Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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Case Report
A Case Where the Epidural Block Was Useful for the Differential Diagnosis of Low Back Pain in a Patient with Esophageal Cancer and Lumbar Disc Herniation
Yasuhiro Kojima Masahito Muramatsu
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2023 Volume 18 Issue 4 Pages 241-245

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Abstract

【緒言】肝転移・傍大動脈リンパ節転移を伴った食道がんによる腰背部痛の鑑別に,硬膜外ブロックが痛みの原因推定に有用であった症例を経験した.【症例】69歳男性,既往歴:腰椎椎間板ヘルニアの手術歴(20歳時).食道がんの診断で経過観察中に腰背部痛を自覚,その後心窩部痛を併発した.MRIでL1/2, L2/3椎間板ヘルニアの所見を認めた.症状緩和および腰背部痛の原因を鑑別するためX線透視下にTh8/9より胸部硬膜外ブロックを施行した.鎮痛効果を確認後,神経破壊薬(無水エタノール)を用いた内臓神経ブロックを施行したところ,心窩部痛・腰背部痛は消失した.その後,4カ月間在宅療養を継続し,鎮痛剤を増量することなく,疼痛コントロール良好な状態で永眠された.【結論】胸椎レベルでの硬膜外ブロックを事前に施行し,除痛が得られたことから内臓神経由来の痛みであることが推察できた.同手技はその後の痛みの治療選択に有用であった.

Translated Abstract

Introduction: We experienced a case in which an epidural block was useful in estimating the cause of low back pain in a patient suffering from esophageal cancer with liver and paraaortic lymph node metastases. Case: A 69-year-old male with a history of surgery for lumbar disc herniation (at the age of 20). He was diagnosed with esophageal cancer and during follow-up, he noticed low back pain, followed by epigastric pain. MRI revealed L1/2 and L2/3 intervertebral disc herniation. The thoracic epidural block was performed from Th8/9 under X-ray fluoroscopy to alleviate symptoms and identify the cause of low back pain. After confirming the analgesic effect, we conducted a splanchnic nerve block using neurolytic agent (anhydrous ethanol), resulting in total pain elimination. Subsequently, the patient passed away under good pain control without increasing the dose of analgesics. Conclusion: By confirming the effectiveness of epidural block at the thoracic level in advance, the complicated pain was thought to be derived from not lumber disc herniation, but the visceral nerves. An epidural block was useful for the selection of subsequent analgesic therapy.

緒言

近年,がん治療の進歩によりがん診断時から死亡までの生存期間が長くなっている.がん治療中に非がん性疼痛を伴う症例も増加傾向と推察される.各部位に痛みが生じたとき,非がん性疼痛の要素を考慮することは重要であり,その診断によっては基本となる薬物療法の選択にも大きな影響を与える.今回,肝転移・傍大動脈リンパ節転移を伴った食道がんの腰背部痛症例に対し,MRIを施行したところ腰椎椎間板ヘルニアを併発していた.腰背部痛の鑑別に硬膜外ブロックが痛みの原因推定に有用であった症例を経験したので報告する.

症例提示

69歳男性,既往歴として20歳時に腰椎椎間板ヘルニアの手術歴があった.詳細不明であったが他院で2019年に腰椎椎間板ヘルニア再発の診断を受けていた.併存症として間質性肺炎が存在し,当院呼吸器内科でプレドニゾロン25 mg/日の投薬で定期フォローされていた.2021年12月,嚥下時のつかえ感を感じ,当院消化器内科を受診した.この時点では腰椎椎間板ヘルニアに伴う自覚症状を認めなかった.上部消化管内視鏡検査の結果,胸部下部食道がんと診断されたが,リンパ節転移が広範囲であり手術適応はないと判断された.併存症による肺機能悪化のリスクが高いため,放射線治療の適応もないと判断され,フルオロウラシルとシスプラチンによる化学療法が施行された.

2022年4月,腰背部痛が出現し,CTにて肝転移,肺転移が確認された.ロキソプロフェン180 mg/日で痛みのコントロールをしていたが腰背部痛は増悪傾向となり,2022年5月にオキシコドン徐放錠10 mg/日を導入した.副作用対策としてプロクロルペラジン10 mg/日,ナルデメジン0.2 mg/日,ポリエチレングリコール4000(低用量製剤)2包/日が必要であった.痛みによる睡眠障害を伴い,CTで傍大動脈リンパ節転移が確認された.同時期に心窩部痛も出現し,当院緩和ケアチームに紹介となった.

両側下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)は陰性,心窩部痛および左優位でL1~3椎体領域を中心とした腰背部痛を伴っていた.腰痛の増悪因子はとくになく,下肢の放散痛・しびれ感・感覚低下をはじめとした神経根障害が疑われる所見は認められなかった.傍脊柱部に痛みは存在していたが,範囲は不明瞭で罹患関節に一致していたかどうかは不明であった.痛みの程度は,安静時Numerical Rating Scale(NRS)2,痛み増悪時NRS5であった.腰椎MRIではL1/2(左後方外側),L2/3(後方正中から右後方外側)椎間板ヘルニアの所見が認められた(図1, 2,付録図1).画像所見より今後の疼痛増悪およびQuality of Life(QOL)低下が予想されたため,薬物療法に加え,神経ブロック療法の併用を検討した.患者・家族にオキシコドン徐放錠をはじめとした強オピオイド増量による長所および予想される副作用とその対策,神経ブロック療法を現時点で併用することによる長所および手技に伴う合併症について説明した.患者・家族としては,強オピオイド導入時に複数の副作用対策の薬剤が必要であったことから増量を可能な限り避け,QOLを保ちながら自宅療養したいという思いを持っており,神経ブロック療法を希望された.

図1 L1/2MRI T2強調画像軸位断,左後方外側に髄核脱出,椎間板ヘルニアを認める
図2 L2/3MRI T2強調画像軸位断,後方正中から右後方外側に髄核脱出,椎間板ヘルニアを認める

2022年6月,CTで腫瘍の拡がりを確認し(図3),症状緩和および痛みの原因を検討するためX線透視下にTh8/9より胸部硬膜外ブロック(硬膜外カテーテル挿入)を施行した.イオヘキソールを3 ml投与し,第4胸椎上縁~第10胸椎レベルまで硬膜外造影されていることを確認した.0.2%ロピバカイン3–4 ml/時の投与により安静時NRS1,痛み増悪時NRS3と除痛効果が確認できたので,硬膜外ブロック施行4日後にX線透視下にTh12/L1経椎間板法による神経破壊薬(無水エタノール20 ml)を用いた内臓神経ブロックを施行したところ(付録図2),心窩部痛および腰背部痛はNRS0となった.一過性の起立性低血圧がみられたが翌日には症状改善し,内臓神経ブロック施行2日後に自宅退院となった.

図3 腹部CT画像(Th12レベル),腹部大動脈周囲リンパ節転移が認められる

その後,外来受診時に腰椎椎間板ヘルニア手術創付近に軽度の腰痛を訴えたが,痛みのコントロールは良好でオキシコドン徐放錠の増量は不要であった.4カ月間自宅療養を継続できたが,2022年10月に経口摂取不良となり,再入院となった.オキシコドンを徐放錠10 mg/日相当の持続静注に切り替え,良好な鎮痛を維持した状態で永眠された.

考察

上腹部内臓に分布する内臓神経は主に大内臓神経,小内臓神経,最下内臓神経で構築される.それぞれ大内臓神経(Th6~9レベル),小内臓神経(Th10~11レベル),最下内臓神経(Th12レベル)の胸部交感神経節へと連絡し,交感神経節前線維をそれぞれ,前椎体交感神経節である腹腔神経節,上腸間膜動脈神経節,大動脈腎動脈神経節に送る 1.本症例では,心窩部痛の原因は,画像所見から大動脈周囲リンパ節転移による腹腔神経叢浸潤に由来するがん性疼痛と考えられた.腰背部痛の原因に関しては腰椎椎間板ヘルニア既往があったため,再発および骨転移など鑑別のため腰椎MRIを施行したところL1/2, L2/3椎間板ヘルニアの併発を認め,当初は非がん性疼痛の要素も考慮すべきと考えた.

経過中に腰背部痛が増悪した原因は,非がん性疼痛では椎間板または椎間関節性,腰椎レベルでの脊髄神経圧迫の増悪などが考えられ,がん性疼痛では腹部大動脈周囲リンパ節転移拡大による腹腔神経叢への浸潤の進行,腸腰筋転移,骨転移由来など,または両者が混合する痛みが鑑別として考えられた 2.理学的所見,CT,MRIなどの画像検査からは明らかな腸腰筋浸潤,骨転移は認めなかったが,腰背部痛の原因を特定することは困難であった.

腰椎椎間板ヘルニアでは腰背部痛,障害神経根支配領域に一致する筋力低下および下肢痛や感覚低下を呈する 3.椎間板性腰痛症は,画像検査で椎間板変性所見が認められ,他の疾患を除外できる場合に診断できるが,明確な診断基準はなく,神経根症状が軽度な場合,腰背部痛の原因と確定することは困難である 4.診断としては,椎間板造影による再現痛と少量の麻酔薬注入による椎間板ブロックで除痛を確認することが有用である 4,5.椎間関節性の腰痛は限局した圧痛が罹患関節に一致した傍脊柱部に存在する.慢性腰痛患者のうち,腰椎椎間関節性由来である頻度は15%~52%と報告されており,しばしばみられる 6.脊髄神経後枝内側枝ブロックや椎間関節ブロックは有用な診断法である 7.本症例では明確な神経根症状は認められなかったが,病歴聴取にて他院で腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けた後に時々腰痛が出現していたことから,椎間板変性および椎間関節由来の腰背部痛悪化を否定することが困難であった.非がん性疼痛が主な原因であった場合,安易にオピオイドを増量する前に,安静療養,NSAIDsや鎮痛補助薬などの薬物療法,コルセット着用など理学療法による保存的治療が初期治療として優先されるため,正確な原因評価は重要である.臨床的には内臓神経ブロックによる鎮痛効果は期待できたが,どの程度患者・家族が望む痛みの軽減効果が得られるか(自宅療養が可能な鎮痛が得られるか)を確認してから内臓神経ブロックを実施する方針がより望ましいと判断した.そのため,直接内臓神経ブロックを施行する前に分節性と分離性に優れた硬膜外ブロックをX線透視下に胸椎レベル(Th8/9)で施行した.本症例では,硬膜外造影の範囲が内臓神経の支配領域とほぼ一致していたこと,内臓神経ブロック後の痛み軽減効果を勘案すると,腰背部痛は傍大動脈リンパ節転移を伴った内臓痛による関連痛と考えられた.腰椎椎間板ヘルニアによる非がん性疼痛をより強く疑った場合には,X線透視下に腰部硬膜外ブロックを施行することで痛みの原因診断および治療の参考になると考えられる.また硬膜外ブロックによる内臓神経ブロックの効果予測を判定する際には,可能な限り交感神経のみをブロックできるような薬剤選択が必要である.今回,0.2%ロピバカインを使用したが交感神経を選択的にブロックできる医学的根拠に乏しいため,交感神経ブロックの選択性向上のために0.5%リドカインを選択すべきであった 8.施設体制によっては内臓神経ブロックの施行が困難であると思われるが,硬膜外造影および鎮痛は,麻酔科医には比較的施行しやすい一般的な手技である.本症例のように,画像診断や臨床所見のみでは痛みの正確な原因診断が困難な場合もある.痛みの原因により薬物療法の選択,その他の痛み治療に対するアプローチに影響を与える.今回,X線透視下硬膜外ブロックが痛みの原因診断の正確性向上に寄与し,痛みの治療を選択する意思決定に役立った.

結論

X線透視下胸部硬膜外ブロックによって腰背部痛の原因を推察し,その後の痛み治療に結びつけることができた.標的部位での鎮痛効果判定を目的としたX線透視下硬膜外ブロックは,痛みの原因に応じた鎮痛対策を検討する際に,正確な診断を基にしてその後の治療選択肢を提示することを可能にする.患者の希望が叶えられるような痛みの治療を共同意思決定によって進めていけるとよいと考える.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

小島は研究の構想,研究データの収集,分析,原稿の起草に貢献した.村松は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
  • 1) 佐藤達夫,坂井建雄 監訳.腹部内臓の神経分布の概略.臨床のための解剖学 第2版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2016; 290.
  • 2) 山本達郎.I 腰痛診断.腰痛のサイエンス.文光堂,東京,2014; 98–103, 121–6.
  • 3) 菅野伸彦,高井信朗,高橋和久.II章 病態把握と診断・治療.整形外科ハンドブック.メディカルビュー社,東京,2010; 226–7.
  • 4) 日本ペインクリニック学会 編.第IV章 各疾患・痛みに対するペインクリニック指針.ペインクリニック治療指針 改訂第7版.文光堂,東京,2023; 226.
  • 5) Fukui S, Nitta K, Iwashita N, et al. Intradiscal pulsed radiofrequency for chronic lumbar discogenic low back pain: a one year prospective outcome study using discoblock for diagnosis. Pain Physician 2013; 16: E435–42.
  • 6) Perolat R, Kastler A, Nicot B, et al. Facet joint syndrome: from diagnosis to interventional management. Insights Imaging 2018; 9: 773–89.
  • 7) Datta S, Lee M, Falco FJE, et al. Systematic assessment of diagnostic accuracy and therapeutic utility of lumbar facet joint interventions. Pain Physician 2009; 12: 437–60.
  • 8) 日本麻酔科学会.麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン.https://anesth.or.jp/files/pdf/local_anesthetic_20190905.pdf(2023年9月11日アクセス).
 
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