2023 Volume 18 Issue 4 Pages 235-240
本研究は,小児専門病院の緩和ケアチームが院内コンサルテーションを開始する前後で院内スタッフの緩和ケアに対する困難感の変化を明らかにすることを目的に行った.5領域21項目で構成される困難感に関する自記式質問紙を用い,2015年に開始前,3年後に開始後調査を実施した.開始前は222名(回収率70.9%),開始後は384名(回収率87.3%)から回答を得た.回答者の7割以上が看護師・助産師であった.全職種では,“苦痛症状の緩和”,“看取りの際の家族ケア”,“自分自身や周囲のスタッフが感じる不全感や喪失感に対する支援”の3項目で困難感の有意な減少が認められた.介入した部署の看護師・助産師の困難感は6項目で有意な減少を認めた.緩和ケアチームが介入した16件中11件が疼痛コントロール難渋例の2名の患者への複数回の介入依頼であり,コンサルテーション活動が看護師・助産師の困難感の減少に寄与したと推察する.
The purpose of this study was to clarify the changes in the sense of difficulty hospital staff felt toward palliative care before and after a palliative care team of the pediatric hospital started in-hospital consultation. A self-administered questionnaire about the difficulty, consisting of 21 items in five areas, was used to conduct a survey in 2015 for the pre-consultation period, and in 2018 for the post-consultation period. Responses were obtained from 222 people in the pre-consultation period (response rate of 70.9%) and from 384 people in the post-consultation period (response rate of 87.3%). Over 70% of the respondents were nurses and midwives. A lower sense of difficulty was observed in three of the items including “relief of painful symptoms”, “family care during caregiving”, and “support when oneself and surrounding staff feeling inadequate and lost”. Further, a significant decrease was observed in the sense of difficulty in six items reported by nurses and midwives in departments receiving the interventions. Eleven of the 16 cases in which the palliative care team intervened involved multiple requests for intervention for 2 patients with pain control difficulties, suggesting that the consultation activities contributed to the decrease in the sense of difficulty experienced by nurses and midwives.
小児緩和ケアの対象は,がんよりも非がんの子どもが多く1),対象となる子どもは成長発達過程にあることや疾患により言語的コミュニケーションが難しいといった特徴をもつ.また,子どもの死は稀であり,家族の悲嘆がより深いこと,家族による代理意思決定など,子どもと家族を支える医療者の困難感が高いといわれている2,3).
専門的小児緩和ケアは,子どもの身体的苦痛や心理的苦痛の緩和,終末期ケアに関する話し合いの回数の増加やタイミングの早期化などの効果をもたらすことが示されている4–6).一方,基本的緩和ケアを行うスタッフが専門的緩和ケアを担うチームに相談しづらさを感じている報告もあり7),基本的緩和ケアを担うスタッフに及ぼす影響は不明確である.
宮城県立こども病院では,専門的小児緩和ケアの提供を目的に,2012年に小児がん診療病棟内で緩和ケアチームを立ち上げ,2014年から小児がん以外の疾患も対象として,活動の啓蒙と教育を,2015年から組織横断的に院内コンサルテーションを開始した.
そこで本研究は,質問紙調査を通じて,宮城県立こども病院における専門的緩和ケアチームの院内コンサルテーション開始前と開始後3年で基本的緩和ケアを行う院内スタッフの緩和ケアに対する困難感の変化を明らかにすることを目的に行った.
組織横断的な院内コンサルテーション活動開始前の2015年5~6月に第1回目調査,開始後3年の2018年12月に第2回目調査を,自記式質問紙を用いて実施した.
宮城県立こども病院に勤務するスタッフ(医師・歯科医師,看護師・助産師,理学療法士/作業療法士/言語聴覚士,心理職/医療ソーシャルワーカー,保育士/チャイルド・ライフ・スペシャリスト/子ども療養支援士,薬剤師,栄養士)を対象とした.第1回目調査は313名,第2回目調査は440名に配布した.なお,第1回目調査と第2回目調査の間に医療型障害児入所施設の統合があったため,第2回目調査の対象者数が増加した.
第1回目調査から第2回目調査までの期間に実施した緩和ケアチームの活動教育および活動の啓蒙として,年2回の小児緩和ケア研修会の実施や非がんも含めた小児緩和ケアマニュアルの作成を実施した.院内コンサルテーションは,のべ16件(実数7名),内訳はがん5件(実数2名),非がん11件(実数5名)であり,診療科は血液腫瘍科,消化器科,新生児科の3科3病棟(内科系1病棟,外科系1病棟,新生児集中治療室1病棟)であり,いずれも主治医からの依頼であった.詳細は 表1に示す.
医師・歯科医師には個別に,看護師・助産師は部署ごとに,それ以外の職種は部門長から質問紙を配布した.回答期限は配布から2週間とした.
調査項目 1. 対象者の背景性別,職種,臨床経験年数を尋ねた.看護師・助産師は配属部署の回答を求めたが,それ以外の職種は少人数であることから,個人の特定を防ぐため,所属診療科や配属部署の回答を求めなかった.
2. 小児緩和ケアの困難感天野8)が作成した,小児緩和ケアの困難感に関する質問項目を用いた.質問項目は,5領域21項目からなり,症状の緩和(6項目),コミュニケーション(5項目),臨床倫理(3項目),在宅療養・地域連携(3項目),看取り・死別後のケア(4項目)で構成されている.
回答は,「とてもよく思う」,「よく思う」,「たまに思う」,「思わない」,の4段階で求めた.
分析方法第1回目と第2回目調査の困難感の変化を明らかにするために,小児緩和ケアの困難感について,「とてもよく思う」「よく思う」を困難感あり,「たまに思う」「思わない」を困難感なしの2群に分け,項目ごとに困難感ありの割合を算出し,比較を行った.さらに,職種による違いを検討するため,医師・歯科医師,看護師・助産師,その他の職種の3群に分けて分析した.なお,看護師・助産師のみ,緩和ケアチームの「介入あり」と「介入なし」の2群に分けて困難感の変化を検討した.全職種および看護師・助産師はχ2検定,医師・歯科医師およびその他の職種はFisherの正確確率検定を用いて比較した.
すべての分析において有意水準は5%とし,両側検定を用いた.統計学的分析にはJMP®13.1.0(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた.
倫理的配慮調査への参加は対象者の自由意志とし,回収した回答用紙は宮城県立こども病院内で鍵管理のもとに保管した.また,個人が特定されないように,職種を問う質問は複数の職種を包含する回答項目とした.本研究は,宮城県立こども病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
第1回目調査は222名(回収率70.9%),第2回目調査は384名(回収率87.3%)から回答を得た.回答者の8割以上が女性であり,7割以上が看護師・助産師であった.対象者の背景を 表2に示す.
表3に21項目の困難感の変化を示す.全体では,症状の緩和に関する〈子ども達の苦痛症状を十分に緩和できていないと感じる〉,看取り・死別後のケアに関する〈子ども達を看取る時,家族のケアが十分ではないと感じる〉,〈子ども達が亡くなった後,自分自身や周りのスタッフが感じる不全感や喪失感に対して周囲からの支援が十分ではないと感じる〉の2領域3項目において有意に困難感の減少を認めた.
緩和ケアチームによる介入があった部署の看護師・助産師は,21項目中20項目に困難感の減少を認め,「症状緩和」「コミュニケーション」「看取り・死別後のケア」の3領域6項目において有意に困難感の減少を認めた.困難感の減少が認められなかった,〈子ども達に死が近づいた時の治療・ケアについての知識が不足している〉の1項目は,第1回目・2回目調査ともに困難感を感じている割合が70%を超えていた.介入がなかった部署の看護師・助産師は「在宅療養・地域連携」の2項目において有意に困難感の減少を認めた.
医師・歯科医師は,困難感の減少が21項目中6項目であり,〈倫理的なジレンマを感じた時,専門家の支援が必要だと感じる〉と回答した割合が38.5%から71.4%に有意な増加を認めた.
その他の職種は,〈子ども達が亡くなった後,自分自身や周りのスタッフが感じる不全感や喪失感に対して周囲からの支援が十分ではないと感じる〉と回答した割合が78.6%から41.9%に有意な減少を認めた.一方,第2回目調査において,困難感が7割以上の項目が9項目あり,医師・歯科医師と看護師・助産師の2項目に比べ多かった.
専門的緩和ケアチームの院内コンサルテーション開始前と開始後3年で,子どもの苦痛症状の緩和,子どもの看取りの際の家族ケアや自分自身や周囲のスタッフが感じる不全感や喪失感に対する支援の3項目で有意な困難感の減少が認められた.2012年に第2期がん対策推進基本計画が策定され,小児緩和ケア研修会の実施や緩和ケアの提供体制の整備が行われた.このような社会的背景による小児医療に携わるスタッフの緩和ケアへの関心が高まりも困難感に影響していると考えられる.また,介入した部署の看護師・助産師の困難感は6項目で有意な減少を認めた.緩和ケアチームが介入した16件中11件が疼痛コントロール難渋例の2名の患者への複数回の介入依頼であったことから,緩和ケアチームがコントロール難渋例の患者に繰り返し関わり主治医や病棟スタッフとともに緩和ケアの実践を共有したことが,介入した部署の看護師・助産師の困難感の減少に寄与したと推察する.
介入がなかった部署は,「在宅療養・地域連携」の2項目において有意に困難感の減少を認めた.この背景には,第1回目調査と第2回目調査の間に医療型障害児入所施設が統合し,部署間の交流や研修会による在宅療養・地域連携への理解の促進が影響していると推察する.また,医療型障害児入所施設に配属している看護師・助産師の困難感が低かった可能性が考えられる.
困難感の減少が認められた項目がある一方で,医師・歯科医師の〈倫理的なジレンマを感じた時,専門家の支援が必要だと感じる〉に対する困難感が,他の職種と同程度まで上昇がみられた.青柳9)は,倫理的状況に反応した感情の動きや倫理的問題への気付きといった倫理的感受性を持つことにより倫理的ジレンマを体験すると述べており,専門的緩和ケアチームによる影響のみならず,臨床倫理チーム組織化や専門医制度での臨床倫理の必修化10)といった背景による倫理的感受性の高まりが影響していると考えられる.今後,緩和ケアチームと臨床倫理チームが協働して,組織全体の倫理的感受性を高めるとともに,スタッフが抱える倫理的問題の困難感に対する支援体制を整えていく必要があると考える.
本研究の限界として,第2回目調査前に医療型障害児入所施設の統合があったが,病棟間の異動や,看護師・助産師以外の職種では配属部署のデータを取得していないことから,医療型障害児入所施設に勤務するスタッフの回答を除外して分析できなかった点,結果の一部を職種別に分析したが,看護師の回答数が多く,結果に影響を与えている点,困難感の変化が緩和ケアチームの院内コンサルテーション以外の影響を受けている可能性を考慮する必要がある点が挙げられる.一方,基本的緩和ケアを担うスタッフに経時的に困難感を調査することは,専門的緩和ケアのチーム活動の課題把握において有用であり,今後も継続して評価していくことが望ましいと考える.
本研究では,小児専門病院における緩和ケアチームの院内コンサルテーション開始前後院内スタッフの緩和ケアに対する困難感の変化を調査した.全職種では3項目,介入した部署の看護師・助産師では6項目で有意な困難感の減少を認めた.緩和ケアチームが介入した16件中11件が疼痛コントロール難渋例の2名の患者への複数回の介入依頼であり,病棟スタッフと繰り返し緩和ケアの実践を共有したことが,困難感の減少に寄与したと推察する.今後もチーム活動の課題把握を継続して実施していく必要がある.
開発した評価尺度の使用を許可くださいました,あおぞら診療所しずおか院長 天野功二先生に感謝いたします.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
名古屋,相馬は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析・解釈,原稿の起草に貢献した.佐藤,五十嵐は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.木村は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.吉本,高橋,坂田,蜂谷,長澤,大塚は研究データの収集・分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.
本論文は,第24回日本緩和医療学会学術大会で発表した内容を一部加筆修正した.