Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of Carotid Sinus Syndrome Associated with Oropharyngeal Cancer for Which Continuous Explanation of His Condition and Lifestyle Guidance Were Effective in Outpatient Department of Palliative Medicine
Yu Moriyama Yoshihiko SakashitaAkiko YoshimuraHirotoshi SasanumaNatsuko TaguchiMasami Fujisato
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2025 Volume 20 Issue 1 Pages 23-27

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Abstract

【緒言】頭頸部悪性腫瘍は稀に頸動脈洞症候群を合併するが,がん終末期の頸動脈洞症候群では効果的な治療がないことが多い.われわれは病態説明や生活指導を行い,失神発作を減少させた症例を経験した.【症例】73歳男性,中咽頭がん,両側頸部多発リンパ節転移.頸動脈洞症候群によりめまいや失神を生じた.緩和医療科の外来に紹介され,患者と妻に病態説明と誘発因子の回避,前駆症状出現時の失神回避法などの生活指導を行った.その後に失神の頻度が減少し日課の散歩を再開できていた.しかし介入から7カ月後には誘発因子なく失神が出現するようになった.自宅療養していたが体動困難のため入院し翌日永眠した.【考察】誘発因子や前駆症状を伴う失神であったため,病態説明や生活指導は有効であった.生活指導などの介入は患者のquality of lifeの向上や自宅での療養継続につながった.

Translated Abstract

Introduction: Carotid sinus syndrome is rarely associated with head and neck malignant cancer. We usually have no effective treatment for carotid sinus syndrome in terminal stage of cancer. We experienced a case in which continuous explanation of his condition and lifestyle guidance resulted in alleviation of syncope attacks. Case: A 73-year-old male who was diagnosed with oropharyngeal cancer and with multiple lymph node metastases in the neck. Dizziness and syncope attacks occurred to him due to carotid sinus syndrome. He was referred to the outpatient department of palliative medicine, then he and his wife received explanation of his condition and lifestyle guidance of avoiding triggers and of how to avoid syncope attacks at the onset of prodomal symptoms. The frequency of attacks decreased and he resumed his daily walk. However, attacks without triggers began to occur to him seven months after the intervention started. Although he continued to stay at home, he was hospitalized due to difficulty in body movement and died the next day. Discussion: Explanation of his condition and lifestyle guidance were useful for management of syncope attacks because the syncope attacks had triggers and prodomal symptoms. The interventions including lifestyle guidance improved his quality of life and let him stay at home.

緒言

頭頸部悪性腫瘍は失神発作の原因となり得る.その頻度は250~300例に1例とされ,そのうち約3割が頸動脈洞症候群と報告されている1.悪性腫瘍に合併する頸動脈洞症候群の治療は,原病の治療やペースメーカー植え込み術,薬物療法等が挙げられる14が,終末期ではそれらの治療が適応にならないことや無効のことが多い2.その場合,生活指導等が重要になるが,終末期の頸動脈洞症候群の失神発作のマネジメントや経過についてはほとんど報告されていない.今回われわれは病態に応じた病態説明や生活指導を外来で行い,失神発作を減少させ自宅療養を支援した中咽頭がんによる頸動脈洞症候群の1例を経験したので報告する.

症例提示

【症 例】73歳,男性.

【診 断】中咽頭がん,両側頸部多発リンパ節転移.

【生活歴】80歳代の妻とアパートの1階で二人暮らししている.妻と散歩することを日課としている.入院歴がほとんどないことを誇りに考えている.

【既往歴】外傷性大腿骨骨折(人工骨頭置換術後,50歳台).

【家族歴】特記事項なし.

【現病歴】2023年9月に両側耳下部の腫脹が出現した.前医を受診し,口蓋垂から右口蓋扁桃に及ぶ腫瘍性病変と両側頸部の多発リンパ節腫脹を指摘された.当院の頭頸科を紹介受診し,造影computed tomography(CT)検査(図1, 2),造影magnetic resonance imaging(MRI)検査,生検組織診断等から中咽頭がん,両側頸部多発リンパ節転移と診断された.初診の1週間後の9月下旬に検査結果の説明のため頭頸科の外来にバスで来院した.待合室の椅子に座り後ろを振り向いた際に,痛みを伴わずに失神発作を生じた.失神時に血圧45/30 mmHg,脈拍数40 bpmまで低下したが,約5分間で血圧106/58 mmHg,脈拍数54 bpmに回復した.循環器内科の医師により心電図検査や心臓超音波検査,血液検査が行われたが心血管系の特筆すべき異常はなかった.頭頸科の医師により頸部のリンパ節転移による圧排で生じた頸動脈洞症候群と診断された.この際,頭頸科の医師から患者や妻に対して頸動脈洞の圧排により失神を生じていることや突然死する可能性が伝えられた.経過観察を目的として入院したが,入院中もトイレに移動する際や着替える際等に1日に8回の失神発作を繰り返した(図3).失神の多くは数秒間や数十秒間で自然に回復したが,それ以上持続したときにはアトロピン硫酸塩水和物を静脈内に投与した.またミドドリン塩酸塩錠を処方されたが,できるだけ薬は飲みたくないという思いがあり実際には内服しなかった.ペースメーカー植え込み術を検討されたが適応に乏しいと判断され,入院の煩わしさ等から患者も希望しなかった.誘発動作を避けるような指導は患者の受け入れがなく,すぐに退院を希望したため十分には行えなかった.退院後,原病に対する化学療法や放射線治療は患者が希望せず,頸部リンパ節転移に対する緩和的放射線照射については適応がないと放射線科で判断された.積極的治療がないため,同年11月上旬に緩和医療科の外来に紹介受診した.

図1 造影Computed Tomography(CT)検査

中咽頭に腫瘍を認める.

図2 造影CT検査

頸部リンパ節転移により頸動脈洞が圧排されている.

図3 おおよその失神の回数とECOG-PS(PS)の経時変化

【介入時現症】身体所見:身長168.4 cm,体重46.7 kg. ECOG-PS(PS)0. 意識清明,血圧121/83 mmHg,脈拍98/分,整, SpO2 99%(室内気吸入下).両側頸部にリンパ節腫大を触知する.甲状腺腫大なし.心雑音なし.両下肢浮腫なし.血算生化学検査所見:特記事項なし.

【介入後経過】初診時に丁寧に問診を行ったところ,とくに立位や坐位で着替え等による頸部の伸展や捻転を行った際に失神を生じていることが判明した.さらに,失神の前駆症状としてめまいを生じていることがわかった.患者と妻は失神の病態を理解しておらず,また失神への恐怖から散歩も控えるようになっていた.患者と妻に改めて病態の説明を行い,失神頻度の低下や転倒を予防するための生活指導を行った.具体的には頸動脈洞が頸部リンパ節転移により圧排されて失神を生じる機序を説明し,立位や坐位で頸部を捻転する等の誘発因子をできるだけ避けて生活するように指導した.また,前駆症状のめまいの出現時には蹲踞の姿勢や臥位になることを提案した.その後,失神は経時的に減少し,2024年1月には1日に1回程度,同年2月には失神が起きない日も多くなったと患者と妻はともに外来で述べた.患者は外来で聞いた対処を行ったところ失神が減少したと述べ,妻からも同様の評価を得た.患者は再び妻と一緒に散歩を行うようになった.この頃には患者と妻は失神に対する恐怖を訴えなくなり,公共交通機関での通院を継続していた.しかし,2024年2月末に外来の待合室で失神発作を生じ,回復に時間を要したため緩和ケア病棟に入院した.入院後めまいはあっても失神には至らず経過し,患者は自宅での療養を希望したため翌月退院した.退院時には訪問診療への連携を提案したが,通院がよい気晴らしになるという理由から一貫して通院継続を希望した.その後も1日1回程度の失神で経過していたが,同年6月から誘発因子を伴わない失神が1日2回程度出現するようになった.この頃から頸部リンパ節の増大が顕著であり,PS 2に低下していた.患者と妻に頸部リンパ節転移の増大により頸動脈洞が圧排されやすくなり,今までとは異なり誘発因子を避けても失神を生じていることの説明を行った.同年7月中旬に外来受診を予定した日に玄関で移動できなくなり,救急搬送され緩和ケア病棟に緊急入院した.翌日,妻に見守られながら永眠した.

考察

われわれの知る限り,悪性腫瘍による頸動脈洞症候群の失神発作に病態説明や生活指導などの介入を継続的に行い,外来通院から看取りに至るまでの終末期の頸動脈洞症候群の経過をまとめた報告はない.

本例では介入後に徐々に失神発作の頻度が減少した.その理由として,病状の進行による頸動脈洞部の破壊により反射機構が消失し自然経過で発作が減少する可能性がありえる5.しかし,本例では後に腫瘍の増大とともに再度発作が増加したことから,その時点で頸動脈洞部の破壊が起きたとは考え難い.患者や妻が生活指導の効果を実感していたこともあり,発作の減少は生活指導などによる直接的な効果が大きかったと考えられる.

生活指導が有効であった大きな理由は,丁寧な問診や頸動脈洞症候群の類型から誘発因子や前駆症状が判明したためである.頸動脈洞症候群の類型は血圧の変化などから心臓抑制型,血管抑制型,混合型の三つに分類され14,本例は混合型であった.混合型と血管抑制型では体位により失神発作を生じやすいと報告されており3,本例も立位や坐位でめまいが出現して失神を起こす傾向があった.そのため誘発する動作を自覚しできるだけ避けること,前駆症状出現時に自分で失神対処法4をとるなどの指導が有効であった.また,本例では当科介入時には病態への理解はできておらず誘発因子も不明であった.この理由として,すぐ退院を希望したため病態への理解を図る十分な時間がなく,また誘発因子を避けるような生活指導への受け入れがなかったことが考えられた.当科が継続的に介入する時間が十分にあり,時間経過とともに介入を受け入れるようになったことが病態への理解を進めたり十分な生活指導を行ったりするのに有利に働いた可能性がある.

薬物療法ではミドドリン塩酸塩やカルバマゼピン等が処方されることがあるが,無効例も多く確立されたものはない13.本例では本人の内服はしたくないという希望に沿って対処した.

頸動脈洞症候群の発作は誘発因子を伴う発作と誘発因子を伴わない発作があることが報告6されている.本例では介入時の発作は誘発因子や前駆症状を伴っていたが,その後に誘発因子なく自然に起こる発作へと移行した.これはがんの進行による病態の変化と考えられ,変化する病態に合わせた適切な説明が大切であった.

介入後に患者は日課の散歩を再開し死亡直前まで継続し,そして希望する自宅で療養することができた.それらを可能とした一つの理由は患者が自分で症状をマネジメントできる自信が持てたことがあると思われた.他の理由として転倒に続発する外傷によるPSの低下を予防できたこともあると考えられた.生活指導などの介入は患者のquality of life(QOL)や療養場所に大きく影響した.

本例における自宅での失神回数や介入への効果の評価はあくまでも自己申告である.そのため正確な失神の経過を把握できていない可能性や何らかのバイアスが含まれている可能性は否定できないが,同居の妻からも患者と同様の失神回数の申告や効果の評価を得た.

結論

終末期頭頸部悪性腫瘍に合併する頸動脈洞症候群の1例を経験した.病態説明や失神発作の回避のための生活指導を継続的に行い,失神発作の予防に役に立った.これらの介入はQOLの向上や希望する自宅での療養を可能とした.

利益相反

すべての著者の開示申告すべき利益相反なし.

著者貢献

森山は研究の構想,研究データの収集・分析・解釈,原稿の起草に貢献した.坂下,吉村,笹沼,田口,藤里は研究データの収集・分析・解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
© 2025 Japanese Society for Palliative Medicine

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