Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
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Questionnaire Survey for Dialysis Patients about Withdrawal from Dialysis, Palliative Care
Kaichiro Tamba Tetsu AkimotoMasaki Murahashi
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2022 Volume 17 Issue 4 Pages 159-163

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Abstract

透析中止や緩和ケアに関する透析患者の考えには不明な面が多い.栃木県の透析施設の外来血液透析患者を対象に,透析中止や緩和ケアについてアンケート調査を行った.2170通送付し481名(22.2%)から有効回答を得た.その結果,透析療法を続けるのが大変な状況になった場合,透析中止を希望するかという問いに,「はい」と答えた者が160名(33.3%)だった.その中で118名(73.8%)がその決定は自分で行うと答えた.「現在何らかの苦痛を持っているか」という問いには107名(22.2%)があると答えた.緩和ケアについての認識では,緩和ケアのことを「知っている」と答えた者は60名(12.5%)に過ぎず,一般人へのがんの緩和ケアの認識の調査に比べて明らかに少なかった.今後,透析患者に緩和ケアについて啓発を進める余地が十分にあると考えられた.

Translated Abstract

Dialysis patients’ views on withdrawal from dialysis and palliative care are unclear. We conducted a survey of hemodialysis outpatients in Tochigi prefecture regarding withdrawal from dialysis and palliative care. Among a total of 2170 questionnaires sent, 481 (22.2%) valid responses were obtained. The results showed that 160 (33.3%) answered yes to the question whether they would like to withdraw from dialysis if it becomes too difficult to continue dialysis treatment. Of these, 118 (73.8%) answered they would make that decision by themselves, 107 (22.2%) were currently in some kinds of suffering. In terms of awareness of palliative care, only 60 (12.5%) responded that they knew about palliative care, which was clearly less than in the survey on awareness of palliative care for cancer among the general Japanese population. These results suggested the necessity to promote awareness of palliative care among dialysis patients.

緒言

わが国の透析患者は,年々増加し34万人を超えた 1.そして一般人口の高齢化に合わせ,透析患者の平均年齢は69.40歳と上昇している.とくに高齢での透析導入後の予後は必ずしもよくなく 2,欧米では透析中止や差し控えを選択する末期腎不全患者は少なくない 3.わが国でも2020年改訂の透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言 4にもみられるように,医療者側は自律尊重に基づく透析中止,導入差し控え,緩和ケアについて考え始めている.その一方,わが国の透析患者の考えはあまり知られていない.

2002年に伊藤は,名古屋の自院の透析患者465名に対し,透析中止に関するアンケート調査を行った 5.それによると,末期がん・意識障害・人工呼吸器への接続などの条件によっては,透析中止を希望するとの回答が29%だった.2016年の血液透析患者実態調査報告書では,「重度の認知症で判断能力を失った場合,透析をどうしてほしいですか」との質問に対し,「中止したい」は27.0%だった 6.前者からは既に20年が経ち,後者は認知症限定である.したがって,条件を限定せずに透析中止に関しての患者の最近の考えを聞く価値は高いと考えられた.さらに,医療者側からは注視されている緩和ケアについて透析患者はどう捉えているか,追加調査をする意義も大きいと考えられた.

方法

対象は栃木県の透析施設で外来通院血液透析を受けている成人である.施設の責任者に了解が得られた場合に各施設に郵送した趣意書とアンケートが患者に配布された.趣意書を読み調査に同意した人は,アンケートの冒頭にあるチェックボックスにチェックを記入し無記名で返送とした.

アンケートでは,年齢,性別,透析歴,原疾患を基本データとし,今後の透析中止の可能性と中止する場合の理由,中止決定をする者,現在の苦痛の有無とその内容,緩和ケアについての認知度と必要とする状態について主に多肢選択とした(詳細は付録図1参照).

統計は,t検定とカイ二乗検定を用い5%以下を有意差ありとした.

本研究は,自治医科大学倫理審査委員会の承認を受け(臨大21-097),患者の同意のもと,プライバシーに配慮し無記名の調査を実施した.

結果

栃木県内20施設に2170通送付し,481名(22.2%)から有効回答を得た.男性298名(62.0%),平均年齢67.2±10.9歳,女性183名(38.0%),平均年齢66.0±12.5歳,詳細な患者背景は表1に示す.

表1 回答者の概要

透析療法を続けるのが大変な状況になった場合,透析中止を希望しますか,という問いには,「はい」が160名(33.3%),「いいえ」が195名(40.5%),「どちらでもない」が121名(25.2%)だった.どのような状況で中止したいかを問うたところ,「意識不明」が135名(84.4%)と最も多く,「人工呼吸器」90名(56.3%),「寝たきり」83名(51.9%),「がん末期」79名(49.4%)が続いた(表2).

表2 「どのような状況のときに透析を中止したいと考えますか」への回答 (N=167)

透析を中止する場合の意思決定者としては,上述の透析中止を「希望する」と答えた者は,本人が118名(73.8%),家族22名(13.8%),医療者9名(5.6%)であり,「希望しない」あるいは「どちらでもない」と答えた者の,本人208名(64.8%),家族20名(6.2%),医療者53名(16.5%)とは有意差がみられた(p<0.01).

苦痛を今抱えているかとの問いには,「ある」が107名(22.2%),「ない」が258名(53.6%),「どちらともいえない」が112名(23.3%)だった.苦痛の内訳は,身体的70名(66.0%),心理的30名(28.3%),社会的27名(25.5%),スピリチュアル15名(14.2%)だった.

緩和ケアの認識については,「知っている」60名(12.5%),「聞いたことがある」242名(50.3%),「聞いたこともない」169名(35.1%)だった(表3).「知っている」と答えた者のうち,具体的に記載していた23名の内訳として,「苦痛の緩和に関連」11名(47.8%),「末期関連の表現」8名(34.8%),「がん関連」7名(30.4%),「治療が不可」,「中止について」が4名(17.4%)だった.

表3 「緩和ケアのことをご存知ですか」への回答 (N=481)

緩和ケアの認識については,緩和ケアについて「知っている」と回答した60名のうち,緩和ケアの必要な時期については「今必要」4名(6.6%),「将来的に必要」42名(70.0%),「今後も必要ではない」1名(1.7%),「わからない」13名(21.7%)だった.必要と答えた46名の中で,緩和ケアが必要な理由として,「辛い症状の緩和」33名(71.7%),「心の辛さの相談に乗ってほしい」16名(34.8%),「人生の最後をみてくれる」16名(34.8%)だった.緩和ケアが必要とされる状況については,「命に関わる病気」23名(50.0%),「透析困難」13名(28.3%),「がんの末期」11名(23.9%)などだった.

考察

2020年12月31日現在で,栃木県内の透析施設は81施設,血液透析患者数は6412名であり,24.7%の施設,7.5%の患者の声を聞いたことになる.全国調査と比べ男女比は有意差がなかったが,年齢は有意に若かった 1

透析中止についての考えについての項目は,2002年の伊藤の報告を参考にアンケートを作成した 5.透析療法を続けるのが大変な状況になった場合,透析中止を希望しますかという問いには「はい」が33.3%で,年齢層・性別での違いはなかった.伊藤の報告の29%とも有意差がなく,愛知県と栃木県という地域の違い,前者が一施設で今回は多施設での調査という差異はあるにせよ,20年近く経ってはいるが,慢性血液透析患者の意識には大きな変化がないことが察せられた.

末期腎不全の症状は多彩であるが,Solanoらによれば疼痛は47–50%に認められている 7.今回の調査は,個別の症状へのclosed questionではなかったので,答えづらかった可能性もある.それでも,22.2%は苦痛があると回答しており,通常の透析医療の現場において,認識していく必要があると考える.

今回の調査で透析患者には緩和ケアがあまり認識されていないことが明らかとなった.内閣府が行った一般国民へのがんの緩和ケアの意識調査 8の「よく知っている」に今回の調査の「知っている」が相当するとして,かつ,最近3回で最も低い割合を示した平成28年度の調査の26.2%と比較しても,透析患者で「知っている」と答えた割合は12.5%で半数以下に過ぎなかった.これは,透析患者が緩和ケアについての認識があまりないという見方もできる一方で,わが国の緩和ケアについての施策ががんに偏りすぎていることの反映とみることもできる.

緩和ケアは,単なる症状コントロールにとどまらず,患者の意思決定においても大きな役割がある.緩和ケアが透析患者に浸透していないことは,前述の透析中止の意思を持つ人の割合に大きな変化がなかったこととも大きく関連していると推察される.

わが国では,がんの緩和ケアは大きく発展してきたが,非がんについては2016年のがん対策基本法の改正をもってしても,諸外国より遅れている.しかし,今回の調査で緩和ケアを知っていると答えた患者の多くは,がん以外でも腎不全の他に命に関わる病気や,将来的には必要,を選んでおり,透析患者における緩和ケアの重要性は今後増すものと考えられる.

本調査の問題としては,回答率が22.2%と低かったことである.実際には611名(28.2%)から回答を得たものの,130名(6.0%)が調査に同意するというチェックボックスにチェックを入れていなかったために,今回の報告には加えられなかった.今後は,調査方法に更なる改善が必要である.また,わずか1通ではあったが,このような調査は苦痛であるとの回答があり,無回答の人は,推して知るべしといえるであろう.

結論

栃木県の血液透析患者に,透析中止および緩和ケアについてのアンケート調査を行った.透析療法を続けるのが大変な状況になった場合,透析中止を希望しますか,という問いには,「はい」が33.3%で,2002年の愛知県での調査と有意差は認められなかった.何らかの苦痛を抱えている人は22.2%あり,多くは身体的苦痛だったが,心理的苦痛,社会的苦痛のみならず,スピリチュアルな苦痛を持っている人もいた.緩和ケアということをよく知っている透析患者は,一般人のがんの緩和ケアの全国調査に比してかなりに少なく,今後の啓発が求められると考えられた.

謝辞

本研究を行う機会を与えてくださった柏原直樹日本腎臓学会理事長ならびにアンケート調査にご協力いただいた栃木県内の透析医,透析患者の皆様,アンケート結果集計に協力してくれた医学生の小泉光一君,山本優夏さん,調整役の秘書の小栁智子さんに心から御礼申し上げます.

研究資金

本研究は,AMEDの課題番号JP21dk0110039の支援を受けた.

利益相反

すべての著者の申請すべき利益相反はなし

著者貢献

丹波は,研究の構想,データの収集,分析,データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.秋元はデータの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.村橋は研究の構想,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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