Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of Lung Cancer in Which Arthrocentesis and Radiation were Effective in Treating Pain Caused by Malignant Joint Fluid
Hikaru Mamizu Morihiro KumagaiChika KuwanaMasanori MiyagataniMaiko MamizuDaisuke IshikawaHidenori KawakamiToshiki FurukawaTakashi Ishida
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2024 Volume 19 Issue 4 Pages 251-255

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Abstract

【緒言】悪性関節液による疼痛に対して関節液穿刺と放射線照射が有効であった肺がんの1例を経験した.【症例】80歳男性.右肩痛で右手の挙上が困難となったため,当院を紹介された.全身CTで右肺腫瘍,多発肝転移,多発骨転移を認めた.また,右肩甲骨にも転移を認め,右肩関節に液体が貯留していた.右肩甲骨の転移に対して放射線照射を行ったが,疼痛は悪化していないものの残存していた.そのため,右肩関節の関節液穿刺を行ったところ,疼痛は軽減した.また,関節液細胞診でnon-small cell carcinomaの診断となった.右肺腫瘍からも生検を行い,組織診断は関節液と同様であったため,化学療法を開始した.治療開始後のCTでは右肩関節液が減少し,右肩甲骨転移の進行もみられなかった.【結論】骨転移に伴う悪性関節液を認めた場合,厳しい予後が予測されるが,関節液穿刺や放射線照射によって疼痛の軽減が期待できる.

Translated Abstract

Introduction: We experienced a case of lung cancer in which arthrocentesis and radiation were effective in treating pain caused by malignant joint fluid. Case: An 80-year-old man was referred to our hospital because of right shoulder pain and difficulty in raising his right hand. Whole body computed tomography (CT) showed right lung tumor, multiple liver metastases and multiple bone metastases. There were also bone metastases in the right scapula and joint fluid accumulation in the right shoulder joint. He was irradiated for bone metastases in the right scapula, but the pain remained, although it had not worsened. Therefore, an arthrocentesis of the right shoulder joint was performed and pain was alleviated. In addition, the diagnosis of non-small cell carcinoma was made by joint fluid cytology. A biopsy was also taken from the right lung tumor, and as the histological diagnosis was similar to that of the joint fluid, chemotherapy was started. CT after the start of treatment showed a decrease in the right shoulder joint fluid and no progression of right scapular metastases. Conclusion: In case of malignant joint fluid associated with bone metastases, a severe prognosis is expected, but arthrocentesis and irradiation can reduce pain.

緒言

悪性腫瘍の関節液への転移は極めて稀であり,その疼痛コントロールについてはこれまでほとんど報告がない.今回われわれは悪性関節液による疼痛に対して関節液穿刺と放射線照射が有効であった肺がんの1例を経験したため,文献的考察を含め報告する.

症例提示

【症例】80歳,男性

【主訴】右肩痛

【現病歴】2023年11月に右肩痛のため近医を受診した.肩関節周囲炎としてアセトアミノフェン1500 mg/日による治療を受けていたが症状の改善がなく,痛みのために右手があがらなくなったため,12月21日に当院へ紹介された.全身CTで右肺腫瘍,多発肝転移,多発骨転移を認めた.また,右肩甲骨にも骨転移を認め,右肩関節には液体も貯留していた( 図1).悪性腫瘍の精査のため入院された.

図1 CT検査(当院初診時)

右肩甲骨に骨転移を認め,右肩関節に液体も貯留していた.

【既往歴】陳旧性心筋梗塞,慢性腎臓病,腎性貧血,気管支喘息

【生活歴】喫煙歴5本/日

【入院時現症】身長158 cm,体重62 kg,体温36.8°C,血圧106/58 mmHg,脈拍55回/分・整,SpO2 97%(室内気).右肩にNumerical Rating Scale(NRS)で10/10の有痛性の腫瘤を触知する.胸部聴診では異常なし

【血液検査】WBC 6300/µL, RBC 258×104/µL, Hb 8.1g/dL, Plt 29.9×104/µL, TP 6.1 g/dL, Alb 2.7 g/dL, T-bil 1.3 mg/dL, AST 20 U/L, ALT 6 U/L, ALP 6 U/L, LDH 270 U/L, CEA 33.8 ng/ml, CYFRA 48.3 ng/ml, ProGRP 114.0 pg/ml

【入院後経過】疼痛により体動困難なため,Performance Statusは3程度であった.ただ,入院後は安静に過ごすことで疼痛が落ち着いて経過する時間もあったため,オピオイドの導入や他の鎮痛剤の増量は行わなかった.しかし,右肩の疼痛による肩関節の可動域制限が大きく右手の挙上が困難であったため,12月25日より全身治療の前に右肩甲骨の骨転移に対して放射線照射(20 Gy/5fr)を行った.放射線照射後,疼痛は悪化していないもののNRSで8/10に残存していた.そのため,診断や症状の改善目的で2024年1月5日に右肩関節液より関節液穿刺を行った.関節エコーでは右肩関節内に軟部腫瘤を認め,関節内に液体貯留と滑膜の増生を認めた(図2).穿刺によって血性の関節液を25 ml排液した.関節液の培養では有意な菌を検出しなかった.細胞診ではnon-small cell carcinomaの診断であった.関節液穿刺後,疼痛はNRSで3/10に軽減し,肩関節の可動域制限も軽減したことでわずかではあるが右手も挙上できるようになった.疼痛が軽減したことから患者や緩和ケアチームと相談のうえでオピオイドは使用せずに経過をみることになった.その後,気管支鏡で右上葉の腫瘍より生検を行った.組織診断でnon-small cell carcinomaであったことから関節液は肺がんの転移として矛盾しなかった.また,免疫染色の結果からは扁平上皮がんを疑った.そのため,1月11日よりカルボプラチン(carboplatin)+アルブミン懸濁型パクリタキセル(nab-paclitaxel)による化学療法を開始した.治療後のCTでは右肩関節液の減少が得られ,右肩甲骨の骨転移の進行もみられなかった(図3).同時期より右肩の痛みの訴えもなくなった.しかし,右肩甲骨以外の病変は増大したため,化学療法の効果はなしと判断された.その後,病状の進行により食事が全く摂取できなくなったものの,右肩甲骨の疼痛は悪化することなく,2月4日に永眠された.

図2 関節エコー

右肩関節内に軟部腫瘤を認め,関節内に液体貯留と滑膜の増生を認めた.

図3 CT検査(治療後)

右肩関節液は減少し,右肩甲骨の骨転移の進行もみられなかった.

考察

本症例の特徴は肩甲骨の骨転移に悪性関節液を伴っていたことであった.正常関節液は無色・淡黄色でごく少量が関節内に存在するのみであり,通常は採取できない.検体採取が可能な病的関節液は関節リウマチ,変形性膝関節症,痛風,偽痛風,感染性関節炎などによるものであり,悪性細胞の検索目的で関節液の穿刺を行うことはほとんどない1.実際,本症例でも診断のためだけではなく,疼痛コントロール目的で関節液穿刺を行い,結果的に悪性細胞を証明できた.本症例のような肩甲骨の骨転移に伴う悪性関節液の鑑別となり得る肩関節周囲炎や感染性関節炎も肩関節痛を呈する.しかし,肩関節周囲炎の関節可動域制限は軽度で臨床経過も一般的に良好であり,半年から2年の間に自然治癒することが多いとされる2.また,感染性関節炎は細菌感染によって引き起こされる関節滑膜の炎症であり,症状として発赤・腫脹を認める3.可動域制限が軽度で早期診断が困難なこともあるため,早期にCTやMRI検査,関節液穿刺などを行うことが重要である.関節液貯留により関節痛を発している場合は関節液を吸引することで関節内圧が減弱するため疼痛は大きく改善される.内容物の性状や色調により診断にも大きく寄与する4.また,再発性の有痛性関節液貯留は悪性関節液を疑う所見であり5,本症例の疼痛は骨転移によるものに加えて悪性関節液の貯留も大きな要因と思われた.これらより,本症例のように有痛性の関節液を合併した悪性腫瘍では診断や疼痛コントロール目的で穿刺を積極的に行うべきと考えられた.

悪性腫瘍の関節液への転移は極めて稀で,これまでの報告は50例程度であり,その多くが肺がんや大腸がんによるものであった6,7.悪性関節液は通常単関節に認めるとされ,そのほとんどが膝関節であるが,股関節や顎関節,また本症例のように肩関節に認めることもあった6.原発巣が肺がんの場合,組織型は腺がんが最も多く,次いで扁平上皮がんの頻度が高かった.悪性関節液発見からの生存期間は5カ月程度とされている6.悪性関節液の病態生理ははっきりしないが,隣接する骨転移からの直接伸展や関節液付近の血管からの血行性転移が挙げられている8.本症例では右肩甲骨への転移から肩関節に腫瘍が進展したと考えられ,前者の機序による悪性関節液と考えられた.

悪性関節液の疼痛コントロールについての報告は検索した限りでは1例のみであった.Wangら5は膝関節に生じた有痛性の悪性関節液に対して関節液穿刺を行い,症状の軽減が得られたと報告している.しかし,数日の経過で関節液が再貯留して疼痛を認めたため,関節液穿刺を繰り返していた.本症例では放射線照射によって骨転移の進行を抑えることで悪性関節液の再貯留を抑えることができ,関節液穿刺で関節内圧を減弱させることで疼痛コントロールが得られた.化学療法施行後のCTでは放射線照射を行った肩甲骨の骨転移以外の病変は増大していたため,放射線照射による骨転移の進行抑制効果はあったことが推測された.

結論

悪性関節液による疼痛に対して関節液穿刺と放射線照射が有効であった肺がんの1例を経験した.骨転移に伴う悪性関節液は厳しい予後が予測されるが,集学的治療によって腫瘍の縮小や症状の改善が得られるため,患者の状態に応じた治療選択が重要である.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

眞水飛翔は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.熊谷,桑名,宮加谷,眞水麻以子,石川,河上,古川,石田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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