2024 Volume 19 Issue 1 Pages 77-81
近年,非がん疾患に対する緩和ケアの重要性が強調されているが,非がん患者に対する緩和ケアチームの介入は少ない.そこで,本研究では当院(大阪府堺市にある678床の大阪労災病院)の緩和ケアチームの介入を集計し活動内容を明らかにすることとした.当院で2019年4月から2023年3月までに緩和ケアチームに依頼があった非がん患者のカルテを調査し,緩和ケアチーム介入件数(総件数,非がん件数),介入期間,患者の性別,年齢,依頼内容,介入後の結果,提案の受け入れ状況,および多職種カンファレンス参加と検討内容を集計した.対象患者は64名で,依頼を出した診療科は循環器内科が42名と最多だった.依頼症状は呼吸困難,疼痛,倦怠感の順に多かった.多職種カンファレンスの参加依頼は22名,検討内容は鎮静が9件で最多だった.本研究より,チームの周知活動,主治医の参加,非がん疾患の勉強会開催が依頼増加の要因と推測された.
In Japan, palliative care has mainly involved patients with cancer. However, palliative care should be provided for patients with other diseases. In addition, the need for palliative care for patients with medical conditions other than cancer is expected to increase with the aging population. Few reports have been published regarding palliative care team activity for patients with other medical conditions in Japan; accordingly, we meticulously scrutinized our team activity records and identified 64 cases from April 2019 to March 2023 in Osaka Rosai Hospital with 678 beds: the number of consultations, durations of interventions, patients’ demographics, request details, reactions from clients, and requests for interprofessional conference participations. Consequently, 42 cases out of all 64 cases, cardiology was the most common department and dyspnea, pain, and fatigue were frequently requested symptoms. The most frequent issue of interprofessional conferences was about continuous sedation. We recognized the need for timely publicity, easy access to the palliative team, success experiences of clients, and study groups to learn non-cancer diseases for penetration of palliative care activity.
わが国における緩和ケアは主にがん患者を中心に行われている.しかしWHOによる緩和ケアの定義では「生命を脅かす疾患」とされており1),非がん患者も対象であるが,非がん疾患の緩和ケアに対する不足を指摘されている.例えば,日本緩和医療学会登録チームの非がん患者割合は2011年度の2.6%から2022年度は6.0%と微増傾向ではあるが2),アメリカのデータでは,2019年度にメディケアでホスピス利用したがん死亡者割合は4.9%,一方認知症,パーキンソン病死亡者だけで20.9%に達していることと対照的である3).本邦の緩和医療学会代議員を対象とした報告では,医療従事者の87%が非がん疾患への緩和ケアが必要と考えているが十分に緩和ケアが提供されていないこと,非がん疾患では後天性免疫不全症候群と末期心不全のみが診療加算対象であること,対象疾患の診療の不慣れ,症状緩和のための薬物療法の適応外使用などが非がん患者への介入の障壁になっていると指摘された4).
本研究は,本邦で非がん患者に対するチーム介入の長期の活動を報告したものはないことから,大阪労災病院(以下,当院)の緩和ケアチームにおける非がん疾患への介入の実際を集計し,緩和ケアチーム活動拡充に果たす要因と今後の課題について検討し,明らかにすることとした.
当院では,依頼者からチームへ介入依頼書の提出か,直接の電話で介入を開始し,平日は毎日チームラウンドを実施している.非がん疾患について,当院緩和ケア科が新体制となった2018年と,2021年に再度緩和ケアチームの対象疾患と,対象・非対象を問わず介入が可能であることを記載した文書を全病棟に配布し周知を図った.
研究対象2019年4月~2023年3月に緩和ケアチームに依頼があった非がん患者のカルテを後方視的に集計した.
調査内容緩和ケアチーム介入件数(総件数,非がん件数),介入期間,性別,年齢,原疾患,診療科,介入を依頼する方法,依頼内容,チームが提案した事項,介入後の結果,提案の受け入れ状況(全く,または部分的に受け入れた,全く受け入れなかった場合はその理由),依頼者(医師,看護師),多職種カンファレンス参加と検討内容を調査した.介入後の結果はNumerical Rating Scaleで3以上,Face Scaleで4以上(ともに10段階)の改善,またはカルテ記載で患者本人の発言か医療者が改善したと評価したカルテ記載があったものを症状改善と判断した.
データ分析統計解析は,依頼件数の年度別件数はχ2検定,個人の依頼件数の検定はウェルチのt検定を使用.有意性は p<0.05とした.解析には統計ソフトR version 3.5.2を使用した.
当研究は当院の看護研究・倫理委員会の承認を得て行った.
患者背景を 表1に示す.対象患者は64名(男性32名,女性32名)で年齢は79.7±13.8歳(平均±標準偏差,以下同様),介入期間は16.7±27.8日であった.年度別の非がん患者割合は,2019年度が全緩和ケアチーム介入291名中6名(2.1%),2020年度299名中9名(3.0%),2021年度397名中12名(3.0%),2022年度は457名中37名(8.1%)であった( p<0.01).
依頼した診療科は循環器内科が最も多く42名で全体の65.6%,心臓血管外科を含めた循環器疾患でまとめると70.3%を占めた.緩和ケア診療加算対象の末期心不全は13名で循環器疾患の28.9%だった.
緩和ケアチームに依頼された症状の内容は,83件(複数症状はのべ件数として集計)であった.身体症状は呼吸困難36件,疼痛21件,倦怠感11件の順だった.精神症状はせん妄が8件(12.5%)であった.ラウンドとは別に多職種カンファレンスに参加依頼があったものは22名(34.4%)で,検討内容(のべ件数)は鎮静が最多の9件(40.9%),次いでケア・治療方針の検討7件(31.8%),症状コントロール5件(22.7%)だった.その他,近親者が不在の代理意思決定,療養場所の選択,家族ケアが各1件で検討された( 表2).チームから提案した事項のべ99項目のうち,オピオイド導入または投与量の変更が最多だった(50.0%)(表3).緩和ケアチームの介入を依頼する方法は23名(35.9%)が所定の依頼書の提出,41名(64.1%)が電話による依頼であった.
緩和ケアチームから提案した事項の受け入れ状況は,すべて受け入れが42名(65.6%),一部受け入れが14名(21.9%)で両者を合わせると87.5%だった.提案した事項を全く受け入れられなかった8名は,4名が依頼から数時間以内に患者死亡,2名が自覚的な苦痛がないか不明,1名が主治医判断,1名はスタッフが困っていないためであった.緩和ケアチーム介入後に35名(54.7%)が改善していた.
依頼者は45名で,職種別では医師15名,看護師30名だった.医師一人当たり1.5±0.7回,看護師では1.4±0.9回の依頼回数で,職種で一人当たりの依頼回数に差はなく( p=0.80),医師( p=0.99)および看護師( p=0.96)で特定の個人の依頼が多いとは言えなかった.チームラウンドに病棟看護師だけでなく主治医も参加した患者は46名(71.9%)だった.回診の主治医同席と多職種カンファレンス参加依頼の両方があった患者は17名で,回診の同席とカンファレンス依頼の頻度に差は認めなかった( p=0.69).また,カンファレンス依頼がなく回診に主治医が参加した際の相談内容にも鎮静が3名,症状コントロールが2名含まれていた.
当院の非がん患者の緩和ケアチーム介入の結果から,すべての緩和ケアチーム依頼の非がん患者の割合は2021年度以前の2.1%~3.0%から2022年度の8.1%と増えていた.
依頼件数が増えた要因として,日常がん疾患を扱うことがほとんどない循環器内科や腎臓内科などのスタッフにも,緩和ケアチームの存在と役割,緩和ケアチームの活動内容の広報を複数回行ったこと,単に情報提供だけでなく病棟で継続的に活動を行っていること,主治医のラウンド参加や,当科の短期の活動評価,改善の一環5)で院内の勉強会参加者の要望に応えて2021年9月に心不全の勉強会を行うなど,チームラウンドへの参加のしやすさや緩和ケアの興味が高まるように努め,その結果依頼される件数が増えたと推測した.さらに基本的かつ重要な点として,介入の結果,専門の科で難渋する症状でも半数以上で改善が得られたという成功体験が肝要と考えられた.
問題点として,やはり非がん患者では適切な介入時期が判りにくい,つまり致死的な不整脈や感染などにより急激に状態が変化することがあり4,6,7),当院のケースでもチームの提案した事項が全く反映されなかった患者の半数は介入数時間後に最期を迎えており,非がん患者の6.3%だった.緩和ケアの介入依頼の基準を用いる最多の理由が「late referral」であったなど,緩和ケアチームへの依頼がしばしば遅過ぎるとする海外の報告があり8,9),当院でも同じ状況で,予後の短い患者への十分な症状緩和ができていない可能性がある.これは緩和ケアチームが機敏に対応できる体制が重要で,迅速かつ細かな情報を伝えやすい電話での依頼が多いことからも示唆されたが,それでも主治医の回診参加と多職種カンファレンスの検討内容に重なる部分も多く,やはり依頼のタイミングや,チームの活用にさらに検討が必要だと思われた.また,他の報告にもあるように10),以前当院から報告した緩和ケアチーム介入がん患者の平均年齢は72歳±11.4歳で11),解析対象の基準が異なることから単純な比較はできないが,非がんの緩和ケア患者の方が高齢となりやすく,介入がより難しくなる可能性がある.
最後に,当院は急性期病院のため,今後非がん患者の緩和ケアニーズは拡大していくことが予想される12,13).2023年時点では,心不全の適切な治療が行われ,New York Heart Association分類IV度,かつ年に2回以上の急変時の入院が必要で,加えて左室駆出率20%以下か終末期と判断される場合に診療報酬が認められている.しかし,例えば緩和ケアの必要がありながら加算要件を満たさない心不全も多く,他院の報告で加算が取れた心不全の依頼患者は168例中14.8%13),当院の場合もすべての非がん患者のうち20.3%(13/64)であり,診療報酬の加算を請求できない非がん疾患の患者に専門的な緩和ケアが提供されることが求められている.
この研究の限界として,本研究は単一施設での活動報告であり,当院の結果や示唆を一般化できない.また,非がん疾患患者の症状を評価する指標を厳密に設定しないことで,緩和ケアチームの介入効果が正確に測定できていない可能性が高いことが挙げられる.
当院の非がん疾患の緩和ケアチーム介入依頼は循環器疾患が最も多く,緩和ケアチーム活動の繰り返した周知活動,活動への主治医の参加のしやすさ,非がん疾患の勉強会を開催することで依頼が増えたと推測された.
本研究は大阪労災病院緩和ケアチームメンバーのウォン政代,濱沢智美,奥田ゆり子,任幹夫の協力を得て実施された.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
藤村は研究の構想,データの収集,解釈,原稿の起草に貢献した.河鰭はデータの分析,解釈,知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終認証,および研究の説明責任に同意した.