Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Clinical Practice Report
Palliative Radiotherapy in Home Care
Soichi Makino Kazunari MiyazawaHanae HigaTakeaki MiyataSayaka NishiguchiSayaka KominatoFumiko Hayano
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2023 Volume 18 Issue 4 Pages 207-212

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Abstract

緩和的放射線治療は,適切に施行することで患者のQuality of Life(QOL)向上に寄与する.緩和的放射線治療の有用性の認知は進んできてはいるが,在宅医療機関からの緩和的放射線治療のニーズはまだ満たされていない.在宅療養中の患者が緩和的放射線治療を受けることでQOLが向上することはあるが,画像診断検査を行うことが難しい在宅診療の現場では,緩和的放射線治療の適応を判断することは困難である.また,在宅療養中の患者は全身状態が悪いことが多く,頻回の通院は難しいうえにその移動手段にも制限がある.そのような環境の中,われわれは在宅診療所と協力し,緩和的放射線治療を提供する活動を行ってきたので一部の症例とともに報告する.

Translated Abstract

Palliative radiotherapy, when properly administered, contributes to improving the quality of life of patients. Although the usefulness of radiotherapy has been increasingly recognized, the need for palliative radiotherapy from home healthcare institutions has not yet been met. Although there are patients undergoing home care who would benefit from radiotherapy to improve their quality of life, it is difficult to determine the indication in the home care setting, where diagnostic imaging tests are not readily available. In addition, patients undergoing treatment at home often have a lowered performance status, making frequent visits to the hospital difficult and limiting their means of transportation. Under these circumstances, we have been providing palliative radiotherapy in cooperation with home care clinics.

緒言

緩和的放射線治療はがんの緩和治療によく用いられ,骨転移の疼痛緩和1のみならず悪性腫瘍による管腔臓器閉塞の解除や2,止血3,腫瘍縮小による症状改善など幅広い適応があり,適切に施行することで患者のQuality of Life(QOL)の向上に寄与する.放射線治療医の緩和ケアカンファレンスへの参加4,院内勉強会や市民講演5などの活動を通じて緩和的放射線治療の有用性の認知は進んできてはいるが,在宅医療機関における緩和的放射線治療のニーズは満たされていない6

新久喜総合病院(以下,当院)(391床,放射線治療装置1台,放射線治療常勤医1名)は埼玉県北東部の利根保健医療圏に属している.利根保健医療圏(人口約64万人)は高齢化率が31.7%7と埼玉県の中でも高く,医療資源の不足が顕著な地域である.わが国の放射線治療専門医は1406人,そのうち埼玉県の放射線治療専門医は44人であり8,埼玉県では放射線治療専門医1人当たり約17万人を担っていることになる.埼玉県の放射線治療専門医1人が担っている人口は,東京都の放射線治療専門医1人が担っている人口の2倍以上である.このような環境のため,利根保健医療圏のみならず埼玉県では放射線治療の需要は供給を上回りやすく,居住する医療圏で放射線治療を受けることが難しい患者も存在する.当院では放射線治療医が放射線治療に専従しつつも,緩和ケアチームの一員として活動しているため自施設以外からの緩和的放射線治療の依頼が多い.2022年に当院で放射線治療が行われた255例のうち99例に緩和的放射線治療が行われており,48例(48.5%)の緩和的放射線治療症例は他施設からの紹介患者であった.そのような中,われわれは,医療圏を超えた富士見市の「在宅であろうとも専門病院に通院する患者と同等の医療を提供する」という理念を掲げた在宅医療機関と協力し,全身状態が悪い在宅療養中の患者に対して緩和的放射線治療を提供する活動を行ってきた.在宅診療施設から紹介された患者に対して,放射線治療医が往診して適応を判断し,放射線治療の準備から治療開始まで1日のうちで行う取り組みを一部の症例とともに報告する.なお,本取り組みを行うにあたり,問題点洗い出しのため,事前に臨床診療と同様の手順で予行演習を行った.放射線治療医が往診の際に放射線治療チームに連絡を取り,段取りを行った.放射線治療チームスタッフが過重労働となる場合は緩和ケアチームにサポートを求める,放射線治療医が病院から放射線治療チームスタッフの勤務時間調整の権限を申し受け,放射線技師や専任看護師を時差出勤させる等,配慮を行った.

症例提示

症例1

96歳女性,ECOG-Performance Status(ECOG-PS)3,障害高齢者の日常生活自立度A2,認知症高齢者の日常生活自立度IIb.2018年8月に慢性心不全の増悪による下腿浮腫のために歩行が困難となり,在宅診療が開始された.2020年6月に左咽頭痛の訴えがあり,近医でcomputed tomography(CT)検査が行われ,咽頭左後壁に腫瘤が認められた.生検の結果Epstein-Barrウイルス陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断されたが,心機能が低下していることから根治的な治療の適応はないと判断された.在宅療養が継続され,除痛目的にステロイドとアセトアミノフェンが投与された.2021年7月に食事が鼻から出てきてしまうことおよびNumeric Rating Scale(NRS)5/10の咽頭痛の訴えがあり,在宅医は当院の放射線治療医に放射線治療が可能か相談をした.放射線治療医自身が往診したうえで疼痛緩和目的の緩和的放射線治療の適応があると判断した.1週間後,患者は家族の運転する自家用車で高速道路を含め60分かけて来院した.9時に放射線治療医が再度診察を行い,放射線治療計画用CT( 図1)の撮像,治療計画作成および治療計画の検証が行われた.その間,患者は家族とともに放射線治療部内の待機室のベッドで待機した.悪性リンパ腫に対する緩和的放射線治療では,有害事象が少なく,complete response rateが約5割程度得られる低線量照射が効果的であると考えた9.そのため咽頭左後壁病変に対して低線量照射(8 Gy/2回)が予定され,同日17時に放射線治療が開始された.翌日も通院での放射線治療が行われ,その後は自宅療養となった.2023年3月の時点では,疼痛および嚥下に関する機能障害を認められず,在宅療養が続けられている.

図1 左鼻腔と口腔が交通

症例2

51歳男性,ECOG-PS3.2019年11月に腰痛を自覚し,近医を受診した.生検の結果,IV期の肺腺がんと診断された.2019年12月より化学療法が開始されたが,肺塞栓症および深部静脈血栓症が認められ1コースで中止となった.2020年1月に2次治療を提案されたが苦痛を伴う積極的な治療は希望せず,在宅診療が開始された.翌月に笛音が出現し,呼吸困難が増悪した.在宅医は前医のCTから縦郭リンパ節転移による気管支閉塞を疑い,当院の放射線治療医に放射線治療が可能か相談をした.放射線治療医は往診したうえで可能であると判断し,翌日,患者は家族の運転する自家用車で高速道路を含め約45分かけて来院した.放射線治療医が診察を行い,左気管分岐部リンパ節の増大による気管支閉塞と診断され,気管支閉塞解除目的の緩和的放射線治療の適応と判断された( 図2).放射線治療医は入院加療が適切と考えたが,本人の希望に沿って通院で行う方針となった.同日よりステロイドの投与および腫大リンパ節に対して30 Gy/10回の緩和的放射線治療が開始された.放射線治療終了時には笛音消失し,呼吸困難は改善したため,患者が再度化学療法を受ける意思を示した2020年5月までで訪問診療はいったん終了となった.

図2 左気管支閉塞

症例3

81歳女性,ECOG-PS4.2018年5月にIV期の肺腺がんと診断され,化学療法が施行されたが奏功せず,苦痛を伴う積極的治療は行われないこととなった.2020年6月に呼吸困難で歩行ができなくなり,在宅診療所へ紹介された.同月に顔面浮腫が出現したため,在宅医は前医のCTを確認し,上大静脈症候群を疑い当院の放射線治療医に放射線治療が可能か相談をした.放射線治療医は往診したうえで可能であると判断し早急な放射線治療開始を提案したが,送迎可能な家族がおらず,介護タクシーの手配に1週間かかった.その間にも呼吸困難は増悪した.来院時に行われたCTでは右気管分岐部リンパ節が右主気管支を圧排し,加えて気管周囲リンパ節が上大静脈を閉塞させていた( 図3).上大静脈および気管支閉塞の解除を目的に,39 Gy/13回の緩和的放射線治療が予定されたが,全身状態悪化のため27 Gy/9回で治療中止となった.放射線治療を開始して1カ月後に原病死した.

図3 2020年7月来院時のCT.右肺は無気肺となっている

考察

緩和的放射線治療はがん患者のQOL向上につながる治療法であり,在宅医療においてもニーズがあると考えられる.しかし,長期療養型施設および在宅医療機関からの緩和的放射線治療のニーズに関して,「充足している」と答えた割合はわずか22.4%であったという調査6から,在宅医療を受けている患者が適切な緩和的放射線治療を受けられる社会10はまだ実現していないように思われる.

「緩和的放射線治療における放射線治療装置のない施設(長期療養型施設・在宅医療機関等)との連携の実態を調査するための全国アンケート調査」11によると,緩和的放射線治療が実施された症例のうち,放射線治療装置がある施設の約8割では他施設からの紹介が3割未満であった.このことは,長期療養型施設あるいは在宅医療機関からは放射線治療の紹介がされにくいことを示しており,在宅療養中の患者が放射線治療を受けることへの障壁は高いといえる.この障壁の高さの原因として,放射線治療装置がある施設への患者の通院負担が挙げられる.在宅療養中のがん患者は,健康状態の悪化などの理由により一人で医療施設への通院が難しいことが多く,家族の介助による自家用車や介護タクシーなどのサービスを利用せざるを得ないため来院手段に配慮が必要である.放射線治療装置がある施設は,都市部のような例外を除き,最寄駅から徒歩圏にないことが多い.また,地方では放射線治療装置のある施設を持たない医療圏もある.これらのことから,地方では患者の通院に要する体力的負担や経済的負担が大きいと考えられる.次に,在宅医による放射線治療の適応判断が難しいことも挙げられる.画像診断装置は小型化・軽量化が進み,比較的安価になってきたものの,在宅医療機関への導入はいまだ難しく,在宅診療の現場では画像診断を容易に行うことができない.そのため在宅医は臨床所見のみで患者の状態を把握しなければならない.また,在宅医療機関では常勤医が1人もしくは多くても数人であり,同施設内の他医師への相談でさえも難しいことが多い.さらに緩和的放射線治療の教育を受けられる機会が少ないことも問題である.例えば,がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会でも放射線治療の講義は必須項目ではない12.これらのことから,在宅医による緩和的放射線治療の適応の判断が難しいと考える.

緩和的放射線治療を受けることでQOLが向上する在宅療養中のがん患者は存在するにもかかわらず,上記のような理由で実際に放射線治療を受けられる患者は少ない.このような障壁を乗り越えようと,青森県立中央病院では地域連携緩和的放射線治療という取り組みを行っている13.これは紹介施設とがん診療連携拠点病院の間に一つ医療機関を挟み,そこで緩和的放射線治療の適応の判断をすることで,地域からの紹介の敷居を下げようとする取り組みである.この取り組みは地域医療への緩和的放射線治療の利用を促進するものであるが,1施設を挟むことで時間が余分にかかるうえ,病院間の移動も1回余分に必要となる.緊急照射の適応となる患者では治療の遅れが,症例3のように患者の不利益となることもある.このような事例は症例3に限ったことではない.われわれは核家族や老々介護などの治療の遅れを引き起こすような家族成員にも配慮すべきかもしれない.

われわれは放射線治療医が往診して適応を判断し,そのうえで照射範囲をきめる検査(放射線治療計画用CTの撮像),放射線治療計画の作成,検証作業,放射線治療の開始までを1日で行ってきた.当院のこの取り組みは,当院が高速道路のインターチェンジから至近にあるという地理的利点を利用し,在宅医と放射線治療医の相談しやすい関係性,放射線治療計画から治療の開始までを当日中に行うという放射線治療チームの協力の上に成り立っているものであり,再現性はあまり高くないと考えられる.当院でも,特定の在宅医と放射線治療医の関係性が失われた2022年1月以降はこの取り組みは行えていない.また,公休日や業務終了後に放射線治療医が往診することは,医師の働き方改革14の主旨に沿っていないため,今後は難しい.一方,われわれの取り組みと比べて紹介までの時間的な遅れはあるものの,青森県立中央病院のように放射線治療医に適応の判断を仰げるスキームを作ることは再現性がある活動であり,このような活動により在宅医の放射線治療への紹介に対する障壁は低くなる可能性がある.現在当院でも青森県立中央病院に倣ったスキームを構想している.

PS3–4の患者に対して積極的な照射適応とする記載のあるものは少ない.青森県立中央病院もその適応患者をPS1–2としている.しかし,本報告のようにPS3–4の患者であろうとも緩和的放射線治療の施行は可能であり,緩和的放射線治療を行うことでQOLの向上が得られることもあるとわれわれは考えている.在宅療養中の患者においても,個々の状態や状況にあわせて,希望や意向を叶える治療を提供していくことが大切であり,緩和的放射線治療が行われやすい環境を作ることが望まれる.

結論

通院治療が困難な全身状態が悪い在宅療養中の患者に対しても,在宅診療所と協力し緩和的放射線治療を提供する活動を報告した.

謝辞

今回報告した在宅診療における緩和的放射線治療の活動は埼玉県富士見市で在宅医療に尽力されました故鈴木純一医師が7年にわたり構想されていたものです.常に患者のことを第一に考え,このような診療連携を築かれました鈴木医師に感謝と追悼の意を捧げます.

また,青森県立中央病院医療連携部に実際の活動内容と本記載の間に齟齬がないことを確認していただきました.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

牧野は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献した.宮澤は研究の構想,原稿の起草および批判的な推敲に貢献した.比嘉,宮田,西口,小湊,早野は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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