Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communication
Change in Opioid Dosage in Terminally Ill Pediatric Patients with Malignancy
Kentaro Abe Toru AkagiHiroto IshikiTomofumi MiuraAyumu ArakawaChitose OgawaHironobu Hashimoto
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2024 Volume 19 Issue 4 Pages 263-268

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Abstract

【目的】終末期小児がん患者のオピオイド使用量の経時的変化を調査し,年齢や疾患の影響を明らかにする.【方法】2014年1月から2022年10月までに,国立がん研究センター中央病院において亡くなった小児がん患者を対象とし,診療録を用いて死亡7日前,3日前,1日前の体重あたりの経口モルヒネ換算一日量(OMEDD/kg)を年齢別(14歳以上群,14歳未満群)と疾患別(造血器悪性腫瘍群,固形腫瘍群)に後方視的に調査した.【結果】対象は36名.14歳未満群は14歳以上群よりも死亡7日前,3日前および1日前よりOMEDD/kgが多い傾向がみられた.造血器悪性腫瘍群は,死亡7日前,3日前では固形腫瘍群よりもOMEDD/kgが少なく,1日前では同等の傾向がみられた.【結論】終末期小児がん患者のオピオイドの使用量は,年齢や疾患において異なるため,個々の患者の因子について十分に配慮する必要があることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study objected to investigate temporal changes in opioid usage one week before death in terminally ill pediatric cancer patients, objecting to identify factors influencing opioid use. Methods: We retrospectively reviewed charts of pediatric cancer patients who died at the National Cancer Center Hospital between January 1, 2014, and October 31, 2022. Opioid morphine equivalent daily doses per body weight (OMEDD/kg)(mg/kg/day) were analyzed for age groups (<14 years vs. ≥14 years) and tumor types (hematologic malignancies vs. solid tumors) one week, three days, and one day before death. Results: A total of 36 patients were included in this study. Patients aged <14 years had higher OMEDD/kg compared to those aged ≥14 years at all three time points. Hematologic malignancy patients had lower OMEDD/kg compared to solid tumor patients one week and three days before death, with a trend towards equivalence on the one day before death. Conclusion: The study suggests that opioid use in terminally ill pediatric cancer patients varies according to age and tumor type, highlighting the need for individualized consideration of patient factors.

緒言

本邦のがんの罹患数は,約99万人である1.がんは日本人の死因の1位で,2022年の死亡数は約38万人と報告されている1.小児がんの年間死亡数は450人と報告されており,成人のがんと比べて圧倒的に少ない1

小児がんの種類は,白血病や脳腫瘍が多く,ほかにリンパ腫,胚細胞腫瘍,神経芽腫などがある2.小児がん全体の5年生存率は80%であり,小児がんの治療成績は近年飛躍的向上している3.一方で,化学療法や放射線治療などの治療効果が不応や再発により予後が不良となった場合には,終末期のケアが必要となる.

がん性疼痛は,終末期小児がん患者に最も多くみられる症状である4.終末期小児がん患者の約80%は,亡くなる1カ月前に痛みの症状を有し,そのうち痛みが緩和したのは27%と報告されている4.終末期小児がん患者は年齢やがんの疾患にかかわらず,経口モルヒネ換算量(OMED: oral morphine equivalent doses)の使用が増加傾向になることが報告されているが5,6,本邦においてその実態を明らかにした報告はない.また,小児がん患者では低年齢であるほど,がん疼痛に対して十分な鎮痛効果を得るにはOMEDが多くなることが示唆されているが,小児がん患者の具体的なオピオイドの使用量,年齢および疾患の違いについては明らかとなっていない5

そこで,本研究の目的は,終末期小児がん患者における死亡前7日間のOMEDの経時的変化を調査し,使用量が年齢や疾患によって異なるかを明らかにすることである.

方法

調査対象

調査対象は,2014年1月1日から2022年10月31日までに,国立がん研究センター中央病院において亡くなった小児がん患者を対象とし,診療録を用いて後方視的調査を行った.対象年齢は0歳から18歳以下までとした.死亡日を「1日目」と記し,「7日前」「3日前」「1日前」はそれぞれ死亡7日前,死亡3日前,死亡1日前とした.なお,死亡前7日間の間にオピオイドを使用しなかった症例は除外した.

調査項目

1. 患者の背景

背景は,年齢,性別,体重,がん種,オピオイドの種類,経口モルヒネ換算一日量(OMEDD: oral morphine equivalent daily dose),体重あたりの経口モルヒネ換算一日量(OMEDD/kg),使用したオピオイドの種類,入院期間についての情報を得た.

2. 死亡前7日間の年齢別におけるOMEDDとOMEDD/kgの経時的変化の比較

死亡前7日間における年齢別のOMEDの経時的変化の状況を明らかにするため,年齢の中央値より「14歳以上群」および「14歳未満群」と2群間に分けて,OMEDDとOMEDD/kgを収集した.

3. 死亡前7日間の疾患別のOMEDD/kgの経時的変化の比較

死亡前7日間における疾患別のOMEDの経時的変化の状況を明らかにするため,「造血器悪性腫瘍群」および「固形腫瘍群」と2群間に分けて,OMEDD/kgを収集した.

倫理的配慮

本研究は,国立がん研究センターの研究倫理審査委員会の審査を受けた(承認番号2022-285).本研究の対象者および代諾者には,オプトアウトにより周知した.

統計解析

各調査項目について記述統計を算出した.年齢別および疾患別の死亡前7日間のオピオイドの使用量の経時的変化を比較については,OMEDDとOMEDD/kgについてウィルコクソンの順位和検定を行った.統計解析は,IBM SPSS Statistics(Version 20.0)を用いた.両側検定で有意水準は,p<0.05とした.

結果

1. 患者の背景

対象症例は36名であった.患者の背景を表1に示す.女性19名(53%),男性17名(47%).年齢中央値は14歳〔範囲:2–18〕,入院期間中央値は13日〔範囲:1–114〕であった.がん種は,急性リンパ性白血病10名(28%),骨肉腫8名(22%),神経芽腫5名(14%),ユーイング肉腫4名(11%),横紋筋肉腫2名(6%),その他7名(19%)だった.死亡前7日間のオピオイドの種類は,モルヒネ14名(39%),オキシコドン10名(28%),フェンタニル7名(19%),ヒドロモルフォン4名(11%),タペンタドール1名(3%)であった.

表1 患者の背景

項目 n=36
●年齢(歳)中央値(範囲) 14 (2–18)
●性別,名(%)
17 (47)
19 (53)
●入院期間(日)中央値(範囲) 13 (1–114)
●がん種,名(%)
急性リンパ性白血病 10 (28)
骨肉腫 8 (22)
神経芽腫 5 (14)
ユーイング肉腫 4 (11)
横紋筋肉腫 2 (6)
その他(軟部腫瘍) 7 (19)
●オピオイドの種類(死亡7日前),名(%)
モルヒネ 14 (39)
オキシコドン 10 (28)
フェンタニル 7 (19)
ヒドロモルフォン 4 (11)
タペンタドール 1 (3)

2. 死亡前7日間における年齢別のOMEDDとOMEDD/kgの経時的変化の比較

死亡前7日間における年齢別の平均モルヒネ等価用量(OMED)の経時的変化を図1に示す.死亡7日前のOMEDDは14歳以上群より14歳未満群のほうが少ない傾向であった(73.7 vs 57.6,p=0.4).死亡7日前のOMEDD/kgは14歳以上群より14歳未満群のほうが多い傾向であった(1.5 vs 1.6,p=0.82)死亡3日前のOMEDDは14歳以上群より14歳未満群のほうが多い傾向であった(80.8 vs 90.1,p=0.49).死亡3日前のOMEDD/kgは14歳以上群より14歳未満群のほうが多い傾向であった(1.7 vs 3.1,p=0.14).死亡1日前のOMEDDは14歳以上群より14歳未満群のほうが多い傾向であった(92.1 vs 103.3,p=0.49).死亡1日前のOMEDD/kgは14歳以上群より14歳未満群のほうが多い傾向であった(2.1 vs 2.9,p=0.18)

図1 (A)死亡前7日間における年齢別のOMEDDの経時的変化の比較.(B)死亡前7日間における年齢別のOMEDD/kgの経時的変化の比較

3. 死亡前7日間における疾患別のOMEDD/kgにおける経時的変化の比較

死亡前7日間における疾患別の平均モルヒネ等価用量(OMED)の経時的変化を図2に示す.死亡7日前のOMEDD/kgは,造血器悪性腫瘍群より固形腫瘍群のほうが多い傾向であった(1.1 vs 1.6,p=0.82).死亡3日前のOMEDD/kgは,造血器悪性腫瘍群より固形腫瘍群のほうが多い傾向であった(1.5 vs 2.2,p=0.82).死亡1日前のOMEDD/kgは,造血器悪性腫瘍群と固形腫瘍群は同等の傾向であった(2.3 vs 2.3,p=0.34).

図2 死亡前7日間における疾患別のOMEDD/kgにおける経時的変化の比較

考察

本研究は,小児がん拠点病院で死亡した小児がん患者を対象とし,死亡前7日間のOMEDを経時的に解析することで,年齢および疾患による影響を調査した.その結果,死亡7日前,死亡3日前および死亡1日前において14歳未満群のほうが14歳以上よりもOMEDD/kgが多い傾向がみられた.また,造血器悪性腫瘍群は,死亡7日前,死亡3日前では固形腫瘍群よりもOMEDD/kgが少なく,死亡1日前では同等の傾向がみられた.

これらの結果は,終末期小児がん患者の死亡前7日間のオピオイド使用量の経時的変化を明らかにした初めての研究であり,小児緩和ケアを考えるうえで重要な示唆を得ることができたと考える.

この研究で一番重要な点は,14歳未満群は14歳以上群よりも死亡7日前,死亡3日前および死亡1日前よりOMEDD/kgが多いことである.終末期小児がん患者の死亡2週間前のOMEDD/kgの経時的調査では,13歳未満は13歳以上よりも有意に多くなることが報告されている5.また,死亡1日前の終末期小児がん患者のOMEDD/kgの報告では,死亡1日前のOMEDD中央値2.21(範囲:0.32–18.76)と報告されており,今回の結果とほぼ同等となった5.また,成人を対象とした死亡1日前のOMEDDは中央値61 mg(四分位範囲28–129)とされており,本研究結果の14歳から18歳までのOMEDDよりも少なかった7.一般的に,低年齢であるほどOMEDが多くなることが報告されており,年齢による薬物代謝の違いやオピオイド耐性の影響などについては更なる検討が必要である8

次に興味深い点は,造血器悪性腫瘍群は,固形腫瘍群よりも短期間でオピオイドを増量していた.造血器悪性腫瘍では,原疾患や合併症の急激な悪化から死亡に至ることが,固形腫瘍より多い可能性がある9.このため死亡前7日間でのオピオイド使用量の増加も急激であったと示唆される.

本研究の限界の一つ目は,単施設の後方視的研究であり,対象患者が少ないことである.二つ目は,オピオイドの使用量は,患者の病態や症状に影響を受ける可能性が予想される.三つ目は,年齢の範囲を14未満群または14歳以上群と2群間に定義したが,小児期の成長や発達に応じて違いがあるため一般化の可能性には限界がある.

そのため,より詳細の患者背景として,疼痛や呼吸苦などの身体症状の変化,鎮痛剤や抗精神病薬を含めた併用薬の有無,検査値を収集し,OMEDに関連する因子を検討する必要がある.

しかし,本研究は,これらの限界を踏まえても,終末期小児がん患者の死亡前7日間におけるOMEDを経時的変化を調査し,その使用量に影響する因子を明らかした点においては重要な示唆を得られたと考える.

結論

本研究では,小児がん患者36名を対象とし,死亡前7日間のOMEDを後方視的に調査した.その結果,死亡7日前,死亡3日前および死亡1日前において14歳未満群のほうが14歳以上群よりもOMEDD/kgが多い傾向がみられた.また,造血器悪性腫瘍群は,死亡7日前,死亡3日前では固形腫瘍群よりもOMEDD/kgが少なく,死亡1日前では同等の傾向がみられた.

今後は終末期小児がん患者において,個々の年齢および疾患を考慮しながらオピオイドを使用することが重要と考える.

謝辞

本研究にご協力いただいた患児様とご遺族の皆様に心より御礼申し上げます.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし.

著者貢献

阿部,赤木は研究の構想,デザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.石木,三浦は,研究の構想,デザイン,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.荒川は,研究の構想,デザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.小川,橋本は研究の構想および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,論文指導・推敲文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2024 Japanese Society for Palliative Medicine

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