Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Review
The Effect of High-flow Nasal Cannula Oxygen for Dyspnea in Patients with Advanced Disease: Systematic Review
Sho GoyaYasushi NakanoHiroaki TsukuuraYusuke TakagiHiroaki WatanabeYoshinobu MatsudaJun KakoYoko KasaharaHiroyuki KoharaMasanori MoriTakeo NakayamaTakashi Yamaguchi
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2023 Volume 18 Issue 4 Pages 261-269

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Abstract

【目的】進行性疾患患者の呼吸困難に対する高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)の有効性を検討する.【方法】MEDLINE, Cochrane Library, EMBASE, 医中誌Webを用いて文献検索を行った.適格基準は,呼吸困難に対するHFNCの効果を評価した無作為化比較試験であること,18歳以上の低酸素血症を伴う進行性疾患患者を対象としていること,対照群が通常の酸素療法もしくは非侵襲的陽圧換気であるもの,とした.集中治療室患者,人工呼吸器からの離脱後は除外とした.【結果】6件が採用された.短期介入を検討した2件で,HFNC有効1件,通常酸素有効1件であった.長期介入を検討した2件で,HFNC有効1件,有意差なし1件であった.運動負荷時の介入を検討した2件で,HFNC有効1件,有意差なし1件であった.【結論】低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対してHFNCは有効である可能性がある.

Translated Abstract

Objective: To evaluate the efficacy of high-flow nasal cannula oxygen (HFNC) for dyspnea in patients with advanced disease. Methods: A literature search was conducted using MEDLINE, Cochrane Library, EMBASE, and Ichu-shi Web. Inclusion criteria were: 1) randomized controlled trials evaluating the effect of HFNC on dyspnea; 2) aged 18 years or older with advanced disease with hypoxemia; 3) control group was conventional oxygen therapy or noninvasive positive pressure ventilation. Exclusion criteria were: 1) patients in intensive care unit, 2) weaning from ventilator. Results: Six studies (4 from database searches, and 2 from hand searches) were included. In the 2 studies evaluating short-term intervention, one showed HFNC was more efficacious, and the other conventional oxygen was more efficacious. In the 2 studies evaluating long-term interventions: one showed HFNC was more efficacious, and the other showed no significant difference. In the 2 studies evaluating the intervention during exercise, one showed HFNC was more efficacious, and the other showed no significant difference. Conclusion: HFNC may be effective for dyspnea in patients with advanced disease associated with hypoxemia.

緒言

呼吸困難は,「呼吸の際に感じる不快な主観的な体験」と定義されている1.呼吸困難は,進行がん,慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺疾患(ILD),慢性心不全など,さまざまな進行性疾患において合併頻度が高いことが報告されている2.加えて,呼吸困難の合併は患者およびその家族の身体・心理・社会と多面的な影響を与え,生活の質(Quality of Life: QOL)の低下に関連することが報告されており3,4,緩和ケアにおける重要な課題の一つである.

呼吸困難への対処は,その原因の診断と治療が最も重要であるが,進行疾患患者の場合,原因となる原疾患に対する治療を十分に行ったうえでも生じる呼吸困難(refractory dyspnea)や,合併症に伴う呼吸困難でも身体状況や予後との兼ね合いで治療を行うことが難しい場合が稀ではない.そのような場合,対症療法として症状緩和治療が重要な役割を担うことになる.呼吸困難に対する症状緩和治療は,薬物療法と非薬物療法がある.高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal canula oxygen therapy: HFNC)は,非薬物療法の一つとして近年注目されつつある治療法である.HFNCは,専用の鼻カニュラを用いて加温・加湿した酸素を高流量で投与する治療法であり,2000年代になって急性呼吸不全患者を中心に使用が広がったものである.HFNCは,上気道のwash-out効果による解剖学的死腔の減少,緩やかな気道の陽圧化,加湿による気道分泌物のクリアランス改善,などの呼吸生理に対する多彩なメリットをもたらし,単純な酸素化改善にとどまらず,呼吸困難の改善への寄与が期待され,国際的にも緩和ケアのセッティングでの使用機会が増えてきている5.しかし,進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCの有効性については十分に明らかにされていない.

本研究では,低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCの呼吸困難改善に関する有効性を明らかにすることを目的に,系統的レビューならびにメタ解析を行った.

方法

本研究は,Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)2020 statementに従って行われ,プロトコールはthe International Prospective Register of Systematic Reviews(PROSPERO)に登録された(CRD42020161597).

選択基準

採用する研究の適格基準は,1)呼吸困難に対するHFNCの効果を評価した無作為化比較試験であること,2)18歳以上の低酸素血症を伴う進行性疾患患者を対象としていること,3)対照群が通常の酸素療法もしくは非侵襲的陽圧換気(non-invasive ventilation)であるもの,とした.除外基準としては,1)集中治療室(intensive care unit: ICU)患者を対象としたもの,2)人工呼吸器からの離脱後および手術後を対象としたもの,とした.

検索の際のデータベースとしては,MEDLINE, Cochrane Library, EMBASEと日本語文献の検索のために医中誌Webを用い,2019年9月23日(和文は10月27日)に検索を行った.検索式( 表1)は,専門家の意見,関連文献,および統制語彙(Medical Subject Headings(MeSH),Excerpta Medica Tree(EMTREE))を踏まえて設定した.加えて,関連する総説文献の参考文献リストからハンドサーチを加えた.さらに,2020年6月30日と2021年12月7日にPubMedを用いてUp-dateサーチを行った.

表1 検索式
表1 続き

評価アウトカムおよびデータ収集項目

主要評価項目は患者報告アウトカム(patient-reported outcome: PRO)で評価された呼吸困難強度とした.副次評価項目として,QOL,不快感,皮膚障害を設定した.データ収集項目として,主要評価項目および副次評価項目に加え,著者,発表年,研究デザイン,方法,結果の要約を抽出した.

文献選択プロセス

一次スクリーニングとして,データベース検索で得られたすべての文献に関して,2名の独立した著者(Y.N, H.T)が適格・除外基準をもとに題名/抄録から評価した.一次スクリーニングで採用されたすべての文献に関して,二次スクリーニングとして同じ2名の著者が独立して本文精読のうえで適格・除外基準をもとに評価し,採用文献を確定した.各スクリーニングの過程で2名の評価が異なった場合には,著者間で協議を行い,採否を決定した.2名の協議で意見収束が得られない場合は,3人目の著者(S.G)を加えて採否を決定した.

バイアスリスク評価

Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0に基づき,2名の著者(Y.N, H.T)が独立して,すべての採用文献に関してバイアスリスクを評価した.評価したバイアスリスクの項目は,選択バイアス(無作為化,隠蔽化),実行バイアス(盲検化),検出バイアス(盲検化),症例減少バイアス(intention-to-treat: ITT),不完全アウトカム報告),報告バイアス(選択的アウトカム報告),早期試験中止,その他のバイアス,を評価した.各バイアスリスクは,高リスク,中等度/不明確,低リスクの3段階で評価した.2名の評価が異なった場合には,著者間で協議を行った.2名の協議で意見収束が得られない場合は,3人目の著者(S.G)を加えて採否を決定した.

結果

研究の選択(図1

データベース検索で合計398件の文献が抽出された.121件が重複文献として除外され,277件(英文:226件,和文:51件)が一次スクリーニングとして表題/抄録の評価を受けた.一次スクリーニングの結果229件が除外され,残りの48件が二次スクリーニングとして全文評価を受けた.二次スクリーニングの結果44件が除外され,4件の文献が採用された.加えて,ハンドサーチより2件の文献を追加採用し,最終的に6件の文献が採用された611

図1 PRISMAダイアグラム

採用文献の概要(表2)

低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCの有効性を検討した無作為化比較試験6件のうち,5件はクロスオーバーデザインであった69,11.採用文献に含まれる対象患者の合計は340名で,4件がCOPD6,7,10,11,1件が線維化性間質性肺疾患9,1件が終末期呼吸不全患者(がん患者が92%)8を対象としていた.短期介入を検討した研究が2件8,11,長期介入を検討した研究が2件6,10,運動負荷時の介入を検討した研究が2件7,9であった.

表2 採用文献の概要

バイアスリスク(図2

HFNCはデバイスの性質上,盲検化はできないため,選択バイアスは6件すべてにおいて高リスクとした.選択バイアスではランダム化およびコンシールメントの記載が不十分のものが多く,どちらも低リスクであったのは6件のうち1件6のみであった.1件10では脱落例が多く(介入群の33%,対照群の29%が脱落),症例減少バイアスの不完全アウトカムデータを高リスクとした.また1件11では結果が正しく記載されておらず(著者に照会して確認した),その他のバイアスを高リスクとした.

図2 バイアスリスク

呼吸困難の緩和

呼吸困難に関して6件が報告していた.

短期HFNC使用の呼吸困難に対する効果を検討した文献は2件であった.Ruangsomboonら8は,終末期呼吸不全患者を対象に,HFNCもしくは通常酸素吸入を行い,開始前と60分後の修正Borgスケールを評価したところ,通常酸素に比べHFNCで有意な改善を認めた(HFNC:2.9,通常酸素:4.9,群間平均差:2.0,95%CI:1.4, 2.6).Fraserら11は,長期酸素療法を受けているCOPD患者を対象に,20分間のHFNCもしくは通常酸素吸入を行い,呼吸困難Numerical Rating Scale(NRS)を評価したところ,通常酸素吸入の方が有意に呼吸困難は軽かった(中央値 通常酸素:0.5,HFNC:2.0,p<0.001).中央値のみの報告であったため,データ統合ができなかった( 図3).

図3 短期HFNC使用の呼吸困難に対する効果

長期HFNC使用の呼吸困難に対する効果を検討した文献は2件あった.Nagataら6は,長期酸素療法を受けているCOPD患者を対象に,睡眠時4時間以上HFNC追加を6週間以上継続する,もしくは通常酸素吸入継続のみを行い,修正MRCスケールで評価したところ,2群間に有意差を認めなかった(群間平均差:0.15,p=0.32).群間差のみの記載のため,データ統合はできなかった.Strogaardら10は,長期酸素療法を受けているCOPD患者を対象に,通常ケアにHFNCを追加する,もしくは通常ケアのみを12カ月行い,修正MRCスケールで評価したところ,HFNCで有意な改善を認めた(1カ月後:p=0.001,3カ月以降:p<0.001).グラフのみの提示で数値記載がないためデータ統合はできなかった.

運動負荷時のHFNC使用の呼吸困難に対する効果を検討した文献は2件あった.Suzukiら9は,線維化間質性肺疾患を対象に,運動負荷時にHFNCもしくはベンチュリマスクによる酸素吸入を行い,運動負荷後の修正Borgスケールを評価したところ,両群で有意差は認めなかった(HFNC 5.9,酸素5.9,p=0.955).Cirioら7は,COPD患者を対象に,運動負荷時にHFNCもしくはベンチュリマスクによる酸素吸入を行い,運動負荷後の修正Borgスケールを評価したところ,HFNCで有意に呼吸困難が軽かった(p=0.002).グラフのみの提示で数値記載がないためデータ統合はできなかった( 図4).

図4 運動負荷時HFNC使用の呼吸困難に対する効果

QOLの向上

QOLに関して2件が報告していた.

Nagataらの試験6では,St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)を評価しており,HFNC群で有意にQOLが高かった(群間平均差:−7.8,95%CI:−11.9, −3.7).群間差のみの記載のため,データ統合はできなかった.Strogaardらの試験10では,SGRQを評価しており,HFNC群で有意にQOLが高かった(6カ月目:p=0.002,12カ月目:p=0.033).グラフのみの提示で数値記載がないためデータ統合はできなかった.

不快感

不快感に関しては4件が報告していた.

Ruangsomboonらの試験8では,HFNC群で48名中2名が不快感のため脱落,5名が不快感,2名が熱感を訴えた.Fraserらの試験11では,不快感をNRSで評価したところ,中央値はHFNC 8,通常酸素9でp=0.002と記載があるが,文章ではHNFCが有意に不快感が高いと記載されており,記載内容の信頼性が著しく損なわれている.Nagataらの試験6では,HFNCを受けた29名中4名が盗汗,1名が鼻汁,1名が不眠を訴えたがいずれも軽度のものであった(通常酸素では1名が盗汗のみ).Suzukiらの試験9では,快適度をNRSで評価したところ,HFNCと通常酸素で有意差はなかった(HFNC 6.3,通常酸素7.8,p=0.067)( 図5).

図5 不快感

皮膚障害

皮膚障害に関しては,1件が報告していた.

Nagataらの試験6では,HFNCを受けた29名中1名で皮疹を認めた(通常酸素では皮膚潰瘍が1名).

考察

今回の系統的レビューでは,低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCの有効性を検証した.主な結果は以下の2点である.

一つ目は,今回の系統的レビューで採用された6件のうち3件でHFNCの有意な呼吸困難改善効果を示したが,2件では有意差なし,1件では通常酸素がHFNCに比べ有意な呼吸困難改善効果を示すという結果であった.介入方法の違いや報告されているアウトカムの問題でデータの統合もできなかった.しかしながら,QOLの評価がなされていたHFNC長期使用を検討した二つの試験ではいずれもHFNCで有意なQOL向上が示されており,HFNCが有用である可能性があると考えられる.

二つ目は,有意差は報告されていないものの,報告されている4件のすべてで不快感はHFNCが多いもしくは強い傾向が示されたことである.報告されているものの多くは軽度の不快感ではあるものの,HFNCの使用を検討する際にはこの点を十分に考慮する必要がある.

上述の通り,低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCは有効である可能性があるものの,今回の系統的レビューにはいくつかの限界がある.一つ目は,短期使用,長期使用,運動時使用のいずれも2件ずつと採用文献は少なく,どのような使用法が呼吸困難の改善に対して適切であるのかの結論は出すには十分なエビデンスがあるとはいえない.そのため,各HFNC使用方法の呼吸困難に対する有効性を検討する研究を蓄積していく必要がある.二つ目は,採用された研究は大半がCOPD患者を対象としたものであり,COPD以外の進行性疾患患者においての効果に関するエビデンスがとくに不足していると考えられる.したがって,他の進行性疾患患者を対象とした研究を蓄積していく必要がある.三つ目は,6件採用文献があったにもかかわらず,報告されたアウトカムのばらつきが大きいため今回の系統的レビューではデータを統合したメタ解析が行えなかった.このような問題点を打破するために,標準的な評価方法を用いた研究を行っていく必要がある12

結論

低酸素血症を伴う進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCは有効である可能性がある.しかしながら,その適切な使用方法に関して判断する知見は不足しており,COPD以外の進行性疾患患者に対する効果も十分な知見が得られていない.進行性疾患患者の呼吸困難に対するHFNCの有効性や適切な対象・使用方法を明らかにしていくために,さらなる研究の蓄積が必要である.

謝辞

本研究における包括的文献検索については,NPO法人日本コクランセンター(コクランジャパン)にご支援をいただきました.この場を借りて深く御礼申し上げます.

研究資金

本研究の実施に当たっては,日本緩和医療学会より資金提供を受けた.

利益相反

高木雄亮:企業の職員(CureApp株式会社)

中山健夫:研究費(I&H株式会社,株式会社ココカラファインヘルスケア,コニカミノルタ株式会社)

その他:該当なし

著者貢献

高木,松田,渡邊,角甲,笠原,小原,森,中山,山口は研究の構想,デザイン,研究データの解釈,原稿の批判的な推敲に貢献した.合屋,中野,十九浦は研究データの収集,分析,原稿の起草,研究の構想,デザイン,研究データの解釈,原稿の批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終確認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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