Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of Withdrawal Syndrome after Opioid Discontinuation Following Pain Relief of Bone Metastases
Ayaka Ishikawa Sayaka ArakawaHiroto IshikiKoji AmanoYuka SuzukiNami IkenagaShun YamamotoTairo KashiharaTetsuhiko YoshidaEriko Satomi
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2023 Volume 18 Issue 3 Pages 159-163

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Abstract

【緒言】緩和的放射線療法などによりがん疼痛が緩和されオピオイドを中止する際,身体依存による興奮,不眠,下痢などの離脱症候群を起こす場合があるため,適切に対処する必要がある.【症例】72歳男性.食道がん術後.経過中,仙骨,右腸骨転移による腰痛,右下肢痛が出現.オキシコドン(以下,OXC)を開始したが緩和せず,メサドン(以下,MDN)に切り替え,並行して緩和的放射線療法を施行した.疼痛は徐々に緩和し,MDNを漸減,OXCに切り替え後20 mg/日で患者の強い希望にて終了した.内服中止後から静座不能,不安,下痢が出現し離脱症候群と診断.OXC速放製剤,フェンタニル貼付剤,スボレキサントを併用し離脱症状の治療を行った.【考察】オピオイド中止時は10%/週より遅い減量が望ましく,最小用量に減量した後の中止が推奨される.離脱症状にはオピオイド速放製剤を用い,症状コントロールと並行して漸減を試みるとよい.

Translated Abstract

Introduction: In patients receiving opioids, relief of cancer pain by palliative radiation therapy or other means can lead to opioid discontinuation and subsequent withdrawal symptoms, such as agitation, insomnia, and diarrhea, due to opioid-related physical dependence. Appropriate steps should be taken to prevent these symptoms. Case: A 72-year-old man underwent surgery for esophageal cancer. He developed low back pain and right lower limb pain, and was diagnosed with sacral and right iliac bone metastases. His pain was resistant to oxycodone (OXC), so he was simultaneously treated with methadone (MDN) and palliative radiotherapy. His pain gradually decreased, and MDN was tapered and switched to OXC, which was in turn discontinued at 20 mg/day at the patient's strong request. After OXC discontinuation, akathisia, anxiety, and diarrhea appeared as withdrawal symptoms. These were treated with immediate-release OXC, transdermal fentanyl, and suvorexant. Discussion: When discontinuing opioids, dose reduction below 10% per week is recommended, de-escalation to the lowest possible dose should be followed by cessation. In case of withdrawal symptoms, immediate-release opioids may be used, and opioid tapering should be attempted in parallel with symptom control.

緒言

オピオイドには身体依存と精神依存が知られており,身体依存とは長期間薬物に暴露されることによって生じる生体の生理学的な適応状態であり,薬物を中止した場合に薬物に特徴的な離脱症候群が生じることで判断する1.今回メサドン(以下,MDN)漸減からオキシコドン(以下,OXC)に切り替えたうえで内服中止の際にオピオイド離脱症候群を呈し,治療介入を生じた1例を経験したため,報告する.

症例提示

【症例】72歳,男性

【現病歴】2021年2月食道がん(cT3N1M0)の診断となり,3月より術前化学療法としてFOLFOX療法を開始.5月に食道亜全摘出術+3領域郭清を行ったが,10月再発を認め,11月にニボルマブを導入した.2022年5月C7,左第12肋骨転移による左背部痛がありOXC 10 mg/日にて開始され,疼痛緩和目的に当科紹介となった.

【既往歴】高血圧,肺気腫,右内頸動脈狭窄,尿路結石,ラクナ梗塞

【家族歴】父:胃がん

【生活歴】飲酒:1単位/日 喫煙:60本/日×40年(20~60歳,禁煙).妻,長女と同居.介護保険:要支援2

【身体所見】身長170 cm,体重53.2 kg.PS 2,痛みのため杖歩行.血圧145/100 mmHg,脈拍100回/分.骨転移を原因とする頸部痛(NRS 8/10)および右坐骨神経領域の電撃痛を伴う腰痛(安静時NRS 3/10)を認めた.

【血液検査】軽度の貧血,低アルブミン血症,肝腎機能障害を認める( 表1).

表1 血液検査結果

【胸腹部単純CT検査】C7病変は脊柱内に進展し,脊柱管狭窄を来している( 図1).

図1 胸腹部単純CT:C7病変は脊柱内に進展し,脊柱管狭窄を来している

【臨床経過】オキシコドンのタイトレーションと並行して,C7骨転移に対して緩和的放射線療法18 Gy/3 Fr.を実施したが,2週間後に照射部位の頚椎圧迫骨折を生じ疼痛が増強した.OXCは80 mg/日に漸増していたが,頸部痛はNRS 8/10と緩和が図れず,MDN 15 mgにオピオイドスイッチを行った.仙骨・右腸骨転移による腰痛・右下肢痛が増強したため,同部位に緩和的放射線療法20 Gy/4 Fr.を実施し,MDNを20 mgまで増量し症状緩和を得た.放射線治療開始4日目より眠気が出現し,日常生活に支障がでたため,MDNを3週かけて段階的に5 mg/日まで漸減した後OXC 20 mg/日に切り換え,患者の希望により4日後に内服中止となった( 図2).内服中止14時間後,抑えきれないような不安が出現し,OXC速放製剤10 mgの内服を行うと速やかに落ち着いた.さらに2時間後,同様の落ち着きのなさが出現しOXC速放製剤10 mgを内服し改善した.このとき,1日数回の軟便~下痢があった.臨床経過から離脱症候群と診断された.1週間後,離脱症状の出現に対してOXC速放製剤5 mgを2回/日内服を要する状態であり,経皮吸収型フェンタニル0.125 µg/hr,スボレキサント15 mgを開始した.1週間ほどオキシコドン速放製剤を1日1~2回使用したが,徐々に離脱症状は落ち着き消失した.また,今回の経過を通して疼痛の増悪はなかった.

図2 臨床経過:メサドンの経口モルヒネ換算比は1:10とする

考察

オピオイドがµオピオイド受容体に結合することによる疼痛緩和の機序は二つに大別される.一つは脊髄における感覚神経による痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制である.受容体結合によりCa2+チャネルが開口抑制されることでシナプス前終末から興奮性伝達物質の放出が抑制されたり,K+チャネルが開口促進されることで脊髄後角細胞の活動電位が抑制されたりして,痛みを緩和させる.もう一つは中脳水道周囲灰白質,延髄網様体細胞および大縫線核に作用し,延髄–脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性抑制系の賦活化である.受容体結合により下流のcAMPが阻害されノルアドレナリンの作用は減弱するが,慢性的なオピオイド使用で回復し,ノルアドレナリン放出によって下行性抑制系が賦活化され痛みは抑制される.オピオイドを急に中止した場合,後者のノルアドレナリン抑制効果が外れることで過剰なノルアドレナリンが放出される.これが離脱症候群を起こすメカニズムである1,2

離脱症候群の症状は多岐にわたる.モルヒネの退薬症状を第1~第3度に分類すると,第1度では眠気,あくび,全身違和,発汗,流涙,流涎,鼻漏,倦怠,ふるえ,不眠,食欲不振,不安など,第2度では神経痛様の疼痛,原疾患の疼痛の再現,鳥肌,悪寒戦慄,嘔気,嘔吐,腹痛,下痢,筋クローヌス,皮膚の違和知覚,苦悶など,第3度では朦朧感,興奮,暴発,失神,痙攣,心臓衰弱,虚脱などを起こすといわれる3.離脱症候群の診断にはCOWSスコア(Clinical Opiate Withdrawal Scale)を用いることができる.安静時脈拍,発汗,静座不能,瞳孔の大きさ,骨と関節の痛み,鼻水と涙,消化器症状,振戦,あくび,不安と苛立ち,鳥肌の全11項目(42点満点)のスコアの合計を算出し,スコア5~12点は軽度,13~24点は中等度,25~36点はやや重度,37点以上は重度の離脱症状と判断できる4

離脱症候群の症状発現時期は半減期に依存し,半減期4.5~6時間のOXCであれば最終使用から12時間後,半減期96時間程度のMDNであれば最終使用から1~3日後に発現する.同様に症状発現期間も半減期に依存するため,OXCならば4~5日間,MDNならば7~14日間続くといわれる.しかし数週間,数カ月にわたり続くケースもあり,治療に難渋することもある2

2016年の慢性疼痛に対するオピオイド使用の米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)ガイドラインによると,オピオイドを長期間使用している場合は1週間あたり10%より遅い減量がよく,急速な漸減よりも離脱症状が出現しにくいといわれる.精神依存を来しているなど過剰摂取の場合には2~3週間にかけて急速な漸減が推奨される.いずれの場合でもオピオイドがその製剤で処方しうる最小用量に達したら投与間隔を空け,中止とするとよい5.例としてはOXC 10 mg/日12時間ごとを最終投与とするか,OXC速放製剤5 mgを1日2回までなど血中濃度を不安定にしても問題ないことを確認する,といった方法がある.

離脱症候群の治療は前述の作用機序からµオピオイド受容体アゴニストのブプレノルフィン,メサドン,トラマドールなどを使用するか,α2アドレナリン作動性受容体アゴニストのクロニジンを使用する2.本邦ではクロニジンの適応症は各種高血圧症に限られているため使用し難い.実際にオピオイドでがん疼痛治療を行っていた患者であれば,突出痛に対するオピオイド速放製剤をレスキュー薬として持参している場合が多く,簡便な第一選択薬としてレスキュー薬内服を行う.レスキュー薬使用のみで離脱症候群のコントロールができない場合には,オピオイド定時内服の再開を検討する.離脱症候群は心身ともに辛い症状であり,その間対症療法を並行して行う.例として不安にはクロナゼパム,筋痙縮にイブプロフェン,悪心嘔吐にはプロクロルペラジン,下痢にロペラミド,不眠にはトラゾドン,スボレキサント等を用いる2.不眠治療には精神依存の少ない薬剤の選択も重要である.同時にスボレキサントにはオレキシン受容体がオピオイド依存形成に関与することから6,オピオイド依存治療に効果的であるため,使用を検討するとよいとされる7

本症例は,前述のCOWSスコアを用い該当項目を評価すると,静座不能,繰り返す下痢,不安から合計7点であり,軽度離脱症状と分類される状態であったことがわかる.患者はかねてよりオピオイドの内服に対して嫌悪感を抱いており,鎮痛が得られていることからオピオイドを中止することを強く希望したため,OXC 20 mgから中止としたが,オピオイド量を十分減量できないまま中止したため離脱症候群が起きた可能性を考える.前述したようにOXCの内服選択可能な最小用量を考えるとOXC 30 mg→20 mg→10 mg→中止と漸減する必要があった.離脱症状について丁寧に説明し理解を促したうえで,内服錠数の負担も訴えていたため,貼付剤に切り替えて漸減する,あるいは,心理的障壁を鑑みて弱オピオイドへ切り替えて減量するといった代替方法も可能であったと考える.またオピオイドの身体依存形成のための3因子は投与量,頻度および期間であり8,本症例のオピオイド使用歴は3カ月であり低リスクであると考えたが,離脱を起こすには十分な期間だった.実際に離脱症状が出現したのはOXC中止14時間後であり,文献と一致する2.ただし,本症例では同時にMDN終了から5日後であったため,離脱症状が遷延した可能性を考える.オピオイド中止の際には半日程度で前述のようなさまざまな症状が出る可能性をあらかじめ患者に説明し,万が一離脱症状が出た場合には速放製剤の内服を試すように説明しておくと安全だろう.また,本症例のように離脱症状が耐え難い場合には,少量のオピオイド定時使用を検討する.今回は患者の内服中止希望から貼付剤を選択したためフェンタニルテープを使用したが,定時使用するオピオイドはトラマールなどの弱オピオイドでもよい.弱オピオイドは管理が簡便で,精神依存のリスクが低いため,処方を検討するとよいだろう.

結論

骨転移の難治性疼痛に対してオピオイドを使用していたが,緩和的放射線治療により疼痛が改善したため中止したところ,オピオイド離脱症候群に至った.オピオイド中止後半日から数日の経過で出現する不安,下痢,悪心嘔吐,不眠等を見た場合には離脱症候群を疑う必要がある.離脱症候群の知識と対処方法を理解し,離脱症候群を起こさないよう1週間以上かけて10%程度の減量を目安とした慎重な漸減中止を心掛けるとともに,発生した場合のオピオイド速放製剤の使用方法や対症療法について患者指導をあらかじめ行うことが望ましい.

利益相反

すべての著者の開示申告すべき利益相反なし

著者貢献

石川,里見は研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析と解釈,原稿の起草および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.荒川,石木,天野,鈴木,池長,山本,柏原は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.吉田は研究データの収集および分析と解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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