Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Quality of Life Among Cancer Patients Who Discharged Home from Inpatient Hospices, Comparing with Those of Cancer Patients Who Died at HospicesA Nation-wide Survey Among Bereaved Families of Advanced Cancer Patients
Takuya Odagiri Tatsuya MoritaHiroaki ItoYuji YamadaMika BabaKatsuhiro NarumotoYasue TsujimuraTatsuhiko Ishihara
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2024 Volume 19 Issue 1 Pages 23-32

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟から在宅退院後の体験を明らかにするため,緩和ケア病棟退院患者の在宅でのQOLを緩和ケア病棟死亡患者と比較した.【方法】2010年1月~2014年8月に日本の12の緩和ケア病棟から在宅退院し再入院せず死亡したがん患者の遺族(以下,Home群)に,自記式アンケートを送付した.比較として,同時期に同じ緩和ケア病棟で死亡した患者のQOLを示したJ-HOPE3遺族データ(以下,PCU群)を使用した.【結果】495人に送付(回答率47.3%)しHome群188人と,PCU群759人を解析した.Good Death Inventoryで,Home群は,望んだ所で過ごせた,楽しみがあった,家族と過ごせた,大切にされたの高値と,PCU群は痛みや体の苦痛が少なく過ごせたの高値と関連した.【結論】緩和ケア病棟から在宅退院した患者の環境のQOLは良好だったが,症状緩和は緩和ケア病棟の評価が高かった.

Translated Abstract

Objectives: We compared cancer patients who were discharged home from inpatients hospices (Home), and who died at hospices (PCU) as a comparison group regarding patients’ quality of life, to clarify the patients’ experience after discharge home. Methods: We send self-reported questionnaires to bereaved families of cancer patients who were discharged home from 12 Japanese nation-wide hospices and died without readmission to the hospicies during Janually 2010 and August 2014. We used bereaved families’ data of patients who died at the same hospices during the same period of J-HOPE3 study. Results: We sent 495 questionnaires (returned 47.3%) and analyzed data of 188 as Home. The data of 759 bereaved families of J-HOPE3 study were also analyzed as PCU. In Good Death Inventory, Home was associated with higher score on some items (staying at favorite place, having pleasure, staying with families and friends, being valued as a person), and PCU was associated with higher score on being free from pain or other physical distress. Conclusions: Patients who were discharged home from inpatient hospices had good environmental QOL, but hospices may be better in palliation of symptoms.

緒言

わが国において,がんは死亡の最大の原因であり,がんによる死亡患者は増え続けている1.緩和ケア病棟は終末期のがん患者が療養する場として用いられるが,がん患者が増え続けることに伴い,生存退院する患者が増えている.2012年度の診療報酬改定において,61日以上入院期間が継続すると緩和ケア病棟入院料が減額されることとなった.実際,日本ホスピス緩和ケア協会によると,緩和ケア病棟の死亡退院患者割合は,2011年度と2019年度で86.1%から77.0%に減少し2,緩和ケア病棟からの生存退院者が増していることが示唆される.

緩和ケア病棟から在宅に退院した患者がどのような体験をし,ケアを受けたかを明らかにする必要がある.緩和ケア病棟から在宅に一時退院をして緩和ケア病棟に再入院をした患者についてのQuality of Life(QOL)や体験についての報告では3,Good Death Inventory(GDI)の合計や,患者の食欲や睡眠の改善,家族の気持ちの穏やかさが,緩和ケア病棟から一時退院して2週間以上家に居られた患者のほうがそうでない患者より有意によかった.しかし,緩和ケア病棟に再入院に至らなかった患者についての報告はない.

また,病院から在宅に退院する際に,患者・家族の不安がありうるため,退院に関するケアの工夫を検討する必要がある.これまで,終末期の感患者が大学病院から在宅に退院する際のケアについて報告があり4,退院に関する説明内容,説明のタイミング,主治医がいること,信頼できるスタッフがいること,大学病院のケアへの満足度,緩和ケアチームの関わりが,退院調整への満足度と関連した.また台湾より,緩和ケア病棟から在宅に退院する際のケアについて報告5があり,在宅ケアプログラムへの介入,家族へのケアの教育,円滑な再入院の保証が行われていた.しかし,日本において緩和ケア病棟から在宅に退院する際のケアについての報告はない.

本研究の主目的は,緩和ケア病棟から在宅に退院して緩和ケア病棟に再入院せずに亡くなった患者の在宅でのQOLを,緩和ケア病棟で亡くなった患者の緩和ケア病棟におけるQOLを対照群として比較することである.また副次的目的として,在宅でのケアの質や,死亡後の遺族の抑鬱の頻度を,緩和ケア病棟で亡くなった患者と比較する.さらに,緩和ケア病棟から退院のケアに関する満足度や,具体的なケア内容,あるいは退院後の患者家族の体験を明らかにすることである.これらは,今後緩和ケア病棟から在宅に退院する患者の療養についての基本的な知見となり,今後の療養のあり方について検討する助けとなるだろう.

方法

下記対象者に対して,郵送による自記式質問紙調査を行った.事務局で回収をして解析を行った.対象者に対して,各施設から質問紙を郵送し,督促は行わなかった.連結可能匿名化を行った.

対象者

日本ホスピス緩和ケア協会会員施設である,ホスピス・緩和ケア病棟(2012年当時正会員数254)において,2012年度に50人以上生存退院者が報告されている40施設すべてに研究に参加するかの打診を行い,了解を得た10施設と,本研究の事務組織となった聖隷三方原病院と,対照群となるthe Japan Hospice and Palliative care Evaluation study 3(J-HOPE3)6の事務組織である東北大学の2施設を含む,12施設を対象施設とした.

対象施設において,2010年1月1日から2014年8月31日に在宅に退院をし,2014年8月31日までに緩和ケア病棟以外で亡くなったことが確認されている患者の遺族を対象とし,Home群とした.患者の死亡確認は,診療録の参照および退院時に紹介した施設に問い合わせによって行い,それでも生死が不明な場合は対象としなかった.遺族の負担を考え,調査票発送日と死亡日を6カ月以上あけることとした.除外基準は,以下の患者の遺族とした:緩和ケア病棟で亡くなった患者,遺族の同定ができない患者,退院時および現在の状況から遺族が精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくないと担当医が判断した患者,遺族が,認知症,精神障害,視覚障害のために調査表に記入できない,と担当医が判断した患者.

また比較のために,同じ対象施設の緩和ケア病棟で亡くなった進行がん患者の遺族について,J-HOPE36のデータを使用し,PCU群とした.J-HOPE3とは,日本のがん患者の緩和ケアの質を評価するための遺族調査で,2014年5月から7月に,日本の175施設が参加をして,終末期の患者のQOL,緩和ケアの質,遺族の抑うつなどを遺族への質問紙を通じて明らかにした研究である.対象患者は2014年1月以前に死亡した患者の遺族で,1施設連続最大100名を後ろ向きに同定し,2011年10月以前の死亡患者は含まなかった.以上の対象患者の死亡期間は,Home群の死亡期間に重なった.除外基準は,治療関連死や集中治療室で亡くなった患者,入院期間3日以内の患者,遺族の同定ができない患者,退院時および現在の状況から遺族が精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくないと担当医が判断した患者,遺族が認知症・精神障害・視覚障害のために調査票に記入できないと担当医が判断した患者であり,死亡場所を除けばほぼ今回の研究と除外基準は一致していた.督促は1カ月後に1度行い,研究全体で回答率は67%だった.本研究では,J-HOPE3の中で,本研究に参加した12施設の緩和ケア病棟で亡くなった患者を対象とした.

質問紙の調査項目

1. 緩和ケア病棟を退院後の在宅での患者のQOL

緩和ケアの患者のQOLについて信頼性,妥当性が示されている,GDI7を用いて調べた.12の項目について,7段階のLikert scaleで聴取し,各項目は1~7点,合計点は12~98点となり,高いほどQOLがよいことを示す.

2. 緩和ケア病棟を退院後の在宅でのケアの質評価

緩和ケアの療養の質について信頼性,妥当性が示されている,Care Evaluation Scale(CES)8を用いて調べた.10項目について,6段階のLikert scaleで聴取し,合計点は10~60点となり,低いほどよいケアの質を示す.

3. 遺族の抑うつ

うつ病の診断基準に基づき構成されている,Patient Health Questionnaire-9(PHQ9)9を用いて調べた.10点以上は中等度の抑うつ状態とされ,大うつ病のスクリーニングのcut off値として用いられる10

上記1~3の項目は,比較のためJ-HOPE3でも測定された項目を用いた.なお,1, 2の項目について,本研究では在宅でのQOLとケアの質が,J-HOPE3では亡くなる前の緩和ケア病棟でのQOLとケアの質が評価された.

4. 緩和ケア病棟から退院の満足度,緩和ケア病棟から退院に関するケアの改善の必要性

「緩和ケア病棟から退院された事自体については,どれぐらい満足または不満足ですか」という質問に対し,「1:とても満足」~「6:とても不満足」の6段階Likert scaleにて聴取した.

また,“緩和ケア病棟から退院のときの,緩和ケア病棟の医師や看護師のケア・説明については,改善の必要があると思われますか”という質問に対し,「1:全くない(とても満足)」~「6:大いにある(とても不満足)」の6段階Likert scaleにて聴取した.

5. 緩和ケア病棟退院に関するケアの実際

「退院後の生活や利用できる医療・介護サービスについて相談できた」,「入院時に緩和ケア病棟から退院となりうる説明があった」など11項目について,「あった」,「なかった」での回答を聴取した.

6. 緩和ケア病棟を退院前の患者や家族の状態

「患者は退院したいという希望があった」,「患者は自分の病気が治らないことを知っていた」,「患者の症状は緩和されていた」,「家族が退院したいという希望があった」など7項目について,「あった」,「なかった」での回答を聴取した.

7. 緩和ケア病棟を退院したときの家族の体験

「住み慣れたところに戻って来られてうれしかった」,「退院後に急に病状が悪くならないか心配になった」,など6項目について,「3:どちらともいえない」の中立的な選択肢を設け,「1:あてはまらない」~「5:とてもあてはまる」の5段階Likert scaleにて聴取した.

8. 緩和ケア病棟を退院後の在宅における患者・家族の体験

「患者は緩和ケア病棟入院中と比べてより笑顔が増えた」,「家族は緩和ケア病棟入院中と比べてより多くの時間を患者と過ごすことができた」など8項目を,「3:どちらともいえない」の中立的な選択肢を設け,「1:あてはまらない」~「5:とてもあてはまる」の5段階のLikert scaleにて聴取した.

なお,4~8の項目は,研究者間で討議を行い設定した.また,1, 2, 8の項目は,在宅における状況について聴取した.

9. 患者の人口統計学的因子

婚姻状態,同居者の有無,世帯収入.

10. 遺族の人口統計学的因子,療養中の状態

年齢,性別,本人との関係,最終学歴.

各施設から取得する調査項目

1. 退院先の療養場所,死亡場所

2. 退院日,死亡日

3. 患者の人口統計学的因子

年齢,性別,原発巣

解析

まず,Home群とPCU群の背景を,連続変数はt検定,カテゴリー変数はχ二乗検定を用いて,単変量解析の比較を行った.次に,主目的の解析方法として,GDIの合計点や各項目を目的変数,緩和ケア病棟を退院・死亡と背景因子を説明変数として,重回帰分析を行った.それにより,背景因子を交絡因子として,説明変数に対して,緩和ケア病棟を退院・死亡が有意に関連するかを明らかにした.

副次的目的の解析として,CESの合計得点とPHQ9≥10点の割合を目的変数として,上記と同様に背景因子を交絡因子,緩和ケア病棟を退院・死亡を説明変数として,重回帰分析を行った.

次に,Home群について,退院の満足度と緩和ケア病棟から退院に関するケアの改善の必要性の記述統計を求めた.退院に関するケアの改善が必要と回答したことに関連する要因を探索するため,緩和ケア病棟から退院に関するケアの改善の必要性について,ad hocに6段階の中で「2改善の必要性がほとんどない」と,「3改善の必要性が少しある」の間にcut off値を設け,改善の必要性なし群と,改善の必要性あり群の2群に分けた.両群で,緩和ケア病棟退院に関するケアの実際と緩和ケア病棟を退院前の患者と家族の状態と,患者と遺族の背景について,連続変数はt検定を,カテゴリー変数はχ2検定を用いて比較をした.

また,緩和ケア病棟を退院したときの家族の体験や,緩和ケア病棟を退院後の患者・家族の体験についての記述統計を求めた.これらは,中央値において,ニュートラルな選択肢である3より大きい項目と,小さい項目に注目した.

欠損値は解析に含めず,統計的有意はp<0.05で判断した.解析はSPSS 19.1(日本IBM,東京)を用いた.

倫理的配慮

研究計画を研究に参加したすべての施設の倫理委員会にて承認を得た.

本研究に関係するすべての研究者は,ヘルシンキ宣言(世界医師会)の精神,および「疫学研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」に従って,本研究を実施した.

調査は,(1)調査票は各施設から直接送付していること,(2)調査は各施設から独立して事務局で行うこと,(3)調査への参加は自由意志に基づくこと,(4)調査に参加しない場合にも不利益はないこと,(5)調査結果は個人が特定される形では公表しないことを明示した趣意書を質問紙に同封し,対象者に対する十分な説明を行い,返送をもって研究参加の同意を得たとみなした.

参加施設では,自施設の対象患者一覧表を管理し,本研究患者全体の表は事務局で管理した.本研究のデータは,個人情報の取り扱いを事務局に限定し,その保管に全責任を負う.研究対象者の個人情報は,USBなどの記憶媒体や,研究責任者および事務局のみが利用するコンピュータに保存された.データは,研究者によって設定されたパスワードを入力しない限り,第三者によってアクセスできないように保管した.また文書やUSBなどの記憶媒体は,施錠された保存庫で厳重に管理する.患者が特定されるような個人情報(氏名,住所など)は施設を超えて取得されなかった.

1)被験者の福利に対する配慮と科学性および社会的利益の比較

本研究に参加することによる被験者に直接の利益は生じない.本研究の成果により,終末期医療の改善に寄与する可能性がある.

2)研究によって生じる個人への不利益と医学上の利益または貢献度の予測

本研究は調査票によるアンケート調査であるので,遺族への明らかな身体的不利益は生じないと考えられる.受けたケアを評価することに対する精神的葛藤や,つらい体験に関する心理的苦痛を生じることが予測されるが,質問紙の内容は,2007年や2009年に行われた「遺族によるホスピス・緩和ケアの質評価に関する研究」で本研究と同様の対象者に対して使用したものと類似し,同研究では明らかな回答者の負担は認められなかった11

郵送費は研究機関にて負担した.

結果

緩和ケア病棟を生存退院となった1160人のうち,665人が除外となり,495人の遺族に質問紙を送付し,返信があった234人(返信率47.3%)のうち,在宅に退院となり亡くなった188人をHome群として解析した.また比較として,J-HOPE3より緩和ケア病棟で亡くなった759人のデータをPCU群として使用した(図1).

図1 参加者の流れ

両群で背景を比較した(表1).Home群の患者の平均年齢は71.1歳,肺がん,下部消化管がん,肝胆膵がん,上部消化管がんが多く,遺族の平均年齢は61.6歳だった.PCU群の患者の平均年齢は72.7歳,肺がん,肝胆膵がん,上部消化管がん,下部消化管がんが多く,遺族の平均年齢は61.6歳だった.これらの項目では両群で有意差を認めなかったが,Home群で有意に,患者は男性が多く,既婚者が多く,同居者が居る割合が多く,世帯収入が高く,遺族は女性が多く,患者死亡から質問紙発送までの期間が長かった.

表1 緩和ケア病棟から在宅退院者(Home)と緩和ケア病棟死亡者(PCU)の背景の比較

GDIにおいて,合計点の平均は,Home群で59.2点,PCU群で57.1点とHome群で高かったが,有意ではなかった.各項目では,Home群であることは,以下の項目が有意に高いことに関連した:望んだ場所で過ごせた,楽しみになるようなことがあった,家族や友人と十分に時間を過ごせた,ひととして大切にされていた.一方,PCU群であることは,痛みが少なく過ごせた,からだの苦痛が少なく過ごせた,の項目が有意に高いことに関連した(表2).

表2 緩和ケア病棟から在宅退院者(Home)と緩和ケア病棟死亡者(PCU)のQuality of Life、ケアの質、遺族の抑鬱の比較

CESの合計点の平均は,Home群で22.1点,PCU群で19.7点で,PCU群で低かったが,有意ではなかった.同様に,PHQ9が10点以上の割合は,Home群で45人(27.3%),PCU群で108人(17.9%)とHome群で高かったが,有意ではなかった(表2).

Home群188人において,緩和ケア病棟から退院の満足度6段階(高いほど不満)のうち,中央値2(四分位2~3)とやや満足度が高く,緩和ケア病棟から退院に関するケアの改善の必要性6段階(高いほど改善の必要性あり)のうち,中央値2(四分位2~3)と,やや改善の必要性がないと考える遺族が多かった.Ad hocに2と3の間でcut off値を設け,改善の必要性なし群(n=114)と改善の必要性あり群(n=62)の2群に分けた.欠損が12人だった(図1).

改善の必要性の有無で比較をしたところ,患者・家族の背景と,退院前の患者や家族の状態については,有意差を認めなかった.緩和ケア病棟退院に関するケアの実際において,改善の必要性なし群では以下の項目が有意に高かった:今後の予測される病状の変化や症状について説明を受けた,在宅で受け持ちになる医師や看護師と退院前に会うことができた,予測される余命について具体的に聞いた,急に病状が変化する場合やどう対応するかについて説明を受けた,経済的負担について具体的に説明を受けた,今後しばらくは病状が落ち着いていると保証してくれた(表3).

表3 緩和ケア退院に関するケアへの改善が必要と考えることに関連する要因の探索

緩和ケア病棟を退院したときの家族の体験については,住み慣れたところに戻って来られてうれしかった,という体験が多く,一方で,ずっと入院できると思ったのでおどろいた,見捨てられた,見放されたと感じた,という体験は少なかった.緩和ケア病棟退院後の在宅における患者の体験については,より笑顔が増えた,という体験が多く,家族の体験については,より多くの時間を患者と過ごすことができた,より付き添いや介護の負担が多くなった,という体験が多かった(表4).

表4 緩和ケア病棟を退院時や退院後の患者や遺族の体験(N=188)

考察

本研究は,緩和ケア病棟から退院して緩和ケア病棟に再入院せずに亡くなった患者の,退院後在宅でのQOLやケアの質,また退院に関するケアの評価を行った,私達の知る限り初めての研究である.

本研究の最も重要な知見は,GDIにおいて,緩和ケア病棟で亡くなった患者の緩和ケア病棟におけるQOLに比べて,緩和ケア病棟から退院した患者では在宅において,環境面におけるQOLが高いことに関連したが,とくに,痛みや症状に関するQOLが高いことには緩和ケア病棟が関連したことである.先行研究では,GDIにおいて,在宅で亡くなった患者のほうが緩和ケア病棟で亡くなった患者より,合計点でも各項目の点数でも有意に高かった12,13.本研究では,項目によって緩和ケア病棟が高かった.本研究における在宅退院患者は緩和ケア病棟を体験しており,対照群の緩和ケア病棟で死亡した患者も含めて,評価をする遺族がみな緩和ケア病棟におけるケアについて体験している点に新規性と意義がある.また,本研究では,背景において在宅退院者は緩和ケア病棟での死亡者より,結婚しており,同居者が居た.在宅死と関連することとして,独居ではないこと,介護者がいることなどが先行研究14,15で示されており,本研究に一致した.以上を受け,終末期のケアの場として,家族のマンパワーがあれば環境面がよい在宅が優先されるが,痛みなど身体症状が強い場合は緩和ケア病棟を優先することは妥当かもしれない.

2番目に重要な知見として,ケアの質や遺族の抑うつは,緩和ケア病棟から在宅退院者と死亡者で差がなかったことである.先行研究において,在宅死亡者と緩和ケア病棟死亡者においてCESやPHQ9に有意差を認めず13,本研究の結果に一致をしていた.したがって,緩和ケア病棟と在宅の終末期の緩和ケアに関しては大きな差はないと思われる.

次に重要な知見として,緩和ケア病棟から在宅に退院することの満足度はある程度高く,退院のケアの改善の必要性はやや低かった.緩和ケア病棟から在宅に一時退院をした研究においても,患者家族の満足度は高かった16.緩和ケア病棟から退院する際の具体的なケア内容については,予測される病状・症状や対応,余命について説明を受けたことや,退院前に在宅診療の医師や看護師と会うことが,退院のケアの改善の必要性がないと回答したことに関連した.2004年の台湾における研究5では,緩和ケア病棟から在宅に退院する際に,在宅でケアや医療が不足することを懸念し,在宅ケアプログラムへの介入,家族へのケアの教育,円滑な再入院の保証が行われていた.先行研究は本研究の10年前であり,日本においてはその間に在宅診療が充実してきた17ことで,緩和ケア病棟のスタッフが在宅のケアに関わるのではなく,適切な病状説明の後に在宅診療のスタッフにつなぐことが重要になっているのかもしれない.

最後の知見として,退院時や退院後の患者・家族の体験を明らかにした.退院時の家族は嬉しく思い,おどろきや見捨てられ感はあまりなく,肯定的な体験が多かった.退院後に,患者は笑顔が増え,家族は,患者とより多くの時間を過ごせたが,一方で,付き添いや介護の負担感が増えた,という体験もしていた.緩和ケアから一時退院した患者の研究3では,患者の食欲や睡眠が改善し,家族の気持ちが穏やかになったと報告されている.一時退院に比べて,その後緩和ケア病棟に再入院しなかった場合は,家族の負担感はより強い可能性がある.以上より,緩和ケア病棟からの在宅退院を検討する際に,患者家族にとってよい体験が増える可能性が高いが,家族の負担感を意識したケアを行うことが重要かもしれない.

本研究にはいくつかの限界がある.初めに,同じ時期に同じ緩和ケア病棟で亡くなった患者と退院した患者を比較しているが,同一の患者・家族が両者を比較しているわけではないので,間接的な比較結果と考える必要がある.次に,回答率は47%とやや低く,回答にバイアスがある可能性はある.第3に,緩和ケアで亡くなった患者と退院した患者の背景の比較において,とくに患者が死亡してから質問紙発送までの平均期間に差がある点は,回答のバイアスになりうる.そのために,GDI, CES, PHQ9の比較においては,背景による補正を行って比較した.最後に,本研究は約10年前に施行されており,その後訪問看護施設が増えている17.在宅診療の社会資源が増えると在宅死が増えることの関連が示されており1820,在宅でのQOLやケアの質が現在は変化しているかもしれない.

結論

進行がん患者が緩和ケア病棟から在宅に退院する場合と緩和ケア病棟で亡くなる場合を比較したときに,環境面では在宅の評価が高いが,痛みや身体症状への対応は緩和ケア病棟の評価が高かった.

謝辞

本研究にご協力いただいた,関本クリニックの故関本剛医師,草加市立病院 緩和ケア内科の鈴木友宜医師,東北大学大学院医学系研究科緩和医療分野の田上恵太医師,岡崎市民病院 緩和ケア科の橋本淳医師,東札幌病院の照井健医師に感謝いたします.

研究資金

本研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団(2013年度)の助成を受けた.

利益相反

研究責任者と全著者は,利益相反はない.各施設の研究者,研究協力者の利益相反が各施設で管理されている.

著者貢献

小田切は研究の構想およびデザイン,研究データの収集や分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.森田は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈に貢献した.伊藤,山田,馬場,成本,辻村,石原は研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
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