2024 Volume 19 Issue 2 Pages 115-119
【目的】地域がん診療連携拠点病院かつ緩和ケア病棟を有さない急性期病院の当院で,緩和ケア科の外来患者の受診状況を精査することでアンメットニーズを探索し,よりよい外来体制の構築の示唆を得た.【方法】2020年4月から2023年3月の当院緩和ケア科患者の受診件数のべ3136件を対象とし,緩和ケア外来の予約外受診,救急搬送,救急入院の頻度やその受診理由を後ろ向きに調査を行った.【結果】当院緩和ケア外来の予約外受診は630件(20.1%)で,その74.0%は平日日勤帯であった.全受診機会のうち,救急入院に至ったのは347件(11.1%),予約外受診に限ると48.4%が救急入院で,その56.5%は救急車による来院だった.【結論】がん患者の急変に備え,24時間の受け入れ体制を構築することは重要であることが示唆された.入院に至りやすい症状を患者・家族に伝えておくことは,受診を判断するうえで助けになる可能性があった.
Aims: To explore unmet needs and enhanced outpatient care functions of palliative care for patients with cancers, scrutinized records of outpatient visits in acute care and regional designated cancer hospital. Methods: A retrospective study was made for a total of 3136 consecutive visits from electronic records between April 2020–March 2023. Results: There were 630 unscheduled visits (20.1%) with 74.0% of them occurring during working hours; a quarter of unscheduled visits were after-hours. Of the total visits, 347 visits (11.1%) resulted in emergent admissions, and of the unscheduled visits, 305 cases (48.4%) were emergent admissions. Ambulances were called in 196 cases (56.5%) of emergent admissions. Moreover, the reasons for unscheduled visits statistically differed from reasons for non-admission cases (p<0.01). Conclusion: Patients’ illness trajectories and our results revealed that palliative care patients with cancers often experience unexpected physical and mental changes. To establish more effective outpatient care, we should construct structures to be available 365 days a year for palliative care patients and to instruct patients and their care givers in advance about warning signs for admission and how to access medical services.
わが国でがん治療の場は入院から外来へ移行してきており,症状や治療の副作用のコントロールを通院しながら行うようになってきている1).これに伴い,2008年にがん診療連携拠点病院の指定要件の見直しが行われ,外来で専門的な緩和ケアを提供できる体制の整備が挙げられた.しかし,具体的に緩和ケア外来に求められる役割についての量的指標はなく2),現時点では緩和ケア外来の診療時間,新規症例数,診療日などを緩和ケア提供体制の実地調査チェックリストに入れることが検討されている段階である3).
救急車の要請が有料であるなど,様々に日本とは医療制度の異なる海外では,緩和ケアを受けている外来患者の救急部の受診が本来避けられた受診だったかを検討した報告は複数あるが4–6),本邦では各施設の外来診療での取り組み成果,質的問題点を検討した報告は散見されるが7,8),数年にわたって緩和ケア科の患者の予約外受診や救急部受診がどのような状況だったのかを調査した報告はない.そこで今回,大阪労災病院(以下,当院)の緩和ケア科のアンメットニーズを把握し診療体制を改善するために,緩和ケア外来の予約外受診,救急搬送,救急入院の頻度やその受診理由を調査した.
当院は緩和ケア病棟を有さない地域がん診療連携拠点病院である.当院緩和ケア外来では,がん治療中の症状コントロールの併診,およびがん治療を行わない患者では主科として定期的な外来診察を担っている.緩和ケア科が主科となる場合,初診時に緩和ケアや当科のスタンスの説明を行っている(以下,面談外来).
祝日を除く月曜日から金曜日の9時から17時で外来診療を行い,予約外受診・救急入院の対応は,緩和ケア科が主科となっている患者では平日の時間内は常勤緩和ケア医2名が,休日・夜間などの時間外は当直医師が対応する.併診時の患者の場合はがん治療の主科が対応し,入院中に当科が併診となる.
対象2020年4月から2023年3月の当院における緩和ケア科に通院した患者786名,受診機会件数のべ3136件を対象とし,電子カルテから後ろ向きに調査した.
調査項目受診機会として予約通りと予約外の緩和ケア外来,および時間外の救急外来の受診をカウントした.カルテレビュー者は,カルテから三つまでの受診理由を決め,さらに受診時の救急車の利用の有無,全身状態の評価としてEastern Cooperative Oncology Group Performance Status(PS)をカルテ記載があればそれを,ないものはカルテレビュー者がカルテ記載から評価した.カルテレビュー者と統計処理者は別人とした.
データ分析統計ソフトR version 4.3.2を使用し,PSの2群間の比較はウェルチのt検定,入院の有無に対する従属変数のオッズ比は入院なしを基準としたロジスティック回帰分析を用いた.フィッティングはReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線からArea Under Curve(AUC)を求めて評価.有意水準は5%とした.
倫理的配慮当研究は,当院の看護研究・倫理委員会の承認を得て行った.
表1に対象患者の初診時の背景を示す.男性399名(50.8%),女性387名(49.2%)で,初診時の患者年齢は75.6±11.3歳(平均±標準偏差,以下同様),原発巣は消化器がんが最多で34.4%を占めた.PSの平均は2.3±1.0で,受診理由の最多は面談受診だった(67.8%).
当院緩和ケア外来受診患者の総受診機会3136件のうち,緩和ケア科で対応した平日の日勤帯の受診は2972件(94.8%)で,夜間,土日祝日の救急部受診は164件(5.2%)であった.
2. 定期受診と予約外受診予約通りの診療件数は2506件で全受診の79.9%で,患者のPSは2.0±1.0であった.予約外受診は20.1%(630件)で患者のPSは2.8±0.9となり,定期受診時のPSとは有意差を認めた(p<0.01).予約外受診している患者の74.0%(466件)は平日の日勤帯に来院していたが,26.0%(164件)の患者は夜間や休診日の診療時間外に来院しており,このときのPSは日勤帯受診者が2.7±0.9,時間外受診が3.1±0.7で,後者が有意にPSは悪かった(p<0.01).
救急車の利用状況救急車の利用は220件(7.0%)で,緩和ケア科で対応したものは108件(49.1%),時間外に救急部で対応したものは112件(50.9%)だった.予約外受診では34.3%(214件)が救急車を利用しており,救急入院となった患者の56.5%(196件)が救急車を利用していた.時間内,時間外受診の別では,救急車使用の患者のPSはそれぞれ3.3±0.5, 3.4±0.6で違いを認めなかった(p=0.57).
救急入院の状況当院の緩和ケア外来受診の11.1%(347件)は入院に至っており,救急入院は当科入院の87.9%(305件)を占めた.予約外受診に限ると48.4%が救急入院となり,このときの患者のPSは3.2±0.6だった.
受診状況と受診理由受診状況と受診理由を表2に示す.これらのうち,入院の有無で性別および面談外来を除く頻度の多い六つの受診理由(疼痛,倦怠感,食思低下,呼吸困難,不安,発熱,意識レベル低下,浮腫)で比較すると,性別(p=0.09)と浮腫(p=0.27)では有意差を認めず.有意差を認めたもののうち,疼痛(オッズ比(OR)0.60))と不安(OR0.30)以外の倦怠感(OR3.71),食思低下(OR3.43),呼吸困難(OR4.49),発熱(OR17.70),意識レベル低下(OR134.00)で有意に入院に多かった(表3).適合度をROCのAUCで評価すると0.84であった.
疾患の軌跡からも示されているように,がん患者の症状が急速に悪化することはよくあり9),月曜から金曜まで毎日外来を開設している当院でも患者の受診機会の5件に1件は予約外受診であり,患者の約5%は時間外受診であった.また,予約外受診の患者は予約通りの患者に比べPSは悪く,予約外受診の中でも日勤帯より時間外受診の患者のPSがより悪かった.さらに予約外受診患者の約半数が救急入院に至っており,当院緩和ケア科の患者は症状の悪化により止むを得ず時間外受診をしていることが示唆された.加えて,救急車の利用は予約外受診の1/3超,全受診の7%となっており,緩和ケア科の外来患者に救急車対応のニーズがあることが示された.当院においては受診歴のある患者については24時間受け入れをしているが,当科だけで24時間365日対応することは難しく,時間外受診については救急部のサポートを得ながら対応している.当院で体制を整えることができた背景として,普段のコンサルテーション活動や勉強会を通じて院内で専門的緩和ケアの必要性を浸透させてきたことが大きいと考えている10,11).
国内の全国調査の結果では,日本ホスピス緩和ケア協会が2018年に実施したアンケート調査で,再診時の救急受診は約9割の病院が救急受診を可能と回答していた12).しかし,これは診療時間中か時間外受診かの区別はされておらず,2022年に施行された緩和医療学会主導のアンケート調査では夜間休日含めていつでも受診対応を行っているがん診療連携拠点病院は24.7%と乖離を認めている13).これら調査結果の乖離は,前者で診療時間外の受診を含めていないか,回答した病院にセレクションバイアスがあった可能性があるが,いずれにせよ後者の数値ではいつでも受診できる体制が整っているとはいえない現状である.
一方,患者・家族の視点では,在宅療養中の進行がん患者の介護者の準備状況に対して教育プログラムの有効性を示した海外の研究があり14),当院で予約外受診の3/4は日勤帯で,夜間はより状態の悪い患者が多かったことから,例えば意識レベルの低下や発熱,呼吸困難,倦怠感などの症状が入院に至りやすいということを事前に患者・家族に伝えておくことは,余裕をもった受診や,望まれない入院にならないようにするためには重要であると思われた.
この研究の限界として,本研究は単一施設での後ろ向き研究であり,当院の結果や示唆を一般化できないことが挙げられる.また,当院は急性期病院における緩和ケア科のため,状況変化時の対応はしやすいが,療養そのものが目的の病院とは対応が異なることも予想される.
緩和ケア外来に通う患者がいつでも受診でき,救急車の受け入れ可能な体制を整備することは患者・家族にとって重要であったことが示唆された.また,限られたリソースを有効活用するために,入院に至りやすい症状について事前に伝えておくことは,患者・家族が受診に行くかを判断するうえで助けになる可能性が考えられた.
本研究は大阪労災病院緩和ケア科メンバーの藤村敦子,濱沢智美,奥田ゆり子,任幹夫の協力を得て実施されており,ここに謝意を表す.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
ウォンは研究の構想,データの収集,解釈,原稿の起草に貢献した.河鰭はデータの分析,解釈,知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終認証,および研究の説明責任に同意した.