Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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Short Communication
Preliminary Study of Nutritional Assessment by Triceps Skinfold Thickness and Arm Muscle Circumference in Terminally Ill Cancer Patients in a Palliative Care Ward
Yasuro Kato
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2024 Volume 19 Issue 3 Pages 207-211

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Abstract

【目的】緩和ケア病棟において上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕筋周囲長を計測し,栄養状態を評価する.【方法】当院緩和ケア病棟のがん患者のうち,Palliative Prognostic Index(PPI)の予後予測が21日以下の31例において,入棟時から予後が日単位になるまで週1回の計測を行った.【結果】計測は全例で行えた.脂肪量を反映する上腕三頭筋皮下脂肪厚は80.6%が高度障害であった.筋肉量を反映する上腕筋周囲長は高度障害3.2%,中等度障害29.0%,軽度障害38.7%,正常29.0%であった.入棟後複数回の計測が行えたのは16例であったが,上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕筋周囲長とも入棟時から4週後まで正常または軽度栄養障害で経過した2例のみが56日を超えて経過した.【結論】緩和ケア病棟における上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕筋周囲長の定期的測定により,予後予測の精度が高まる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To evaluate nutritional status by measuring triceps skinfold thickness and arm muscle circumference in the palliative care ward. Methods: We analyzed 31 terminal cancer patients in the palliative care ward, whose Palliative Prognostic Index (PPI) predicted a prognosis of 21 days or less. Measurements were taken once a week from the time of admission to the ward until the prognosis became daily. Results: Measurements could be performed in all patients. Triceps skinfold thickness, which reflects fat mass, was highly impaired in 80.6% of patients. The arm muscle circumference, which reflects muscle mass, was severely impaired in 3.2%, moderately impaired in 29.0%, mildly impaired in 38.7%, and normal in 29.0% of patients. Multiple measurements were obtained in 16 cases, but only two patients, whose triceps skinfold thickness and arm muscle circumference were normal or mildly impaired from the time of admission until 4 weeks later, had a prognosis of more than 56 days. Conclusion: Routine measurement of triceps skinfold thickness and arm muscle circumference in the palliative care ward may improve the accuracy of prognosis prediction.

緒言

保健・医療の領域では栄養状態を評価・判定することは不可欠である.その基本的な方法は身体計測であるが,身長や体重に加えて脂肪や筋肉の量を評価することで,より詳細な栄養状態の把握が可能になる.

脂肪量,筋肉量の評価方法には二重エネルギーX線吸収法,生体電気インピーダンス法,3Dスキャナー,MRI法,空気置換法などがあるが1,コストや全身状態の問題で臨床現場では行うことが難しい場合も多い.

簡便で患者負担もコストもほとんどかからない方法として,上腕三頭筋皮下脂肪厚(Triceps SkinFold thickness: TSF)と上腕周囲長(Arm Circumference: AC)を測定し,上腕筋周囲長(Arm Muscle Circumference: AMC)を計算する方法がある.TSFは脂肪量,ACは脂肪量と筋肉量,AMCは筋肉量の指標である2

TSFについては,過剰な脂肪蓄積に伴う保健上の危険性の評価やAMCを算出する目的に用いられることが多く,低脂肪量の危険性についての報告は少ない.AMCについては,低筋肉量であった場合の急性期疾患,血液透析患者,HIVや結核感染,高齢者での合併症率増加についての報告が主にされている3

がん患者での栄養評価は,身長,体重,Body Mass Index(BMI)にとどまることが多く,TSF,AMCの検討はほとんどされていない.月単位の予後のがん患者においてTSFやAMCを測定した報告が少数あるが4,5,緩和ケア病棟における報告はない.当院緩和ケア病棟では,日常的診療として膝高,TSF,ACから予想体重を計算し6,体重測定のできない患者のエアマットの体重設定に利用してきた.また日本医療機能評価機構の緩和ケア病院機能評価項目で「体脂肪量等から栄養状態が評価」されることが求められていたためにTSF,AMCを用いて栄養状態も評価してきた.

今回,当院緩和ケア病棟の患者におけるTSF,AMCを用いた栄養評価についての予備的研究を行ったので報告する.

方法

2023年11月から2024年3月までに当院緩和ケア病棟に入棟した34例について,カルテから後方視的にデータを収集した.このうち入棟時Palliative Prognostic Index(PPI)による予後予測が21日以下であった31例の栄養状態を評価した.

入棟時,安全に立位保持が可能な症例では身長,体重を測定した.全例においてアディポメーターを用いてTSFを,インサーテープを用いてACの計測を試みた2

アディポメーターはプラスティック製で,鈍的に皮下脂肪をはさんで厚みを測定する構造となっており,プラスティックの弾力性を用いて適切なはさみ圧に達したことを示す仕組みを有している.計測位置は肩峰から尺骨肘頭までの中心点である.計測者はこの点から1 cmずつ離れた皮膚を脂肪層と筋肉部分を分離するようにつまみあげ,アディポメーターでmm単位で皮下脂肪厚を測定し記録する.

インサーテープは輪状のメジャーテープで,腕をその輪の中に通し,先のTSF計測部において皮膚を圧迫しない程度に輪を締めて0.1 cm単位で上腕周囲長を測定し記録する.アディポメーター,インサーテープは2024年現在,どちらも株式会社医科学出版社から1000円未満で販売されている.

一部の患者で,アディポメーターで挟むときに若干の痛みを訴える場合があるが,ほとんどの場合には痛みを与えることなく計測が可能である.立位や座位をとれない患者,意識のない患者でもベッドサイドで測定が可能である.測定に要する時間は数分以内である.

TSF,ACを測定した後,AC(cm)−π×TSF(mm)/10の式でAMCを計算する.

計測は入棟当日に医師または看護師が行い,以後7日ごとに計測を繰り返し,予後が日単位となった時点で計測を中止した.

栄養障害の判定は日本人の新身体計測基準値,Japanese Anthropometric Reference Data(JARD)20017の年齢性別平均値と比較し行った.90%以上を正常,80%以上90%未満を軽度栄養障害,60%以上80%未満を中等度栄養障害,60%未満を高度栄養障害とした2

本研究は天理よろづ相談所病院の研究倫理委員会の承認(臨24-03)のもとに行った.

結果

入棟時の患者背景を示した( 表1).31例中,入棟時身長体重測定が可能であったのは5例(16.1%)のみであった.TSF,ACは全例で計測できた.入棟時のTSFでは高度栄養障害例が25例(80.6%)と多かった.AMCでは軽度栄養障害例が12例(38.7%)と多く,高度障害例は1例3.2%のみであった( 表2).

表1 入棟時の患者背景(N=31)
表2 入棟時のTSFとAMCの測定結果

入棟後複数回TSF,AMCを測定できたのは16例であったが,2例のみが56日を超えて経過し,この2例は入棟後TSF,AMCとも入棟時から4週後まで正常または軽度栄養障害で経過した( 図1).

図1 入棟後複数回TSFとAMCを測定できた16例の経過

考察

アディポメーター,インサーテープを用いてTSF,AMCを測定し栄養を評価する方法は,コストもあまりかからず,ベッド上臥床状態やせん妄を有する患者でも容易に行うことができ,患者への侵襲もなく,緩和ケア病棟でも有用性が高い方法である.

TSF,ACは上腕での評価であるが,他の評価方法として下腿周囲長,肩甲骨下部皮下脂肪厚などがある.緩和ケア病棟では下腿や背部の浮腫の頻度が高く,結果への影響が懸念されたために,今回は上腕での評価を行った.

また皮下脂肪厚の測定では内臓脂肪の評価ができない可能性も指摘されている3.一方,生体の脂肪の約半分は皮下脂肪として存在しており,皮下脂肪の計測で体脂肪の評価が可能であり,皮下脂肪の消耗は体脂肪全体の消耗と比例して起こるともいわれている8.緩和ケア病棟で測定可能な方法として,今回はこの方法を行った.

生体電気インピーダンス法などは装置および出力ソフトウェアによって差が大きかったり,その結果の評価法について統一された見解がない点も問題とされている9.TSF,AMCについてはJARD 2001で日本人の年齢性別の基準値が示されており7,今回もその基準値との比較で評価を行った.

Fearonら10はがん悪液質の定義として「脂肪組織の減少の有無にかかわらず骨格筋量の減少が進行すること」を挙げているが,今回は入棟時,脂肪量は高度障害例が80.6%と多かったが,筋肉量は高度障害例が3.2%と少なかった.これについてはがん悪液質の進行につれてまず脂肪量が減少し,その後に筋肉量が減少していく過程をみている可能性が考えられた.

がん終末期患者で身体計測を行った報告は検索した限りでは2文献で,いずれも予後との関連を報告していた.一つはHoらの台湾での報告である4.予後6カ月未満の患者のTSF,AMCなどを解析した結果,TSFのノモグラム25%未満が独立した予後不良因子と結論づけている.筆者と同様に,彼らも身体計測は侵襲的な採血などが不要で,終末期ホスピス患者に向いていると述べている.

Tartariらはブラジルにおける4期肺がん患者のAMCを計測し,年齢性別調整予測基準値に対する割合で評価し,90%以上だった正常例の生存期間中央値は10.2カ月,90%未満だった障害例の生存期間中央値は6.2カ月と有意差がみられたとしている5

今回,予後予測21日以内でありながら56日以上の経過がみられた2例はいずれもTSFとAMCが入棟時から4週後まで正常から軽度栄養障害で経過した.TSF,AMCがこのような経過をたどった場合には,PPIの予後予測以上の経過がみられる可能性があり,今後症例を集積して分析を試みる予定である.

本研究の限界を述べる.まずTSF,AMCでどこまで正確に脂肪量,筋肉量を評価ができているか不明であった.立位での体重測定が困難な患者でも,両手で握るタイプの生体電気インピーダンス測定器であれば脂肪量,筋肉量の測定が可能であったと思われた.しかし,この方法にも身長体重の入力が必須であり,身長体重測定が困難な緩和ケア病棟患者では実施が難しいと思われた.さらには,機器の購入,コストの問題もあるが,身長体重測定が可能であった患者においてだけでも生体電気インピーダンス法による測定結果と今回の結果を比較検討してもよかったと思われた.

今回の検討が後向き研究であった点にも限界があった.アディポメーター,インサーテープによる測定は,測定者の慣れ,技術により結果にばらつきが出る可能性も指摘されている1,3.今回の経過を追った計測では,時系列から逸脱した数値が記録されていたこともなく,手技的にも安定していたと思われるが,その手技の検証などはできていなかった.

さらには単施設の単病棟での検討であった点も限界である.過去に報告の例のない緩和ケア病棟での日から週単位の予後の症例で報告を行った意義はあると思われたが,今回は症例数の限られた中での予備的研究であり,今後さらに症例を集積して予後との関連などの解析が必要と思われる.また他施設,多施設での検討も必要と思われた.

結論

緩和ケア病棟の予後予測21日以内の31症例の身体計測結果を分析した.TSF,AMCによる評価は全例で可能であった.入棟時,TSFによる脂肪量の評価では高度障害例が80.6%であったのに対して,AMCによる筋肉量の評価では高度障害例は3.2%であった.入棟後複数回TSF,AMCを測定できた16例中2例のみが56日を超えて経過し,この2例はTSF,AMCとも入棟時から4週後まで正常または軽度障害で経過した.緩和ケア病棟におけるTSF,AMCの定期的測定により,予後予測の精度が高まる可能性が示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

加藤は研究の構想,デザイン,原稿の起草,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,投稿論文ならびに最終承認,および研究の説明責任に貢献した.

References
 
© 2024 Japanese Society for Palliative Medicine

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