Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of Successful Opioid Dose Reduction by Substituting Spinal Analgesia for Treatment of Cancer Pain in a Patient on Super High-dose Opioids
Tomoko Mae Seiji HattoriYu Kono
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2024 Volume 19 Issue 3 Pages 213-218

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Abstract

【目的】脊髄鎮痛法を用いて高用量オピオイドの漸減に成功した経験を紹介する.【症例】53歳男性.直腸がん仙骨転移による臀部痛に対し,専門的がん疼痛治療とオピオイド減量目的に紹介入院となった.入院時,経口モルヒネ換算5040 mg/日のオピオイド内服中で,NRSは10/10であった.大量ではあったが不正取引や精神依存は否定された.疼痛の増悪とオピオイドの急激な増量による耐性形成が要因と思われた.入院後,硬膜外鎮痛と脊髄くも膜下鎮痛を導入しながらオピオイドを漸減し,30日後,脊髄くも膜下モルヒネ24 mg/日+経口オピオイド120 mg/日(経口モルヒネ換算)までの減量に成功し,紹介元病院に転院した.【結論】がん疼痛はオピオイドの大量投与を招く可能性がある.高用量オピオイドからの離脱には専門的な疼痛治療の併用が有用であることが今回示唆されたが,オピオイドが超大量になる前に専門的疼痛治療の導入についても検討することが望ましい.

Translated Abstract

Objective: To introduce a successful experience of tapering high-dose opioids using spinal analgesia. Case: A 53-year-old man suffering from buttock-pain due to sacral metastasis of rectal cancer, was referred to our hospital for specialized cancer pain treatment and opioid reduction. At the time of admission, he was taking 5040 mg/day of oral morphine equivalent dose of opioids and NRS was still 10/10. Although the dosage was too high, an illicit transactions, diversion or psychological dependence were ruled out. Exacerbation of pain and tolerance formation due to the rapid increase of opioid dose seemed to be a vital factor. After admission, the high-dose opioid was gradually reduced while epidural and intrathecal analgesia were introduced. After 30 days of adjustment, the dose of systemic opioid was finally reduced to 120 mg/day (oral morphine equivalent) with 24 mg/day of intrathecal morphine at the time of transfer to his primary hospital. Conclusion: Cancer pain can result in high-dose opioids administration. Specialized pain treatment may be useful in weaning patients from high-dose opioids, but early concomitant use is recommended to avoid becoming high-dose opioid.

緒言

がん疼痛治療には,一般的な鎮痛薬に加え鎮痛補助薬,オピオイド鎮痛薬を使用することが推奨されている.WHOのがん疼痛治療の指針にも,強度のがん疼痛に対してはオピオイドを使用し,痛みが軽減するまで増量することと,神経ブロックや放射線治療など専門的治療を検討することが記されている.

今回,がん治療中に超大量オピオイド投与となった患者に対して脊髄鎮痛法を併用し,オピオイドの減量に成功したので報告する.

症例提示

患者背景

53歳男性,168 cm,98 kg.2013年,直腸がん(pT3N0M0 pStageII)の診断で手術が実施された.2016年,肺・仙骨転移を指摘されたが,自己判断で治療を中止していた.2019年,臀部痛が出現したが,化学療法,放射線治療と動注塞栓療法で一時軽減していた.

2022年6月,臀部痛が増悪し近医に緊急入院したが内服オピオイドでは効果なく,7月,専門的疼痛治療とオピオイドの減量目的で中部徳洲会病院(以下,当院)に紹介受診された.CT画像上,直腸がんの仙骨浸潤による広範囲破壊像が確認された( 図1).痛みは臀部と両下肢にあり,左側臥位しかできず,Numerical Rating Scale(NRS)は10/10であった.オピオイド鎮痛薬は,定時薬としてヒドロモルフォン264 mg/日(12 mg徐放剤×22錠/日)とオキシコドン2480 mg/日(40 mg徐放剤×62錠/日),疼痛時レスキュー剤としてオキシコドン50 mg(5 mg速放剤×10包/回)を1日6回ほど使用していた.

図1 入院時の仙骨破壊像(仙骨浸潤冠状断)

治療経過

8月1日当院入院後,鎮痛方法の変更が必要と判断し,臀部痛に対して硬膜外カテーテルをL4/5椎間から尾側に8 cm留置した.硬膜外腔投与の薬液組成は250 ml中,モルヒネ50 mg, 0.25%レボブピバカイン60 ml,生理食塩水185 mlとし,4 ml/hr,レスキュー4 ml/回,ロックアウトタイム30分で開始(硬膜外モルヒネ19.2 mg/日)して,痛みを観察しながらモルヒネ濃度を上げることとした.硬膜外鎮痛開始後,血圧低下や運動麻痺などの副作用は生じなかった.L3–S2の範囲で疼痛軽減しNRSが10/10から2/10に減ったため,翌日オキシコドンを1600 mg/日に減量した( 図2).経口オピオイドは2種類が使用されていたこと,用量が大きすぎることから注射薬への換算が難しいため,退薬症状の有無を確認しながら−10%/日を目安に内服薬のまま減量を行った.まずオキシコドンの量は変えずに,ヒドロモルフォンを264 mgから漸減し,8月5日には中止した.その後,オキシコドン1600 mg/日の減量を紹介元の病院に依頼し,硬膜外鎮痛を継続したまま転院となった.この間,退薬症状はみられなかった.

図2 脊髄鎮痛法導入後のオピオイド投与量と疼痛NRSの推移

8月16日,転院先スタッフのCOVID-19感染により当院に再入院となった.硬膜外モルヒネを増量しながらオキシコドンを漸減し,8月22日にはオキシコドン80 mg/日にまで減量できた.8月23日,硬膜外鎮痛から脊髄くも膜下鎮痛に変更し皮下アクセスポートを作成した.

脊髄くも膜下カテーテルはTh12/L1椎間より尾側に挿入したが,腫瘍浸潤でL3より尾側にはカテーテルが進まず,カテーテル先端をL3椎体の高さに留置した( 図3).脊髄くも膜下腔投与の薬液組成は,100 ml中,モルヒネ50 mg,脊麻用0.5%等比重ブピバカイン16 ml,生理食塩水79 mlとし,0.5 ml/hr,レスキュー0.5 ml/回,ロックアウトタイム30分とした(脊髄くも膜下モルヒネ6 mg/日).疼痛は安定していたが腫瘍増大に伴い徐々に馬尾神経に脊髄くも膜下モルヒネが十分に浸透しにくくなり,再度疼痛増強したため,全身オピオイドも追加併用し対応した.脊髄くも膜下モルヒネ24 mg/日,オキシコドン160 mg/日時点で,本人希望もあり紹介元の病院へ8月31日に転院となった.その後,病状の進行により在宅で死亡した.

図3 脊髄くも膜下カテーテル尾側挿入

考察

がん疼痛は強オピオイドの使用により多くが軽減されるとされているが1,中には高用量オピオイドになる症例もあり,脊髄鎮痛,放射線治療,神経ブロックなどを組み合わせる必要がある2.本症例は超高用量であったので,今後内服困難となったときの対応が難しいであろうことを考慮し,脊髄鎮痛のように少ない量で強い鎮痛効果をもたらす方法を併用して,全身オピオイドを減量する必要があった.その一方で,背景に麻薬の不正取引,精神・身体依存,耐性などについても念頭において治療に当たらなくてはならなかった.

・不正取引:

海外では社会問題ともなっている処方オピオイドの不正取引3や横流しの可能性を考えたが,入院後,実際に内服していることが確認できたため,不正取引等の可能性は除外できた.

・医療経済:

本症例では,オピオイド鎮痛薬の徐放剤だけで71,318円/日の薬剤費がかかっていた.脊髄くも膜下移行後,転院時のそれは脊髄鎮痛のモルヒネ注射薬と内服徐放剤を合わせても2,330円/日となり,医療経済への貢献も大きい.オピオイドは痛みに合わせて増量可能な上限のない薬剤とされるが,公的資金による保険医療制度上,安価とはいえないオピオイド製剤が無秩序に増量されてしまうようなことは避けなくてはならない.

・依存と耐性:

オピオイド依存症は長期間のオピオイド使用によって引き起こされ,薬剤の強い欲求,使用量が調節できなくなる,同じ鎮痛効果を得るための使用量が増加する,とされている4.本症例では,特定薬剤に対する固執や服用時間などの不正使用はなく,脊髄鎮痛開始後,減量に抵抗を示さなかったことからオピオイドの精神依存ではなかったと考えた.Daviesら5の調査では,患者のオピオイド使用量が増えた理由で最も多かったのは,医師から,増やしていけば効果が出ると説明されていたことと,オピオイドの危険性についての説明がなかったこと,と報告している.本症例でも痛みに対する鎮痛効果が不十分なままに患者本人が求めるままに増量していった結果として耐性形成に至ったと思われた.欧米ではオピオイドの代替治療としてメサドンが使用されるが6,今回は病態から痛みが実際に強いこと,使用量が大量であったことから脊髄鎮痛法で代替することになった.

・内分泌機能への影響:

長期間のオピオイド使用は,視床下部—脳下垂体—副腎系,性腺系に重要な影響を与え,ホルモンの不均衡や性機能障害を引き起こす可能性が指摘されており,投与量との相関も示唆されている7

その他,免疫系への影響8や認知機能の低下も指摘されている9

・脊髄鎮痛による除痛:

脊髄くも膜下鎮痛は1979年にWangら10が初めてモルヒネの脊髄くも膜下腔投与の有用性を報告してから,1980年代後半から強度のがん疼痛に対する治療法として普及した.投与経路におけるモルヒネの力価は,理論値ではあるが,硬膜外で内服の30倍,脊髄くも膜下で300倍とされる11.また,ブピバカインを併用することでモルヒネの増量が抑えられるといわれている12.このことから,内服など一般的なオピオイドの増量では痛みに対応できないと判断したときは脊髄鎮痛の適応について専門家にコンサルトしておくことが肝要である.

大量のオピオイドを減量するには他の有効な除痛方法の導入が必要である.メサドンの追加は換算が難しくメサドンそのものも大量となる懸念があり,ケタミンは在宅や転院先での継続管理が難しいことと長期間投与が困難であることから,今回は確実に除痛が図れる硬膜外鎮痛および脊髄くも膜下鎮痛を実施した.最終的に脊髄くも膜下モルヒネ24 mg/日とオキシコドン160 mg/日で,紹介元に帰すことができた.在宅療養における脊髄鎮痛法の管理についてはまだ課題が多い.筆者らは,訪問診療医が脊髄鎮痛法の管理に精通していない場合,一般的な全身管理を訪問診療医に依頼し,脊髄鎮痛の管理を専門医が往診対応していくという連携を取ることで対応を可能としている.

結論

今回,超大量オピオイド使用患者のがん疼痛治療とオピオイド減量を経験した.病態から,痛みはかなり強く,脊髄鎮痛法によってしか痛みを軽減することはできず,その結果,大量投与されたオピオイドも劇的に減量することができた.がんの激しい痛みの場合は,オピオイド増量だけで対処すると耐性形成によって大量になる可能性がある.オピオイドの全身投与を増量しても鎮痛効果が乏しいであろうと予見できたら,早めに麻酔科・ペインクリニック医師などにインターベンション等の適応をコンサルトすることで本症例のように超大量オピオイド投与となる事態を避けることができるのではないかと思われた.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

前は研究の構想,データ収集・分析・解釈,原稿の起草・知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.服部は研究の構想,データ解釈,原稿の起草に貢献した.河野はデータ解釈,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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