2023 Volume 18 Issue 1 Pages 55-60
コロナ禍が終末期の在宅療養に与えた影響や遺族満足度などについて検討することを本活動の目的とした.当院で訪問診療を受けていた居宅終末期がん患者のうち,在宅で看取った100名の遺族を対象にアンケート調査を行い,コロナ禍が在宅療養に与えた影響,遺族満足度などについて検討した.回答率は72.0%で,52.8%の遺族が在宅療養の選択にコロナ禍が影響したと回答した.遺族満足度は98.6%であり,当院でコロナ禍に在宅療養を選択した終末期がん患者に対しても,高い遺族満足度が達成できていた.
The purpose of this study was to examine the impact of COVID-19 on home care at the end of life and the satisfaction of bereaved families. A questionnaire survey was conducted on 100 bereaved families of terminal cancer patients who were receiving home care. The effects of the COVID-19 on at-home medical treatment and the rate of satisfaction of bereaved families were examined. The response rate for this survey was 72.0%. Of the respondents, 52.8% of the bereaved families answered that the COVID-19 had an effect on their decision to choose home care. The rate of satisfaction of bereaved families was 98.6%. Even for terminal cancer patients who chose home care in the era of COVID-19 at our hospital, we were able to achieve high level of satisfaction for bereaved families.
近年,COVID-19感染予防の観点から病院での厳しい面会制限があり,在宅療養を選択した患者および家族と多く出会う.実際にコロナ禍となり,病院での面会制限が終末期患者および家族からの在宅療養の希望に影響したとの報告があるが 1,2),終末期がん患者を対象とした多数例での報告はない.また,コロナ禍で在宅療養を選択した方々の中には,家族と同じ時間を過ごすために在宅療養を半ば選択せざるを得なかったような例も散見される.このような患者および家族に対しても,満足度の高い在宅療養を支援できていたのかという臨床疑問を抱いたが,コロナ禍における終末期がん患者に対する在宅療養の質について検討された報告はない.
コロナ禍が患者家族の在宅療養の選択に与えた影響や,コロナ禍における在宅療養に対する遺族満足度について検討することを本活動の目的とした.
当院で訪問診療を行っていた居宅終末期がん患者のうち,2020年4月から2021年9月の期間に在宅で看取った連続100名の遺族とした.
調査方法2021年12月にアンケート調査を行った.当時key personであった遺族の代表者1名に調査票を郵送し,返信を依頼した.
調査項目アンケート用紙とともに調査についての説明文書を送付し,参加の同意を得た.本活動は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い,札幌在宅クリニックそよ風倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:202101).
在宅で看取った連続100名の患者の遺族にアンケートを送付し,72名からの回答を得た(回答率72.0%).この72名の患者背景については表1に示す通りである.
コロナ禍による影響があったとしたのは38名(52.8%)の遺族であり(図1左),理由に関する自由記載では「病院での面会制限」に関する記載があったものが大多数であった.
遺族満足度は全体(72名)で98.6%と高値であり,コロナ禍の影響があった群(38名),コロナ禍の影響がなかった群(34名)の2群においてはそれぞれ100%,97.0%と大きな差を認めなかった(図1右).
さらに,全体(72名)におけるGDI短縮版コア10項目の質問に対する該当率は,Q1:患者様は,望んだ場所で過ごせた,Q2:患者様は,落ち着いた環境で過ごせた,Q3:患者様は,ご家族や友人との時間を過ごせた,Q6:患者様は,医師を信頼していた,Q9:患者様は,人として大切にされていた,の4項目で,97.2~100%と高値をとっていた(図2).
コロナ禍となり,在宅医療の需要が高まっている.HamanoらはWebアンケート調査を実施して,訪問診療を行っている国内31施設から得たデータを解析し,コロナ禍によって,訪問診療を希望する患者が増えたこと,自宅で最期を迎える患者が増えたこと,その理由としては93.5%の方が入院中の面会制限を挙げたことを報告している 1).また,酒井らは,コロナ禍での病院での面会制限が,終末期患者および家族からの在宅療養の希望に影響したことを,終末期がん患者6名を含む8例の事例を用いて報告している 2).
近年のこれらの報告は本活動結果と矛盾しない内容だが,本活動では,コロナ禍が在宅療養の選択にどのくらい影響したかを遺族の視点から定量的に評価した初の報告である.とくに,52.8%の遺族が在宅療養を選択するうえでコロナ禍が影響したと回答しているが,この中には,家族と同じ時間を過ごすために在宅療養を選択せざるを得なかったような例も散見される.このような患者および家族に対しても,われわれが満足度の高い在宅医療を提供できていたのかという臨床疑問を立てたが,遺族満足度は全体(計72名)で98.6%,コロナ禍の影響があった群(計38名)で100%と高い値が得られていた.
コロナ禍以前の遺族による終末期がん患者への緩和ケアの質に対しては,本邦において大規模な研究が2007~2008年に施行されたJ-HOPE study 4)を皮切りに,J-HOPE4 study 5)まで施行されている.J-HOPE4 studyに参加した在宅ケア施設14診療所:計616名における遺族の全般的満足度は95%であり,本活動と大きな差は認めなかったが,J-HOPE4 studyでは全般的満足度を6段階で評価しており,単純な比較はできない.
また,GDI短縮版コア10項目の質問に対する回答では,患者は「望んだ場所で過ごせた」「落ち着いた環境で過ごせた」「ご家族や友人との時間を過ごせた」「医師を信頼していた」「人として大切にされていた」の5項目で該当率が高率となっていた.坂井らは,入院中の進行がん患者97名を対象とした研究で,療養の場の選択の意思決定において,「自分のペースで落ち着いた生活を送りたい」「関係のある人とともに居たい」という想いが在宅療養を選択するうえでの推進因子となっていることを明らかにしている 6).また,城内らは,在宅で終末期を過ごした患者の遺族を対象にした研究で,「看取りの場」は「意思の尊重」「苦痛の緩和」と,また「苦痛の緩和」と「一緒に過ごした時間」には,中程度から高い相関があったことを報告している 7).看取りの場を決定していくなかで,本人や家族の「意思を尊重」し,「家族や友人と一緒に過ごす時間があった」ことで,当院でコロナ禍に在宅療養を選択した終末期がん患者に対して,高い遺族満足度が達成できていたものと推察された.
本活動の限界としては,まず一つ目にアンケート調査であり,未返送の遺族からの意見が結果に反映されていないことである.しかし返送率は72.0%と比較的高値であることからは,無回答バイアスの影響は少ないと考える.二つ目には,GDIの回答方法を本来の7段階ではなく4段階で求めた点である.4段階評価では中立者の意見が評価できず,GDIに対する結果が過大または過小評価された可能性がある.三つ目には,本活動が在宅専門診療所の単施設における検討であるために一般化可能性に乏しいことが挙げられ,今後多施設共同研究における検証が望ましい.
コロナ禍における終末期がん遺族アンケート調査の結果,52.8%の遺族が在宅療養の選択にコロナ禍が影響したと回答した.遺族満足度は98.6%であり,当院でコロナ禍に在宅療養を選択した終末期がん患者に対しても,高い遺族満足度が達成できていた.
本活動にご協力をいただいたご遺族の皆様に,心より感謝申し上げます.
本活動は,公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成により実施された.
すべての著者に申告すべき利益相反なし
飯田智哉は,活動の構想およびデザイン,活動データの解釈,収集および分析,原稿の起草および重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.吉崎,門脇は活動の構想およびデザイン,活動データの解釈,原稿の起草および重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.伊藤,岡村,飯田道夫,和田,安藤,三浦,山崎,長岡は活動データの収集および分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および活動の説明責任に同意した.