Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
A Retrospective Survey of 28 Cases with Opioid Switching by Adding Methadone to the Preceding Opioid
Beni KyosakaEtsuko WaritaKyoko NakanishiChie OhtaNaoyoshi TakatsukaYoshiki FukazawaKinomi Yomiya
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2021 Volume 16 Issue 2 Pages 185-190

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Abstract

本邦のメサドン適正使用ガイドには,SAG法(先行強オピオイドをすべて中止してメサドンを開始する方法)が記載されている.当センター緩和ケア科では,詳細な評価のもと,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止する投与法を行っている.今回,この投与法を行った28例について,臨床的意義を考察した.28例中20例(71.4%)でメサドンは至適用量に達し,痛みの増悪や深刻な有害事象なく,メサドンのタイトレーションを安全に行うことができた.ただし,本方法が安全に行われるには,半減期が長いメサドンの薬理学的特性に留意し,メサドン導入後の鎮痛効果と有害事象についての詳細な評価と薬剤調整が必要であると考える.

緒言

メサドンは,神経障害性疼痛に有用1)とされ,WHOがん疼痛ガイドラインの鎮痛薬リストに掲載されている2)長時間作用型μオピオイド受容体作動薬である.本邦では2012年11月に薬価収載された.メサドンは,他のオピオイドとの交差耐性が不完全であり3,4),オピオイド鎮痛薬に特有の有害事象(便秘,悪心,嘔吐,眠気等)に加えて不整脈5)[QT延長6),心室頻拍(Torsades de pointesを含む)等]や呼吸抑制7)の副作用を持ち,半減期が長くその個人差も大きい8)といった薬理学的・薬物動態学的な特徴がある。そのため本邦のメサドン適正使用ガイド9)では,メサドンの適応は「他の強オピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛のみ」とされており,メサドンへの変更方法としては,stop and go(以下,SAG)法(先行強オピオイドを全て中止してメサドンを開始する方法)が記載されている.

今回われわれは,過去の症例報告をもとに,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った28例を集計し,その臨床的意義を考察したので報告する.

方法

2016年10月から2018年9月の間に当センター緩和ケアチームにおいて,治療困難ながん疼痛に対して,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った28例を対象とした.

対象患者の年齢,性別,原発巣,痛みの種類,メサドンの導入理由,先行オピオイドの種類と投与量,至適用量への到達の可否とその所要日数,メサドンの投与量,有害事象,メサドンの投与期間、至適投与量到達後の先行オピオイドの併用状況について後方視的に調査した.

「至適用量到達」の定義は,国内第II相臨床試験10)での基準に基づき,「メサドンを同一用量で6日間以上投与した翌日の鎮痛効果が(1)評価日前日のレスキュー使用回数が1日2回以下であって,かつNRSが導入前の値以下である,(2)忍容できない副作用および過量投与の徴候がない,(3)安全性・有効性の観点から投与量に問題があると考えられる要因がない,のすべてを満たす場合」とした.

メサドンの処方および経過観察は緩和ケアチームが行い,併用薬の確認は緩和ケアチーム専任薬剤師が行った.

メサドン開始時には,緩和ケアチーム医師が病棟看護師に対し,メサドンの薬理学的・薬物動態学的な特徴とオピオイドの過量投与による有害事象のリスクについて教育を行い,タイトレーション中は病棟看護師が緩和ケアチームへ有害事象と鎮痛効果の報告を定期的に行った.これらの評価の結果,Numerical Rating Scale(NRS)が低下した時点,または眠気などの有害事象が生じた時点で先行オピオイドの減量または中止を行った.

患者の強い希望があった1例を除いた27例は入院でメサドンの導入および先行オピオイドの減量・中止を行った.外来で導入をした1例は,至適用量が決定するまで緩和ケアチームの医師が毎日診察か電話で状況確認を行った.

メサドン初期投与量は,国内臨床試験で用いた換算表に基づき決定したが,症例に応じて適宜減量して導入した.先行オピオイドは投与量を変更せずにメサドンを追加で開始し,NRSが低下した時点,または眠気などの有害事象が生じた時点で,先行オピオイドの1/4~1/3量を減量または中止した.メサドン適正使用ガイドに基づき初回投与7日間は増量を行わず,痛みの増強に対しては他のオピオイドのレスキュー薬を使用した.

また,有害事象の出現を回避するために,メサドン導入後は以下を基準にして先行オピオイドの減量・中止を行った.

①軽度の有害事象であっても,先行オピオイドの減量・中止を検討する.

また,有害事象が出現していない場合でも,患者が鎮痛効果を自覚している場合は,その時点で先行オピオイドの減量・中止を検討する.

②先行オピオイドがフェンタニル製剤の場合には,鎮痛効果や眠気などの有害事象が出現する前であっても減量・中止を検討する.

とくに,先行オピオイドがフェンタニル貼付剤の場合は,メサドン導入時にフェンタニル貼付剤の減量・中止を検討する.

本研究について,院内の倫理審査委員会にて承認を得た.承認にあたっては,メサドンの導入を原則入院で行うこと,病棟看護師の教育,看護師による評価と緩和ケアチームへの報告,鎮痛効果が得られた時点,または眠気などの有害事象が出現した時点で先行オピオイドを減量または中止することを条件として,適正使用ガイドと異なる投与方法が認められた.

結果

メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った28例のうち,至適用量に到達した症例は20 例(71.4%),至適用量に到達しなかった症例は8例(28.6%)であった.それぞれの患者背景を表1に,調査結果を表2に示す.メサドンを導入した理由は,1例が先行オピオイドの有害事象(眠気)の軽減であるが,残りの27例は適切な鎮痛が得られない治療困難ながん疼痛であった.

至適用量に到達した20例の先行オピオイド量は,経口モルヒネ換算で平均236.0(60〜960)mg/日であったのに対して,至適用量に到達しなかった8例では平均359.6(90〜1440)mg/日であった.

至適用量に到達した症例のメサドンの至適用量は平均22.0 mg/日(10〜60 mg/日),至適用量到達に要した期間は,平均9.9日(7〜23日)であった.

有害事象は、至適用量に到達した症例10例でメサドンのタイトレーション中に認めた.全例が眠気であり,眠気が生じた時点で,全例でNRSの低下を認めたため,先行するオピオイドを減量することで眠気は消失した.至適用量到達後に生じた有害事象は,悪心が1例であった.明らかな腸閉塞の所見は認めなかったが,内服すると悪心が生じる,と訴えたため,55日目に投与を中止した.メサドンの投与中止後,悪心は消退したが,中止2日目に痛みが増悪したため,前日のレスキュー量を参考にオキシコドン注を開始した.至適用量に到達しなかった8例に有害事象を生じた症例はなかった.

至適用量に到達した20例のうち14 例が退院できたが,6例が病状悪化による内服困難のため退院できなかった.至適用量に到達しなかった8例のうち5例は,レスキュー回数が2回以下にならず,国内第II相臨床試験における至適用量到達の基準は満たさなかったが,NRSの低下を認めたため,このうち4例は自宅退院した.

先行オピオイドの種類は,至適用量に到達した症例で,タペンタドールが3例,フェンタニル貼付薬が18例,オキシコドン注が5例,フェンタニル注,オキシコドン徐放製剤,モルヒネ注,ヒドロモルフォン徐放製剤が各1例であり,このうちの5 例で複数のオピオイドを併用していた.至適用量に到達しなかった症例では,フェンタニル貼付薬が4例,オキシコドン注射,オキシコドン徐放製剤が各2例,タペンタドール徐放製剤,ヒドロモルフォン注射が各1例であり,このうちの2例で複数のオピオイドを併用していた.

至適用量に到達した20例のメサドンの投与期間は、平均81.6日(11〜361日)であった.メサドンの中止理由は,病状悪化による内服困難が17例,咽頭への放射線治療の副作用による嚥下時痛,腹膜播種に起因した腸閉塞による内服困難が各1例,有害事象(悪心)が1例であった.

また,至適用量に到達した20例のうち,9例では至適用量到達後にさらにメサドンの増量を行っていた.これら9例のメサドンの最終投与量は平均40.0(20〜75 mg)mg/日で,投与期間は平均77.3(22〜164)日であった.

至適用量に到達した20例のうち,先行オピオイドをすべて中止しオピオイドがメサドンのみとなった症例は5例で,先行オピオイドを減量できたもののメサドンと併用した症例は11例であった.残りの4例は,至適用量到達基準を満たしたものの痛みが増強したため,先行オピオイドを減量せずメサドンと併用していた.

至適用量に到達した20例におけるメサドン投与前後のNRSの中央値は,6(2〜9)から3(0〜6)に減少した.

表1 患者背景
表2 調査結果

考察

今回,われわれはメサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行った結果,28例中20例,71.4%の症例で至適用量に到達した.がん疼痛に対して先行オピオイドにメサドンを追加で導入した調査研究として,Hagenらの報告11)がある.外来患者を対象としており,また後視的研究のため投与方法は一定ではないが,基本的にはメサドンを4時間ごとに5 mgで開始(平均開始量は27.3 mg/日)した後,3日ごとに1回あたり5 mgずつ増量するタイトレーションが行われており,鎮痛が得られた段階で先行オピオイドを1/3ずつ減量・中止していた.その結果,29例中18例(62.0%)の患者においてタイトレーションに成功しており,著者らは外来で安全にメサドンを導入できると結論している.Hagenらの報告は,先行オピオイドにメサドンを上乗せして導入し,鎮痛が得られた時点で先行オピオイドを減量・中止した点で,われわれの治療方法と同じである.一方,われわれは,眠気などの有害作用が出現した時点で先行オピオイドを減量した点,また原則的に入院患者を対象とした点で異なっているものの,至適用量に達した患者の割合は同等の結果であったと考える.

また,メサドンと他のオピオイドを併用した調査として,Fürst12)らがスウェーデンにおける先行オピオイドに少量のメサドンを上乗せして使用した症例について調査した結果を報告している.それによると,調査期間中メサドンを開始された患者410名のうち96%の患者で先行オピオイドにメサドンを追加して開始する方法がとられていた.メサドン開始の主な理由は,不十分な疼痛マネジメント(74%)であり,メサドン開始量は5-10 mg/日(中央値5 mg/日),先行オピオイドの投与量は経口モルヒネ換算184 mg(中央値)であった.NRS,Visual Analogue Scale(VAS),Edmonton Symptom Assessment Scale(ESAS),Integrated Palliative Care Outcome Scale(IPOS)を用いた疼痛アセスメント結果が得られた84%の患者のうち,69%の患者はメサドンによる鎮痛効果をvery goodまたはgoodと報告していた.一方,メサドンの中止に至る有害事象は認められなかったとしている.Fürstらの報告は,先行オピオイドに少量のメサドンを追加する疼痛治療法であり,われわれの投与方法とは方針が異なるが,先行オピオイドとメサドンを併用し,メサドン中止に至る有害事象は生じなかったという点において,本報告と一致している.

さらに本邦では,上原ら13)や阿部ら14)が,難治性のがん疼痛に対して入院環境下で先行オピオイドにメサドンを追加した症例を報告しており,痛みの増悪なく安全にスイッチングが行えたとしている.

代表的なスイッチング法として,先行するオピオイドを1/3ずつ3日間かけて減量し、同時にメサドンを1/3ずつ増量していく3-days switch(3DS)法やSAG法がある.メサドンへの変更方法を比較した先行研究は少ないが,SAG法と3DS法を無作為化比較試験で評価したMoksnesら15)の報告がある.SAG群では有害事象により試験から脱落した症例が多く,3DS群では重篤な有害事象は認めず,鎮痛効果は3DS群が優位であったとしている.対象患者に投与されていた先行オピオイド量は経口モルヒネ換算で両群とも1,000 mg前後と高用量であり今回の結果との比較はできないが,SAG法が3DS法より優れているとはいえないとしている.

以上のことから,難治性のがん疼痛にメサドンを導入する場合,痛みの増悪を回避するために,本邦で推奨されているSAG法だけではなく,段階的にオピオイドを変更する投与方法についても検討していく必要があると考える.

本邦のメサドン適正使用ガイドで推奨しているSAG法によるメサドンの至適用量到達率は,国内第II相臨床試験においては85%,木村ら16)により84.1%,Mercadanteら17)により77.4%と報告されている.今回の結果でメサドンが至適用量に到達した割合は,先行研究に比較して低い傾向ではあったが安全に行うことができた.

今回の結果から,メサドンを先行オピオイドに追加導入した後に,先行オピオイドの漸減・中止を行う投与法は,痛みの増悪なく安全にメサドンを導入できることが示唆される.ただし,本方法が安全に行われるには,半減期が長いメサドンの薬理学的特性に留意し,今回,方法に挙げた基準①を念頭においたメサドン導入後の鎮痛効果と有害事象についての詳細な評価と薬剤調整が必要であると考える.

とくに,フェンタニル製剤は,呼吸抑制による死亡例がFDAや本邦製薬会社から報告されており,基礎実験でも呼吸抑制を起こしやすい傾向が示唆されている18)ため,今回,方法に挙げた基準②に従い,メサドンの効果を待たずにフェンタニル製剤の減量・中止を積極的に行った.フェンタニル貼付剤は,鎮痛効果持続時間が長く,中止後に血中フェンタニル濃度が50%に減少するのに17時間以上(16.75~45.07時間)かかる19)ことから,先行オピオイドがフェンタニル貼付剤の場合は,血中メサドン濃度の上昇と血中フェンタニル濃度の減少に要する時間を考慮し,フェンタニル貼付剤の減量・中止を行う必要がある.

また,今回の検討で至適用量に到達しなかった症例では,至適用量に到達した症例と比較して,先行オピオイド量が多い傾向が認められた.先行オピオイド量が多い症例で至適用量に到達しなかった理由として,メサドンの初期用量不足による不十分な鎮痛が考えられる.European Association of Palliative Care(EAPC)によるガイドラインでは,経口モルヒネから経口メサドンへの換算比は1:5から1:12または24以上と広範囲にわたり,推奨比は確定できないとしており,加えて経口モルヒネが高用量になるとメサドンとの換算比は大きくなるという報告20)もある.したがって,先行オピオイドが高用量の症例では,メサドンの初期用量を本邦のガイドの推奨量より高用量必要な可能性があり,メサドンとの換算比の差が小さい比較的低用量の段階でメサドンを導入することが至適用量到達には有利である可能性がある.

本研究の限界は,単一施設の後ろ向きの観察研究であること,対照がないことである.今後,先行オピオイドにメサドンを追加する投与法を含めたメサドンのスイッチング法を比較した多施設の前向き研究が望まれる.

結論

本研究の結果から,メサドンを先行オピオイドに追加で導入した後に先行オピオイドの漸減・中止を行う投与法により,安全にメサドンを導入できることが示唆された.ただし,有害事象の発生を回避し,有害事象を早期に発見するために,初回のメサドンの投与は可能な限り入院で行うこと,患者・看護師・医師の協力により鎮痛効果や有害事象を詳細に評価すること,鎮痛効果や有害事象に先んじた先行オピオイドの減量・中止が必要である.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

京坂は研究の構想およびデザイン,原稿の起草,研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;割田,中西,太田,高塚,深澤は研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;余宮は研究の構想およびデザイン,原稿の起草,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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