Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Accessibility of Specialized Palliative Care in Hokkaido using Open Data
Hironori Ohinata Shintaro Togashi
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2025 Volume 20 Issue 1 Pages 71-79

Details
Abstract

目的:本研究の目的は,北海道における専門的緩和ケア提供施設の患者カバー率を含む地理的アクセシビリティを検討することである.方法:データは人口動態統計と国土数値情報を用いた.北海道の死亡統計からMurtaghらの報告を用いて,がん患者および非がんを含む緩和ケアの必要な患者を推計し,専門的緩和ケア提供施設における16 km範囲のカバー率や施設までの距離および時間を分析した.結果:16 km範囲における専門的緩和ケアを提供する病院を支点としたがん患者のカバー率は77.2%であった.在宅緩和ケア施設を支点とした非がんを含む患者のカバー率は83.2%であった.専門的緩和ケアを提供する最寄りの病院に,がん患者が到達する時間の平均は9.7分から197.0分と地域差があった.考察:本研究により専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティを明らかにした.今後は専門的緩和ケアの提供の均てん化のために,医療施設の最適配置や連携の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to a geographic accessibility, including patient coverage, of facilities providing specialized palliative care in Hokkaido. Methods: Vital statistics and digitized geographic information were used as data. We estimated the number of patients in need of palliative care, including both cancer and non-cancer patients, based on estimated by Murtagh et al. and the mortality statistics for Hokkaido. We analyzed the coverage rate within a 16 km radius of specialized palliative care facilities, as well as the distances and travel times to these facilities. Results: Cancer patient coverage within the 16 km radius, with hospitals providing specialized palliative care as the main purpose of coverage, was 77.2%. Patient coverage, including noncancer patients, in home-based palliative care facilities was 83.2%. The average time for cancer patients to arrive at the nearest hospital providing specialized palliative care varied from 9.7 to 197.0 minutes, with regional differences. Discussion: We assessed geographic accessibility to specialized palliative care in Hokkaido. In the future, we suggest the need for optimal allocation of medical facilities and collaboration between hospitals and home care to improve equity of specialized palliative care provision.

緒言

世界保健機関により緩和ケアは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族を対象にし,苦痛を予防し和らげることを通してquality of lifeを向上させるアプローチであると示されている1,2.日本の医療保険制度では,主にがん患者が緩和ケアの対象となっているが,世界的にはがん患者だけでなく神経疾患や認知症を含む非がん患者も緩和ケアの対象である3,4.緩和ケアを必要とする患者は,先行研究において全死亡数の75%にも及ぶと報告されており,幅広い疾患で緩和ケアのニーズの増加が見込まれている57

緩和ケアを提供する際の促進要因や障害となり得る要因として,提供施設へのアクセスが指摘されている8.わが国の緩和ケアの提供は医療保険制度により,がん医療提供体制として整備され,第4期がん対策推進基本計画には診断時からの緩和ケアとしてすべての医療従事者による提供体制や緩和ケアの普及啓発の強化が示されている9.また,緩和ケアの質に関する国際比較では,緩和ケアの質の指標の一つに緩和ケア施設へのアクセスについても言及されている10.このようにサービスの使用が容易であることやカバーされていること,さらにサービスの提供の場に必要な人が到達できることを地理的アクセシビリティという11.緩和ケアにおける地理的アクセシビリティの研究は,世界各国で行われている.ドイツの専門的緩和ケアの提供体制を地理情報を用いて分析した調査では,緩和ケア病棟や在宅緩和ケア施設は半分の地域において車で30分圏内にあり,1時間以内にほぼ全域をカバーできることを明らかにした12.アイルランド,スペイン,スイスにおける専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティの調査では,最寄りの施設まで車で30分以内の距離に住む人々はアイルランド84%,スペイン79%,スイス95%と各国の間でアクセスの不平等さがあると報告されている13.このように,海外では地理空間情報を用いたアクセシビリティの分析によって,地理的な視点から専門的緩和ケアの質や提供体制の評価が報告されている.

わが国においては,がん医療体制の均てん化や診断された時からの早期緩和ケアが推進されているものの,専門的緩和ケアにおける地理的アクセシビリティについては明らかではない.また,北海道は専門性を有する医療機関および医師が都市部に偏在しており,市町村間の距離が数十kmにも及ぶことが珍しくないため,緩和ケアを含むがん医療の均てん化は喫緊の課題として報告されている14.さらに,北海道は悪性新生物の75歳未満年齢調整死亡率が78.7と青森についで二位と高く,緩和ケアの提供においてはニーズが高いと予想される15.また,今後はわが国においてもがん患者だけではなく非がん患者における緩和ケアの拡充が求められており,非がん患者を含めた緩和ケアの地理的アクセシビリティは課題の一つである16.これらのことから,本研究の目的は北海道における専門的緩和ケアを提供する緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,在宅緩和ケア施設への地理的アクセシビリティを分析し,専門的緩和ケア提供体制を評価し,今後の医療施設の配置や医療体制を検討することである.

方法

(1)研究デザイン

本研究はオープンデータベースを使用した記述的研究である.対象地域の北海道は日本の面積の約22%を占め,最北端に位置する地域であり総人口522万4,614人,人口密度は67人/km2,年齢別構成は15歳未満が10.8%,15~64歳が57.0%,65歳以上が32.2%であった17.また,札幌市は政令指定都市であり,札幌市内の人口密度は1,760人/km2と都市への人口集中の傾向にある18.北海道の病院および診療所の病床の整備を図るべき地域的単位として設定される二次医療圏は,21圏域に分けられている(付録図1)19.2020年度の北海道における医療機関の数は,病院が523施設,診療所が2,785施設であった(付録図2)20

(2)データソース

本研究に用いるデータソースを 表1に集約した.本研究で使用するデータは既に作成されている匿名加工情報であり,広く一般に公開されているデータベース等の公開情報のみを使用しているため倫理審査委員会の承認は対象外であった.

表1 データソース

データ ソース 年度
北海道の死亡者数(年間) 北海道二次保健医療福祉圏の人口動態統計 202216
専門的緩和ケア提供施設 厚生労働省北海道厚生局 202421
2次医療圏のポリゴンデータ 国土数値情報ダウンロードサービス 202424
北海道の人口将来推計 国土数値情報ダウンロードサービス 202525

(3)専門的緩和ケアの地理的アクセスの評価

本研究は,専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティの評価として先行研究12を参考とし,オープンデータを用いて以下の三つの項目について明らかにすることとした.①北海道の人口動態統計を用いて緩和ケアを必要とする患者数の推計,②推計した患者を地図上に配置し,提供体制における患者カバー率の算出,③地図上に配置した患者の住所(番地)から最寄りの専門的緩和ケアを提供する病院または在宅緩和ケア施設までの移動時間および距離を算出した.

(4)対象施設

本研究は,北海道の緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,在宅緩和ケア施設を対象とした.対象施設は北海道厚生局のウェブサイトに掲載されている「施設基準等届出受理医療機関名簿」をもとに,2024年11月時点で作成した施設一覧表を参照した21.緩和ケア病棟は緩和ケア病棟入院料が受理されている施設,緩和ケアチームは緩和ケア診療加算が受理されている施設,在宅緩和ケア施設は在宅緩和ケア充実診療所病院・加算または在宅療養実績加算1または在宅療養実績加算2が受理されている施設とした.北海道における緩和ケア病棟を有する病院は24施設,緩和ケアチームを有する病院は30施設,在宅緩和ケア施設は93施設であった.専門的緩和ケアを行っている病院と示す場合は,緩和ケア病棟を有する病院もしくは緩和ケアチームを有する病院とした.

(5)統計解析

本研究のデータ解析の手順を付録図3に示す.手順に則って①緩和ケアを必要とする患者数の推計,②地理情報を用いたカバー率の算出,③推定した患者が専門的緩和ケアを提供する病院または在宅緩和ケア施設までの移動時間および距離の平均を算出し,北海道全域での移動時間および距離の平均と地域の差を明らかにするため,推計した患者が居住する二次医療圏ごとの集計を記述した.また,北海道における二次医療圏で人口,推計した患者数,移動時間および距離を可視化するためにヒートマップを作成した.

緩和ケアを必要とする患者数の推計

緩和ケアが必要な患者は,世界各国の報告から今後増加することが見込まれている57.Svendsenらのレビュー22では進行がん患者の痛みの有症率は約70~80%と報告され,日本の遺族調査23では約40~50%が何らかの苦痛を訴えていると示されている.これらの人々が緩和ケアを必要としていると考えられるが,緩和ケアは疼痛コントロールのみならず患者や家族の苦痛症状に介入するものであり,わが国の緩和ケアの必要としている患者を推計した報告はない.そのため本研究では,Murtaghらが報告している人口動態ベースで緩和ケアを必要とする患者を推計する方法を用いた5.Murtaghらは既存の方法を参考とし,新たに専門家パネルからの意見と疾患別死病者数から死亡者数の75%(95%信頼区間=69~81%)が緩和ケアを必要とする患者数であることを報告した5.推計に用いるわが国の死亡者数は,総務省が2022年に行った人口動態統計の都道府県別データを使用した17.緩和ケアを必要とする患者は,わが国の緩和ケアの実態に合わせがん患者数と非がんを含む患者数を推計した.ただし,緩和ケアの介入が困難と考えられる乳児,新生児,周産期,死産の総数は死亡数から除いた.

地理情報を用いたカバー率の算出

専門的緩和ケア提供施設の患者カバー率を算出するため,デジタルマップ上に推計した緩和ケアを必要とする患者を配置した.デジタルマップの作成には,地理情報システム(GIS: Geographic Information System)を使用し地理的な情報を作成および解析可能なArcGIS Pro 3.2.1(Esri Japan,住友電工)を用いた.北海道のデジタルマップは,国土交通省の国土数値情報から北海道の二次医療圏データを用いた24.緩和ケアが必要な患者の配置には,実際の北海道の居住地と類似させるため,国土交通省の国土数値情報のメッシュサイズ0.5 km×0.5 kmのメッシュ別将来推計の2025年データセット25を用いて,北海道の人口動態統計に合わせてメッシュ内の患者数を重みづけし再配分した.再配分は,ArcGISを用いて0.5 km×0.5 kmのメッシュ内にランダム発生させた.

提供体制別における患者のカバー率を算出するために,緩和ケア提供施設をArcGISのデジタルマップ上に配置した(付録図2).施設を支点とし半径16 kmの円を作成し,その円の中に含まれる患者数を推計した全体の患者数で割りカバー率として算出した.施設から16 kmにした根拠としては,訪問診療および往診の距離要件として原則16 km以内とされているためである26

最寄りの施設までの時間と距離の算出

最寄りの専門的緩和ケアが提供されている病院または在宅緩和ケア施設までの移動時間および距離の算出は,ArcGISに組み込まれている道路網2024を使用した.最寄りの専門的緩和ケア施設を病院と在宅の2区分にした理由として,緩和ケア病棟と緩和ケアチームは入院医療とし主にがん患者に対して提供しており,在宅緩和ケアは在宅医療とし主に非がんを含む患者に対して提供されているためである27.最寄りの施設の検索においては,日本が国民皆保険制度をとっており,患者が医療機関を自由に選べるため受療施設を指定せず解析を行った28.移動時間と移動距離は,地図上に配置した推計患者の住所(番地)の最寄り道路から,車を使用して移動すると仮定し算出した.なお,車の移動については,制限速度や一方通行など使用する道路の交通規制に遵守する設定とした.

地理的な分析はArcGISを用いて実施した.統計的な分析および図表の作成においてはExcel(バージョン2410, Microsoft, Redmond, US)およびR for Mac(version 4.2.2, R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を使用した.

結果

緩和ケアを必要とする患者数の推計は,がん患者が15,257人,非がんも含む患者が55,700人であった.次に,緩和ケア病棟・緩和ケアチーム・在宅緩和ケア施設を支点とし半径16 kmの円を作成しカバー率を算出した( 表2).推計したがん患者を対象とし緩和ケア病棟を支点としたカバー率は71.9%(10,973人),緩和ケアチームを支点としたカバー率は73.1%(11,150人)であった.推計した非がんを含む患者を対象とし在宅緩和ケア施設を支点としたカバー率は83.2%(46,315人)であった.

表2 専門的緩和ケアを提供する施設を支点とし16 kmでの患者のカバー率

施設を支点とした半径の距離 がん患者の推計人数(カバー率) 非がん患者を含む推計人数(カバー率)
緩和ケア病棟 10,973 (71.9%) 40,569 (72.8%)
緩和ケアチーム 11,150 (73.1%) 41,190 (73.9%)
専門的緩和ケアを提供する病院 11,783 (77.2%) 43,643 (78.4%)
在宅緩和ケア施設 12,433 (81.5%) 46,315 (83.2%)

専門的な緩和ケアが提供可能な最寄りの施設までの平均時間と距離を 表3,ヒートマップを 図1に示した.推計したがん患者において,最寄りの専門的緩和ケアが提供可能な病院までの全体の平均時間は18.1分(最小:0分–最大:232.9分),平均距離は50.3 km(最小:0.0 km–最大:232.9 km)であった.病院までの平均時間を二次医療圏ごとに集約した場合,時間が短かったのは上川中部(9.7分),札幌(10.0分),南渡島(11.1分)の順であった.一方,病院までの平均時間が長かったのは宗谷(197.0分),根室(113.2分),日高(95.0分)の順であった.推計した非がんを含む患者において最寄りの在宅緩和ケア施設までの全体の平均時間は14.5分,平均距離は10.6 kmであった.二次医療圏ごとに集約した場合,在宅緩和ケア施設までの平均時間が短かったのは札幌(5.4分),上川中部(6.7分),南渡島(11.7分)の順であった.一方,在宅緩和ケア施設までの平均時間が長かったのは宗谷(197.2分),留萌(85.2分),根室(84.5分),の順であった.推計したそれぞれの患者において,最寄りの施設までの到達平均時間と累積割合を 表4に示す.専門的な緩和ケアを提供する病院にがん患者が到着する時間の累積割合は,15分未満が69.6%,30分未満が86.2%,1時間未満が93.4%であった.在宅緩和ケア施設に非がんを含む患者が到着する時間の累積割合は,15分未満が79.7%,30分未満が88.0%,1時間未満が95.6%であった.

表3 二次医療圏における最寄りの施設までの移動時間と距離

病院(入院医療)までの時間と距離 在宅緩和ケア施設(在宅医療)までの時間と距離
がん患者数 時間(分) 距離(km) 非がんを含む患者数 時間(分) 距離(km)
n mean (SD) min−max mean (SD) min−max n mean (SD) min−max mean (SD) min−max
全体 13,982 18.1 (47.4) 0.0–232.9 12.9 (47.0) 0.0–218.6 52,888 14.5 (44.3) 0.0–239.9 10.6 (43.0) 0.0–224.6
二次医療圏
南渡島 885 11.1 (14.0) 0.1–121.0 7.2 (13.6) 0.0–113.9 3,465 11.7 (14.1) 0.1–123.6 7.2 (13.5) 0.0–114.2
南檜山 28 77.2 (8.6) 51.5–84.3 69.1 (7.9) 46.6–78.3 141 78.6 (8.8) 52.1–101.9 69.6 (8.5) 46.3–94.7
北渡島檜山 60 82.7 (21.4) 55.8–125.2 85.0 (22.9) 52.5–129.1 256 55.4 (21.6) 17.4–95.8 56.9 (23.0) 13.7–97.9
札幌 7,161 10.0 (7.5) 0.0–52.7 5.1 (6.2) 0.0–38.6 26,281 5.4 (3.1) 0.0–71.4 2.1 (2.0) 0.0–67.0
後志 441 24.2 (25.4) 1.5–103.5 18.2 (20.8) 0.4–77.8 1,782 20.0 (18.8) 0.7–83.1 14.5 (16.9) 0.1–82.1
南空知 334 15.8 (12.7) 1.3–61.2 12.0 (12.0) 0.4–69.8 1,328 12.3 (7.4) 0.1–43.4 8.4 (6.8) 0.0–38.1
中空知 235 18.8 (10.9) 1.2–51.2 12.9 (9.9) 0.3–40.5 907 21.5 (10.4) 0.7–51.3 15.8 (9.8) 0.3–41.0
北空知 55 30.9 (3.6) 25.2–41.7 32.8 (4.5) 20.3–46.7 237 22.8 (5.1) 13.1–37.0 17.8 (4.5) 10.7–31.9
西胆振 444 19.5 (8.7) 1.6–42.6 12.9 (7.7) 0.5–31.8 1,731 12.9 (7.2) 0.1–48.4 8.4 (7.1) 0.0–38.1
東胆振 545 17.3 (9.8) 1.9–82.2 11.4 (10.4) 0.4–66.4 2,105 29.6 (6.8) 3.3–82.3 30.5 (8.4) 1.6–71.6
日高 101 95.0 (36.1) 44.1–153.7 87.2 (28.2) 43.6–132.2 477 21.6 (22.1) 0.4–81.2 18.1 (21.4) 0.1–84.3
上川中部 1,045 9.7 (6.9) 0.3–55.1 4.6 (5.1) 0.1–49.5 3,864 6.7 (5.5) 0.0–63.9 3.5 (5.0) 0.0–59.6
上川北部 134 74.8 (18.6) 39.5–162.1 66.4 (16.6) 33.4–153.2 527 63.3 (21.2) 26.0–150.6 61.6 (19.3) 27.4–148.2
富良野 82 61.5 (11.5) 43.5–86.3 50.7 (11.6) 36.4–89.0 327 55.5 (12.5) 26.8–88.0 45.4 (12.0) 21.5–84.0
留萌 91 91.4 (37.0) 62.4–188.5 96.9 (33.8) 71.4–183.9 356 85.2 (37.6) 42.2–180.9 76.8 (36.9) 36.7–177.6
宗谷 115 197.0 (45.6) 99.1–232.9 187.0 (44.0) 93.0–218.6 480 197.2 (44.8) 68.5–239.9 187.9 (43.0) 63.1–224.6
北網 509 27.8 (27.8) 0.9–139.6 20.0 (22.9) 0.2–115.3 1,984 14.8 (14.6) 0.4–85.7 9.8 (13.0) 0.2–77.2
遠紋 137 34.7 (26.1) 0.8–80.1 28.6 (22.9) 0.3–74.4 572 31.4 (20.7) 1.0–73.1 27.3 (20.0) 0.3–78.5
十勝 863 17.6 (18.5) 0.4–100.8 10.9 (16.0) 0.1–81.1 3,268 17.5 (16.6) 0.6–85.6 10.9 (15.0) 0.2–79.4
釧路 570 14.3 (18.6) 0.0–94.8 9.4 (17.2) 0.0–82.1 2,188 12.5 (14.5) 0.2–76.7 8.3 (13.9) 0.1–73.4
根室 147 113.2 (18.3) 80.2–174.5 106.8 (18.1) 76.3–156.7 612 84.5 (15.8) 43.8–158.5 77.6 (14.0) 39.4–138.0

脚注;SD,標準偏差

図1 緩和ケアが必要ながん患者および非がんを含む患者の推定人口と専門的緩和ケア提供の病院または在宅緩和ケア施設への移動時間と距離のヒートマップ
表4 最寄りの施設までの到達時間と累積割合

がん患者数 到達割合 累積割合 非がんも含む患者数 到達割合 累積割合
病院までの到達時間
0分以上15分未満 9725 69.6% 69.6% 35718 67.5% 67.5%
15分以上30分未満 2324 16.6% 86.2% 8951 16.9% 84.5%
30以上1時間未満 1017 7.3% 93.4% 4293 8.1% 92.6%
1時間以上1.5時間未満 501 3.6% 97.0% 2096 4.0% 96.5%
1.5時間以上2時間未満 199 1.4% 98.5% 872 1.6% 98.2%
2時間以上2.5時間未満 109 0.8% 99.2% 475 0.9% 99.1%
2.5時間以上3時間未満 13 0.1% 99.3% 99 0.2% 99.3%
3時間以上 94 0.7% 100.0% 384 0.7% 100.0%
在宅緩和ケア施設までの到達時間
0分以上15分未満 11403 81.6% 81.6% 42173 79.7% 79.7%
15分以上30分未満 1077 7.7% 89.3% 4365 8.3% 88.0%
30以上1時間未満 958 6.9% 96.1% 4020 7.6% 95.6%
1時間以上1.5時間未満 367 2.6% 98.7% 1557 2.9% 98.5%
1.5時間以上2時間未満 59 0.4% 99.2% 260 0.5% 99.0%
2時間以上2.5時間未満 18 0.1% 99.3% 87 0.2% 99.2%
2.5時間以上3時間未満 11 0.1% 99.4% 65 0.1% 99.3%
3時間以上 89 0.6% 100.0% 361 0.7% 100.0%

考察

本研究により明らかになった主な点は,(1)北海道の専門的緩和ケアを提供する在宅緩和ケア施設のカバー率からは,推計した非がんを含む患者において16.8%が16 km圏外である(2)専門的緩和ケアを提供する最寄りの病院へ推計したがん患者の86.2%が30分未満で到達するが,地域により到達時間の平均は9.7分から197.0分と格差がある,の2点であった.

北海道における専門的緩和ケアを提供する施設を支点とした16 km圏内のカバー率は70%以上を示したが,訪問診療および往診の距離要件である16 km圏外に推計した非がんを含む患者は16.8%いることが明らかとなった.2023年度のホスピス・緩和ケア白書によると,北海道の在宅看取り施設は沖縄,宮城に次いで3番目の少なさとなっている29.さらに,北海道の24時間体制で患者の看取りも含めた対応のできる在宅療養支援診療所は減少傾向にある19.減少の理由としては,医師が札幌などの都市部に偏在していることや医療者の人材不足により在宅医療を維持することが困難であることが示されている30.このような状況から北海道において今後,在宅緩和ケア施設を拡充するのは容易ではない.また,16 km圏外の患者は日本の医療保険の制度上,緩和ケアを受けることができない可能性や,16 kmを超えて訪問が可能であっても医療者の負担が増大する可能性がある.しかしながら,厚生労働省が行った人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査31では,自宅で最期を過ごしたいと43.8%の人が回答しており,在宅緩和ケアの整備は必要と考えられる.そのため,施設からの距離に関係なくケアのアクセスを増やすために情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)の活用が注目されている.Wibdergらによると,ICTを用いることで緩和ケアのアクセシビリティを向上し,コミュニケーションや症状コントロールも可能であり個別的なケアを推進することができると報告している32.このようにICTを活用することで,医療者は16 km圏外の移動回数を減らすことが可能であり,患者は症状コントロールを行いながら可能な限り自宅で過ごす時間を増やすことができる.さらに,居住地に制限されず個別化された緩和ケアを受けられることは,医療の均てん化に寄与すると考えられる.

次に,北海道の専門的緩和ケアを提供する最寄りの病院へ推計したがん患者の86.2%が30分未満で到達するが,地域により到達時間の平均は9.7分から197.0分と格差があった.北海道の地理的アクセシビリティの評価として,専門的緩和ケアを提供する病院へ1時間未満で到達すると推計したがん患者は93.4%,在宅緩和ケア施設へ1時間未満で到達する推計した非がんも含む患者は95.6%であった.ドイツの専門的な緩和ケアへのアクセスにおいて,患者の99.4%は緩和ケア病棟に1時間以内に到達でき,99.7%は在宅緩和ケア施設に到達できると示されている12.交通事情が異なるため,一概にドイツと北海道の到達時間を比較はできないが,同等程度のアクセシビリティを有していると考えられる.また,アイルランドとスペインとスイスの3か国の専門的緩和ケアにおける地理的アクセシビリティを調査した研究において,人口密度や地域当たりのサービス提供率などの要因が影響していると報告されている13.人口密度はドイツが約240人/km2,北海道が67人/km2と北海道は人口密度が低く,地域に広く人口が分散している.そのため,北海道はドイツに比べ到達時間がかかり,累積割合が低かった可能性がある.実際,二次医療圏の推計したがん患者の病院までの平均到達時間は函館・札幌・旭川といった都市部では平均10分程度であるが,根室や宗谷の二次医療圏では最短でも80分を超えており,地域における格差が明らかとなった.Connorらが行った緩和ケアの受療に関する調査において,緩和ケアの提供体制は地域によって異なると報告されている33.現在,北海道の二次医療圏のがん診療連携拠点病院は,宗谷や留萌,根室といった到達時間が長かった地区が空白となっている.そのため現在,医療整備として拠点病院を中心の医療体制に加え,拠点病院が未整備圏域の中核的な医療機関等と連携を図り機能を担うことが示されている14.また,秋元らは在宅緩和ケアに関する意識を調査し,病院のバックアップや専門医への相談,紹介のタイミングなど在宅緩和医療との連携体制の実施の重要性を報告している34.このように単に在宅緩和ケア施設数を増加させるのではなく,現在ある診療所や在宅医療,訪問看護と連携し緩和ケアサービスの供給量を拡充することで,在宅緩和ケアのカバー率を含む地理的アクセシビリティが向上し,がんに限らず非がん患者においても適切な緩和ケアを提供することが可能になると考える.

本研究にはいくつか限界がある.一つ目は,緩和ケアを必要とする患者の推定である.本研究はMurtaghらが報告した推定方法を用いており,国際的な動向からのわが国における緩和ケアを必要とする患者数の可能性であり,正確な数値ではない.また,緩和ケアを必要とする患者の中には必ずしも専門的緩和ケアを受ける必要がない患者も含まれる.緩和ケアは一般的に広く提供される基本的緩和ケアと高度な知識と技術による専門的な緩和ケアに分けられ,すべての患者が専門的緩和ケアを必要とするのではなく基本的な緩和ケアの提供で十分対応できる可能性もある.国際的に基本的緩和ケアと専門的緩和ケアのコンセンサスは得られていないため,本研究においては先行研究11と同様に専門的緩和ケアを提供する施設にて解析を行った.今後は,わが国における緩和ケアが必要な患者を死亡データや専門家の見解から推計していくとともに,基本的緩和ケアと専門的な緩和ケアの区別を行い医療資源のアクセスが可能なのか調査する必要がある.二つ目は,本研究において2025年の人口動態の将来推計を用いてメッシュ内に再配置しており,実際の患者数および住居地とは異なる.しかし,本研究においてはランダム配置のメッシュを最小の単位である0.5 km×0.5 kmを使用した.これによって,カバー率や最寄りの施設までの時間距離の算出に及ぼす影響を最小限にとどめたことから,結果への影響は限定的であると考える.三つ目に,北海道の専門的緩和ケア提供施設は2024年11月の時点で北海道厚生局に施設基準等の届出が受理されている施設に限定した結果となっている.また,本研究は各施設のキャパシティを考慮しておらず,病院や診療所の状況によっては患者が必要な時に専門的緩和ケアを受けられない可能性もある.今後は,病床および稼働率や在宅緩和ケア施設の平均患者数などを実態調査したうえでシナリオ分析する必要がある.四つ目に,地理的なアクセスの方法として車のみでの移動時間を算出した.患者によっては車以外の徒歩や公共交通機関を使用している場合や,工事などの情報は考慮されておれず時間帯や天候によって移動時間に異なることが考えられる.五つ目に本研究において緩和ケアが必要な人を総死亡数から算出した.そのため,がんの種別や年齢による死亡について考慮されていない.今後は,がんの種別や年代別による死亡数を用いて緩和ケアが必要な人を推計することにより,がん種別の治療や年齢に応じたケア体制を検討することができると考える.

このような限界はあるが,本研究はわが国で初めてオープンデータを用いて専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティの評価を行ったものである.オープンデータ利点は,誰もが利用できる情報であること,地域特性を反映した記述ができることが挙げられる.ただし,自治体や地域のオープンデータでは,その地域に住む個人レベルの検討をすることはできない.個人レベルの検討においてはNational Data Baseのような大規模医療データベースを活用し,得られた結果を基にオープンデータを参照することによって地域特性を明らかにしつつ,その地域における詳細な個人レベルでの要因の検討や考察が可能になると考える.

結論

本研究は北海道における緩和ケアが必要な患者の推計を行い,専門的緩和ケアの地理的アクセシビリティに関する評価を行った.北海道の緩和ケアが必要と考えられるがん患者は15,257人,非がんを含む患者は55,700人であった.専門的緩和ケアを提供する病院を支点とし,16 kmの範囲における推計したがん患者のカバー率は77.2%であった.在宅緩和ケア施設を支点とした非がんを含む患者のカバー率は83.2%であり,16.8%が16 km圏外にいることが明らかとなった.最寄りの専門的緩和ケアを提供する施設への時間と距離においては,1時間以内に専門的緩和ケアを提供する施設に到達する患者は90%を超えていた.ただし,2次医療圏ごとに集約すると宗谷・留萌・根室といった二次医療圏にがん拠点病院がない地域にて到達時間が長く,地域格差があることが明らかとなった.自宅で看取りまでのケアや,療養の場に限らずがんや非がん患者の緩和ケアの需要は増加すると考えられる.今後は緩和ケアの提供の均てん化のためにICTを活用した医療機関との距離に影響されない医療体制の構築や,緩和ケアを提供しているがん拠点病院と地方の診療所や訪問看護ステーションなどが連携し,緩和ケアを提供することが望まれる.

利益相反

該当なし

著者貢献

大日方は研究の構想ならびにデザイン,研究データの収集と分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.富樫は,研究データの分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2025 Japanese Society for Palliative Medicine

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