2024 Volume 19 Issue 4 Pages 257-262
【目的】がん治療後の高齢乳がんサバイバーが,がん患者会を長期生存期の支援としてどのように認識しているかを明らかにする.【方法】がん治療後高齢乳がんサバイバー6名に,患者会から得られたと感じる支援や患者会への思いを半構造的面接法で尋ねた.【結果】がん治療後の高齢乳がんサバイバーは患者会に対して,[患者会はがん治療後の悩みを共有できがんとの共生に役立つ][患者会継続で遭遇する仲間の再発転移や死を自分と重ね思案する][長期にわたり患者会へ参加する中で自身の状況が変化し継続困難と感じる]と認識していることが明らかになった.【考察】がん治療後の高齢乳がんサバイバーにとって患者会は重要な資源であり,長期生存期の支援では,継続参加できる患者会のあり方の検討と,地域医療福祉機関と連携できる体制の必要性が示唆された.
Objective: To clarify how older breast cancer survivors after cancer treatment perceive cancer patient associations as support for long-term survival. Methods: Six older breast cancer survivors after cancer treatment were asked about the support that they received from the patient association and their thoughts about it using semi-structured interviews. Results: Older breast cancer survivors who have undergone cancer treatment have been aware of the following aspects of patient associations: “Patient associations can share worries after cancer treatment and help them live with cancer”, “The patients reflect on the recurrence, metastasis and death of fellow survivors they have encountered during attending patient associations” and “They felt that their own situation changed as they have participated in patient associations over the long term and that it was difficult to continue”. Discussion: Patient associations are an important resource for older breast cancer survivors after cancer treatment, and our results suggest that it is necessary to consider the form of patient associations that allow continued participation and to establish a system for collaboration with local medical and welfare institutions in order to provide support during the long-term survival phase.
Mullan1)は,がん治癒のみを目指す医療からその後の生き方にも目を向けることを提唱し,米国国立がん研究所がんサバイバーシップ研究部2)は,がんサバイバーを,「がんと診断されたときから人生の最後までがんとともに生きるがん生存者」と定義した.わが国のがん対策基本法の基本理念にも,がんとの共生に向けた施策が盛り込まれている3).がん治療後の乳がんサバイバーは,他のがん種と比べ精神面のQuality of Life(QOL)が低く4),診断から10年以上経過しても再発不安は続いている5,6).高齢がんサバイバーの約2割に不安,抑うつ状態を認め7),再発や健康への心配がうつ病や不安の予測因子になっている8).これらのことから,乳がん,および高齢がんサバイバーには,がん治療後も長期的な支援が必要だと考える.
海外では,がん治療完了後の自己管理教育,かかりつけ医と専門医の連携体制やがんサバイバーシップケアモデル9,10),健康維持プログラム11),がんサバイバーシップケア施設12)がある.わが国では,がんサバイバーシップケアに特化した支援体制は見当たらないが,Matsuokaら13)が,がんサバイバーシップガイドラインの構造を開発,2019年に「がんサバイバーシップガイドライン 国立がん研究センター編」14)を示した.がんサバイバーの心理・情報支援では,患者会など体験者同士の相互関係の効果15–18)が報告され,とくに,女性は男性よりも同病者との交流を心理的な支援として選択している19).しかし,参加者の多くが診断から3年未満であり,副作用対処や治療に関する情報を希望している20).そのため,がん体験者同士の交流の場が,がん治療後の高齢乳がんサバイバーにとっても,支援として認識されているかは明らかではない.
本研究の目的は,がん治療後の高齢乳がんサバイバーが,患者会を,安定した長期生存期の支援としてどのように認識しているか明らかにし,医療的介入が減少する時期の支援のあり方を検討することである.
質的記述的研究デザイン
研究対象者対象条件を,乳がん治療後5年以上経過し,定期受診回数1回/年以下,日常生活が自立しており,がん患者会に在籍している65歳以上の者とした.対象の選出は,都道府県発行のがん冊子およびインターネット情報を基に,東北地方3県のがん患者会19カ所に研究協力依頼書と返信用はがきを郵送,協力意向を示した5カ所で参加者に研究依頼書を用いて説明し,返信用はがきで研究協力の意向を示した者を対象とした.
調査期間2019年8月10日~2020年3月31日
データ収集および分析データ収集は,作成したインタビューガイドに基づき,がん治療後から現在まで患者会から得られたと感じる支援や患者会への思いについて半構造的面接を1人1回実施した.面接内容は同意を得てI.C.レコーダーで録音し逐語録を作成した.
データ分析は,対象者が語った言葉の意味内容を読み解き明らかにするため,個別分析と全体分析を行った.個別分析では,逐語録を繰り返し精読,文脈に留意して,対象者が患者会から得たと感じる支援や思いについて語った部分に着眼し,意味内容を損なわないように語りの内容を要約しコードとした.全体分析では,意味内容の類似するコードを集めサブカテゴリを形成し,さらに,類似するサブカテゴリを集めカテゴリを形成した.分析の全過程では,質的研究に精通した研究者の助言を受け内容の信頼性,妥当性の確保に努めた.
倫理的配慮本研究は山形大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:第2019-271号).データ収集に際し,研究協力は任意であること,同意後も同意撤回できること,同意しない場合や撤回した場合でも不利益を被らないことを説明し同意書に署名してもらった.得られた電子データは専用のUSB メモリに保存,フィールドノートとあわせて施錠可能な保管庫に保管した.
ID | 年代 | 病名/病期 | 治療内容 | 診断後経過年数 | 通院頻度 | 同居数 | 面接時間(分) | 患者会内訳 | その他 |
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A | 60代後半 | 右乳小葉がん/StageI | 乳房全摘術+内分泌療法(5年終了) | 7 | 1回/年 | 1人暮らし | 65 | がん患者会 | |
B | 70代後半 | 右乳がん/StageIIB | 乳房全摘術+リンパ節郭清,乳房再建術 | 20 | 2年前終了 | 6人暮らし | 68 | 乳がん患者会 | |
C | 70代後半 | 左乳がん/StageI | 乳房温存術+放射線療+内分泌療法(5年終了) | 7 | 1回/年 | 1人暮らし | 130 | がん患者会 | |
D | 60代後半 | 右乳がん/StageI | 乳房温存術+リンパ節郭清術 | 21 | 1回/年 | 2人暮らし | 118 | 乳がん患者会 | 患者会他代表ピアサポーター |
E | 70代後半 | 左乳がん/StageI | 乳房温存術 | 21 | 1回/3年 | 2人暮らし | 128 | 乳がん患者会 | |
F | 70代前半 | 右乳がん/StageII | 乳房全摘術+リンパ節郭清+がん薬物療法+内分泌療法(5年終了) | 18 | 1回/年 | 2人暮らし | 52 | がん患者会 | 患者会代表ピアサポーター |
研究協力の意向を示した10名中,65歳未満の1名,研究対象者が所属する患者会を有する病院より研究協力辞退の意向が示された3名を除外した.
対象者6名の平均面談時間は93.5分(範囲52–130分)であった.対象者の平均年齢は71.8歳(68–75),がん診断後の経過年数は平均15.7年(7–21),治療内容は,乳房全摘術,温存術各3名など,通院頻度は1回/年が4名などであった.
がん治療後高齢乳がんサバイバーのがん患者会に対する認識分析の結果31コード,10サブカテゴリ,3カテゴリに集約された(表2).以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,生データは「 」で表す.
カテゴリ | サブカテゴリ | コード |
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患者会はがん治療後の悩みを共有できがんとの共生に役立つ | 身体の悩みを患者会に相談し対処できる | 治療した側を下に寝るから痛むと患者会でいわれ気を付けている |
患者会で体重管理の体験を聞き我慢のしどころと頑張る | ||
リンパ浮腫を自覚し患者会で聞いた知識を頼りに対処している | ||
患者会で聞いたリンパ浮腫対処法をもとに家族に協力依頼できる | ||
患者会で共有することで身体のつらさを受け入れられる | 痛みは切ったから仕方がないと患者会でいわれ納得できる | |
傷跡のかゆみを患者会で打ち明け理解してもらえると自分で受け入れられる | ||
同病者同士理解しあえることが気持ちの支えになる | 健康な友達に話せないことを患者会では共有できる | |
家族にもいえない不安な気持ちを患者会は吸い取ってくれる | ||
患者会では心配も悩みも何でも話せて通じ合える | ||
健康な人からの理解とは異なる患者会で感じる共通理解に救われる | ||
一人では抱えきれない気持ちの支えを患者会に求める | ||
患者会継続で遭遇する仲間の再発転移や死を自分と重ね思案する | 患者会で仲間の再発転移や死を知り心理的負担を感じる | 患者会で仲間の死を聞きショックを受ける |
再発転移治療の副作用に苦しみ亡くなった仲間を見て再発が怖くなる | ||
治療後長期経過してから再発転移する仲間が多く不安になる | ||
治療後長期経過してから再発転移する仲間の姿に通院終了への抵抗がある | がん治療後何年経過しても再発する仲間を見て医師に依頼し検査を受け続けたい | |
仲間の再発を見てもう大丈夫という医師の言葉に通院継続を願う | ||
仲間の再発を見て主治医が変わるたび通院終了といわれるのではと心配である | ||
健側に乳がん出る仲間もいてがん検診に移行することへ不安あり通院終了に抵抗ある | ||
仲間が再発治療を受ける姿を見て治療のあり方を考える | 仲間の再発時期から人生全うの時期を見据え治療価値を考える | |
再発治療に苦しむ仲間を見て自分なら治療は望まないと思う | ||
治療後長期経過してから再発治療する仲間を見て自分の場合の治療先を考える | ||
再発治療費が高いと聞き家族にもいるし家計圧迫してまで治療したくないと思う | ||
再発したときの治療費に何とかなるとは思うが子どもに負担かけたくないと悩む | ||
再発する仲間を見て最期を迎える場所を考える | がん治療後何年経過しても再発する仲間を見て最期は在宅医療でいいかなと思う | |
再発したら痛みのない入院生活で最期を迎えたい | ||
再発転移したときは子どもの介護負担を考え病院を選びたい | ||
再発後亡くなった仲間を見て死を意識し子どもに迷惑かけない準備を考える | ||
長期にわたり患者会へ参加する中で自身の状況が変化し継続困難と感じる | 患者会よりも生活が中心になり思うように参加できない | がん診断後は情報が欲しくて毎回参加したが,今は仕事が忙しく患者会になかなか参加できない |
長期に参加してきた高齢者は自然に患者会から消滅していくと感じる | 患者会に若い人が増え長期経過の高齢者は自然消滅のようにいつの間にか来なくなっていると感じる | |
加齢に伴い交通手段が限られ患者会への参加が難しくなる | 運転に不安定になり免許返納になれば患者会に行けるのか考えてしまう | |
夫を亡くし一人で行く手段がなくなり患者会で話したいことがあっても簡単には参加できなくなった |
本カテゴリは,〈身体の悩みを患者会に相談し対処できる〉〈患者会で共有することで身体のつらさを受け入れられる〉〈同病者同士理解しあえることが気持ちの支えになる〉の3サブカテゴリで構成された.「痛いのは,こっち側(患側)下にして眠っているからでしょってみんなにいわれて,夜中に眠るとき,なるべくこっち(健側)下に寝るようにはしてんだ.」など,患者会では身体や心のつらさを語り支援されていると感じていた.
2. 【患者会継続で遭遇する仲間の再発転移や死を自分と重ね思案する】本カテゴリは,〈患者会で仲間の再発転移や死を知り心理的負担を感じる〉〈治療後長期経過してから再発転移する仲間の姿に通院終了への抵抗がある〉〈仲間が再発治療を受ける姿を見て治療のあり方を考える〉〈再発する仲間を見て最期を迎える場所を考える〉の4サブカテゴリで構成された.「再発して治療したとしても5年くらいかな?お金使った割には苦しんで,そういう人患者会でいっぱい見てるから,実際なってみないとわからないけど,自分だったら(治療)しないかなって思うね.」など,仲間の再発転移や死を自分に重ねていた.
3. 【長期にわたり患者会へ参加する中で自身の状況が変化し継続困難と感じる】本カテゴリは,〈患者会よりも生活が中心になり思うように参加できない〉〈長期に参加してきた高齢者は自然に患者会から消滅していくと感じる〉〈加齢に伴い交通手段が限られ患者会への参加が難しくなる〉の3サブカテゴリで構成された.「患者会に行きたいけど場所が遠くて.夫亡くして送ってくれる人いないから,患者会に一人で行けなくなったので.1回でも2回でも会えば,元気だよなんて,やっぱり不安ですよね.そういう悩みって患者同士ならできるけど,なかなかね」など,患者会に参加したいができない思いであった.
がん治療後の高齢乳がんサバイバーは,【患者会はがん治療後の悩みを共有できがんとの共生に役立つ】と認識していた.がん体験者同士は安心して語りわかり合え15),医療者とは異なる支援であり16),とくに女性は男性よりも患者会の援助機能を高く評価している21).本結果でも,患者会は必要な支援であり,〈身体の悩みを患者会に相談し対処できる〉という結果から,長期生存期の医療的支援が減少していく不安を補う場になっていたと考える.その一方で,【長期にわたり患者会へ参加する中で自身の状況が変化し継続困難と感じる】では,〈長期に参加してきた高齢者は自然に患者会から消滅していくと感じる〉ことも明らかになった.患者会には,治療情報を求める診断から3年未満の患者が多く20),病状が安定した人たちは,患者会に居場所がなくなり退会することが課題22)と報告されている.本研究においても,がん診断後や治療時期にこそ,患者会の支援が必要だと思い,身を引く選択に至ったと考える.長期生存期のサバイバーには,医療者との関係維持のため,ピアサポート活動に移行する者もいる18).これは,患者会を継続するための一つの方法といえるが,〈加齢に伴い交通手段が限られ患者会への参加が難しくなる〉ことから,誰でもピアサポーターに移行できるとは限らず,がん治療後も安心して参加できる患者会のあり方の検討や,患者会に代わる地域交流の場との連携も必要ではないかと考える.
今回,【患者会継続で遭遇する仲間の再発転移や死を自分と重ね思案する】ことがわかった.Amatyaら23)は,長期生存がんサバイバーは,治療が成功しても再発への懸念があると述べている.このような潜在的な再発不安が,長年思いを共有してきた仲間の再発転移と死により,確信に変わっていったと考えられる.真志田ら24)は,治療中の高齢がんサバイバーは,がんを人生の一部と受け入れ,最期まで自分らしい人生を求め,やるべき役割を大事にしていると述べている.仲間の死や再発に衝撃を受けながらも,自分事として受け止め,生き方を思案する姿は,最後まで自分らしい人生を全うしようとする高齢がんサバイバーの特徴ともいえる.しかし,死に直面したときの受け止め方には個人差があり,患者会が支援にならないことも考えられる.かかりつけ医や腫瘍学医に相談していた長期生存がんサバイバーは,ケアの質的評価が高く25),QOLが高い26)報告がある.今後は,患者会の支援に加え,がん相談窓口やかかりつけ医などの医療福祉機関と連携できる体制が必要だと考える.
本研究は対象が6名と少ない.交通機関や医療資源,個人的な背景に地域性が反映された可能性があることを本研究の限界とする.今後の研究課題は,対象数を増やし,特定の地域に限定せず,がん治療後の長期的に安定した時期を過ごす高齢乳がんサバイバーに必要な長期生活支援のあり方を再検討することである.
がん治療後の高齢乳がんサバイバーは患者会を,【患者会はがん治療後の悩みを共有できがんとの共生に役立つ】【患者会継続で遭遇する仲間の再発転移や死を自分と重ね思案する】【長期にわたり患者会へ参加する中で自身の状況が変化し継続困難と感じる】と認識していた.がん治療後高齢乳がんサバイバー支援には,継続参加できる患者会のあり方の検討と,医療福祉職と連携できる体制の必要性が示唆された.
本研究は,第28回日本緩和医療学会学術大会(2023.6.30–7.1)で発表した内容に加筆修正したものである.
著者の申告すべき利益相反はなし.
松田は研究の構想およびデザイン,研究のデータ収集および分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.古瀬は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.