Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Relationship between Late Effects and Social Distress in Head and Neck Cancer Survivors More Than One Year After Radiation Therapy
Tomoharu Genka Midori Kamizato
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 17 Issue 3 Pages 87-96

Details
Abstract

【目的】放射線療法後の頭頸部がんサバイバーにおける晩期有害事象と社会的困難との関連を明らかにする.【方法】照射後1年以上が経過した頭頸部がんサバイバーの症状を既存の疾患特異的QOL尺度の一部で評価した.分析は記述統計を行い,社会的困難と晩期有害事象および基本的属性との関連を検討した.【結果】対象者は73人(回収率70.8%)であった.晩期有害事象は口腔乾燥の有症率および重症度が最も高かった(79.5%).また,社会的困難は会食時の困難の有症率が最も高く(87.7%),会話困難の重症度が最も高かった.照射後5年以上経過した群は症状の重症度が高く,社会的困難と晩期有害事象には有意な正の相関がみられた.社会的困難は嚥下障害と唾液異常,手術歴と関連していた.【結論】頭頸部がんサバイバーは長期にわたり複数の晩期有害事象と社会的困難を有していた.今後は外来にて包括的なアセスメントとケアを行う必要がある.

Translated Abstract

Purpose: To investigate the relationship between late effects and social distresses in head and neck cancer survivors more than one year after radiotherapy. Method: An existing subset of head and neck cancer-specific quality of life scale was used to assess late effects and social distresses in survivors who had completed radiotherapy for more than 1 year. Descriptive statistics were performed for each social distresses and symptom, and were analyzed their association. Results: Seventy-three people responded to the survey. All patients had some symptoms. The most prevalent and severe late effect was dry mouth (79.5%). In addition, the most prevalent social distress was trouble with social eating (87.7%), and the most severe was speech problems. There was a significant positive correlation between late effects and social distresses. Social distresses were associated with dysphagia and sticky saliva and a history of surgery. Conclusion: Head and neck cancer survivors may have multiple late effects and social distresses at the same time, and there are a need for a comprehensive assessment of the impact of symptoms in the outpatient setting.

緒言

放射線療法における有害事象には「急性期有害事象」と「晩期有害事象」とがある.急性期有害事象は照射後2~3カ月を経て軽快消失する.しかし,晩期有害事象は組織の線維化や微小血管の閉塞を機序としており,不可逆的であり完治は望めない1.そのため,放射線療法後の頭頸部がんサバイバーは生涯にわたって晩期有害事象の影響を受ける.

頭頸部がんサバイバーにおける放射線療法後の晩期有害事象(以下,晩期有害事象)は,解剖学的特徴から嚥下,発声,味覚および嗅覚といった多くの感覚や機能の障害が影響し合って形成される2,3.近年,国外の報告において,頭頸部がんサバイバーは,口腔乾燥や嚥下障害といった治療による有害事象や後遺症により,周囲とのコミュニケーションや他者との食事に対する恐怖といった社会的な困難を経験していることが報告されている4,5.そのため,看護師は治療後の身体的影響のみならず,二次的に生じる社会的な困難を包含したケアを提供する必要がある.しかし,先行研究の多くは,喉頭摘出術といった社会的影響が大きな治療法を受けた対象者が主である.晩期有害事象とその社会的影響を明らかにすることで,放射線療法後の頭頸部がんサバイバーが抱える晩期有害事象のアセスメントの一助になると考える.

一方,嚥下障害や開口障害に対するリハビリテーションの有効性が報告されている6,7.このことから,晩期有害事象は不可逆的であっても頭頸部がんサバイバー自身のセルフケアによって症状の改善や重症化の予防が期待できる.よって,晩期有害事象のアセスメントやセルフケア支援のための患者教育といった看護ケアは重要である.

しかし,本邦における晩期有害事象に関する研究には限りがあり,また,報告されている先行研究は口腔乾燥や嚥下障害といった単独の症状に焦点を当てている研究が多い.そのため,多岐にわたる晩期有害事象と社会的困難の関連について未だ明らかになっていない.

そこで,本研究の目的は放射線療法後の頭頸部がんサバイバーにおける晩期有害事象と社会的困難との関連を明らかにすることとした.

用語の操作的定義

1. 晩期有害事象

照射によって出現する微小血管系や間質結合組織の反応とそれに続く不可逆的な変化1により出現していると考えられる身体的な苦痛症状とした.具体的な症状は,晩期有害事象に関する先行文献より,主観的に評価可能な口腔乾燥および唾液異常8,9,嚥下障害8,10,感覚異常(味覚障害・嗅覚障害)8,11,開口障害8,12,う歯13,疼痛14,体調不良感15とした.

2. 社会的困難

晩期有害事象の影響によって体験する他者とのコミュニケーション,食事,会話に関連する困難4,5とした.

方法

調査対象

本研究の対象は沖縄県内がん診療連携拠点病院の外来に通院する頭頸部がんサバイバーとした.選定条件は20歳以上,根治目的の照射を完遂していることとし,病期や照射線量の条件は設けなかった.また,急性期有害事象の影響を考慮し,先行研究における晩期有害事象の評価時期を検討したうえで照射後1年以上が経過した者を対象とした.除外基準は,喉頭摘出術を受けた者,研究参加時点で化学療法を受けている者,食道がんおよび甲状腺がんの診断を受けた者とした.

データ収集方法

データ収集は無記名による自記式質問紙調査にて実施した.質問紙配布の際は,研究施設の看護師に研究依頼の可否を確認し,許可の得られた対象者に質問紙を配布した.その後,外来の待ち時間などを利用して質問紙の記載を依頼し,回収箱を使用してその日のうちに回収した.なお,データ収集期間は2016年8~9月であった.

調査項目

1. 晩期有害事象および社会的困難

晩期有害事象および社会的困難の評価は,日本語版European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire Head and Neck Module16(以下,EORTC QLQ-H&N35)の一部を用いた.この尺度は頭頸部がん特異的Quality of Life(QOL)尺度17であり,頭頸部がんに特異的な症状や治療による副作用,および社会的機能などといったQOLの側面を評価する18.この尺度を用いた理由は晩期有害事象に特化した症状尺度は現在開発されておらず,先行研究において晩期有害事象の評価に使用され19,日本語での信頼性および妥当性が確認されている16ためである.なお,尺度の部分的な使用については,開発元であるEORTCに申請を行い,所定の手続きを踏まえて使用許可を得た.

EORTC QLQ-H&N35は,頭頸部がん特異的な症状を反映した35の質問項目から構成され,18の領域を評価する.これら18領域は,晩期有害事象と社会的困難と位置づけられていないが,本研究では18領域から晩期有害事象に関連すると判断した8領域および社会的困難に関連していると判断した3領域を選択した.領域の選択にあたっては本研究における晩期有害事象の操作的定義および先行研究で提示されている晩期有害事象や社会的困難に関する内容を参照した.なお,晩期有害事象は疼痛14,嚥下障害8,10,感覚障害(味覚障害,嗅覚障害)8,11,う歯13,開口障害8,12,口腔乾燥8,9,唾液異常8,9,体調不良感15を選択した.加えて社会的困難は会話困難,会食時の困難,人付き合いの困難に関する質問項目を選択した4,5

晩期有害事象の具体的な質問内容として口腔乾燥は「口が渇きましたか?」,唾液異常は「ねばねばしたつばがでましたか?」,感覚異常は「味覚でなにか異常がありましたか?」,「嗅覚でなにか異常がありましたか?」,う歯は「歯になにか異常がありましたか?」などであった.

また,社会的困難の具体的な質問内容として,会食時の困難では「家族の前で食べるのに苦労しましたか?」,「他の人の前で食べるのに苦労しましたか?」などであった.また,人付き合いの困難では「外見上のことで悩んだことはありましたか?」,「友人と社会的な交際をするのに苦労しましたか?」,「人前に出るのに苦労しましたか?」などであった.なお,会話困難は「他の人と話すことに苦労しましたか?」,「電話で話すのに苦労しましたか?」などであった.

質問紙の回答はそれぞれの質問に対して「1:全くない」「2:少し」「3:多い」「4:とても多い」の4件法で行った.回答はそれぞれの症状ごとにスコアリングマニュアル18に沿って0–100点に点数化し,得点が高いほど症状が強いことを示す.なお,これらの点数に加え,「1:全くない」とそれ以外で分けた点数により有症率を算出することも可能である18

2. 基本的属性

対象者の基本的属性は質問紙にて診断名,照射終了からの期間,治療内容(手術および化学療法の有無)に関するデータを収集した.また,年齢,性別,喫煙習慣の有無,飲酒習慣の有無に関するデータは独自に質問項目を作成した.

分析方法

晩期有害事象と社会的困難の得点から有症率と重症度を算出した.有症率は,4件法で尋ねたときに該当する項目すべてにおいて「1:全くない」と回答した場合以外は有症と判断し,有症者数と有症率を算出した.重症度は得点の正規性をKolmogorov–Smirnov検定にて確認し,正規性が確認されなかったため,症状ごとに得点の中央値を算出した.

晩期有害事象および社会的困難の有症率および重症度は照射からの期間別に記述統計を行った.なお,3年目および4年目の対象者数が少なかったため,照射終了からの期間は,各群の人数が均等になるよう1年目,2年目,3~4年目,5年以上の4群に分け,傾向を確認した.晩期有害事象および社会的困難の重症度と基本的属性との関連は,Kruskal–Wallis検定を行った.なお,多群間において有意差がみられた場合はBonferroni法により多重比較を行った.

次に,晩期有害事象と社会的困難の関連について,晩期有害事象と社会的困難の点数間におけるSpearmanの順位相関係数を算出した.その後,従属変数として社会的困難の重症度を,独立変数として社会的困難の重症度と有意差がみられた晩期有害事象の重症度と基本的属性を投入した重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した.分析はIBM SPSS Statistics ver.23にて行い,統計的有意差はp値0.05以下とした.

倫理的配慮

本研究は沖縄県立看護大学倫理審査委員会(承認番号16004)および研究施設の倫理審査の承認を得て実施した.研究の目的,方法,研究参加の自由意思,プライバシーの保護,匿名性の確保,データ管理の方法,研究成果の公表方法などを明記した文書を用いて説明を行った.また,質問紙の回収をもって研究参加者の同意を得た.個人情報の保護のため,治療に関するデータは,患者選定のみに限定することで閲覧の許可を得た.

結果

対象者の基本的属性

対象者の基本的属性を表1に示す.質問紙を103人に配布し73人から回収した(回収率70.8%).平均年齢は64.1±11.1歳,性別は男性61人(83.6%)と多数を占めた.疾患は咽頭がんが34人(46.6%)と最も多く,化学放射線療法を受けた者が58人(79.5%)と8割近くを占めた.また,39人(53.4%)が手術を受けていた.カルテからのデータ収集が困難だったため,術式に関する詳細なデータは収集することができなかったが,一部の対象者から聞き取りした結果,受けた術式は主に部分切除やリンパ節郭清術であった.治療終了からの平均期間は44.3カ月(範囲12–252)で1年目が24人(32.9%),2年目が18人(24.7%),3~4年目が17人(23.3%),5年以上が14人(19.2%)であった.なお,5年以上が経過した者の分布は5~10年が9人,10~20年が4人,20年以上が1人であり,平均115.8カ月であった.

表1 対象者の基本的属性(n=73)

晩期有害事象および社会的困難の有症者数と重症度

晩期有害事象および社会的困難の有症者数と重症度を表2に示す.最も有症者数の多かった晩期有害事象は口腔乾燥で58人(79.5%)であった.続いて唾液異常56人(76.7%),嚥下障害51人(71.2%),体調不良感45人(63.0%)が上位を占めた.また,最も有症者の多かった社会的困難は会食時の困難で64人(87.7%)であった.続いて会話困難55人(76.7%),人付き合いの困難41人(56.2%)であった.なお,対象者全員が一つ以上の晩期有害事象および社会的困難を有していた.

表2 照射終了からの期間別に見た晩期有害事象および社会的困難の有症率と重症度(n=73)

晩期有害事象の重症度は口腔乾燥が最も高く66.7点(範囲0–100),続いて唾液異常,体調不良感,感覚異常の3症状が33.3点(範囲0–100)であった.社会的困難の重症度では会話困難が44.4点(範囲0–100)と最も高く,会食時の困難25.0点(範囲0–100),人付き合いの困難16.7点(範囲0–91)であった.

また,照射後1年目から5年以上までの4群すべてにおいて晩期有害事象および社会的困難を有していた.また,照射終了からの期間ごとに比較した場合,5年以上経過した群はすべての晩期有害事象および社会的困難において高い有症率を示した.なお,2年目と3~4年目にかけて有症率が低下していたが,5年以上の群で再び高い値を示した.

晩期有害事象および社会的困難の重症度と基本的属性との関連

晩期有害事象および社会的困難の重症度と基本的属性との関連を表3に示す.60歳未満群は唾液異常(p=0.027),感覚異常(p=0.001),疼痛(p=0.005)の重症度が高かった.また,手術歴を有する群は嚥下障害(p=0.014)と感覚異常(p=0.034)の重症度が高かった.さらに,照射後5年以上が経過した群は嚥下障害(p=0.004),感覚異常(p<0.001),疼痛(p=0.018),開口障害(p=0.002),う歯(p=0.029)の重症度が高かった.なお,社会的困難では手術歴を有する群はいずれも重症度が高かった(p<0.001, p=0.015).

表3 晩期有害事象および社会的困難の重症度と基本的属性との関連(n=73)

晩期有害事象の重症度と社会的困難の重症度との関連

晩期有害事象の重症度と社会的困難の重症度との相関係数を表4に示す.晩期有害事象のなかでも,嚥下障害(r=0.416–0.583, p<0.001),体調不良感(r=0.283–0.345, p=0.003–0.015),感覚異常(r=0.357–0.442, p<0.001–p=0.002),開口障害(r=0.334–0.349, p=0.003–0.004),う歯(r=0.205–0.249, p=0.033–0.043)の重症度は,すべての社会的困難の重症度と有意な正の相関を示した.

表4 晩期有害事象の重症度と社会的困難の重症度との関連(n=73)

社会的困難の重症度と晩期有害事象の重症度および基本的属性との関連

社会的困難の重症度と晩期有害事象の重症度および基本的属性との関連を表5に示す.重回帰分析の結果,会食時の困難の重症度に嚥下障害(β=0.297, p=0.007)および唾液異常(β=0.350, p=0.001)の重症度,手術歴(β=−0.267, p=0.012)が関連していた.また,人付き合いの困難の重症度に嚥下障害(β=0.361, p=0.001)の重症度,手術歴(β=−0.276, p=0.012)が関連していた.会話困難の重症度は,嚥下障害(β=0.458, p<0.001)および唾液異常(β=0.283, p=0.007)の重症度が関連していた.

表5 社会的困難の重症度と晩期有害事象の重症度および基本的属性との関連

考察

本研究では,晩期有害事象のなかでも口腔乾燥の有症率および重症度が高く,社会的困難では会食時の困難の有症率が高いことが明らかになった.また,照射後5年以上が経過した者は嚥下障害や感覚異常といった症状の重症度が高かった.さらに,晩期有害事象と社会的困難の重症度には正の相関がみられ,多変量解析にて社会的困難の重症度は嚥下障害および唾液異常の重症度と手術歴の影響を受けていることが明らかになった.

本研究の最も重要な知見は,晩期有害事象および社会的困難の高い有症率が明らかになったことである.晩期有害事象および社会的困難のなかでも有症率が7割を超えていたものは口腔乾燥,唾液異常,嚥下障害,会食時の困難,会話困難であった.この結果は概ね国外の先行研究4,2022と一致しており,多くの頭頸部がんサバイバーが晩期有害事象の影響を受けていることが考えられる.また,これらの結果から,放射線療法後の頭頸部がんサバイバーは複数の症状を同時に抱えていると予測される.先行研究23では,放射線療法後の口腔乾燥を有している頭頸部がんサバイバーは嚥下障害や不眠,そして会話の困難を同時に経験していることが報告されている.

がん患者の苦痛症状は,複数の症状が同時に出現し,それぞれが影響し合う症状のグループを形成することが報告されている.このような症状のグループを症状クラスターと呼ぶ24.Xiaoら25の報告では,化学放射線療法中の頭頸部がん患者は,粘膜炎や嚥下障害による栄養不良クラスター,発語障害や皮膚障害を含む社会相互作用低下クラスターといった四つの症状クラスターを経験している.この研究は急性期の症状に焦点を当てているが,晩期有害事象も社会的な影響に関連した症状クラスターを形成している可能性がある.症状クラスターは症状間の相乗効果により単独の症状よりも患者のQOLに大きな影響を及ぼす26.そのため,看護師はケアを提供する際に症状を単独ではなく,症状クラスターとして捉えることが必要である.晩期有害事象をクラスターとして捉えることで症状間の関係を丁寧にアセスメントしていくことが可能になる.

また,重回帰分析の結果より,社会的困難の重症度は嚥下障害および唾液異常の重症度と手術歴の影響を強く受けていることが推測された.嚥下障害と口腔乾燥は,先行研究において心理的苦痛や社会的孤立を生じることが報告されている27,28.一方,本研究では口腔乾燥ではなく,唾液異常の重症度がより社会的困難の重症度に影響を与えているという結果であった.唾液異常と口腔乾燥は,それぞれ唾液腺の障害によって起こる症状であるため9,先行研究において口腔乾燥と唾液異常を明確に区別した報告は少ない.しかし,それぞれの症状に対する対処方法は異なると考える.口腔乾燥に対する代表的な対処方法は,水分摂取である23.一方,唾液異常は唾液の水分量が低下するだけではなく,pHや唾液構造そのものが変化し,水分摂取だけでは粘稠性が回復しにくいことが報告されている29.そのため,唾液異常は含嗽や粘稠性の高い唾液を吐きだすという対処方法が取られる30,31.このような対処方法は他者がいる場で行うことが難しいため,唾液異常は口腔乾燥と比較し,より社会的な場面において対処することが困難であることが推測される.嚥下障害と唾液異常がどのように頭頸部がんサバイバーの社会的困難に影響を与えているのか,晩期有害事象への対処方法を含めた研究の蓄積が必要である.

また,先行研究では,嚥下障害や唾液異常の両方が頭頸部がんサバイバーの食事に影響を与えていることが報告されている32.これらの症状は身体的な影響にとどまらず,人前での食事に伴う羞恥心を引き起こし,周囲との関係性に影響を与える5.そのため,嚥下障害や唾液異常を抱える頭頸部がんサバイバーへの食事に関する支援は,社会的困難の悪化を防ぐ可能性がある.Dornanら4は頭頸部がんサバイバーの外食時の対処方法として,飲み込みやすい食品の選択,外食時にソースなどを持参し食事に水分を追加するといった方法が行われていたと報告している.このような他者との食事の際に生じる困難への対処方法を頭頸部がんサバイバーに情報提供することが重要である.

本研究では会食時の困難と人付き合いの困難の重症度は手術歴の影響を受けていることが推測された.Deschuymerら33は放射線療法後の嚥下障害について調査し,手術を受けた者は嚥下障害の程度が強かったことを報告している.本研究では術式に関するデータが限られており,検討するには限界があるが,手術を受けたものについては予測的に早期から介入することも必要であると考える.

また,本研究では,照射終了から5年以上の群は嚥下障害,感覚異常,疼痛,開口障害の有症率が有意に高かった.Baudeletら34は口腔乾燥,嚥下障害,頸部繊維化を縦断的に評価し,口腔乾燥と嚥下障害の有症率が経年的に低下していたと,本研究と異なる知見を報告している.本研究は横断研究であり,照射からの期間と晩期有害事象の関連を検討するには限界がある.しかし,照射後5年以上が経過した頭頸部がんサバイバーの多くがさまざまな晩期有害事象を有していると推測される.一方で,治療後の頭頸部がんサバイバーは時間の経過とともに外来通院の頻度が少なくなる35.そのため,看護師は照射後何年か経過した後でも外来受診を貴重なアセスメントの機会と捉える必要がある.外来受診の際には晩期有害事象が日常生活へ与える影響をアセスメントし,重症化がみられた際には必要な医療資源へつなぐことが重要である.また,外来通院の頻度が少なくなっても頭頸部がんサバイバー自身が症状への対処を行えるよう,照射後早期の時点から継続的に晩期有害事象に関するセルフケア支援を行うことが重要である.

これらを踏まえ,外来において頭頸部がんサバイバーをケアする看護師は,照射後長期間が経過しても晩期有害事象の情報を収集し,多岐にわたる症状がどのように関連し合って苦痛を形成しているのかを評価することが重要である.また,このような症状が人とのコミュニケーションや会食といった社会的側面に与えている影響も同時にアセスメントを行うことが必要である.特に,重回帰分析で関連のあった嚥下障害と唾液異常は,互いに関連することが報告されており36,特に注意深く情報収集を行う必要があると考える.加えて,晩期有害事象に対するセルフケア支援や心理的サポートといった看護ケアや多職種による介入を照射後早期から行うことで,外来受診の頻度が少なくなった時期に移行しても頭頸部がんサバイバー自身が対処を行えるようになり,また,治療後の生活への適応もスムーズになると考える.

多忙な外来において,晩期有害事象のアセスメントを行うには,どの晩期有害事象を評価するか検討する必要がある.その理由として晩期有害事象は明確に定義されておらず8,化学療法の併用による急性期有害事象の遷延化19も指摘されているためである.また,晩期有害事象を評価する際には,照射終了からの時期と症状の不可逆性の2点を考慮する必要がある37.本研究では照射後1年以上が経過した者を対象としており,急性期有害事象が軽快したと考えられる時期の症状を評価している.また,今回評価した晩期有害事象が照射後1年目から5年以上が経過した者すべてにみられたことを踏まえると,これらの症状が照射後長期にわたって継続して存在していることが示唆される.本研究で評価した症状を評価するための,外来においても実施可能な晩期有害事象のアセスメントツールの開発も必要である.

研究の限界と今後の課題

照射後5年以上が経過した群の晩期有害事象の重症度が高かった.本研究は横断研究であり,その解釈として照射から5年以上が経過しても定期的な通院が必要なほど重症な晩期有害事象を有している頭頸部がんサバイバーを抽出したことが考えられる.よって,今後は縦断的に急性期有害事象も含めた照射後の晩期有害事象を把握していく必要がある.また本研究は,晩期有害事象に影響を与えるいくつかの交絡因子について検討できていない.具体的には,手術の術式,照射線量,そして照射方法である.照射を完遂した者を対象としたものの,線量や強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy: IMRT)をはじめとした照射方法の影響も考慮する必要がある.今後は治療に関するデータを追加して検討することで晩期有害事象をより明確にアセスメントすることにつながると考える.さらに,本研究で使用した尺度はQOL尺度であり,晩期有害事象や社会的困難を測定するものではない.そのため,尺度に記載されていない症状や困難について網羅できていない可能性がある.最後に,本研究は単一施設を対象とした研究であり,対象者数も限られることから結果の一般化には限界がある.

結論

放射線療法後の頭頸部がんサバイバーが抱える晩期有害事象は口腔乾燥の有症率および重症度が高く,社会的困難では会食時の困難の有症率が高かった.また,口腔乾燥,唾液異常,嚥下障害,会食時の困難,会話困難の有症率は7割を超えており,複数の症状を同時に経験していることが推測された.なお,晩期有害事象と社会的困難には正の相関がみられ,社会的困難の重症度には嚥下障害および唾液異常の重症度,手術歴が影響を与えていた.今後は定期的な外来通院をアセスメントの機会と捉え,症状同士の関連や身体,心理社会的側面を踏まえた包括的な症状アセスメントおよびセルフケア支援を提供していく必要がある.

謝辞

本研究の趣旨をご理解くださり,研究にご協力いただいた対象者の皆様に心よりお礼申し上げます.本稿は平成28年度沖縄県立看護大学大学院保健看護学研究科へ提出した修士論文を一部加筆・修正したものである.なお,本論文の内容の一部は第32回日本がん看護学会学術集会において発表した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

源河は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.神里は,研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top