Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
Palliative Radiation Therapy for Choroidal Metastases: A Report of Three Cases
Takashige Kiyota Shoko TakataAkira MatsumotoMakoto OtsukaMaho ItotaniToru AdachiRyoko OkiKenichi KimotoAtsushi OsoegawaKenji SugioKazuo NishikawaHaruto NishidaTsutomu DaaYoshiki Asayama
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2022 Volume 17 Issue 1 Pages 17-22

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Abstract

眼症状を有する脈絡膜転移に放射線照射を行い,症状緩和の得られた3例を報告する.症例1は71歳女性.右乳がん術後7年目に多発転移を認め化学療法が行われていた.術後16年目に右眼痛と視力障害を伴う右脈絡膜転移が出現し,同部への緩和照射により,右眼痛の軽減と腫瘍の縮小を認めた.症例2は54歳男性.右眼痛および視野異常を自覚し,精査にて右下葉肺がんおよび右脈絡膜を含む全身多発転移と診断された.右脈絡膜転移巣への緩和照射により,眼痛の改善と腫瘍の縮小を認めた.症例3は71歳女性.右上葉肺がん術後1年5カ月で左眼痛が出現し,精査にて左脈絡膜転移の診断となった.同部に対して緩和照射を施行し,照射後は腫瘍の縮小と左眼痛の一時的な消失を認めた.脈絡膜転移に対する緩和的放射線治療は,眼症状の軽減に有効と思われた.

Translated Abstract

We here report three cases of choroidal metastases with ocular pain and visual symptoms treated with palliative irradiation. Case 1: A 71-year-old woman was treated with chemotherapy for multiple metastases after surgery for right breast cancer. Sixteen years after surgery, a right choroidal metastasis with ocular pain and visual disturbance was detected. Palliative irradiation to this lesion achieved reduction in ocular pain and shrank the tumor. Case 2: A 54-year-old man presented with right ocular pain and abnormal vision and was diagnosed as having right lung cancer with multiple systemic metastases. Palliative irradiation to a right choroidal metastasis achieved reduction in ocular pain and shrank the tumor. Case 3: A 71-year-old woman developed left eye pain 17 months after surgery for lung cancer in the right upper lobe. She was diagnosed as having a left choroidal metastasis. After palliative irradiation, the tumor shrank and the left eye pain temporarily resolved. Palliative radiation therapy for choroidal metastasis with ocular pain and visual symptoms seems to be effective in improving symptoms.

緒言

転移性脈絡膜腫瘍(choroidal metastasis: CM)は視力低下や眼痛などで発症し,Quality of Life(QOL)の著しい低下を招く病態である.多くは診断時に他部位への転移を既に認めており,緩和目的に放射線照射を行うことが多い.近年,比較的稀とされていたCMの報告が増加しており,がん治療の進歩による生存期間の延長がその一因と考えられている.今回われわれは放射線治療により症状の軽減を認めたCMの3症例を経験したため,その有用性について文献的考察とともに報告する.

症例提示

【症例1】71歳,女性.乳がん(浸潤性乳管がん).

【主訴】右眼痛,視野異常,飛蚊症

【現病歴】右乳がんに対して乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術を施行し(pT2N1M0 Stage II B),術後に化学療法とホルモン療法を行った.術後7年目に右大腿骨転移で再発し,化学療法を行うも,肺転移や胸膜転移,腹膜転移など緩徐に病状は進行した.術後16年目に右眼痛と視野異常,飛蚊症を自覚し,眼科を受診した.

【眼科所見】視力は右眼0.5(矯正0.8),左眼0.4(矯正0.7).右眼鼻側網膜から後極部に及ぶ厚さ2 mm程の隆起性病変を認めた.

【経過】CMと診断され,症状緩和目的に放射線治療(30 Gy/10回,6 MV・X線,3門照射)が施行された.治療計画は頭部用固定シェルを使用してCTを4 mmスライスで撮像し,脈絡膜腫瘍を肉眼的標的体積,眼球を臨床的標的体積に設定して,5 mmのマージンをつけて計画的標的体積とした(症例2, 3も同様).

照射終了時の眼底検査で腫瘍縮小を認め,右眼痛は消失した.胸膜播種の痛みに対してロキソプロフェン60 mgを1日1, 2回程度内服していたが,治療前後で量と頻度に変化はなく,放射線治療により眼痛が消失したと考えられた.右眼が暗く見える症状は継続したが,飛蚊症はみられなくなり,眼痛消失により夜眠れるようになるなど,QOLの改善を認めた.急性期有害事象として皮膚炎(Grade1, CTCAE ver.5.0)を生じた.また治療後に漿液性網膜剥離を認めたが,次第に消退傾向となった.照射終了11カ月後にがん死したが,眼病変の再増大はなく,眼痛の再燃もなかった.

【症例2】54歳,男性.肺がん(大細胞神経内分泌がん).

【主訴】右眼痛,視野異常

【現病歴】1週間続く右眼痛と鼻側視野異常のため眼科を受診した.

【血液検査所見】CEA 5.7 ng/ml(基準値:≤5 ng/ml)

【眼科検査所見】視力は右眼0.2(矯正0.3),左眼0.3(矯正1.5).眼圧は正常.右眼底に黄斑部を含む7×16 mm程の脈絡膜隆起を認め,一部で網膜下液を伴っていた.

【画像所見】CTで右肺下葉に約4 cmの腫瘤を認め,左肺,右副腎,右上腕外側皮下にも腫瘤が多発していた.

【経過】肺がんおよびCMを含む多発転移と診断した(cT4N3M1c Stage IV B).右眼腫瘤の増大と漿液性網膜剥離の拡大により,視力は急速に光覚弁にまで悪化し,眼圧は50 mmHgに上昇した.右眼球の奥から後頭部に突き抜けるような疼痛があり,numeric rating scale(NRS)は7/10であった.疼痛コントロールとしてロキソプロフェン180 mg/日,頓用でオキノーム2.5 mgの内服を始めたが,眼痛の増強があり,緩和的放射線治療(30 Gy/10回,6 MV・X線,3門照射)を開始した.さらにフェンタニル注射剤10 µg/hの持続経静脈投与(レスキュー量は10 µg/回)とプレガバリン75 mgが追加された.放射線治療中に大細胞神経内分泌がんの確定診断に至り,治療期間中に化学療法が開始された.照射終了2日後に眼痛はNRS 0–2/10で推移し疼痛コントロールは良好と考えられたため,フェンタニル注射剤をフェンタニル貼付剤1 mg/日に変更した.視力に改善はみられなかったが1カ月後には右眼脈絡膜腫瘍は3×12 mmに縮小していた.網膜剥離も徐々に縮小し,眼圧も正常化した.また疼痛による夜間の中途覚醒がなくなるなど,QOLの改善がみられた.しかし照射終了5カ月後には眼圧は47 mmHgまで上昇して眼痛の増悪がみられた.原因としては腫瘍による眼内の虚血と炎症が血管新生緑内障を引き起こし眼圧が上昇したことで眼痛が生じたと考えられた.しかし眼圧上昇は緩徐であったため眼痛はNRS 4/10と中等度であった.原発巣と右眼を除く転移性病変は増悪傾向であり,化学療法を行うも,病状は徐々に進行し,照射終了8カ月後にがん死した.その間,眼腫瘍の増大はなかった.

【症例3】71歳,女性.肺がん(腺がん).

【主訴】左眼痛

【現病歴】右肺腺がんに対して右肺上葉切除術を施行し,手術時に悪性胸水を認めた(pT2bN2M1a, Stage IV A).EGFR遺伝子変異陽性(L858R)であり,術後は分子標的薬(ゲフィチニブ)の投与が行われていた.術後1年5カ月後に左眼瞼周囲の痛みを訴え眼科を受診した.

【眼科検査所見】視力は右眼0.1(矯正1.5),左眼0.15(矯正0.8).眼底検査および眼球超音波検査で,左眼底に6×12 mmの隆起性病変を認め,漿液性網膜剥離を伴っていた(図1).

図1 症例3の眼球超音波検査(照射開始3週間前)

脈絡膜に転移性腫瘍を認める(矢印).

【画像所見】CTとMRIで左眼脈絡膜に局所肥厚を認め,転移性腫瘍が疑われた.FDG-PET/CTでは左眼病変のみにFDGの集積亢進を認めた.

【経過】肺腺がんの転移性脈絡膜腫瘍と診断され,左眼症状の緩和目的に放射線治療(30 Gy/10回,6 MV・X線,非対向2門照射)を施行した(図2).照射終了時には眼痛は消失し,疼痛時に内服していたロキソプロフェン60 mgは中止とした.照射終了2週間後の左眼矯正視力は1.2まで改善した.照射終了1カ月後には腫瘍は2×7 mmに縮小し,漿液性網膜剥離もほぼ消失した(図3).急性期有害事象として左眼窩周囲浮腫(Grade 1)を認めた.その後,ゲフィチニブを継続したが,照射終了8カ月後に眼痛が再燃し,脈絡膜腫瘍の増大(3×9 mm)を認めた.ほかに新規病変はなかったため,10カ月後にルテニウム(106Ru)による眼局所の小線源治療(専門病院に依頼)を行ったが,その後再増大し光線力学療法を追加するも制御困難と判断して,1年11カ月後に左眼球摘出術を施行した.現在,ゲフィチニブの服用を継続したまま,外照射から2年経過し,新たな転移を認めず存命中である.

図2 症例3の放射線治療における線量分布図(30 Gy/10回,6 MV・X線,非対向2門照射,60度Wedge filterを使用)
図3 症例3の眼球超音波検査(照射終了2カ月半後)

腫瘍は縮小している(矢印).

考察

CMは,1872年にPerisらによって最初に報告された病態1であり,原発巣は乳がんと肺がんが多く,合わせて7割程度を占める2,3.初発症状としては霧視が55~70%と多く,これは黄斑部や傍乳頭部の病変に関連している場合や,滲出性網膜剥離に起因している場合が多い.次いで視力低下が15%にみられ,視野欠損が12%,疼痛が6~12%と続く.CMの症例のうち15~20%は無症状である4

CMによる眼痛や視力障害などの眼症状は,患者のQOLを著しく低下させるため,症状の緩和あるいは安定化が効果的に得られる治療が求められる.またCMを有する症例は他の部位への転移を既に認めていることが多く,診断後の平均生存期間は6カ月から1年程度と不良である5,6.そのため治療には侵襲が少なく実施が容易であること,合併症のリスクが低いこと,治療期間が長くないことなども望まれ,症状緩和を目的とした放射線照射を施行することも多い.

放射線治療の至適線量は定まっていないが,日本放射線腫瘍学会による「放射線治療計画ガイドライン2020年版」では,通常分割照射で30 Gy/10回/2週から40 Gy/20回/4週を推奨している7,8.治療効果については,腫瘍縮小や視力改善を評価項目とする報告が多く,奏効率は63~93%と高い9,10.本報告でも3例とも照射後に腫瘍縮小が得られ,1例に視力の改善を認めた.一方,眼痛の改善に関してまとまった報告はみられず,放射線治療によって改善あるいは軽減を認めたとする症例報告10,11が散見される程度である.自験例ではいずれも照射終了時に眼痛の消失あるいは軽減が認められており,放射線治療はCMによる眼痛に対しても有効と思われた.

有害事象に関して,Wiegelら7は50症例65眼球の転移性脈絡膜腫瘍に40 Gy/20回での放射線治療を行った結果をまとめている.急性期有害事象として皮膚炎や結膜炎を約半数に生じたが,いずれもRadiation Toxicity Grading(RTOG)の症状分類でGrade 1と軽度であった.また晩期有害事象として網膜症や視神経症がみられたが,頻度は約5%に過ぎず,緩和的な放射線照射は安全な治療法であると結論付けている.自験例では30 Gy/10回の照射を行い8,急性期有害事象として皮膚炎や眼窩周囲浮腫を生じたが,いずれもGrade 1と軽度であった.

近年,悪性腫瘍患者数の増加や,治療の進歩による担がん状態での生存期間延長によって,CMの報告が増加してきている12.分子標的治療のような薬物治療の発達により転移巣の制御が高率にできる症例も認められるようになった.症例3では,遠隔転移はCMのみでいわゆるoligometastasisの状態であり,放射線治療後の再燃に対し根治を目的として眼球摘出が行われた.CMは全身転移の一病変と考えられるため,放射線治療は緩和の位置付けであるが,他病変が制御されている場合には症状の緩和のみならず根治を目指すために高線量での治療を考慮する必要があると思われた.

結語

今回われわれは転移性脈絡膜腫瘍に対して放射線治療を行い,眼痛の改善,視力障害の抑制,腫瘍の縮小が得られた3症例を経験した.転移性脈絡膜腫瘍に対する放射線照射は,一定期間,症状の緩和あるいは安定化が得られる有効な治療法と思われた.

利益相反

杉尾賢二:受託研究費(MSD株式会社,日本イーライリリー株式会社,コヴィディエンジャパン株式会社)

西川和男:奨学寄附金(小野薬品工業株式会社)

駄阿 勉:奨学寄附金(リンテック株式会社)

浅山良樹:奨学寄附金(富士フイルム富山化学株式会社,ゲルベジャパン株式会社,日田健診センター)

その他:該当なし

著者貢献

清田は研究の構想ならびにデザイン,研究データ収集と分析,解釈,原稿の起草に貢献した.高田,松本は研究の構想ならびにデザイン,研究データ収集と分析,解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.糸谷,大木,杉尾は研究データ収集と分析,解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.大塚,足立,木許,小副川,西川,西田,駄阿,浅山は研究データの解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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