2024 Volume 19 Issue 3 Pages 219-229
【目的】特養で死亡および生存していた高齢者のBMI, 栄養・水分摂取量の変化を比較し死亡群のトラジェクトリーが予後予測に有効か検証した.【方法】2007年4月から2022年7月末日の間に特養に入所していたすべての高齢者についてBMI, 栄養・水分摂取量のデータを後ろ向きに抽出し,月次の平均値の推移を探索した.【結果】死亡群646名,生存群498名のデータを得た.生存群と比較し死亡群は死亡12カ月前よりBMI, 栄養・水分摂取量が有意に減少し,死亡群において体重1 kgあたりの栄養摂取量は死亡6カ月前より,同じく水分摂取量は死亡3カ月前より前月と比較し有意に不可逆的に減少した.【考察】死亡12カ月前からBMI, 栄養・水分摂取が同時に減少し,体重あたりの栄養摂取量に続き同じく水分摂取量が有意に不可逆的に減少するトラジェクトリーは,特養で死亡する高齢者の予後予測について有効であることが示唆された.
Objective:We compared changes in BMI as well as nutritional and fluid intake in older adult patients who died and survived while in special nursing care facilities, and examined whether trajectories in the death group were effective in predicting prognosis. Methods:We retrospectively extracted data from BMI, nutritional and fluid intake for all older adults admitted to a special nursing care facility between April 2007 and the end of July 2022, searching for changes in the monthly mean values. Results:Data were obtained for 646 patients in the death group and 498 in the survival group. In the death group, BMI, nutrition and fluid intake decreased significantly from 12 months before death compared with the survival group. In the death group, nutrient intake per kilogram of body weight decreased significantly and irreversibly as of 6 months before death, and fluid intake decreased significantly and irreversibly starting 3 months before death compared with the previous month. Discussion:The trajectories of BMI, nutrition and fluid intake decreased simultaneously from 12 months before death, and the significant irreversible decrease in fluid intake followed by nutritional intake per kilogram body weight was effective in predicting the prognosis of elderly patients dying in special care facilities.
特別養護老人ホーム(以下,特養)等の高齢者施設で死亡する高齢者は高齢者死亡全体の約12%を占め,10年前と比較するとその数は約3倍の17万人以上となっている 1) .後期高齢者と単身世帯の数が増加し続ける中 2,3) ,今後も高齢者施設がエンドオブライフ・ケアの場所として重要な役割を担うことを示している 4–6) .しかし病院に次いで急変する高齢者が発生しやすいといわれる特養からの救急搬送件数が増加し 7–9) ,中には延命処置を望まないという事前確認があるにもかかわらず,意識消失や心肺停止時に救急搬送される例がしばしば発生している 10–12) .また施設職員が高齢者の予後を認識していないこと,家族は自分たちの親の死が迫っているという考えをできるだけ遠ざけようとすることにより,高齢者が理想的なエンドオブライフ・ケアを受けていない可能性が指摘されており,高齢者施設に入所する高齢者の確度が高い予後予測は重要な課題となっている 13–15) .
予後予測において終末期がん患者に用いられるPalliative Performance Scale(PPS)といった日常生活の依存性の測定は,日常生活動作が急激に悪化するがん患者において予後を推定するために有効なパラメータである 16,17) .しかし衰弱や認知症等の高齢者は特養に入所する際にはすでに日常生活の依存性が高い要介護の状態となっており,またその他の生命のリスクを示す指標が得られにくいために予後の時間的予測が立ちにくい 18) .研究者らはこれまでBody Mass Index(BMI)や栄養摂取量の減少が予後予測に有効であることを明らかにしてきた 19, 20) .一方データを収集した高齢者施設は1箇所であり,限られた人数の死亡者だけのデータを分析したため,平均入所期間が約3.2年といわれる特養で 21) ,それらの変化は生存者と区別できるかどうかは明確にできていなかった.本研究では対象施設を5箇所とし対象者人数を広げ,かつ生存者と比較することによって,BMIや栄養・水分摂取量の変化が死に至る高齢者の特徴的な傾向として区別できるかどうか,またそれらが予後予測のパラメータとして有効に活用できるのかどうかを明らかにする.
調査期間に特養内で死亡または生存したすべての高齢者を対象に調査した後ろ向きコホート研究である.
調査対象適合基準:2007年4月から2022年7月末日(以下,データ収集終了日)までの期間に次の5箇所の特養,潤生園(神奈川県小田原市,入所定員100人),山河(東京都杉並区,同144人),秋月(東京都練馬区,同177人),杜の家やしお(埼玉県八潮市,同100人),杜の家なりた(千葉県成田市,同100人)において,施設内で死亡したすべての高齢者,およびデータ収集終了日に入所中であったすべての高齢者を対象とした.これらの高齢者の特徴として緩徐に機能低下する老衰・認知症パターンの軌道にあり,急性疾患の発症や医療処置が必要となることにより入院となる高齢者は含まれていないことである.
除外基準:BMI,経口からの栄養・水分摂取量のトラジェクトリーを明らかにするため,施設外で死亡または長期入院等により退所,入所期間が6カ月未満,3カ月以上継続して体重測定がされていない,また入所時および入所後経管栄養となった高齢者は除外した.
調査項目対象となった高齢者の特養への入所日,死亡した高齢者は死亡日および生存していた高齢者はデータ収集終了日の年齢,性別,入所時に測定された身長,入所以降測定している毎月の体重,管理栄養士により計算している高齢者ごとの毎食事の栄養量(kcal)と,全量摂取を「10」,未摂取を「0」としてケアワーカーが目視により10段階で評価した毎食の主食・副食別の摂取割合,高齢者ごとの1日あたりの水分摂取量(ml,食事以外)について,5箇所の特養で使われている同一の介護記録ソフト(ほのぼのNEXT),および管理栄養士がEXCELデータで保存しているファイルよりデータを抽出した.
統計解析死亡した高齢者(以下,死亡群),データ収集終了日に生存した高齢者(以下,生存群)に分け,死亡群は死亡月,生存群はデータ収集終了日の月のそれぞれにおける平均BMI,平均栄養摂取量(以下,すべて1日あたり),平均水分摂取量(以下,すべて1日あたり),またこれら三つのパラメータにおける12カ月前から死亡月,同じくデータ収集終了日の月までの変化率について,死亡群と生存群の有意差を対応のないt検定により求めた.
次に死亡群においては死亡した月より,生存群についてはデータ収集終了日の月より60カ月前にさかのぼり,また特養に入所後60カ月に達していない場合は入所後から収集された暦月ごとの平均BMI,平均栄養摂取量,平均水分摂取量を求め,折れ線グラフにて示した.その後,死亡群において三つのパラメータに関し顕著な低下がみられた死亡12カ月前からの数値に注目し,同じく生存群もデータ収集終了日の月より12カ月前から,それぞれ6カ月前,1カ月前の数値を反復測定分散分析によって各パラメータの経時的変動の有意差,および死亡群と生存群の群間の交互作用における有意差を明らかにした.さらに,死亡群については高齢者の性別,年齢階層別(75歳未満,75歳から85歳未満,85歳以上)において,各パラメータの経時的変動の有意差,および性別,年齢階層別の各群間の交互作用における有意差を確認した.
また死亡群における死亡12カ月前から死亡の月まで,生存群もデータ収集終了日の12カ月前からデータ収集終了日の月まで,各パラメータの数値の差を対応のあるスチューデントのt検定によって有意差を求めた.最後に死亡群において死亡12カ月前から死亡した月までの体重1 kgあたりの平均栄養摂取量(kcal/kg)および平均水分摂取量とそれらの標準偏差を折れ線グラフで示し,前月との有意差を求めた.有意差はすべてp<0.05として判定を行った.統計量はJMP Pro17.0.0で求めた.
倫理的対応本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省,厚生労働省,経済産業省)に則り,プライバシーポリシーを公表している各特養が保有する既存情報を匿名加工して行った研究である.また本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守した.本研究は東京有明医療大学倫理委員会(有明医療大倫理承認第374号)の承認を得た.
調査期間内の全対象者1424名のうち,急変等により入院後に死亡,または療養型病院や有料ホーム等に入所し退所となった者が135名,入所期間が6カ月未満の者が89名,3カ月以上継続して体重測定がされていなかった者が41名,入所時からまたは入所中に経管栄養となった者が15名,合計280名が除外基準を満たしたため,最終的に1144名が解析の対象となった.
対象者のうち死亡群は646名(潤生園316名,山河60名,秋月111名,やしお100名,なりた59名),生存群は498名(各々62名,125名,137名,85名,89名)で,60カ月前からデータが得られた人数は死亡群では116名,生存群では71名であった.死亡群の死亡時の平均年齢は90±7.7歳,生存群のデータ収集終了日の平均年齢は87±7.9歳で両者には有意差があった(表1).また各々,男162名(25%),男123名(25%)であった.
死亡群の死亡月の平均BMIは16.6±3.3, 12カ月前と比較した平均変化率が−7.1±9.1,生存群のデータ収集終了日の月の平均BMIは20.2±3.4,同じく平均変化率は−1.6±5.5であり,平均値,平均変化率ともに有意差が検出された(p<0.0001).
また死亡群の死亡月の平均栄養摂取量(kcal)は494±393.9, 12カ月前と比較した平均変化率が−52.1±42.6,生存群におけるデータ収集終了日の月の平均栄養摂取量は1181±323.2,同じく平均変化率は−2.57±24.2であり,平均値,平均変化率ともに有意差が検出された(p<0.0001).
次に死亡群の死亡月の平均水分摂取量(ml)は491±271.4, 12カ月前と比較した平均変化率が−38.6±32.1,生存群におけるデータ収集終了日の月の平均水分摂取量は964±209.5,同じく平均変化率は−2.5±12.9であり,平均値,平均変化率ともに有意差が検出された(p<0.0001).
次に死亡群,生存群について,それぞれ12カ月前からの月ごとの平均BMI,平均栄養摂取量,平均水分摂取量の推移をグラフで示した( 図1).死亡群においては,死の12カ月前から平均BMIは世界保健機関(WHO)が低体重に分類する18.5 kg/m 2を下回り不可逆的に低下,その他のパラメータも減少し続けた.
次に死亡群と生存群について三つのパラメータの経時的変動の差,および群間の交互作用における有意差を明らかにした.また死亡群においては性別,年齢階層別において,三つのパラメータの経時的変動の差,および性別,年齢階層別の各群間の交互作用において有意差があるかどうか,死亡12カ月前およびデータ収集終了日より12カ月前,6カ月前,1カ月前の三つの時点の各平均値をとりあげ反復測定分散分析にて確認した(表2).
死亡群と生存群の平均BMI,平均栄養摂取量,平均水分摂取量の経時的変動を確認したところ,いずれの変動においても有意差があり(p<0.0001),群間の経時的交互作用においても有意差が検出された(p<0.0001).
次に死亡群において性別による経時的変動を確認したところ,栄養摂取量,水分摂取量について有意差が検出された(p<0.0001).一方,三つのパラメータはいずれも経時的交互作用では有意差が検出されなかったことから,男女にかかわらず経時的に同じ傾向の変動をしていたことが示された.
死亡群において年齢階層別による経時的変動を確認したところ,栄養摂取量について有意差が示された(p=0.004).一方,三つのパラメータはいずれも経時的交互作用では有意差が検出されなかったことから,年齢階層にかかわらず経時的に同じ傾向の変動をしていたことが示された.
次に死亡群における死亡12カ月前から死亡月まで,生存群もデータ収集終了日の12カ月前からデータ収集終了日の月まで,各パラメータの差の平均値について対応のあるスチューデントのt検定を行った(表3).BMIにおいて死亡群は有意差があり(p<0.0001),生存群には有意差がみられなかった.栄養摂取量と水分摂取量においては死亡群は有意差があり(p<0.0001),生存群においても有意差が検出され(p=0.015, p=0.003),生存群においてもデータ収集終了日の12カ月前からの間に有意な変化があることが示された.
最後に,死亡群における体重1 kgあたりの栄養摂取量および水分摂取量について死亡12カ月前から死亡時までの平均値および標準偏差の変化を示し,前月との平均値について対応のあるt検定を行った( 図2).体重1 kgあたりの栄養摂取量は,死亡6カ月前から死亡月まで前月との有意差が明らかとなり(p<0.0001),死亡月まで不可逆的に減少した.また体重1 kgあたりの水分摂取量は,死亡3カ月前に有意差が出現し(p<0.0005),その後,死亡月まで有意に(p<0.0001)不可逆的に減少した.
この研究は,多施設の特養で死亡した高齢者と生存していた高齢者のBMI,栄養摂取量,水分摂取量のトラジェクトリーを比較し両群には明確な違いがあることを証明した初めての研究である.
この研究で重要な点は特養で経口から栄養・水分摂取をして死に至る高齢者は生存群と比較し3年以上高年齢の平均年齢が90歳となり,死亡12カ月前から死亡時までの間にBMI,栄養摂取量,水分摂取量が同時に減少し,死亡時には平均BMIが16.6 kg/m 2,平均栄養摂取量および平均水分摂取量が各々494 kcal/日,491 ml/日まで低下し死に至ることが明確になったことである.
研究対象とした特養は,厚生省令の「指定介護老人福祉施設の人員,設備および運営に関する基準」 22) を満たす要介護3以上の高齢者が入所する介護保険施設である.どの施設も管理栄養士を配置し栄養バランス等が計算された食事を提供して栄養マネジメント強化加算を算定しており,高齢者がおかれている環境,提供される介護や食事等の量や質のちがいといった交絡因子が本研究の結果に与えた影響は少ないと考えられる.そのため三つのパラメータが死亡時の平均値まで低下し死に至るトラジェクトリーは,国内の特養で死に至る高齢者の特徴であると考える.
次にこの研究の重要な点は,多くの特養で慣行的にまたは栄養マネジメント強化加算のため継続測定している体重とそれから導かれたBMI,摂取された栄養量・水分摂取量といった日常的に記録・集積している数値をそのまま活用し,死に至るトラジェクトリーを明らかにした点である.
ナーシングホームにおける高齢者の予後予測の研究がいくつかある 23–25) .中でも,全米すべてのナーシングホームの重度認知症高齢者約22万人のリスク因子を分析し開発されたAdvanced Dementia Prognostic Tool(ADEPT)は,12カ月以内の生命予後を予測するうえで確度が高いことが示されている 26) .しかしそれらの予測のために用いられているパラメータは,心不全や呼吸器疾患等の有無,ヘモグロビンおよび血清アルブミンの数値,日常生活における依存性,認知機能障害の程度,栄養不良の状態等,中には医師による診察,また血液検査が必要な項目がある.医療の提供が限定的で保険診療の制限もある国内の特養の入所者に対し 27) ,定期的かつ恒常的にそれらのパラメータを収集することは困難である.
一方,BMIは数値が低いほど死亡リスクが増大し 28–30) ,加えて栄養状態は診断された病気と関係なく 31,32) ,単独のリスクファクターとして予後に関連していることが明らかにされてきた 33–35) .また国内の研究では栄養摂取量が1日あたり30 kcal/kgより少なくなると死亡頻度が増加することが示されているが 36),本研究でも死亡7–8カ月前には27.6 kcal/kgとなり,その後不可逆的な減少が続き死に至っていた.本研究は後ろ向き研究であり,今後さらに精査が必要であるが,体重あたりの栄養摂取量は生命予後のために有効なパラメータになると考える.
また水分摂取量は食事からの水分を含み約30~35 ml/kgが適当とされている 37–39) .臨床においては,食事から摂取された水分量を正確に算出することは困難であるため,本研究では特養で日常的に観察し記録している食事以外から摂取された水分量を用いた.死亡2~3カ月前にはその食事以外の水分摂取量が20.0 ml/kgを下回ると2~3カ月後には死に至っていた.同じく今後さらに精査が必要であるが,体重あたりの栄養摂取量の減少に続き,食事以外に摂取される体重あたりの水分摂取量の不可逆的減少は切迫する予後の予測に有効なパラメータになると考える.
さて,生存群において,データ収集終了日の12カ月前からデータ収集終了日の月まで,栄養摂取量と水分摂取量の差の平均値についても有意差が検出された.これについては生存群と死亡群で年齢に3歳差があり,特養での看取りまでの入所期間が約3年であることから,生存群の高齢者の中にはすでに死亡前12カ月以内にある者も含まれている可能性があり,これにより生存群においても有意差が検出されたと推定する.しかし表2で示したように死亡群の各パラメータの減少の程度は,生存群と比較しより顕著であったといえる.
さらに本研究のとくに興味深い点であるが,研究対象の5箇所の特養では高齢者のBMI,栄養・水分摂取量が減少する過程を観察しながら,施設内で看取りを行っていることである 40) .これらの特養に常勤医はいないため,施設の管理者,看護師らが非常勤配置医に看取りの状態にあると考える高齢者を伝え,医師の診察結果とともに家族らに説明が行われ希望に応じ,また人工的水分・栄養補給は基本的に行わず施設で看取りが行われている.米国オレゴン州でホスピスプログラムにある患者が自主的に飲食を絶ち死に至る行為を見ていた看護師らは,多くの死は平穏であり苦痛があるようには見えなかったと回答している 41) .また研究者による介護職員へのアンケートでも「空腹感があるときはすぐに訴えられるほうだったので,身体は亡くなる準備をしてきていると感じた」,「食べる,飲むことが苦痛になっていると感じた.苦痛を取り除くためにも無理してはいけないと思った」と高齢者の普段の様子から変化の様子を評価し,苦痛を除くことを重要視して看取りのケアを行っている 42) .一方,日本老年医学会の会員への調査結果から,アルツハイマー型認知症末期で経口摂取が困難な高齢者に対し,38.9%の医師が点滴等の人工的水分・栄養補給法の差し控えは餓死させることと同じであると考え,44.9%の医師が法的な責任を問われる恐れがあると考えていた 43) .
このような現状の中,エンドオブライフ・ケアを提供するうえでは,関係者や家族らが,死が間近に迫り不可避となっていることを共通認識し,コンセンサスを形成することが重要となる.そのため本研究で明らかになったとおり,特養で死に至る高齢者において死の12カ月前を過ぎる頃からBMIが18.5 kg/m 2を下回り,栄養摂取量は死の7~8カ月前から27.6 kcal/kgを,食事以外の水分摂取量については死亡2~3カ月前に20.0 ml/kgを下回り不可逆的に減少が続くトラジェクトリーは,特養の配置医師による予後の見立てとあわせて,看取りに関わる専門職者,また家族でも理解しコンセンサスを得る際の生命予後を考える客観的な指標として活用ができる可能性がある.
本研究には以下の限界がある.入所後6カ月未満の入所者,および経管栄養となった高齢者は除外したため,それらの高齢者には各パラメータの変化から予後予測をすることができない可能性がある.また後ろ向き観察研究であるため,摂取された食事量の目測についての確実な方法や,毎月測定されていた体重測定の間隔を厳重に制御できなかった.死因について死亡群のうち317名が老衰,心不全30名,肺炎(誤嚥性含)18名であったが253名の死因が不明であり,死因による影響が特定できなかった.なお,老衰と原因不明の両者において,各パラメータのトラジェクトリーの差はなかった.また特養で集団的にケアを受ける条件下で,高齢者本人の意志表出の機会の減少や,家族との交流が日常的に少ないなどの生活や社会参加の因子が食事や水分の摂取量などへの意欲に影響したことも排除できない.
特養で経口からの栄養・水分摂取を続ける中で死に至る高齢者は,死の12カ月前からBMI,栄養・水分摂取が同時に減少するトラジェクトリーをたどる.本研究の対象者の場合は,具体的には死の12カ月前を過ぎる頃よりBMIは18.5 kg/m 2を下回り,死の数カ月前から栄養摂取量が27.6 kcal/kgを,さらに死の2~3カ月前から食事以外の水分摂取量が20.0 ml/kgを下回り死に至る様子がみられた.こうした各パラメータのトラジェクトリーは予後予測をするうえで有効である可能性が示唆された.
高齢者の栄養管理に関し,社会福祉法人小田原福祉会の徳納愛菜氏,社会福祉法人福祉楽団の川上京子氏,遠藤智津子氏の3人の管理栄養士の方々から重要なご助言をいただきました.
2022年度~2025年度文部科学省科学研究費助成事業・基盤研究C(研究課題番号:22K11217)の助成を受け実施した.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
川上は研究の構想およびデザイン,研究データの分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.井口,大枝,上野,井上,野崎,浜野は研究のデザイン,研究データの収集,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の最終責任に同意した.