行ってみようと思う」,「困難と思われる」,「適当ではないと思われる」から選択することを求めた.さらに,「具体的な支援を行ったことがある」と回答したものに対して,支援の内容を「スキンシップ(手を握る,顔に触れるなど)を勧める」,「傾聴」,「ハグ(相手を抱きしめる)を勧める」,「入室の際に,ノックや声掛け後に返事を待つなど,十分な時間をとる」,「添い寝を勧める」,「医療者が訪室しない時間を作ることができることを伝える」,「入室禁止などの掛け札の使用」,「本人の愛を育む時間についての希望をパートナーに橋渡しする」,「パートナーの愛を育む時間についての希望を本人に橋渡しする」,「腕枕を勧める」,「二人での入浴の希望があるか本人・パートナーに尋ねる」,「がんと性に関する本や冊子の紹介」など,12項目から複数回答で記載を求めた.

回答者の背景として,性別,年齢,看護師経験年数,緩和ケア病棟勤務年数,がん患者との同居経験の有無を取得した.

表1 緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師の「パートナーとの愛を育む時間」の支援経験と具体的内容

分析方法

「パートナーとの愛を育む時間」に対する看護師の認識,感情,支援への行動意図と支援経験について度数分布の集計を行い,平均値と標準偏差を求めた.支援経験については,「行ったことがある」と回答したものを具体的な支援経験ありとした.

次に,支援経験の有無を目的変数とし,「パートナーとの愛を育む時間」に対する看護師の認識,感情,支援への行動意図の下位尺度得点と看護師の背景を説明変数とし,単変量解析(t検定,カイ二乗検定),多変量解析(多重ロジスティック回帰分析)を行った.有意水準に関しては,p<0.05を採用した.データの分析には,SPSS version 25(IBM,東京)を用いた.

倫理的配慮

本研究は,横浜市立大学医学研究倫理委員会の承認を得て実施した(許可番号 B180900020).調査用紙は無記名式で,第三者から個人が特定できないように配慮すること,調査結果は学会や論文で発表すること,調査への参加は個人の自由であり参加せずとも職場における不利益は生じないことを明記し,調査用紙の提出をもって調査協力の同意を得たと判断した.

結果

1. 背景

調査対象者:18施設313名のうち165名から,有効な回答が得られた(有効回答率52.7%).看護師の年齢は20代22名(13.2%),30代52名(31.5%),40代59名(35.8%),50代27名(16.4%),60代3名(1.8%),無回答2名(1.2%)であった.性別は男性6名(3.6%),女性158名(95.2%),無回答1名(0.6%)であった.看護師としての臨床経験年数は平均15.5(標準偏差,8.4)年,緩和ケア病棟経験年数は平均3.4(3.4)年,がん患者との同居経験のあるものは50名(30.3%)であった.

2. 「パートナーとの愛を育む時間」に関する看護師の認識,感情,支援への行動意図

緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」に関する看護師の認識,感情,支援への行動意図についての質問に対し,「そう思う/ややそう思う」の回答をした割合を図1図3に示した.

看護師の認識として,〈性行動の低下〉と〈夫婦の絆〉はそれぞれ多くの項目で80%以上が「そう思う」と回答した.

看護師の緩和ケア病棟に入院中のがん患者の性について生じた感情として高い割合が示された項目は,〈受容〉の「人間味があってよいと思う」85名(51.5%),〈同情〉の「仕方がないと思う」70名(42.4%),「辛い感じがする」69名(41.8%),〈タブー視〉の「話題にしてはいけない感じがする」69名(41.8%)であった.

看護師の支援への行動意図として高い割合が示された項目は,〈積極的行動意図〉の「がん患者さんの性を否定するような言動はしたくない」164名(99.4%),「性に関する支援はおざなりになりやすい」140名(84.8%),〈消極的行動意図〉「相談がないのに性について聞けない」147名(89.1%),追加質問の「性の問題はトータルペインに含まれる」139名(84.2%)であった.一方で低い割合を示した項目は,〈積極的行動意図〉の「性については関わるべきではない」14名(8.5%),追加質問の「自分はがん患者の性についてすでに学んでいる」12名(7.3%)であった.

図1 緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師の「パートナーとの愛を育む時間」に関する【認識】(n=165)

そう思う/ややそう思う回答者 %(n)

図2 緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師の「パートナーとの愛を育む時間」に関する【感情】(n=165)

そう思う/ややそう思う回答者 %(n)

図3 緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師の「パートナーとの愛を育む時間」に関する【支援への行動意図】についての質問(n=165)

そう思う/ややそう思う回答者 %(n)

3. 緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」に関する支援の経験(表1

がん患者本人または家族へ「パートナーとの愛を育む時間」に関する具体的な支援をしたことがあると回答したのは82名(49.7%)であった.

経験があると回答した82名のなかで半数以上が挙げた具体的な支援内容は「スキンシップ(手を握る,顔に触れるなど)を勧める」71名(88.8%),「傾聴」44名(55.0%),「ハグ(相手を抱きしめる)を勧める」42名(52.5%),「入室の際に,ノックや声掛け後に返事を待つなど,十分な時間をとる」41名(51.3%)であった.その他,「添い寝を勧める」34名(42.5%),「医療者が訪室しない時間を作ることができることを伝える」30名(37.5%),「入室禁止などの掛け札の使用」20名(25.0%)「お二人での入浴の希望があるか本人・パートナーに尋ねる」9名(11.3%),「がんと性に関する本や冊子の紹介」2名(2.5%)であった.

がん患者の「パートナーとの愛を育む時間」について支援すべき問題としてカンファレンスを行った経験を持つのは11名(6.7%),がん患者の「パートナーとの愛を育む時間」について困った問題としてカンファレンスを行った経験を持つのは2名(1.2%)であった.

4. 「パートナーとの愛を育む時間」に関する支援の経験の関連要因(表2

支援経験あり群となし群とで,看護師の背景,および,高齢者の性に関する看護師の認識質問紙,高齢者の性に関する看護師の感情質問紙,高齢者の性に関する看護師の行動意図質問紙の下位尺度得点を比較したが,がん患者との同居経験以外に有意差を認めなかった.多変量解析では,支援経験がある回答者は,〈あるべき性への固執〉(OR 2.16)の認識を持つ傾向があり,支援経験のない回答者は同居経験(OR 0.27)あるいは消極的行動意図(OR 0.50)を持つ傾向があった.なお,高齢者の性に関する看護師の行動意図質問紙に独自に追加した質問項目の解析は行っていない.

表2 緩和ケア病棟に入院中のがん患者に対する看護師の「パートナーとの愛を育む時間」の支援経験への関連要因

考察

この研究は私たちの知る限り日本で初めての緩和ケア病棟の看護師を対象とした終末期がん患者のセクシュアリティへの支援の調査である.本研究によって,緩和ケア病棟に入院中のがん患者本人または家族へ「パートナーとの愛を育む時間」に関する,緩和ケア病棟の看護師の具体的な支援の経験と看護師の認識,感情,支援への行動意図が明らかになった.

緩和ケア病棟に入院中のがん患者の「パートナーとの愛を育む時間」に関する看護師の認識は,下位尺度〈性行動の低下〉と〈夫婦の絆〉に含まれる項目にそう思うとしたものが多かった.緩和ケア病棟看護師は入院中のがん患者は性行動の低下が起こるという認識をしているが,一方で9割以上の看護師が「性行為はなくても夫婦としての信頼関係に変わりはない」,「夫婦関係の変化には,今までの生活の積み重ねが影響する」としており,狭義の性行為がなくともパートナーとの関係性・親密性には大きな影響を及ぼさないと認識している看護師が多いことがうかがわれる.

「パートナーとの愛を育む時間」に関する看護師の感情としては質問項目にそう思うとしたものは50%以下であった.その中でも同意した割合が高い項目は,「人間味があってよいと思う」,「仕方がないと思う」,「辛い感じがする」で40%以上であった.「話題にしてはいけない感じがする」と話題にすることに抵抗感を認めるが,「いやな感じがする」,「不潔だと思う」,「みじめな感じがする」についてそう思うとしたものは10%以下であり,明確な嫌悪感を示すものは少なかった.

「パートナーとの愛を育む時間」に関する看護師の支援への行動意図として,8割以上の看護師が「がん患者さんの性を否定するような言動はしたくない」,「性に関する支援はおざなりになりやすい」,「性の問題はトータルペインに含まれる」の〈積極的行動意図〉に賛同を示した一方で,約7割以上の看護師が「相談がないのに性について聞けない」,「支援した経験がないので自信がない」,「知識がないのに支援できない」,「性について関与していいのかわからない」の〈消極的行動意図〉に賛同し,何かのケアは行いたいものの自信がない現状が示唆された.

これらの結果は高齢者領域での,性への看護支援は看護師自身が性に関する認識や態度をどのように抱いているかに依拠するという結果と類似している18).高齢者の性について調査をした小松ら16)も〈タブー視〉の感情は,性についての支援の意図に強く関連するため,看護師が高齢者の性に関する支援に関心をよせ,必要性を認識し,実践するためには,看護師自身が感じている高齢者の性に対する自分の否定的感情に気づき,それを受け止めていくことが重要であると述べている.

一方,緩和ケア病棟での「パートナーとの愛を育む時間」の支援経験については82名(49.7%)の看護師が,がん患者さん本人または家族に具体的な支援をしたことがあると回答した.清藤ら15)は,がん診療拠点病院に勤務する医療者に行った調査で,セクシュアリティに関する支援経験がある医療者は29.8%であったと報告しており,われわれの調査結果と異なる.この相違から,緩和ケア病棟に勤務する看護師は,一般病棟に勤務する看護師よりも「パートナーとの愛を育む時間」への支援もケアとして意識している可能性がある.

清藤らの調査の中で回答者から挙げられた具体的な支援内容は,セクシュアリティについて説明すること,話し合うこと,意識して声を掛けること等であった.われわれの調査では,スキンシップ,ハグなどより具体的な支援内容を選択肢として質問紙に示した.セクシュアリティという言葉の捉え方に個人差があることを踏まえ,どちらかというとパートナーとの親密性への支援として捉えられることが多い具体的な支援内容を質問紙に示したことで,具体的な支援経験ありとした回答した割合が高かった可能性がある.

「パートナーとの愛を育む時間」の支援経験を持つ可能性が高まる関連のあった要因として,〈あるべき性への固執〉があった(OR 2.16).これは「性欲が満たせずイライラする」,「疾患によっては性欲が抑えられなくなる」,「スキンシップを求める」,「性行為ができないと男性(女性)として性的役割を果たせないと思う」,「異性に対して心のつながりを求める」,「男性らしさ女性らしさを保とうとして外見を気にする」,「性的に衰えると仕事の面でも自信がなくなる」であり,看護師が終末期がん患者にも性的なニードがあるものとする認識が支援に結び付く可能性が示された.高齢者の性に関する小松ら16)の研究でも,〈あるべき性への固執〉と〈積極的行動概念〉は関連が高いことが示されており,今回のわれわれの調査結果を裏付ける.

一方で,終末期がん患者へのケアの経験を持つ可能性が低くなるのは,がん患者との同居経験(OR 0.27)と〈消極的行動意図〉であった(OR 0.50).がん患者との同居の経験があると支援経験が低くなる結果は予想外であった.この要因を考えるには同居のがん患者の続柄をパートナーと限定して調査する必要があった.

〈消極的行動意図〉に含まれる項目は「知識がないのに支援できない」「支援した経験がないので自信がない」「性について関与していいかわからない」「相談がないのに性について聞けない」「業務に追われて性に関する支援ができない」である.Takahashiらは13),乳腺外科医に対して行った調査で,性の相談を受けやすい医師は,性の相談を受けることも医師の仕事であると認識している(OR 1.3)ことを指摘しており,医療者側の性に対するサポーティブな考え方が具体的な支援につながることを示唆している.これは今回のわれわれの調査結果と類似している.患者は性の問題に対応をしようという用意がある医療者に問題を打ち明けると考えられる.

またセクシュアリティは非常に個別性が高く,プライバシーにも慎重に配慮する事項であり,支援の希望の有無についての尋ねられ方,実際に希望する支援内容,程度についての患者側の調査が今後必要であると考える.

本研究の限界として,神奈川県内で行った調査であり,一般化できない可能性がある.調査票の回収率は52.7%と半数を超えた程度である.質問紙に関する限界を述べる.今回われわれは,小松ら16)が高齢者の援助をする看護師を対象として作成した質問紙を使用した.小松らの研究から20年近く経過しており,婚姻制度や同性愛についての考え方が多様化していると思われ,夫婦(婚姻関係にある男女)という言葉は今回の調査にそぐわない部分はあるが,今回は信頼性,妥当性が測定されている小松らの質問紙を再現して使用した.また仕事や社会との関わりと関連した終末期がん患者の病状に合わない質問も含まれていたため,該当なしの回答を設定する必要があった.

結論

緩和ケア病棟に勤務する看護師の終末期がん患者の「パートナーとの愛を育む時間」に関する認識,感情,支援への行動意図と,具体的な支援の経験が明らかになった.多くの緩和ケア病棟看護師は,患者・家族のセクシュアリティの問題に対して拒否感はないが,現状は積極的な支援をする心持ちではないことがうかがえる.積極的でない理由としては支援の方法がわからないと考えており,学習や経験が必要と考えている.セクシュアリティの問題も全人的苦痛に含まれていると認識しながらも,病棟カンファレンスで話し合われることはほとんどなく,「パートナーとの愛を育む時間」への支援は組織的には行われていないことが示された.今回の調査において,看護師の認識,感情,支援への行動意図は,具体的な支援経験と関連する可能性が示唆された.

終末期がん患者のセクシュアリティについてのアンメットニーズを引き出すためには,まず看護師および医療スタッフ間で,人生のいかなるステージにおいてもセクシュアリティの問題は存在するという認識を共有し,支援について備えることが必要であると考えられる.

謝辞

本研究にご協力をいただきました緩和ケア病棟看護師の皆様に深く感謝を申し上げます.

研究資金

本研究は,公益財団法人 笹川保健財団より2018年度ホスピス緩和ケア助成を受けて実施したものである.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

日下部,馬渡,平野は研究の構想およびデザイン,データの分析・解釈,原稿の起草に貢献;田辺は研究データの収集・分析・解釈に貢献;高橋,森田,渡邉,結束,吉見,太田,稲森は研究の構想およびデザイン,データの分析・解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021 by Japanese Society for Palliative Medicine
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