Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communication
A Survey on Osteoporosis Treatment for Cancer Patients Provided by Designated Cancer Hospitals in Japan
Shun Ishii Takuya FukushimaRyo KozuNoriaki MiyataJiro Nakano
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2024 Volume 19 Issue 1 Pages 59-66

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Abstract

【目的】本研究の目的は,全国がん診療連携拠点病院におけるがん患者の骨粗鬆症診療の実態を把握することである.【方法】WEBアンケートを用いた調査研究であり,泌尿器科,婦人科,血液内科,呼吸器内科,呼吸器外科,消化器内科,消化器外科の医師を対象に,各診療科のがん患者に対する骨粗鬆症の評価や治療の有無について調査した.【結果】婦人科,血液内科,乳腺外科,泌尿器科における,がん患者に対する骨密度測定や骨粗鬆症治療薬処方は実施率が高かった.その実施の選定基準としては,年齢,ホルモン療法,ステロイドの使用が多く挙げられた.【結論】診療科によって,がん患者に対する骨粗鬆症診療の実施や,実施の選定基準に違いが認められたため,骨粗鬆症に対する評価や治療の啓蒙が今後の課題であると考える.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to understand the details of osteoporosis treatment for cancer patients provided by designated cancer hospitals. Methods: This web-based survey included questions on the evaluation and treatment of osteoporosis in cancer patients provided by physicians in the departments of urology, gynecology, hematology, respiratory medicine, respiratory surgery, gastroenterology medicine and gastroenterology surfery. Results: The gynecology, hematology, breast surgery, and urology departments had high rates of bone densitometry and prescriptions of osteoporosis treatment for cancer patients. The most frequently used selection criteria were age, hormone therapy, and steroid use. Conclusion: Osteoporosis treatment and associated selection criteria for cancer patients is different in each department, so we need to educate the evaluation and treatment of cancer treatment-induced bone loss.

緒言

近年のがん医療の発展はめざましく,早期発見と治療の進歩によりがん全体の死亡率は1990年代後半から減少傾向となっている1.多くの治療で再発率の減少や生存期間の延長が期待できるが,その中の一つとして,乳がんに対するアロマターゼ阻害薬(aromatase inhibitor: AI),前立腺がんに対するアンドロゲン除去治療(androgen deprivation therapy: ADT)が挙げられる2,3.一方で,これらの治療により骨密度の低下や骨折の増加が惹起されることが知られている46.そのため,ADTやAIを受ける患者は原発性骨粗鬆症で既存骨折を有する患者と同等,あるいはそれ以上の骨折リスクを有していると推察される.このようながん治療に伴う骨量減少は,がん治療関連骨減少症(CTIBL)と呼ばれており,現行の骨粗鬆症治療の予防と治療ガイドラインに準拠した治療では予防しきれない骨折が発生する可能性が危惧され,「がん治療関連骨減少症(CTIBL)診療マニュアル」が作成されている7.また,ADTやAIといった治療以外にも,胃がんに対する胃切除術8や卵巣がんに対する卵巣摘出術9,乳がんに対する補助化学療法10,子宮頸がんに対する骨盤放射線療法11などの治療後は骨密度が低下することが報告されている.

さらに,本邦におけるがんに罹患した患者のうち高齢者が占める割合は72%と年々増加しており12,がん患者の高年齢化およびがん治療適用の高年齢化に伴い,骨粗鬆症を合併しているがん患者が増加していることが予想される.加えて,がん患者は低栄養や運動不足といった骨量減少の危険因子13を有していることも多い.そのため,がん治療を専門とする診療科においては,骨粗鬆症の評価,治療についても配慮した診療を行う必要がある.本邦において,骨密度低下を来たしやすい造血幹細胞移植後14の患者に対して,国立がんセンターでは,1年後に骨密度検査を予定しており,実施率は約80%であったことが報告されている15.しかし,それ以外にがん患者に対する骨粗鬆症診療の実態に関する報告は見当たらず,その実態は不明である.そこで今回,全国がん診療連携拠点病院におけるがん患者の骨粗鬆症診療の実態を把握することを目的として調査を行った.

方法

研究デザインと調査対象

本研究はWEBアンケートを用いた調査研究である.対象はわが国のがん診療連携拠点病院436施設に従事する乳腺外科,泌尿器科,婦人科,血液内科,呼吸器内科,呼吸器外科,消化器内科,消化器外科の医師とした.研究遂行に際し,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を受けた(承認番号:22031006).なお,アンケートへの回答をもって同意とみなした.

調査方法

2022年7月に病院長あてに研究内容の趣旨とアンケートのURLおよびQRコードが記載された説明書を郵送した.各診療科の対象者へは病院担当者を通じて説明書を配布してもらった.診療科に従事する医師の中で,その診療科の骨粗鬆症診療を最も把握している医師1名に回答を依頼し,記載されたURLまたはQRコードからWEBアンケートに無記名で回答してもらった.

調査項目

1. 施設および診療科の概要について

施設の種類(大学病院,がん専門病院,一般病院,その他),所在地(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州・沖縄),病床数(~300床,301~600床,601~1000床,1000床~),診療科(呼吸器内科,消化器内科,血液内科,呼吸器外科,消化器外科,乳腺外科,泌尿器科,婦人科)について尋ねた.

2. がん患者に対する骨粗鬆症診療について

各診療科のがん患者に対して,骨粗鬆症に関する検査や治療を行うことがあるかどうかを尋ねた.具体的には,骨密度測定の有無,定期的な骨密度測定の有無,骨代謝マーカー測定の有無,血清25水酸化ビタミンD濃度測定の有無,骨粗鬆症治療薬処方の有無について尋ねた.そして,骨密度測定,定期的な骨密度測定,骨粗鬆症治療薬処方を実施している施設に対して,その対象の選定基準についても質問した.骨密度測定の対象の選定基準は,骨密度低下に関連があると考えられる項目から選択してもらった.具体的には,年齢,骨折の既往,抗がん剤の使用,ホルモン療法の実施,ステロイドの使用の選択肢から複数回答してもらった.また,定期的な骨密度測定,骨粗鬆症治療薬処方の対象の選定基準は,前述の項目に骨粗鬆症(骨密度が若年成人平均値〈young adult mean: YAM〉の70%以下)13,骨量減少(骨密度がYAMの70%より大きく80%未満)を加えた選択肢から複数回答してもらった.

統計解析

設問の結果は単純集計にて解析を実施した.骨密度測定の有無,定期的な骨密度測定の有無,骨代謝マーカー測定の有無,血清25水酸化ビタミンD濃度測定の有無,骨粗鬆症治療薬処方の有無に関しては,回答を集計した後に,全回答者数で除することで割合を算出した.そして,診療科別の割合を比較検討した.また,骨密度測定,定期的な骨密度測定,骨粗鬆症治療薬処方を実施する対象の選定基準に関しては,回答した施設数を,診療科別に比較検討した.

結果

施設および診療科の概要(付録表1)

アンケートを送付した436施設のうち219名から回答があった.施設の種類は一般病院が110施設(50.2%)と最も多く,次いで大学病院が86施設(39.3%),がん専門病院が23施設(10.5%)であった.病院の規模としては,300床以上の中~大規模の施設が200施設(91.3%)であった.回答者の診療科は,呼吸器外科,呼吸器内科,泌尿器科が31名(14.2%)と最も多く,次いで乳腺外科が29名(13.2%),婦人科が28名(12.8%),消化器外科,消化器内科が27名(12.3%),血液内科が15名(6.8%)の順であった,

骨粗鬆症診療の実施状況(図1

がん患者に対する骨密度測定の有無に関して,48.9%の施設(n=107)が実施していると回答した.各診療科で比較すると,乳腺外科が最も実施率が高く(n=29, 100%),次いで婦人科(n=21, 75.0%),血液内科(n=10, 66.7%),泌尿器科(n=20, 64.5%)の順であった.呼吸器外科,呼吸器内科,消化器外科,消化器内科では40%未満の実施率であった.がん患者に対する定期的な骨密度測定の有無に関して,40.2%の施設(n=88)が実施していると回答した.各診療科で比較すると,乳腺外科が最も実施率が高く(n=28, 96.6%),次いで婦人科(n=19, 67.9%),泌尿器科(n=15, 51.7%),血液内科(n=7, 46.7%),の順であった.呼吸器外科,呼吸器内科,消化器外科,消化器内科では20%未満の実施率であった.骨代謝マーカー測定の有無に関して,27.9%の施設(n=61)が実施していると回答した.すべての診療科において50%未満の実施率であった.血清25水酸化ビタミンD濃度測定の有無に関して,10.0%の施設(n=22)が実施していると回答した.すべての診療科において20%未満の実施率であった.骨粗鬆症治療薬処方の有無に関して,66.2%の施設(n=145)が実施していると回答した.各診療科で比較すると,血液内科が最も実施率が高く(n=15, 100%),次いで乳腺外科(n=27, 93.1%),呼吸器内科(n=27, 87.1%),婦人科(n=20, 71.4%),泌尿器科(n=19, 61.3%)の順であった.呼吸器外科,消化器外科,消化器内科では50%未満の実施率であった.

図1 各診療科におけるがん患者に対する骨粗鬆症に関連する検査や治療の実施率の比較(n=219)

骨密度測定を実施する対象の選定基準(図2

骨密度測定は107名が実施していると回答し,診療科別の内訳は婦人科21名,血液内科10名,呼吸器外科2名,呼吸器内科12名,消化器外科8名,消化器内科5名,乳腺外科29名,泌尿器科20名であった.選定基準に年齢を挙げた診療科は婦人科(n=19),乳腺外科(n=13),泌尿器科(n=12)の順で多く,ホルモン療法の実施を挙げた診療科は婦人科(n=10),乳腺外科(n=29),泌尿器科(n=17)の順で多かった.また,選定基準にステロイドの使用を挙げた診療科はが血液内科(n=8),泌尿器科(n=13)の順で多かった.

図2 各診療科におけるがん患者に対して骨密度測定を実施する選定基準(n=107)

定期的な骨密度測定を実施する対象の選定基準(図3

定期的な骨密度測定は88名が実施していると回答し,診療科別の内訳は婦人科19名,血液内科7名,呼吸器外科3名,呼吸器内科6名,消化器外科6名,消化器内科4名,乳腺外科28名,泌尿器科15名であった.選定基準に骨粗鬆症を挙げた診療科は婦人科(n=17),乳腺外科(n=15)の順で多く,骨量減少を挙げた診療科は婦人科(n=16),乳腺外科(n=13)の順で多かった.また,選定基準に年齢を挙げた診療科は婦人科(n=12),乳腺外科(n=10)の順で多く,ホルモン療法の実施を挙げた診療科は乳腺外科(n=28),泌尿器科(n=14)の順で多く,ステロイドの使用を挙げた診療科は泌尿器科(n=10)で最も多かった.

図3 各診療科におけるがん患者に対して定期的な骨密度測定を実施する選定基準(n=88)

骨粗鬆症治療薬を処方する対象の選定基準(付録図1)

骨粗鬆症治療薬処方は145名が実施していると回答し,診療科別の内訳は婦人科19名,血液内科15名,呼吸器外科11名,呼吸器内科8名,消化器外科9名,消化器内科6名,乳腺外科24名,泌尿器科11名であった.選定基準に骨粗鬆症を挙げた診療科は婦人科(n=19),乳腺外科(n=24),泌尿器科(n=11)の順で多く,骨量減少を挙げた診療科は婦人科(n=12),乳腺外科(n=12)で多かった.また,選定基準にホルモン療法の実施を挙げた診療科は乳腺外科(n=14),泌尿器科(n=13)の順で多く,ステロイドの使用を挙げた診療科は血液内科(n=13),呼吸器内科(n=17)の順で多かった.

考察

本研究では,全国がん診療連携拠点病院におけるがん患者の骨粗鬆症診療の実態を把握することを目的として,アンケート調査を行った.その結果,骨代謝マーカー測定や血清25水酸化ビタミンD濃度測定の実施率と比較して,骨密度測定や定期的な骨密度測定,骨粗鬆症治療薬処方の実施率が高かった.わが国の骨粗鬆症の予防と診療ガイドラインでは,a)椎体骨折または大腿骨近位部骨折あり,b)肋骨,骨盤,上腕骨近位部,橈骨遠位端,下腿骨の脆弱性骨折があり,かつ骨密度がYAMの80%未満,c)骨密度がYAMの70%以下または−2.5SD(標準偏差)以下,が骨粗鬆症の診断基準となっている13.骨代謝マーカーや血清25水酸化ビタミンD濃度は骨粗鬆症の診断基準に含まれていないため,その実施率が低かったことが推察される.さらに,骨密度測定は骨粗鬆症の診断や経過観察に対して4カ月に1回の頻度で算定可能であるが,骨代謝マーカー測定は代謝整骨疾患や骨転移の診断がついていることが必須であり,6カ月に1回の頻度でしか算定できないといった保険診療上の制限も関連していることが推測される.

各診療科で比較すると,骨密度測定や定期的な骨密度測定の実施率は,婦人科,血液内科,乳腺外科,泌尿器科で高かった.そして,それらの診療科では,骨密度測定を実施する選定基準としてホルモン療法の実施やステロイドの使用が多く挙げられた.婦人科の治療においては,卵巣摘出術後にエストロゲンレベルの低下に伴う骨密度が低下することが報告されている9.そのため,欧米では婦人科がんの治療後にホルモン補充療法を奨めており16,17,わが国でも子宮頸がん治療後のホルモン補充療法は,『子宮頸癌治療ガイドライン2022年度版』において「メリット・デメリットを十分に説明したうえで行うことを推奨する.」と記載されている18.つまり,婦人科において卵巣摘出術後に骨密度を測定し,その後ホルモン補充療法を実施する場合が多く,ホルモン療法の実施を選定基準とした骨密度測定を実施する割合が高いことが推察される.

血液腫瘍患者において65%に骨量減少が認められたことが報告されている19.また,血液腫瘍の一つである多発性骨髄腫は,病変の主座が骨髄にあり,骨吸収が亢進し骨形成が抑制される20.さらに,造血幹細胞移植後の患者は,移植後12~18カ月の時点で,患者の1/3が骨量減少,約10%が骨粗鬆症であることが報告されている14.このように血液腫瘍患者は骨量低下を来しやすいことが認められている.また,血液内科の治療においては,化学療法21や造血幹細胞移植後の移植片対宿主病に対する治療としてステロイドが使用されることが多い22.そのため,血液内科において,骨密度測定の実施率が高く,骨密度測定を実施する選定基準としてステロイドの使用が多く挙げられたと推察される.

乳がんにおいては,ホルモン療法の一つであるアロマターゼ阻害薬を使用することにより,骨密度低下や骨折リスクが増大することが多数報告されている2326.そのため,乳腺外科において,骨密度測定の実施率が高く,骨密度測定を実施する選定基準としてホルモン療法の実施が多く挙げられたと推察される.

前立腺がんにおいても,ホルモン療法の一つであるアンドロゲン除去療法により,骨密度低下や骨折リスクが増大することが多数報告されている6, 2730.さらに,前立腺がんに対する化学療法はステロイドも併用することも多く,そのステロイドの使用に伴い骨密度低下を来たすことも報告されている31.そのため,泌尿器科において,骨密度測定の実施率が高く,骨密度測定を実施する選定基準としてホルモン療法の実施やステロイドの使用が多く挙げられたと推察される.加えて,前立腺がんは65歳以上の罹患者数が86.1%を占め,高齢者の罹患者数が上位の疾患である12ことも,骨密度測定の実施率が高い要因の一つであることが考えられる.

骨粗鬆症治療薬処方に関しては,血液内科,乳腺外科,呼吸器内科,婦人科,泌尿器科の実施率が高く,実施する選定基準として骨粗鬆症や骨量減少,ホルモン療法の実施,ステロイドの使用が多く挙げられた.前述のように血液腫瘍,乳がん,婦人科がん,前立腺がん患者は,その病態や治療により骨密度低下を来たしやすいため,骨密度を測定して,骨粗鬆症や骨量低下に対して骨粗鬆症治療薬を処方していることが推察される.とくに,乳がんや前立腺がんにはホルモン治療を行うことが多く,血液腫瘍の治療にはステロイドを使用することが多いため,乳腺外科,泌尿器科の骨粗鬆症治療薬処方の選定基準にはホルモン療法の実施が多く挙げられ,血液内科の骨粗鬆症治療薬処方の選定基準にはステロイドの使用が多く挙げられたと考えられる.しかし,多発性骨髄腫の治療21や,肺がんに生じることが多い骨転移の治療32にも,骨粗鬆症治療薬は使用されることが多い.そのため,血液内科や呼吸器内科の骨粗鬆症治療薬処方の実施率が高値であった可能性も否定できない.

わが国では2020年に「癌治療関連骨減少症(CTIBL)診療マニュアル」が作成されて,乳がんや前立腺がんなどのホルモン除去治療を受ける担がん患者には骨粗鬆症の評価を行うことが推奨されている7.そして,骨粗鬆症と診断された場合には骨粗鬆症治療薬の投与を開始し,骨粗鬆症でない場合でも1~2年ごとの骨密度の評価が推奨されている7.今回の結果では乳腺外科においては,骨密度測定や骨粗鬆症治療薬処方は90%以上の高い実施率であったが,それと比較すると泌尿器科の実施率は60%前後のやや低い実施率であった.泌尿器科の治療対象はホルモン除去治療が適応となる前立腺がんのみではないため,このような結果になった可能性が考えられる.

また,呼吸器外科,呼吸器内科,消化器外科,消化器内科においては,がん患者に対する骨密度測定の実施率が低値であった.アメリカの国民健康栄養調査データベースを分析した調査では,がん患者は非がん患者よりも骨密度が低下し,とくに乳がん,泌尿器がん,皮膚がん,肺がん患者の骨量減少が著明であると報告されている33.つまり,肺がん患者に対しても骨粗鬆症の評価や治療を行う必要があると考えられる.また,低栄養や体重減少も骨粗鬆症の要因の一つである13.胃がん切除後の患者は骨密度が低下することが報告されている8が,その原因の一つとして胃切除に伴う食事量の減少や栄養吸収能の低下が考えられる.このように消化器疾患は骨粗鬆症を来たしうることも多く,消化器がん患者に対しても骨粗鬆症の評価や治療を行う必要があると考えられる.しかし,今回はがん治療を行う診療科で実施する骨粗鬆症診療についてのみ調査を行っており,骨粗鬆症の評価や治療を他科(整形外科等)と連携して行っているかどうかまでは明らかとなっていない.つまり,本調査において骨密度測定や骨粗鬆症治療薬処方の実施率が低値であったとしても,必要な患者を選定し,他科に紹介して骨粗鬆症の評価や治療を実施している可能性がある.今後は,他科との連携も含めて,がん患者の骨粗鬆症診療の実態を調査する必要がある.

本研究の限界として,いくつかの点が挙げられる.第一に,病院長あてに説明書を郵送し,病院担当者より各診療科へ配布してもらっているため,各診療科の母数および回収率が不明となっている(対象の診療科を標榜していない病院は全診療科へ配布できていない).しかし,回答対象診療科は代表的な原発診療科であり,ほとんどのがん診療連携拠点病院が標榜していることが予測されるため,その回収率は非常に低いことが予想される.そのため,本研究の結果は必ずしもわが国のすべてのがん診療連携拠点病院の現状を反映していると結論づけるには至らないと考えられる.今後は目標回答数の設定および,リマインドなどの回答率向上のための手段の設定が必要である.第二に,本研究では骨粗鬆症のリスクが予想されるがん患者を対応する8診療科を調査対象としたが,対象の診療科以外にもがん患者の診療を行う診療科も存在し,さらには腫瘍内科や緩和ケア科などが骨粗鬆症診療のフォローを行っている可能性がある.さらには,整形外科に紹介して骨粗鬆症診療のフォローを行ってもらっている場合も考えられるが,本研究ではその点は調査できていない.そのため,がん患者における骨粗鬆症に対する診療の実態を十分に反映できていない可能性が高い.最後に,複数の診療科に対して同一の内容を質問している.そのため,ホルモン療法やステロイドの使用が適応とならない疾患を主体とする診療科に対しては質問内容が不適切であった可能性がある.

結論

本研究では,全国がん診療連携拠点病院におけるがん患者の骨粗鬆症診療の実態を把握することを目的として,アンケート調査を行った.その結果,婦人科,血液内科,乳腺外科,泌尿器科における,がん患者に対する骨密度測定や骨粗鬆症治療薬処方は実施率が高かった.その実施の選定基準としては,年齢,ホルモン療法,ステロイドの使用が多く挙げられた.診療科によって,がん患者に対する骨粗鬆症診療の実施や,実施の選定基準に違いが認められたため,骨粗鬆症に対する評価や治療の啓蒙が今後の課題であると考える.

謝辞

本研究を実施するにあたり,ご理解とご協力をいただき,質問紙を返答くださいました皆さまに深く感謝申し上げます.

研究資金

本研究は,公益社団法人がん研究振興財団がんサバイバーシップ研究支援事業(令和3年度:高齢がんサバイバーの「骨の健康」を支援する多施設連携システム構築に向けた実態調査)の助成による研究の一部である.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

石井は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.福島,神津,宮田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.中野は研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2024 Japanese Society for Palliative Medicine

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