Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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Case Report
Pruritus Caused by the Change in Hydromorphone Formulation Disappeared after Switching to the Fentanyl Patch: A Case Report
Tatsuhito Miyamoto Toshinao TomiyamaYuko WatanabeTatsuya Hashimoto
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2024 Volume 19 Issue 1 Pages 67-70

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Abstract

オピオイドの全身投与でまれにかゆみを生じることを経験するが,その機序は明確にわかっていない.今回,強オピオイドの剤型変更で難治性のかゆみを生じ,オピオイドスイッチングで早期に消失した症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.膵がん再発による背部痛の増悪や,腹痛が出現した.ヒドロモルフォン徐放製剤10 mg/日投与も痛みの緩和が不十分であり,調節性を考慮しヒドロモルフォン注射製剤3 mg/日に変更した.翌日痛みが軽減したが,全身にかゆみが出現した.抗ヒスタミン薬の内服薬や外用薬を投与したが効果不十分であった.ヒドロモルフォン注射製剤は同量投与であったがかゆみが増悪傾向であり,フェンタニル貼付剤0.6 mg/日にスイッチングを行った.翌日にはかゆみが激減し,2日後にはかゆみがほぼ消失した.ヒドロモルフォンの投与中にかゆみが生じた場合,フェンタニル貼付剤へのスイッチングが有効である可能性がある.

Translated Abstract

Systemic administration of opioids rarely causes pruritus, although its mechanism is still not clearly understood. We report an intractable pruritus induced by a change in the dosage form of opioids with the same dose by the conversion ratio, which promptly disapeared with opioid switching. A 80-year-old female experienced worsening dorsal pain and abdominal pain due to recurrent pancreatic cancer. The relief of pain was insufficient with the administration of oral hydromorphone 10 mg/day, changing to continuous intravenous hydromorphone 3 mg/day considering adjustability. The next day, her pain was reduced, but the pruritus appeared. Administering oral and topical antihistamines was ineffective. Her pruritus tended to worsen with continued administration of continuous intravenous hydromorphone at the same dose. Hence we switched to fentanyl patch 0.6 mg/day. The following day, her pruritus significantly decreased, and two days later, her pruritus almost disappeared. This case suggests that opioids switching to fentanyl patch may be effective to relieve pruritus caused by hydromorphone.

緒言

苦痛症状の緩和のために用いたオピオイドでかゆみを引き起こすことがあり,患者にとって不快な症状となる.どのオピオイドがかゆみを誘発しやすいかは不明であるが,フェンタニルやモルヒネの脊髄くも膜下腔や硬膜外腔投与の方が経口投与や静脈内投与よりかゆみの発生率が高く,局所麻酔薬を併用しなければ全身にかゆみが生じうる.オピオイドがかゆみを誘発する機序として,肥満細胞に直接作用しヒスタミン放出を促進すること1や,近年では脊髄後角のオピオイド受容体が関係していることが明らかになりつつある2

オピオイドによるかゆみが生じた際,「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」によると,オピオイドスイッチングや外用薬が有用であると記載されている3

今回,ヒドロモルフォン内服製剤から,換算比でほぼ等量の持続静脈内投与に投与経路を変更後に難治性のかゆみが生じ,換算比で等量のフェンタニル貼付剤でかゆみが速やかに消失した症例を経験したので報告する.

症例報告

【症 例】80歳,女性

【既往歴・併存疾患】2型糖尿病,気管支喘息

【現病歴】2018年,膵がんに対し膵体尾部切除術を行った.2020年,膵頭部リンパ節転移による閉塞性黄疸が生じ,内視鏡的胆管ドレナージ術を行った.2022年,膵断端再発による背部痛が出現し,オキシコドンを開始したが背部痛の増悪や腹痛が出現し,痛みの緩和目的に緩和ケアチームに紹介となった.

【初診時の身体所見】Japan Coma Scale 0,黄疸あり

【臨床経過】(表1

表1 オピオイド投与量・日数とNRSの推移

オキシコドン内服製剤20 mg/日に増量し経過を診ていたが,腹痛や背部痛が増悪傾向であり,オキシコドンからヒドロモルフォンにスイッチングを行い,痛み治療を行うこととした.経過中,ヒドロモルフォン徐放製剤10 mg/日,ヒドロモルフォン速放製剤2 mgを1日3回使用も痛みの緩和が不十分であるため,調節性を考慮し,10月25日にヒドロモルフォン注射製剤3 mg/日(ヒドロモルフォン注射製剤2 mg2A+生理食塩水22 ml, 0.8 ml/h)に変更した.

翌日,ヒドロモルフォン注射製剤の同量の持続投与で痛みは軽減したが全身にかゆみが出現した.d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2 mg1錠1回/日を投与したが効果なく投与開始3日目には中止,また適宜ジフェンヒドラミンラウリル硫酸塩軟膏ではかゆみが多少軽減したが効果は持続しなかった.痛みの増悪はなくヒドロモルフォン注射製剤は3 mg/日と同量であり,レスキューも行っていなかったが,かゆみは増悪傾向で10月31日には入眠困難となった.11月2日にかゆみ改善目的のためフェンタニル貼付剤0.6 mg/日にスイッチングを行ったところ,翌日にかゆみが著明に軽減した.痛みの増悪はなかった.スイッチング2日後にはかゆみがほぼ消失した.

血液検査はヒドロモルフォン注射製剤に変更した当日,T-Bil 2.6 mg/dl, D-Bil 1.8 mg/dl, BUN 6.5 mg/dl, Cre 0.51 mg/dlであり,軽度ビリルビン値の上昇があったが以前と大きな変化はなかった.その後血液検査は11月8日後まで行わなかったが上記の検査値と著変はなかった.ヒドロモルフォン注射製剤への変更前後に発熱や右季肋部痛の出現はなく胆管炎再発は否定的であり,腎機能も保たれていた.また,皮疹や紅斑など皮膚症状はなく,H1受容体拮抗薬以外の新規の薬剤投与も行っていなかった.傾眠や徐呼吸は認めなかった.

考察

本症例で,以下の2点が示された.

・ヒドロモルフォン経口投与から換算比でほぼ等量の持続静脈内投与に変更するとかゆみが生じ得ること.

・ヒドロモルフォン注射製剤投与によるかゆみが生じた場合,フェンタニル貼付剤へのスイッチングが有効であること.

オピオイドによるかゆみの発生率はモルヒネの場合,経口投与で2%~10%,静脈内投与で10%~50%,脊髄腔内投与で20%~100%という報告がある1,4

モルヒネの全身投与(経口投与や静脈内投与)では主に肥満細胞に対して直接作用することにより脱顆粒を誘導し,ヒスタミンが遊離しかゆみが生じるため,治療はH1受容体拮抗薬が有効であるとされる1が,がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版ではオピオイドによるかゆみの治療法として投与経路の変更を含むオピオイドスイッチングや外用剤としては亜鉛華軟膏,サリチル酸軟膏や0.25%~2%のメントールの混合製剤が有用と記載されている3

またモルヒネやフェンタニルの脊髄腔内投与ではμ-オピオイド受容体を介してかゆみが生じるため,治療はμ-オピオイド受容体競合阻害薬であるナロキソンやκ-オピオイド受容体作動薬であるペンタゾシンやナルフラフィンが有効である2,5.ただ,サルにμ-オピオイド受容体作動薬(モルヒネ,フェンタニル,アルフェンタニル,レミフェンタニル)を静脈内投与すると用量依存性に全身性の掻き動作を引き起こし,ナロキソン投与で抑制されるとの報告6があり,オピオイドの全身投与も末梢や中枢のμ-オピオイド受容体が関係している可能性がある.したがって,オピオイドの全身投与によりかゆみが生じた場合はμ-オピオイド受容体競合拮抗薬やκ-オピオイド受容体作動薬が有効かもしれない.ただし,μ-オピオイド受容体競合拮抗薬の投与はオピオイドによる鎮痛効果が拮抗されて痛みが増悪する可能性がある.

ヒドロモルフォンとモルヒネは構造式が非常に似ているが,肥満細胞からのヒスタミン遊離作用はヒドロモルフォンやフェンタニルにはみられず,モルヒネにはあるとの報告がある7,8.今回ヒドロモルフォンとフェンタニルを使用しており,ヒスタミン遊離に伴うかゆみは生じにくいと考えられ,実際にH1受容体拮抗薬は効果がなかった.

ヒドロモルフォン内服製剤ではかゆみが生じず,注射製剤で生じた原因は明らかでないが,薬剤の血中濃度の変化の違いが関係している可能性がある.

内服製剤は服薬する都度,消化管吸収,初回通過効果等を経て血中濃度の変動を生じるが,持続静脈内投与においては定常に保たれる.

本症例について,ヒドロモルフォンが一定の血中濃度以上でかゆみが生じたと仮定すると,内服製剤においても血中濃度のピーク時にかゆみが生じる可能性があるが実際には認めなかったことから,濃度および時間依存的な条件により,注射製剤でのみ発現したことが考えられる.したがって,内服製剤を増量し続けていた場合にはかゆみを生じていた可能性はある.

また内服製剤から注射製剤への切り替えは,内服製剤が24%と低いバイオアベイラビリティであることを踏まえた換算によって実施したがかゆみが発現した.内服製剤の吸収が想定よりも低かった可能性があるが原因は不明である.

また,血液検査などから代謝・排泄能は保たれていたと考えられ,ヒドロモルフォンの代謝産物など薬物の蓄積は否定的であり,投与量の増量やレスキューをしておらず持続静脈内投与でかゆみが増悪した原因も不明である.

フェンタニルはμ-オピオイド受容体に非常に高い選択性があり,かゆみを引き起こすとされるμ1-受容体への作用もヒドロモルフォンより強いことが考えられたが,本症例では結果的にはかゆみを引き起こさなかった.貼付製剤は肝臓で初回通過効果は受けないが皮膚透過性の影響を受けるため,透過性を阻害する乾皮症や角化症など皮膚疾患があれば血中濃度が低下しかゆみが生じない可能性がある.ただ本症例では年齢相応の正常な皮膚の状態であり透過性による影響は受けないと考えられ,かゆみが消失した原因は明らかでない.

かゆみの軽減目的にオピオイドスイッチングを行い有効であった報告はわれわれが検索した範囲では認めなかった.

かゆみの伝達は主にC線維(一部はAδ線維)である9.したがって,神経障害性痛に有効であるガバペンチンが有効であるとの報告もある10.牛車腎気丸はC線維の活性化抑制やκ-オピオイド受容体に作用しオピオイドによるかゆみを軽減したとの報告がある11

結論

ヒドロモルフォン内服薬から持続静脈内投与への投与経路の変更によりかゆみが生じ,フェンタニル貼付剤にスイッチングすることでかゆみが消失した.

機序は不明であるが,ヒドロモルフォンでかゆみが生じた場合,フェンタニル貼付剤へのスイッチングが有効である可能性がある.

付記

本稿の要旨は,日本緩和医療学会第5回中国・四国支部学術大会(2023年8月 高松市)で発表した.

本症例を報告するに関して,患者から口頭および文書で同意を得ている.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

宮本は原稿の起草に貢献した.富山,渡部,橋本は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は研究構想もしくはデザイン,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
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