2022 Volume 17 Issue 1 Pages 33-42
【目的】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性について検討する.【方法】医中誌,Cochrane Library, EMBASE, MEDLINEを用いて,2019年10月23日までの期間に報告されたすべての文献について検索を行った.また,2020年6月30日と2021年12月7日に,PubMedを用いてハンドサーチを行った.適格基準は,1)送風療法を扱う無作為化比較試験,2)対象者の年齢が18歳以上,とした.除外基準は,1)重複文献,2)学会発表,とした.【結果】110件中10件が採用され,そのうち5件についてメタ解析を行った.送風療法は標準化平均値差−1.43(95%信頼区間−2.70~−0.17; I2=94%;異質性のp値<0.0001)であり,呼吸困難を有意に改善した.【結論】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対して送風療法は有効であることが示された.
Objective: To evaluate the efficacy of fan therapy for the relief of dyspnea in patients with chronic progressive disease. Methods: A systematic electronic database search of all available articles published before October 23, 2019 was conducted using Ichushi-Web of the Japan Medical Abstract Society databases, CENTRAL, EMBASE, and MEDLINE. In addition, a hand-search for updates was performed using PubMed on June 30, 2020 and December 7, 2021. The inclusion criteria were: 1) any RCTs comparing the effect of fan therapy with any other intervention, and 2) patients aged ≥18 years. Exclusion criteria were: 1) duplicate references, and 2) conference presentations. Results: We identified 110 studies, of which 10 met our criteria for inclusion. Finally, five studies were used in the meta-analysis. Fan therapy significantly improved dyspnea in patients with chronic progressive disease compared to control groups with a standardized mean difference of −1.43 (95% confidence interval: −2.70 to −0.17, I2=94%, p<0.0001). Conclusion: Fan therapy was found to be effective in reducing dyspnea in chronic progressive disease.
呼吸困難は,「呼吸の際に感じる不快な主観的な体験で,定量的に知覚できる強度の異なる感覚から成り立つ症状である」と定義されている1,2).また,身体的,精神的,社会的,環境的,さまざまな要因が相互に影響し,二次的に生理的,行動的反応を引き起こすといわれている1,2).呼吸困難は,慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD),間質性肺疾患,慢性心不全,進行がんなどの患者では,一般的によく体験される症状である3–7).呼吸困難のマネジメントは進歩しているにもかかわらず,呼吸困難を体験している患者は依然として多く,また,死期が近づくにつれ増悪していく8–11).
近年,海外における,がん患者の呼吸困難に対する臨床実践ガイドラインに大きな変化がみられた.今までの臨床実践ガイドラインでは,薬物療法について推奨が述べられ,非薬物療法については言及されていない,または紹介されていても十分なエビデンスがないことから推奨には至っていなかった8,12,13).一方,近年報告された臨床実践ガイドラインにおける非薬物療法の位置づけは,呼吸困難のマネジメントにおいて,第一選択の治療オプションであり,進行疾患では薬物療法による支援を補完すると述べられている14,15).非薬物療法の中でもとくに,送風療法のエビデンスレベルは高く,疾患の進行度にかかわらず,実施可能な支援として紹介されている.
送風療法とは,扇風機を用いて顔に向かって風を送る支援のことであり,安価で簡便に実施可能であることから,近年注目されている.送風療法によって呼吸困難が緩和するメカニズムは不明だが,頬や鼻腔,口腔内への冷風刺激が呼吸困難を緩和させるという報告から,三叉神経第2–3枝領域への冷風刺激が呼吸困難の緩和に関わっているといわれている16–18).最近では,いくつかのシステマティックレビュー・メタ解析が報告されており,進行期疾患が対象の場合19,20),進行がん患者を対象とした場合21–23),それぞれで呼吸困難に対する送風療法の有効性が報告されている.一方で,対象疾患の進行度にかかわらず行われたシステマティックレビューではメタ解析が行われておらず,送風療法の有効性を示唆するにとどまっている24).したがって,本研究では,慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性を明らかにすることを目的に,システマティックレビューおよびメタ解析を行った.
慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性を分析するために,Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)2020 Statement25)に従って,網羅的に文献検索を行った.
電子データベースである医中誌Web版ver.5, Cochrane Library, EMBASE, MEDLINEを用いて,2019年10月23日までの期間に報告されたすべての文献について,「呼吸困難」「送風」をキーワードとして検索を行った(検索式の詳細は付録表1参照).また,2020年6月30日と2021年12月7日に,電子データベースであるPubMedを用いてハンドサーチを行った.
選定基準適格基準は,1)送風療法を扱う無作為化比較試験であること,2)対象者の年齢が18歳以上であること,3)対照群が,送風療法以外の非薬物的介入,もしくは介入なしとした.除外基準は,1)重複文献であること,2)学会発表であること,とした.
選定方法まず,一次スクリーニングとして,検索で得られたすべての論文について,2名の著者(Y. N., T. N.)がそれぞれ独立して,選定基準をもとにタイトルと抄録を評価した.次に,一次スクリーニングで得られたすべての文献を取り寄せ,二次スクリーニングとして同じ2名の著者が,選定基準をもとに独立して全文のスクリーニングを行い,採用論文を確定した.各スクリーニングの過程で評価が異なる場合は,著者間の協議のもと採否を決定し,それでも意見が収束しない場合には,第三者(J. K.)との議論によって採否を決定した.
データ収集プロセス2名の著者(Y. N., T. N.)がそれぞれ独立して,二次スクリーニングで採用された文献からデータを抽出した.抽出したデータは,著者,発表年,対象者,サンプルサイズ(介入群,対照群),介入方法・期間,呼吸困難評価ツール,アウトカム(呼吸困難の変化,不快感)とした.
バイアスリスクおよび非直接性の評価本研究では,Cochraneの評価ツール26)に従って作成されている,Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.027)に基づき,各研究のバイアスリスクを,2名の著者(Y. N., T. N.)がそれぞれ独立して評価した.意見の相違については,2名の著者(Y. N., T. N.)の同意または第三者(J. K.)との議論によって決定した.二次スクリーニングで採用されたすべての文献について,バイアスリスクとして選択バイアス(無作為化,コンシールメント),実行バイアス(盲検化),検出バイアス(盲検化),症例減少バイアス(ITT,不完全アウトカムデータ),報告バイアス(選択的アウトカム報告),早期試験中止,その他のバイアスを評価した.各バイアスリスクの評価については,高リスク,中程度/不明確,低リスクの3段階で評価した.
データの統合本研究では,無作為化比較試験の介入効果を総合的に評価するために,変量効果モデルを用いてメタ解析を行った.アウトカムについては,試験実施前後の呼吸困難強度の変化と,試験実施による有害事象として不快感を評価した.要約統計量の選択について,連続変数は対象とした研究が同じ尺度(平均差(mean difference: MD)と95%信頼区間(confidence interval: CI))を使用しているか,異なる尺度(標準化平均差(standardized mean difference: SMD)と95%CI)を使用しているかに基づいて決定した26).イベント発生割合についてはリスク比を使用した.イベント発生0の場合には,分子に0.1を代入して統合した28).研究間の異質性は,HigginsのI2検定およびχ2検定を用いて評価した.I2値が50%以上,pが0.1未満の場合,異質性は有意であると判断した.データの統合には,RおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアであるEZR(自治医科大学附属さいたま医療センター)29)およびReview Manager 5.4を用いて解析を行った.
図1に文献検索のプロセスと結果を示す.データベースサーチにて合計104件の文献が抽出され,36件を重複文献として除外した.次に,一次スクリーニングとしてタイトルと抄録を評価し,56件を除外した.残りの12件について全文を取り寄せ評価を行い,無作為化比較試験ではなかった4件を除いた8件を採用した.また,2020年6月30日に行ったハンドサーチにて5件,2021年12月7日に行ったハンドサーチにて1件,合計6件の文献が抽出された.同様のプロセスにてすべての文献を評価し,無作為化比較試験ではなかった5件を除外し,1件を追加採用した.合計9件の文献を採用したが,うち1件は4群間の比較を行った研究であり,2群ずつ評価を行うことが可能な研究デザインを採用していた.そのため,Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.027)に基づき,本文献については,2件の文献として扱うこととした30).最終的に,本研究では10件の文献を分析対象とした.
表1に採用文献の概要を示す.呼吸困難に対する送風療法の有効性について,無作為化比較試験にて検討した研究は10件30–38)同定された.そのうち,4件32,33,35,38)は,無作為化クロスオーバー比較試験であった.対象文献に含まれる対象者は合計で368名であり,疾患は,がん患者184名(50%)と最多であり,COPD患者133名(36.1%)と続いた.介入に使用された扇風機は,手持ち扇風機,家庭用扇風機,卓上扇風機,据置型扇風機であった.介入時間は,5分間の短期介入が5件,4週間以上の長期介入が4件,未記載1件であった.
送風療法を行った結果,呼吸困難に対する有効性を報告した研究は6件あり32,33,35–38),そのうち5件は短期介入によるものであった.残り4件の文献はすべて長期介入による研究であり,そのうち2件は対照群と比較して統計学的な有意差がみられず31,34),他2件は有意差検定が行われていなかった30).採用文献のうち,長期介入を行った1件は,ミックスドメソッドの手法を用いて,送風療法に対する患者の語りを質的に分析していた34).分析の結果,「送風療法はセルフマネジメントに役立つ」「呼吸困難の出現,増悪からの回復を早める」「ポジティブな経験」に分類し,送風療法の有用性について報告していた.評価ツールは,修正Borgスコア,Visual Analogue Scale(VAS),Numerical Rating Scale(NRS)の3種類が使用されていた.送風療法による有害事象の報告はなかったが,否定的な体験として,不快感を報告する研究が1件あった31).具体的には,「緊張する」「おもちゃのようで役立たない」「空気の流れが不快であった」などであった.
バイアスリスク図2に呼吸困難に対する送風療法の有効性をアウトカムとして評価した,バイアスリスクを示す.選択バイアスでは,10件中4件がランダム化およびコンシールメントの方法が読み取れず,中程度/不明確と評価した.選択バイアスで低リスクと評価されたのは,全体の60%であった(付録図1).実行バイアスおよび検出バイアスについては,単一盲検であることから,すべての研究を中程度/不明確と評価した.症例減少バイアスについては,不完全アウトカムデータとして欠損値のある研究が2件あり,これらは高リスクと評価した.症例減少アウトカムで低リスクと評価されたのは,全体の80%であった.無作為化クロスオーバー比較試験で行われた4件の研究について,3件32,33,38)は回復期間の設定が不十分であり,持ち越し効果がみられていることから,その他のバイアスとして,中程度/不明確と評価した.
呼吸困難に関して,10件の無作為化比較試験のうち,平均値の記載がない3件32–34)と標準偏差の記載がない2件30)を除外し,残りの5件31,35–38)についてメタ解析を行った.その結果,送風療法は対照群と比較して,標準化平均値差−1.43(95%信頼区間−2.70~−0.17; I2=94%;異質性のp値<0.0001)であり,呼吸困難に対する有効性が認められた(全体244名;がん患者220名,COPD患者24名).次に,メタ解析を行った5件のうち,長期介入1件31)を除いた4件について,短期介入としてサブグループ解析を行ったところ,標準化平均値差−1.81(95%信頼区間−3.12~−0.50; I2=93%;異質性のp値<0.0001)であり,短期介入として送風療法を行った群で有意に呼吸困難を緩和するという結果が認められた(全体208名=すべてがん患者).さらに,短期介入で複合介入であった1件35)を除いた3件について,短期単介入としてサブグループ解析を行ったところ,標準化平均値差−2.09(95%信頼区間−3.78~−0.40; I2=94%;異質性のp値<0.0001)であり,短期単介入として送風療法を行った群で有意に呼吸困難を緩和するという結果が認められた(全体166名;すべてがん患者)(図3).
不快感の有無を報告する3件31,34,37)の無作為化比較試験についてメタ解析を行ったところ,リスク比1.56(95%信頼区間0.42~5.72; I2=0%;異質性のp値=0.9938)であり,両群間で有意差は認められなかった.次に,メタ解析を行った3件のうち,短期介入であった1件37)を除いた2件について,長期介入としてサブグループ解析を行ったところ,リスク比1.47(95%信頼区間0.48~4.53; I2=0%;異質性のp値=0.9727)であり,両群間で有意差は認められなかった(図4).
本研究では,慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性について検証するためシステマティックレビュー・メタ解析を行い,1対象疾患と疾患の進行度を限定しなかった場合でも,1短期・長期介入を含めたメタ解析にて,呼吸困難に有効な介入であることを確認した.先行研究では,進行期疾患に限定した解析が行われていたが19–22),対象を進行期疾患に限定しない場合でも送風療法の有効性を確認することができた.一方で,送風療法の特性上,盲検化が難しくバイアスリスクになっていること,対照群にも何らかの介入を行っていることから,結果の解釈には注意が必要である.
送風療法については,5分間の介入期間(時間)を設ける短期介入と,4週間以上の介入期間(時間)を設ける長期介入がある.本研究では,送風療法全体の効果を統合するために短期・長期含めてメタ解析を行い,その有効性を確認することができた.一方で,メタ解析に投入できた文献は10件中5件のみであり,また異質性も高く効果のバラつきがある.とくに長期介入における採用文献は4件あるが,統合できた文献は1件31)のみである.長期介入については,統計学的に有効性を示すことはできなかった.その理由として,病状が進行すると介入の効果が乏しくなることや,介入効果があったとしても,それを上回る病状変化による症状変化がある可能性が考えられる.脱落者が出ていることも長期介入特有であり,その原因は病状の悪化や死亡と報告されている.このような背景から,パワー不足である可能性も考えられる.その一方で,呼吸困難が増悪したとき,あるいは呼吸困難が増悪しそうだと感じたときに,手持ち扇風機を使用することで,対象者の呼吸困難に対への対処行動がとれているというコントロール感の実感や,呼吸困難が増悪したときに緩和するまでの時間が短縮するなどの効果の実感の報告がある34).先行研究では,コントロール感の上昇が認知モデルの変化を通して,さまざまな好ましい影響を起こすことが指摘されている39).そのため,呼吸困難の変化量と合わせて,呼吸困難のコントロール感を評価することを検討してもよさそうである.一方で,呼吸困難のコントロール感を評価するような尺度はなく,尺度開発も課題である.また,サンプルサイズについては,脱落者を検討したうえでの設計が望ましい.
送風療法による有害事象の報告はないが,送風による不快感の報告があった.先行研究では,送風の強さや患者までの距離については,患者の好みに応じて調整されている32,35–37,40–42).送風は強すぎると空気圧迫感を招き,呼吸がしづらくなる原因となる.そのため,送風する際には,患者の希望を聞きつつ,弱い送風から徐々に強く調整されており,臨床での活用の際には参考となる.メタ解析の結果では統計学的な有意差はなかったが,安全かつ不快感を招くことなく実施できるような研究デザインの設計が望ましい.
本研究の強みは,疾患の種類と疾患の進行度で対象を限定せず,送風療法の有効性についてレビューし,その有効性を検証したことである.本研究では,呼吸困難に対する送風療法の有効性についてメタ解析を行い,標準化平均値差1.43ポイントの低下であることを示した.1.43という数値は,Cohenの基準を参考にすると,大きい効果と判断される43,44).このことから,呼吸困難に対する送風療法は効果を期待できることに加え,有害事象の報告もなく安全に実施可能であること,実施に伴う簡便さから,臨床実践での活用が期待できる.海外では,がん患者を対象とした臨床実践ガイドラインにおいて,対症療法では,非薬物療法を第一選択の治療オプションに位置づけ,かつ,送風療法のエビデンスを高く報告している14,15).本研究結果を受けて,今後は非がん患者を含めた呼吸困難に対する臨床実践において,送風療法の実施が推奨される可能性がある.また,送風療法については,普及実装が今後の課題となる可能性がある.
一方で,いくつかの限界がある.まず,複数の電子データベースから包括的な検索を行ったにもかかわらず,採用文献が10件と少なく,かつバイアスリスクが中等度/不明確な試験が多かった.次に,メタ解析に含まれた文献が採用文献の半分にとどまること,またサンプルサイズが小さく,パワー不足である文献が含まれている可能性がある.また,メタ解析に含まれた研究の多くはがん患者を対象とした研究であるため,結果の解釈には注意が必要である.
慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法について,システマティックレビュー・メタ解析を行った結果,送風療法は有効であることが明らかとなった.また,送風療法による不快感に対する報告を統合した結果,統計的な有意差は認められなかった.今後は,送風療法の普及実装に向けた取り組みが課題である.
本研究における包括的文献検索については,NPO法人日本コクランセンター(コクランジャパン)にご支援をいただきました.この場を借りて深く御礼申し上げます.
本研究の実施に当たっては,日本緩和医療学会より資金提供を受けた.
高木雄亮:企業の職員(CureApp株式会社)
その他:該当なし
高木,松田,渡邊,笠原,合屋,小原,森,山口は研究の構想,デザイン,研究データの解釈,原稿の批判的な推敲に貢献した.角甲,中村,西は研究データの収集,分析,原稿の起草,研究の構想,デザイン,研究データの解釈,原稿の批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終確認,および研究の説明責任に同意した.