Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Development of a Scale to Measure Nursing Practices in End-of-life Care (ELNEC-J P)
Tomoyo Sasahara Ryota OchiaiSayaka Takenouchi
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2024 Volume 19 Issue 3 Pages 181-187

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Abstract

【目的】本研究の目的は,エンド・オブ・ライフ(EOL)ケアに関する看護実践測定尺度の開発を目指し,その信頼性と妥当性を検討することである.【方法】4病院の,前年度死亡患者数10名以上の病棟に勤務する看護師を対象に無記名自記式質問紙調査を行った.【結果】探索的因子分析の結果,18項目からなる1因子構造の尺度が同定された.Cronbachのα係数は0.95であり,十分な内的一貫性が認められた.EOLに関する教育の有無などによる尺度得点の比較により,既知集団妥当性が示された.【考察】今回開発した看護師のEOLケア実践評価尺度は,内的一貫性と既知集団妥当性を有することが確認された.本尺度の活用により,看護師のEOLケア実践やEOL教育効果の測定が可能となる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to develop a scale to measure nursing practice in end-of-life (EOL) care and examine its reliability and validity. Method: A cross-sectional survey using an anonymous self-administered questionnaire was conducted among nurses working in wards with ten or more patient deaths in the previous year among four hospitals with palliative care units. Results: Of 369 questionnaires distributed to nurses, 79 (21%) were completed and returned. As a result of the exploratory factor analysis, a scale consisting of 18 items in one subscale was developed Cronbach’s alpha coefficient was 0.95 for the entire scale, indicating sufficient internal consistency. Comparison of scale scores between groups that received comprehensive EOL education and those that did not demonstrated known group validity. Conclusion: The newly developed scale to measure nursing practice in EOL care was confirmed to have sufficient internal consistency and known group validity. This scale may contribute to measuring nurses’ EOL care practices regardless of diseases and the effectiveness of EOL nursing education.

緒言

患者・家族の苦痛緩和とQuality of Life(QOL)の維持・向上を目的とする緩和ケアやエンド・オブ・ライフ(以下,EOL)ケアを提供する看護師は,ケア提供に困難を感じており,緩和ケア教育を充実させることが喫緊の課題である1,2.緩和ケアを受ける患者と家族は,患者の痛みの緩和が不十分で3,4,患者・家族には不安や抑うつなどの精神症状の有病率が高く5,家族は介護に負担を感じている.患者と家族に緩和ケアを提供する看護師の知識・技術不足が指摘され,看護師自身も,症状緩和やコミュニケーションなどについて困難を抱えている現状が明らかになっている6,7

このような状況の中で,緩和ケアを提供する看護師を対象とした教育プログラムが開発され,その効果を検討するための取り組みがなされている.わが国では,米国で開発され,普及している緩和ケアおよびEOLケアの看護師教育プログラムであるEnd-of-Life Nursing Education Consortium(ELNEC)Coreカリキュラムをもとに,その日本版であるELNEC-Jコアカリキュラム看護師教育プログラム(以下,本教育プログラム)が作成され,教育活動に用いられてきた8.本教育プログラムの効果を検証するために,EOLケアに関する知識・態度を測定するための評価尺度9を用いてRandomized Controlled Trial(RCT)およびコホート調査が実施され,①本教育プログラム受講後介入群は対照群と比較し,EOLケアに関する知識・態度の得点が有意に高かったこと,②EOLケアに関する知識・態度の得点は本教育プログラム受講後6カ月持続したこと,が明らかにされた10

しかし,看護師を対象とした教育プログラムの効果をより正確に把握するためには,その教育プログラム受講者の看護実践の変化を明らかにする必要がある.一般的に教育プログラムの評価には,「1.反応」「2.学習」「3.行動」「4.結果」の4段階があり,段階が上がるにつれて高い学習成果の指標となるといわれている11.本教育プログラムについてこれまで行われてきた評価は「2.学習」の段階までにとどまっているため,プログラムの評価を「3.行動」のレベルで評価し,得られた知識や態度を元に,受講者に行動変容がもたらされたかどうかを明らかにしていく必要がある.

EOLケアの看護実践を測定する尺度は,これまでにいくつか開発されてきた.しかしそれらの対象はがん患者に限定され1214,看取りなどの特定の側面に焦点を当てた尺度であり12,疾患を問わずに使用可能かつEOLケアの看護実践を包括的に測定する尺度は見当たらない.

本研究の目的は,看護師のEOLケアに関する看護実践測定尺度の開発を目指し,その信頼性と妥当性を検討することである.看護師のEOLケアに関する看護実践測定尺度が完成すれば,単に本教育プログラムをより高い段階で評価するのみならず,教育プログラムの評価についての新たな方法を検討するうえで非常に有用と考えられる.さらに,今回作成される尺度は,本教育プログラムに関してだけでなく,看護師のEOLケアの実践を測定するために広く使用できる可能性がある.

なお,本研究ではELNEC-Jコアカリキュラム指導者用ガイド15を参考に,「EOL」を「患者・家族や医療者が,患者の死を意識して過ごす時期」と定義し,予後6カ月以内程度とした.そして「EOLケア」を「病いや老いなどにより,人が人生を終える時期に必要とされるケア」と定義した.

方法

研究の種類・デザイン

本研究は,無記名自記式調査票を用いた横断研究である.本研究は,尺度開発に関する国際基準であるCOnsensus-based Standards for the selection of health Measurement Instruments(COSMIN)チェックリスト16を参考に実施した.

対象

研究協力が得られた300床以上かつ緩和ケア病棟を有する病院4施設のうち,前年度の死亡患者数が10件以上の病棟(集中治療室を除く)に勤務する常勤看護師369名を対象とした.適格基準は以下とした.

  • 〈選択基準〉

    • ・EOLにある患者をケアした経験がある者
    • ・本研究の意義を理解し,自由意思による同意が得られた者

  • 〈除外基準〉

    • ・管理職(看護師長以上)についている者

調査内容

1. EOLケアに関する看護実践

われわれの研究グループが行った本教育プログラム受講後のEOLケアに関する看護実践の変化に関する質的調査17およびEOLケアに関する文献1821を元に,EOLケアに関する看護実践の程度を測定するための項目(案)66項目を作成した.その後,EOLケア看護に関するエキスパート2名による確認およびスタッフレベルの看護師5名を対象にプレテストを行うことにより表面妥当性を担保するとともに,予備項目43項目を精選した.各項目は,「1.全く行っていない」~「5.常に行っている」の5段階でたずねた.

2. EOLケアに関する知識・態度

Arahataらが開発した看護師のEOLケアに関する知識・態度尺度(ELNEC-J CQ)9を用いた.これは,EOLケアを提供するために必要な知識・態度を測定する尺度であり,「I. EOLケアにおける看護」「II.痛みのマネジメント」などの10下位尺度100項目からなる.知識を問う項目については,「正しい」「間違っている」「わからない」のいずれかで回答し,正解の回答に1点が付与される.態度を問う項目については「1.全くそう思わない~5.とてもそう思う」の5段階で回答し,1~5点が付与される.いずれも下位尺度ごとに平均点を算出し,得点の高いほど知識が高い,あるいは態度が望ましいことを意味する.

3. 属性

年齢,性別,臨床経験年数,EOL患者のケア人数,勤務病棟での主たるEOL患者の特徴,ホスピス・緩和ケア病棟の勤務歴,教育歴,ELNEC-J受講経験の有無,EOLケア経験の程度,EOLケアに関する学習経験の程度,EOLケアに対する関心,専門資格(認定看護師/専門看護師)についてたずねた.

調査方法

本研究は,2020年1~3月に実施した.事前に各施設の研究協力者に,該当病棟ならびに対象者数を確認し,参加人数分の調査票一式を送付,対象者に配布を依頼した.調査協力に同意する場合は,調査票に回答後,同封した返信用封筒に入れて返送を依頼した.

分析方法

質問紙の回答の50%以上が欠損である場合を除外して分析対象とした.項目分析として,各項目において欠損値数を算出し,欠損値が10%以上の項目を除外した.天井効果あるいは床効果として,「全く行っていない」または「常に行っている」と回答した割合が75%以上の項目を除外した.

項目間の相関が0.8以上の項目については,研究者間で検討のうえ取捨選択を行った.その後,尺度項目を同定するため,主因子法・プロマックス回転を用いた因子分析を行った.項目の意味内容から因子数は6因子を想定した.これにより尺度の下位尺度と項目を同定した後,尺度全体と各下位尺度のCronbachのα係数を求め,内的一貫性を評価した.

最後に,既知集団妥当性を検討するために,ELNEC-J受講の有無,ELNEC-J CQ得点の平均以上・未満,ホスピス・緩和ケア病棟勤務経験の有無,これまでにケアしたことのあるEOL患者人数100名未満・100名以上の各2群間で,対応がないt検定を用いて尺度合計得点を比較した.既知集団妥当性をこのように検討した理由は,ELNEC-Jを受講した看護師はEOLケアに関する知識が高く,そしてEOLケアに関する実践度が高い,ホスピス・緩和ケア病棟に勤務経験がある者とEOL患者のケア経験が多い者は,EOLケアに関する実践度が高いと仮定したためである.有意水準は0.05とし,両側検定を行った.統計パッケージはIBM SPSS Statistics ver.21を使用した.

倫理的配慮

本研究は,無記名自記式質問紙調査とした.調査票とともに,調査目的,調査への参加を拒否しても不利益を受けないこと,調査に関する個人情報保護やプライバシー保護について明記した説明文書を同封した.対象者には,調査票の冒頭で本研究協力の可否について〇をつけてもらい研究協力の意思を確認した.なお本研究は,東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号5473).

結果

回収状況および対象者背景

369名に調査票を配布し,81名より返送があった(回収率22%).そのうち,質問紙の回答の50%以上が欠損していた者5人を除外し,76名を分析対象者とした(有効回答率21%).

対象者背景は,臨床経験が10年未満の看護師が60%であった.勤務経験としては,ホスピス・緩和ケア病棟での勤務経験がある看護師が38%であった.今まで経験したがん患者のケアの人数としては,100人以上の経験があると回答した看護師が51%,最も多くケアした終末期患者ががん患者であると回答した看護師は91%であった.また,ELNEC-Jを受講した経験のある看護師が40%,EOLケアや緩和にケアに関する研修を受講したことのある看護師が65%であった( 表1).

表1 対象者背景

尺度項目の同定

項目分析の結果,「全く行っていない」または「たいてい行っている」「常に行っている」と回答した割合が75%以上であった10項目,項目間の相関が0.8以上あった20項目のうち15項目を除外した.残りの18項目を用いて最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析を行った.Kaiser–Meyer–Olkin(KMO)の測度は0.9でありBartlettの球面性検定が有意であったことから(χ2=1034.7, p<0.001),因子分析として妥当であると判断された.探索的因子分析の結果,3因子解が得られ,第1因子は固有値10.3(説明率57.2%),第2因子は1.2(6.7%),第3因子は1.1(6.0%)であった.第1因子と第2因子の固有値に顕著な差があることから,本尺度は1因子構造であると解釈された.18項目の因子負荷量は0.59~0.84であり,いずれの項目も採用可能と判断された( 表2).

表2 因子分析結果

尺度の信頼性・妥当性の検討

本尺度の信頼性を検討するため,Cronbachのα係数によって内的一貫性を評価した.Cronbachのα係数は0.95であった.次に,既知集団妥当性の検討の結果,ELNEC-J受講がある看護師(74.3±9.3 vs. 63.4±10.0, p<0.0001),ELNEC-J CQ得点が高い看護師(71.5±11.1 vs. 61.1±8.1, p<0.0001),ホスピス・緩和ケア病棟勤務の勤務経験がある看護師(75.0±9.8 vs. 63.2±9.3, p<0.0001),これまでにケアしたことのあるEOL患者数が多い看護師(72.5±8.8 vs. 61.2±10.5, p<0.0001)のほうが,尺度得点が有意に高かった( 表3).

表3 既知集団妥当性

考察

本研究では,看護師のEOLケア実践評価尺度として,18項目からなる1因子構造の尺度が作成された.これは,著者らが事前に想定した6因子構造とは異なる結果であった.EOLに関する看護師教育には,心身の苦痛緩和やアドバンス・ケア・プランニング,家族のケアや看取り時のケアなど,複数の要素に分けて行われるのが一般的であり15,22,今回抽出された18項目においても,内容的にいくつかの要素に分けられると当初仮定した.しかしEOLケアの実践においては,例えばアドバンス・ケア・プランニングを進めるためにはまず患者の心身の苦痛を和らげることが必要であること23,看取り時にはからだの苦痛を和らげるケアや家族ケアが必然的に行われる24など,さまざまな知識や技術が統合されてケアが提供される.さまざまな知識や技術を統合してケアが行われるのは必ずしもEOLケアに限ったことではないが,EOLケアにおいては身体的,心理社会的,スピリチュアルな側面を統合したアプローチがとくに求められるため,今回のように一因子構造が示されたと考える.

本尺度のCronbachのα係数は0.95であった.Cronbachのα係数の基準は一般的に0.6ないし0.7以上が目安とされており25,本尺度は十分な内的一貫性を有すると考えられる.ELNEC-J受講の有無,EOLに関する知識の多少,ホスピス・緩和ケア経験の有無ならびにEOL患者のケア経験の多少によりEOLケア実践評価尺度得点を比較した結果,いずれも著者らの仮説通りの結果が示された.このことから本尺度は,既知集団妥当性を有すると考えられる.

本研究にはいくつかの限界がある.1点目の限界として,回収率の低さが挙げられる.これは,本調査を実施した時期が2020年1~3月であり,新型コロナウイルスが蔓延し始めた時期と重なったことに加え,当初計画していた督促の実施ができなかったことが大きな要因と考えられる.2点目として,本研究では再テストを行っておらず,本尺度の再現性を確認できていないことが挙げられる.3点目として,非がん疾患のEOLケアの実践も評価できるように尺度項目を準備し,全診療科の看護師を調査対象としたが,結果的に回答者には,がん看護に携わる者が多かったことが挙げられる.今後,非がん疾患のEOLケアに主に携わっている看護師を対象に調査を実施し,本尺度の性能をさらに確認する必要がある.4点目として,今回はEOLケアを実践している看護師による自己評価のみを用いたため,その回答をどれくらい信頼できるかは定かではない.他者評価と組み合わせ,本尺度を用いた測定の信頼性をさらに検討することが望ましい.

結論

本研究では,18項目からなる簡便な尺度が作成された.今後は,本尺度の性能をさらに確認したうえで,EOLケアに関する看護師教育の効果を評価するとともに,EOLケアの実践状況を把握しEOLケアの改善に生かすことが課題である.

謝辞

本調査に回答くださった看護師の皆様に,心より感謝申し上げます.

研究資金

本研究は,日本緩和医療学会平成29年度緩和医療研究助成を受けて実施した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

笹原は,研究の構想ならびにデザイン,研究データの収集と分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.落合は,研究の構想ならびにデザイン,分析の解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.竹之内は,研究の構想ならびにデザイン,分析の解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2024 Japanese Society for Palliative Medicine

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