Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
The Current Situation and Challenges of Social Worker Intervention and Support in Palliative Care Unit: Support Focusing on Bereaved Family
Kazuhiro Mantani
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 19 Issue 3 Pages 195-206

Details
Abstract

【背景】緩和ケア病棟におけるソーシャルワーカーの支援の状況は,十分明らかになっていない.【目的】本研究の目的は,(1)緩和ケア病棟におけるソーシャルワーカーの介入状況と支援内容の現状を明らかにすること,(2)遺族支援に関する関連要因を明らかにすることの2点である.【方法】緩和ケア病棟の支援を担当するソーシャルワーカーを対象に,自記式質問紙調査法を実施した.【結果】緩和ケア病棟におけるソーシャルワーカーの介入状況ならびに支援内容についての全体像が把握できた.また,遺族支援については,ソーシャルワーカーとしての経験や,緩和ケア病棟での実践経験など,経験に関係する要因の関連性がわかった.【結論】緩和ケア病棟においてソーシャルワーカーが充実した支援を展開するには,ソーシャルワーカーとしての経験や緩和ケア病棟での実戦経験を積み重ねることが重要であり,また,それを可能とする職場の環境整備も必要である.

Translated Abstract

Background: The extent and nature of support provided by social workers in palliative care unit (PCU) remain insufficiently elucidated in the current literature. Objective: The objectives of this study are: (1) to clarify the intervention status and support activities of social workers in PCU, and (2) to identify the relevant factors related to bereavement support in PCU. Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted targeting social workers responsible for support in PCU. Results: An overall understanding of the intervention status and support activities of social workers in PCU was obtained. Additionally, it was found that factors related to experience, such as social workers’ professional experience and practical experience in PCU, were related to bereavement support. Conclusion: For social workers to provide comprehensive support in PCU, it is important for them to accumulate professional experience as social workers and practical experience in PCU. Furthermore, creating an environment that facilitates this accumulation of experience is also crucial.

緒言

現在の多死社会において,最期の時期をどこで過ごし,どのように最期を迎えるかは非常に重要な課題である.近年(2021)の死亡場所の推移をみると,病院では,65.9%となっており減少傾向であり,自宅においては,17.2%となっており上昇している状況1がある.また,日本財団が行った「人生の最期を迎えたい場所」における調査では,58.8%が「自宅」,次いで33.9%が「医療施設」という結果が示された2.しかし,自宅で最期を迎えるためには,家族など身近な者の協力が一つの要因にもなるが,近年,身寄りがない者や家族との関係の希薄になっている者,また独居や高齢者世帯が増加3していることから,自宅で最期を迎えることが困難な状況が発生しており,緩和ケア病棟(以下,PCU)も重要な選択肢となっている.また,家族の存在や協力があったとしても,安心して過ごせる場としてPCUを選択することもある.

そのPCUにおいては,身体的,精神的,社会的,霊的といった多面的な苦痛に焦点を当て,全人的に支援を行うことが求められている.この社会的苦痛に対する支援については,ソーシャルワーカー(以下,SW)が重要な役割を担っている.緩和ケアにおけるSWの支援に関する先行研究を概観すると,まず,緩和ケアという枠組みにおけるSW業務の範囲においては,「入院前の業務」,「入院中の業務」,「在宅緩和ケアにおける業務」「死別後の業務」「その他の業務」4の各場面における業務の項目が示されている.また,緩和ケアチームでのSWの活動については,「主なSWの役割」,「具体的な能力の内容」,「求められる能力(介入前の情報収集,症状・病態(心理社会的苦痛)のアセスメント,目標設定,介入,介入後の評価,リソースとの連携・協働(院内・院外),教育)」,「期待される内容」5という形で整理されている.そして,終末医療におけるSWの役割として,「患者に対する支援計画の策定」,「意思の確認ができない患者の医療方針の決定に関わる支援」,「患者の気持ちを医療従事者へ伝達」,「多職種との情報共有」,「患者や家族等への精神的支援の因子」6が示されている.このように,先行研究において,緩和ケアといった枠組みや緩和ケアチームという多職種連携によるSWの役割や要因についての言及がある.しかしながら,上白木7は,MSW(医療機関で勤務するソーシャルワーカー)に関して「緩和ケア・終末期医療のMSWの役割遂行に影響を及ぼす主要な要因を精選し,それら要因の相互作用を踏まえ,総合的に俯瞰し因果関係性を明らかにした研究は見当たらない.」としているように,上記したように緩和ケアという枠組みにおけるSWの役割,立場,考え方などの概念は示されているが,それらの概念が支援の場面でどのように活用できるかといった,具体的な支援方法や内容の構築には至っていない状況である.

また,PCUにおけるSWの支援については,CiNii(NII学術情報ナビゲータ)8を活用して,「緩和ケア病棟 ソーシャルワーカー」というキーワードで検索行ったところ,PCUにおけるSWに関連する2000年以降の学術論文については数件のみであった.このように,緩和ケアにおけるSWの支援ならびにPCUにおけるSWの支援についての研究は乏しく,また具体的で体系化された項目や指針,ガイドラインなどもない.そのため,PCUにおける実際の介入方法や支援内容においては,緩和ケア全体に関する先行研究を参考にすることや,所属医療機関の方針や入院患者の状況に合わせて取り組みを検討すること,あるいは,ソーシャルワーカー部門の考えや担当ソーシャルワーカーの力量などに依存していることが想定できる.

PCUでは,今まで生活環境から切り離され,医療機関という環境の中で生活をすることになる.また,多くの患者にとってPCUは,最期を迎える場所という特徴もある9.SWを含む支援者の立場においては,患者と関わる時間が増加し,また支援を行う機会も充実することになる.そのようなPCUの環境の中で展開される支援では,終末期や最期に関連する課題に向き合い,日々の患者の変化を把握しながら,細やかに支援を行っていくPCU独自の支援のあり方が求められる.そのため,PCUにおいては,最期の時や死後,遺族に対する支援が重要になる.この側面においては,「終末期」に焦点を当てた研究6,7,1012は増えてきており,SWが関わる必要性13や,遺族が抱える課題の構造14については示されているが,SWが行う遺族支援の実態や,遺族支援の方法や内容については,十分な調査や研究が進んでおらず,これからの取り組みに期待される.

以上のことから,まずは,PCUの患者に対するSWの介入状況や支援内容の現状を明らかにし,それらの現状に関する特徴を構造的に解明することが,PCUにおけるSWの支援が効果的に実施されるための第一歩と考えた.

そこで,本研究においては,次の2点を明らかにすることを目的とする.まず,1点目は,PCUにおけるSWの介入状況とそこで実施されている支援内容についてその現状や特徴を明らかにすることである.そして2点目は,PCUにおいて重要と考える遺族支援に焦点を当て,影響を与えている関連要因を明らかにすることである.

方法

調査の方法と対象

本調査の方法は,自記式質問紙調査法である.本調査では,全国のPCUが設置されている医療機関460カ所(2022年6月20日現在の緩和ケア病棟入院料届出受理施設)で,PCUの担当を行うSWを対象に調査を行った.また,複数名SWが配置されている場合は,管理者もしくは主として関わりを持つ者とした.対象者に対しては,郵送にて調査依頼書,回答用フォームのURLならびにQRコードを送付し,オンライン上で回答を求めることとした.

調査期間

調査期間は,2023(令和5)年11月1日から11月30日の1カ月間とした.

調査項目

調査内容は,「I. 基礎情報」,「II. SWの介入状況」,「III. SWの支援状況」の項目について確認を行った.

「I. 基礎情報」においては,「組織要因」として,所属機関の総病床数,PCU病床数,PCU在院日数,PCU病床利用率,医療機関全体のSW配置数,PCUのSW配置数,SWの上司の職種について確認を行い,「個人要因」として,性別,立場,SWとしての経験年数,PCUでの実践年数,年齢,最終学歴について確認した.

「II. SWの介入状況」においては,介入割合を明らかにするため,PCUに入院する患者の何%に介入したかについて,回答を求めた.また,どのような場面から介入を開始しているのかについて明らかにするため,SWが介入をする代表的な場面を選択肢に設定し,回答を求めた.

「III. SWの支援状況」においては,「緩和ケア」や「緩和ケアにおける社会的苦痛」,「緩和ケアにおける社会的支援」,「緩和ケアにおけるソーシャルワーク」などをキーワードに先行研究46,13,1521を精査し,次の 表1の通り,12の領域と34の項目の支援内容を設定した.そして,各項目に関して,「実施している」,「やや実施している」,「あまり実施していない」,「実施していない」の4件法で確認を行った.なお,本質問紙については,筆者が作成を行った.

表1 支援に関する項目

倫理的配慮

本調査は,アンケートの返信をもって調査への同意とした.質問紙は,無記名調査とし,回収した質問紙については,ID番号を付与での管理を行い,プライバシーに配慮した.また,調査データの漏洩を防ぐために,オンライン上の回収データについては,セキュリティを強化したクラウドに保存し,万全を期した.

なお,本研究は「大阪南医療センター倫理審査委員会」での承認を得ている(R5-48).

分析方法

まずは,対象者,介入状況,支援状況の全体像を明らかにするために,「対象者の属性」,「PCUでのSWの介入状況」,「PCUにおける支援状況」について記述統計を示した.

「PCUにおける支援状況」においては, 表1で示したQ1~Q34の項目に対して4件法での回答を求め,それぞれの回答数に加え,「実施している」を4点,「やや実施している」を3点,「あまり実施していない」を2点,「実施していない」を1点と点数化したうえで,その平均値を出し,項目ごとの支援の実施状況について示した.

そして,「PCUにおける支援状況」で明らかになった支援が十分実施できていない「遺族支援」の領域に対して,「実施している」,「やや実施している」を「できている群」,「あまり実施していない」,「実施していない」を「できていない群」の2値に分け従属変数とし,単変量解析で関連のある要因について確認を行い,関連が見いだされた要因を独立変数として,ロジスティック回帰分析を行い,その関連要因について明らかにした.

なお,P<0.05を有意とみなした.統計解析は,IBM SPSS Statistics(Ver.25)を用いて実施した.

結果

回収数は237,回収率51.5%であった.分析対象については,「現在,緩和ケア病棟は閉棟している」とした13施設,「病院にソーシャルワーカーの配置はない」とした3施設,「病院にソーシャルワーカーは配置されているが,緩和ケア病棟の対応はしていない」とした27施設を今回の分析対象から除外することとした.よって,今回の分析対象数は,194(42.2%)とした.

また,調査期間については,予定していた期間より2週間延長し,2023(令和5)年11月1日から12月14日の1カ月半となった.

対象者の属性

対象者の属性は, 表2の通りである.ここでは,個人に関連する要因である「個人要因」と,組織に関連する要因である「環境要因」に分けて示している.「個人要因」では,SWとしての経験年数が13.35±7.48であることに対し,PCUでの実践経験は5.45±5.13とSWとしての経験の中では半分以下の期間となっていた.「環境要因」においては,PCUの病床数が20.69±8.31となっており,76.37±13.35%の病床利用率を考えると,おおむね15床が利用されている状況であった.平均在院日数は,28.82±12.39となっていた.

表2 対象者の属性

PCUにおけるSWの介入状況

表3は,PCUにおけるSWの介入状況である.「SWのPCUの患者への介入割合」では,PCUに入院している患者の何%にSWが介入しているかを示している.その結果,ばらつきがあるが,100%とする回答が最も多く22.7ポイントであり,次いで30%が15.5ポイント,10%未満が11.9ポイントとなっていた.「SWの介入場面」においては,どのような状況において介入を開始しているかに関して複数回答で回答を求めた結果である.

表3 介入状況

PCUにおけるSWの支援状況

1. 支援の実施状況

支援の実施状況については, 表1で示したQ1からQ34のそれぞれの項目に対して4件法で回答を求め,それぞれの回答数を示し,また,それぞれの回答を点数化し,平均値を算出してものを, 図1の通り示した.

図1 支援の実施状況

平均値3以上である「充実した実施状況にある支援」については,高い数値からQ12「身寄りなし,協力者不在の方への支援」平均値3.76,Q11「退院に関する支援」平均値3.75,Q5「医療費に関連する経済的支援」平均値3.58,Q2「緩和ケア病棟に関する相談や問い合わせへの対応」平均値3.43,Q6「生活費に関連する経済的支援」平均値3.39,Q13「医療者と患者・家族の関係性やコミュニケーション,代弁の支援」平均値3.32,Q14「患者と家族間の関係性やコミュニケーション,代弁の支援」平均値3.25であった.

また,平均値3.5以上であるQ5, Q11, Q12については,「実施している」,「やや実施している」が9割程度になっていた.

逆に,平均値2以下である「乏しい実施状況にある支援」は,低い数値からQ34「地域の遺族会,自助グループに関する支援」平均値1.46,Q16「就学に関連する支援」平均値1.57,Q18「セクシャリティに関する支援」平均値1.65,Q19「宗教や宗教上の教義や行為に関する支援」平均値1.81,Q20「外見の変容に関する支援(アピアランスケア)」平均値1.85,Q33「病院内の遺族会,自助グループに関する支援」平均値1.88,Q31「遺族の生活の再設計に関する支援」平均値1.88,Q17「未完の仕事に関する支援」平均値1.9,Q30「臓器提供や献体に関する支援」平均値1.96,Q15「就労に関連する支援」平均値2という結果であった.

また,平均値2以下の支援内容については,「実施していない」,「あまり実施していない」が7割を超えており,Q16, Q18, Q19, Q34については8割を超えている状況である.

また,領域内の項目について確認したところ,例えば,平均3以上の「充実した実施状況にある支援」である,「退院支援」,「経済的支援」,「家族等人間関係支援」の領域については,領域内の項目いずれも高値となっていた.平均2以下の「乏しい実施状況にある支援」である,「遺族支援」,「就労就学等支援」,「信条・人権,セクシュアリティ,その他の支援」,「会の活動に関する支援」の領域についても,領域内の項目いずれも低値となっていた.

2. 遺族支援に影響を与える要因

PCUにおけるSWの支援の向上を考えた場合,すでに実施できている領域ではなく,実施が十分ではない,「乏しい実施状況にある支援」に焦点を当て,その背景について検討することが,SWのPCUにおける支援の底上げにつながると考えられる.しかしながら,乏しい実施状況にある支援においては,PCUに入院する患者のニーズ自体が乏しいことや,他の内容の支援が優先的に実施される傾向があるということも想定できる.そのため,ここで明らかになった結果は,あくまでそれらの背景を考慮していない実施状況の実情であることを付け加えておきたい.遺族支援においても「乏しい実施状況にある支援」であることが明らかになったが,PCUにおいては,退院患者のうち死亡退院が占める割合が,2019年度において約8割という高値8である状況であることからも,ニーズの高い支援内容であることからも,さらに深く分析を行った.

まず,「遺族支援」に関するQ29からQ32の項目それぞれの回答について,「実施している」,「やや実施している」を「できている群」,「あまり実施していない」,「実施していない」を「できていない群」の2値に分け従属変数とし,組織要因と個人要因の関連について,単変量解析((対応のない)t検定,χ2検定)にて, 表4の通り確認した.

表4 遺族支援の関連要因(単変量解析)

その結果,Q29においては関連性のある要因はみられなかった.Q30については, 表4の通り,個人要因の4項目に関連がみられた.Q31では,個人要因の3項目のほか,組織要因の「PCU病床数」に関連がみられた.Q32については,個人要因の3項目と,組織要因の「PCU病床数」,「PCU在院日数」に関連がみられた.

そのうえで, 表5の通り,「遺族支援」の「できている群」と「できていない群」の2値を従属変数に,単変量解析で関連がみられた要因を独立変数に投入し,ロジスティック回帰分析を行った.なお,Hosmer & Lemeshow検定,モデルχ2検定,判別的中率についても確認を行った.

表5 遺族支援の関連要因(多変量解析)

その結果,「遺族支援」全体としては,個人要因に多くの有意差がみられた.とくに「SWのPCU患者への介入割合」については,Q29, Q30, Q31それぞれにみられた.Q30における個人要因については,「PCUでの実践年数」,Q31における個人要因については「SWとしての経験年数」「年齢」といった経験値に関する要因に関連性がみられた.なお,Q32の「死亡後のお見送り,葬儀の参列等に関する支援」についての関連性は見出せなかった.

考察

PCUの対象者は,診療報酬の規定や病院運営からの終末期にある患者が対象にあることが多く,またその入院期間も短期であることが考えられる.本調査においても,平均在院日数は,28.82±12.39という結果であった.PCUにおける支援は,その短い期間の中で,最期の時を迎えるための支援についても効果的に実施させる必要が考えられた.本研究を通じて,以下の考察と今後の課題について示していく.

PCUにおけるSWの支援の特徴と取り組むべき支援内容

PCUにおけるSWの支援については,その指標になる項目や指針,マニュアルなどの整備は十分ではないことは先行研究からも明らかである.そのため,本研究において,十分明らかになっていなかったPCUにおけるSWの支援の実態について示すことができたことは,大きな意味があった.

図1で示した支援の実施状況を見ると,「充実した実施状況にある支援」は,「退院支援」や「経済的支援」,「人間関係支援」であった.

「退院支援」については,高山が,過去の調査データ分析から「退院支援がソーシャルワーク業務に占める割合が高くなっている」22と示すように,SWの中心的な業務になってきたといえる.また,「経済的支援」においては,とくに「患者が主たる生産者である場合は,就労継続が困難なこと,治療費が額となること,収入が途絶えてしまう」23など,生活や医療の維持,継続のために,まずはSWが整理する側面となる.そして,「人間関係支援」は,ソーシャルワーカーの基本姿勢21であり,支援のすべてにおいて考慮される.以上のことから,「退院支援」,「経済的支援」,「人間関係支援」については,PCUのみならず,一般病棟等でもSWが日常的に実施している業務といえる.逆に「乏しい実施状況にある支援」では,「遺族支援」,「就労就学等支援」,「信条・人権,セクシュアリティ,その他の支援」,「会の活動に関する支援」などが挙げられた.これらの支援内容については,一般病棟等では,ニーズがある対象者が常にいるわけではないことから,支援を実施する割合としては少ない領域と考えられる.

また,本研究においては,この乏しい支援状況でもある遺族支援に焦点を当て,関連要因について確認をしてきた.遺族支援は,PCUにおいてニーズの高い支援であり,明らかになった遺族支援の関連要因を考慮して取り組むことで,支援の充実につながると考えた.そして,この実施の積み重ねが,今後の専門的で効果的なPCUにおけるSWの支援につながっていくと考える.

「個人要因」と「環境要因」による取り組みに関する特徴

本研究においては,遺族支援の関連要因を「個人要因」と「環境要因」の二つの枠組みで分析を行った.

遺族支援における関連要因では,「個人要因」である「SWのPCUにおける介入割合」,「年齢」,「SWとしての経験年数」,「PCUでの実践年数」といった要因に関連があった.経験年数については,経験の中でSWの支援や専門性の質を向上させることから,関連性があるという結果に至ったと想定できる.この「個人要因」については,SW個人や部署レベルの裁量で対応できる側面である.例えば,多くの経験を積むために,SWの配置の工夫や,SWのサポートができるスーパービジョン体制の充実などは,SW部門の運営管理の中で検討することができる.

しかし一方で,「環境要因」で関連が示された「PCU病床数」や「PCU在院日数」などについては,SW個人や部署での変更は容易ではない.中井ら24は,医療機関におけるSWを対象に行った遺族支援の調査で,死にゆく患者への支援の前向きさ,死にゆく患者との関係性の構築,支援に対する患者自身の要求に対する考え方の3点の重要性を示した.例えば,この患者との関係性の構築を行うためには,患者と関わる十分な時間も重要な要因である.在院日数が少ない場合においては,できる限り早期での介入を心がけ,患者と向き合い,関係性を構築していくことも一つの方法と考えられる.

以上のように,遺族支援を向上させるためには,「個人要因」と「環境要因」それぞれの背景を考慮した取り組みが求められる.

SWとしての経験を積むための職場づくり

本研究では,PCUにおいて求められる支援である遺族支援に焦点を当て分析を行った.

遺族支援については,PCUにおける支援の実態などについて十分明らかになっていなかったが,本研究において,PCUにおける遺族支援の実施状況や関連する要因が明らかになったところである.佐藤によると,遺族に関する支援は,「実際には,当事者のおかれた状況に合わせ,死を迎える準備を整えたり,あるいは当事者との死別を経験した家族を支えている」とし,「こうした実践はソーシャルワーカーたちのオプショナル・サービスである」25としている.つまり,SW支援が個別性を重視するという特徴を持つことから,体系化する取り組みが乏しいことや,画一的に遺族支援を行うということになっていない.しかしながら,PCUにおいて遺族支援は,行うべき支援の一つとして意識するものである.

本研究では,遺族支援において,関連している要因に「年齢」,「SWとしての経験年数」,「PCUでの実践年数」など,人生経験やSWとしての経験年数といったSW自身の豊かさに関する要因の影響が明らかになった.そのため,PCUにおけるSWの遺族支援の質を向上させるためには,経験を積むことができる環境整備を行い,実践経験を積み重ねることが必要となる.

しかしながら,この経験を積むことについては,同時に近年の離職の課題についても目を向ける必要がある.離職の課題については,山口ら26による離職理由に関する分析,山川ら27のバーアウトの課題,そして楢木ら28は離職の回避の研究,保正29による離職の影響要因などの言及がある.保正によると,離職に影響する要因は,①離職意向に影響を及ぼす上司や部署環境,②離職意向に影響を及ぼす多様で標準化困難な業務の2点が影響を及ぼすとしている.SWが所属する機関や部署においては,組織体制や業務整理などの職場づくりを行うことで,働き続けられることにつながり,そのことが豊かな経験を積むことになり,PCUにおける遺族支援の実施を充実させていくと考える.

研究の限界と今後の課題

本研究においては,支援に影響を及ぼす要因について「SWとしての経験年数」や「PCUでの実践経験」の重要性について明らかにできた.しかし,どのような実践経験がより効果的であるのかについては明らかにできない側面である.PCUにおけるSWの支援を体系的に学ぶ研修は存在していないが,よりよい実践につながる経験とは,一定の教育(緩和ケア病棟の特性に照らし合わせた知識や技術,価値観,また生命倫理や死生観等の学び)を基盤に実践を積むことがより効果的であると考えられる.今後その教育のあり方や内容の検証も重要になるだろう.

また,経験を積んでいくことに関しては,所属機関の運営管理者に対してSWの専門性の理解を促進していくことや,運営管理者との協議や交渉についての機会を作ることや体制整備を行うこと,また,SW部署内での体制づくりや取り組みが重要であるが,具体的な手法についても今後の検討課題である.

結論

本研究では,PCUにおけるSWの介入状況と支援内容の現状を明らかにしてきた.PCUにおけるSWの介入状況では,介入が10%未満から100%までと非常にばらつきのある状況であった.また,支援内容については,「退院支援」,「経済的支援」,「人間関係支援」においては「充実した実施状況にある支援」であり,「遺族支援」,「就労就学等支援」,「信条・人権,セクシュアリティ,その他の支援」,「会の活動に関する支援」においては,「乏しい実施にある支援」であった.支援が十分でなかった「遺族支援」においては,「SWのPCUにおける介入割合」や「年齢」,「SWとしての経験」,「PCUでの実践経験」といった人生経験や専門職としての経験といったSW自身の豊かさの要因が影響していると考えられた.そのため,働き続けられる職場づくりを行い,SWが経験を積んでいける環境整備が重要になる.

研究資金

本研究は,国立病院機構大阪南医療センター臨床研究部奨励研究費(2023年度)の助成を受けた.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

萬谷は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,原稿の起草に貢献した.著者は投稿論文ならびに出版現行の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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