2025 Volume 20 Issue 2 Pages 129-136
本研究の目的は,子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者を支援する看護師が体験した困難を明らかにすることである.看護師7名と面談を行い,質的記述的に分析を行った.その結果,「患者を支援する時間が十分にもてない」,「医療者間での連携が不十分で継続的に関われない」,「患者の精神的負担に配慮すると,子どもへの病状説明に関する話題に触れられない」,「子どもに病名を伝えないことで最期に生じる親子関係や子どもへの影響を危惧するも,どうすることもできない」の四つのカテゴリーが抽出された.看護師は患者が子どもに病名を伝えていないことで今後生じる問題を危惧していたが,その話題に触れる勇気が持てず苦慮していたことがわかった.このような状況にある看護師へのサポートとして,患者が何に悩み,どうしていきたいと思っているのかを把握し,さらに医療者間で患者情報の共有を図れるように連携する重要性が示唆された.
This study elucidated the experiences of nurses facing challenges in assisting patients with breast cancer who are conflicted about revealing their diagnosis to their children. Seven nurses were interviewed to achieve the objectives of this study. The analysis focused on the nurses’ narratives regarding their struggles in providing support to patients with breast cancer. Following analysis, four categories were extracted from the data: “Insufficient time to support patients,” “Insufficient interprofessional coordination makes continuous involvement difficult,” “Unable to bring up the topic of explaining the illness to the child due to concern about the patient’s emotional burden,” and “Unable to intervene despite concerns that the child may realize the illness at the end, which could strain the parent-child relationship if the illness is not disclosed.” The nurses had anticipated and were concerned about the problems that would arise if the patient did not tell their child about their diagnosis and illness. However, the nurses did not have the courage to raise this topic with the patients. The findings suggest that to handle such situations, nurses should empathize with patients, understand the patients’ worries and desires, and collaborate to share patient information between medical professionals.
18歳未満の子どもをもつがん患者のうち,女性では乳がんが40.1%と最も多い 1).子育て世代のがん患者が治療と並行し,社会的役割および家事や子育てといった親役割を担うには日常生活の調整が必要となり,子どもに自分の病名をどのように伝えるかという気がかりが生じてくる 2,3).特に乳がんの治療においては,乳房切除や化学療法の副作用による脱毛などが生じる可能性があり 4),外見的変化から子どもに病気を隠し通すことは難しい状況にある.
子どもをもつがん患者は,自身の病気によって子どもに不安を与えてしまうことや,子どもが病気について理解できないなどの理由から病名を子どもに伝えることを躊躇する傾向がある 5–7).しかし病気を隠すことは患者自身や家族にとっても大きな負担となり,子どもの世話や子どもとのコミュニケーションがうまくできない状況に陥る 8).さらに親の病気を伝えられていない子どもは親の様子がおかしいことに気づき 9),精神的ストレスが増大し,自分のせいで親が病気になったと自責の念にかられ,親の病状を悪く想像し不安を抱くなどの影響を受ける 8,10).
しかし,看護師は家族の問題に介入することへの躊躇,知識・技術不足による自信のなさ,勤務体制の問題などから十分な看護支援が行えていない現状にある 11).このように看護師が困難を抱く理由は報告されているが,子どもに自己の病名を伝えるか否かの意思決定に悩む患者への支援に対してどのような困難さを体験しているのかについて明らかにした研究はない.
そこで本研究の目的は,子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者を支援する看護師が体験した困難を明らかにすることである.看護師が支援に困難感を抱く要因は,患者の病期や状態,家族関係などに影響されるが,今回は看護師の体験のみに焦点を当て現象を理解したいと考えた.看護師の体験を理解することは,がん患者に関わることに困難を抱く看護師への支援の一助となり,がん看護実践能力の向上が期待できる.
患者が子どもに自己の病名を伝えるか否かの意思決定の背景には,患者自身の病気の受け止め方,子どもの発達段階や特性,家族関係などの要因があり 12),個人の考え方や環境が反映されている.同様に看護師においても,それぞれの病名告知に関する考え方や臨床経験から得られた看護観などが意思決定支援を特徴づけている可能性がある.
西村ら 13)は,看護師たちの経験の成り立ちや意味づけ方を理解するためには本人から学ぶこと以外になく,他者からの問いかけで本人が自覚していないことに気づくプロセスがあると述べている.さらに普段気づいていない次元から,自己の実践にかかわる意味現象がいかに生み出されているのかを問い,それを開示することでその経験の理解にある程度近づくことが可能になると述べている.そこで本研究は,子どもに病名を伝えるか否かで迷っている患者への支援に困難を抱いたことのある看護師と面接を行うことで,その体験を明らかにしようと考えた.
今回は非構造化面接を行い,初めに子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者を支援する中で困難感を抱いた事例に関して,患者の病状や家族構成,病院での様子,患者を支援するうえで何が困難だと感じたのかを聞いた.その後は看護師の語りの内容に合わせて自由に対話を進め,質的記述的に分析を行った.
2. 研究対象者研究対象者は,18歳未満の子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者への支援経験があり,支援の際に困難を抱いた経験がある者,かつ看護師経験年数が3年以上の者とした.調査期間は令和3年9月から令和4年5月である.
3. データ収集方法本研究は石川県立看護大学の倫理委員会および研究協力施設の責任者の承認を得て実施した(看大第61号).まず乳腺外科で勤務している看護師に,研究の主旨,目的,方法および参加の自由意思について記載した研究協力依頼文を配布した.研究への参加意思がある者は連絡先を返信用封筒で提出してもらい,研究者が改めて研究の概要を口頭および文章で説明し,書面で同意を得られた者を研究対象者とした.なお研究を実施するうえで知り得た情報については,匿名性と守秘義務を厳守した.
6. 用語の定義体験:対象者が実際に身をもって経験した行為や,その行為のなかで主観的に感じたこと.
研究協力施設は2施設であった.対象候補となる看護師15名に研究依頼文を送付し,対象者の条件に該当する7名から研究実施の同意が得られ,研究を実施した(応諾率46.7%).対象者の看護師経験年数は,20年以上が3名,10年以上が1名,5年以上10年未満が2名,5年未満が1名であった.面談の間隔は1カ月程度とし,全対象者が3回目の面談で終了となった.総面談時間の平均時間は約153分であった(表1).
対象者 | 年齢 | 看護師 経験年数 |
乳がん看護 経験年数 |
これまでの配属部署 | 面談時間 |
---|---|---|---|---|---|
A | 40代 | 20年以上 | 20年以上 | 外科病棟,手術室,内視鏡室 | 148分 |
B | 40代 | 20年以上 | 20年以上 | 外科病棟 | 155分 |
C | 20代 | 5年以上 | 3年以上 | 外科病棟,内科病棟 | 159分 |
D | 40代 | 20年以上 | 20年以上 | 外科外来,外科病棟,化学療法室 | 176分 |
E | 20代 | 5年未満 | 5年以上 | 外科外来,外科病棟 | 178分 |
F | 30代 | 5年以上 | 3年以上 | 外科外来,外科病棟 | 150分 |
G | 30代 | 10年以上 | 3年以上 | 外科外来,外科病棟,集中治療室 | 111分 |
子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者を支援するうえで看護師が体験した困難として,四つのカテゴリーと八つのサブカテゴリーが導き出された(表2).以下,【 】はカテゴリー,『 』はサブカテゴリーを示す.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード | 語り |
---|---|---|---|
患者を支援する時間が十分にもてない | 多忙な業務や勤務のタイミングにより,患者と込み入った話をする時間がもてない | 業務が重複し,患者と込み入った話が出来ていない | 業務がバタついてたりすると他の患者さんの業務もあるから,検査出し重なったり.それで込み入った話が出来てないなって. |
患者と話をしようと思っても,勤務の都合やタイミングが合わず話せない | 夜勤だったり,受け持ちじゃなかったり,なかなか難しいんですよね.次の受け持ちで話そうと思ったときには,気づいたら退院していた. | ||
家族との面会に配慮し,患者と十分に話す時間がもてない | 家族との面会に配慮し,看護師が患者と1対1で十分に話す時間がない | 旦那さんとかお子さんが結構面会に来てたので,患者さんと1対1でじっくり話せなくて.家族との時間を大切にされてたから邪魔しないように. | |
医療者間での連携が不十分で継続的に関われない | 他職種間での連携や継続看護の方法がわからない | 他職種間やチームでの情報共有や連携方法など,継続的な看護の方法がわからない | 他職種やチームの皆とどこまで情報共有してどこまで連携をとってサポートしていったらいいのかなって.どう継続的に看護していけばいいのかな. |
認定(看護師)とか心理士もいるんですけど,どの時点で介入をお願いしたらいいのか.まずは自分で情報とろうと思うんですけど1人では難しい. | |||
子どもへの病状説明に関する情報が共有されず,継続的に関われない | 患者から子どもへの病状説明についての情報がスタッフ間で共有されず,患者の状況がわからないため,その都度しか関われない | 入院のときには病気のことお子さんに話しているか情報はとるけど,その後お子さんと話したかとか,(スタッフは)話を聞いてるかもしれないけど,外来のカルテには載ってなかったりして共有されないから.どんな状況かわからなくて,そのときそのときしか関われない. | |
患者の精神的負担に配慮すると,子どもへの病状説明に関する話題に触れられない | 病気の受け止めが難しい状況で,子どもへの病状説明について考えることが患者の負担になると感じる | 患者が自分の病気を受け止めるにも困難な状況で,子どもに伝えることについて考えることがストレスとなると感じる | (患者が)病気そのもので涙を流されている状況を見ると,子どもどころじゃなさそうだなって.自分の気持ちの受け止めとかも難しいなかで,子どもに言わなくちゃいけない,それを考えるのってストレスなんですよね. |
患者は予後を踏まえた子どもに病名への病状説明について考えられない段階であり,その話題に触れることが負担になると感じる | 患者さんは最悪を想定したくないんですよね.再発するとか死ぬとかって想像したくないですよね.予後を含めて子どもに病名を伝えるかどうか考えられる状況ではないというか.今の治療で精一杯.負担を与えたくないし,お子さんにどう伝えるかってことには触れられない. | ||
子どもの話題に対する患者の拒否的反応を危惧する | 個人的な子どもの話題に踏み込むことで,患者が不快な思いをすることを危惧する | 踏み込めてはなくて.個人的な問題,お子さんのこととか放っておいてほしいことかもしれないので.嫌な思いをするかもしれないから. | |
迷いながらも今は言わないようにしているのかとか,いつになったら言おうと思っているのかとか,そういう気持ちは聞いてないんですよね.患者さんが何に悩んで苦しんでいるのか.そこまで踏み込んでいいのかなって. | |||
子どもに病名を伝えないことで最期に生じる親子関係や子どもへの影響を危惧するも,どうすることもできない | 最期まで子どもに病名を伝えないことで親子の関係性が崩れることを危惧する | 副作用の出現や状態の悪化により病名を隠し通すことは困難であり,子どもが気づくことで信頼関係が損なわれてしまうことを心配する | 髪の毛も抜けるし,だるさとか食欲ないとか通院も頻回になってくるので隠し通せはしないと思います.気づく前に自分から話した方が良いのになって思ったり,(子どもとの)信頼関係とかもあるし.状態悪くなってくると最終的には気づくので,言わないままで良いのか心配して. |
病名を伝えていないことで,最期に親子の気持ちが通じ合えなくなる悲劇を危惧する | ずっと伝えてないままだと,最期を一緒に過ごせない,ギクシャクしたりとか本当にお互いの気持ちが通じ合えなくなったらとか,そういう悲劇は防ぎたいって思うんですけど. | ||
子どもの心のケアのために病名を伝えた方が良いと思うが,迷う患者にどう関われば良いのかわからない | 子どもの心の傷やグリーフケアを考えると,状態が悪化する前に子どもに病名を伝えた方が良いと思うが,迷っている患者への関わり方がわからない | グリーフケアを考えると,(子どもに病名を伝えないまま看取りを迎えた場合)お子さんの心の傷が大きいと思うんですね.元気なうちからがんって伝えておけば子どももお母さんの元気な様子見てるから心配もしないと思うし,いざ悪くなったときにも病状を受け入れていけるんじゃないかなって思うんですよね.でも患者さんは(伝えるか否か)迷っているので,どうしようもない. | |
子どもの安心のためにも,子どもに伝えることを助言するが,迷っている患者にそれ以上どのように関わればよいのかわからない | 伝えてあげることで子どもが安心できるっていうのもありますし,子どもに伝えてみるって選択肢として与えられたらいいなとアドバイスして.年齢に応じた伝え方とかは病院にもパンフレットがおいてあるので,それ見て説明して.それで伝えようって思う方もいますがまだ迷う方もいて,それ以上どうしていいかわからなくて. | ||
(伝える方向にならない患者に)これ以上言っても駄目だなって思って,私自身のシャッターを閉じてしまっているのかもしれないです.どうしようもなくて. | |||
子どもに伝えるメリットをお話ししても,伝えるかどうしようかって決断できない時にはどう働きかけるのが正解なのかがわからなくて困ってしまって.どうしていいのか支援の方向性がわからない. |
このカテゴリーは,多忙な業務や勤務のタイミング,家族との面会状況に配慮することなどにより,子どもに病名を伝えるか否かに悩む患者を支援するために対話する機会をもとうと思っても十分な時間がもてず,困難を抱いていたことを示す.サブカテゴリーは『多忙な業務や勤務の都合により,患者と込み入った話をする時間がもてない』,『家族との面会に配慮し,患者と十分に話す時間がもてない』から構成された.
2)【医療者間での連携が不十分で継続的に関われない】このカテゴリーは,他職種間での連携不足や他部署での情報共有が不十分であることにより,患者が子どもに病名についてどのように話しているかが把握できないため,継続的な関わりができず困難を抱いていたことを示す.サブカテゴリーは,『他職種間での連携や継続看護の方法がわからない』,『子どもへの病状説明に関する情報が共有されず,継続的に関われない』から構成された.
3)【患者の精神的負担に配慮すると,子どもへの病状説明に関する話題に触れられない】このカテゴリーは,患者自身が病状の受け止めが困難な時期に子どもに病名を伝えるか否かについて考えることが精神的負担となることや,個人的な問題について医療者に介入されることへの患者の拒否的反応を危惧し,子どもへの病状説明に関する話題に触れられず困難を抱いていたことを示す.サブカテゴリーは『病気の受け止めが難しい状況で,子どもへの病状説明について考えることが患者の負担になると感じる』,『子どもの話題に対する患者の拒否的反応を危惧する』から構成された
4)【子どもに病名を伝えないことで最期に生じる親子関係や子どもへの影響を危惧するも,どうすることもできない】このカテゴリーは,対象者がこれまでの臨床経験から患者の病状を予測し,最期まで病名を伝えないことで親子の関係性が壊れてしまうことや子どもに心の傷が残ることを危惧し,病名を伝えていない状況をなんとかしたいと思いながらもどうすることもできない困難を抱いていたことを示す.これはすべての対象者から語られた内容であった.サブカテゴリーは『最期まで子どもに病名を伝えないことで親子の関係性が崩れることを危惧する』,『子どもの心のケアのために病名を伝えた方が良いと思うが,迷う患者にどう関わればよいのかわからない』から構成された.
がん患者の子どもの問題に介入するうえでの困難としては 11),患者から子どもに関する相談を受けることが少なく,患者や家族が子どもへの介入を望まない場合があることや,家族の問題を話すことへの躊躇心を抱くことが報告されており,本研究の結果と共通していた.しかし,子どもに病名を伝えるか否かの介入に関する特有の問題として,今回新たな要因が明らかとなった.それは看護師がこれまでの臨床経験から,最期まで子どもに病名を伝えないことで生じる親子関係への影響を危惧するも,子どもに伝えるか否かに迷う患者に対してどうすることもできないもどかしさを体験していることであった.看護師はこれまでの臨床経験から,最期まで子どもに病名を伝えないことで子どもが傷つき,親子の関係性が崩れることを危惧していた.患者が子どもへの病名の伝え方などについて悩んでいる場合には,子どもの発達段階に応じた伝え方のポイント等が記載されたパンフレットが公表されており 15),対象者の中には,患者や子どものためにも病名を伝えた方がよいという考えから,これらのパンフレットを用いて病名を伝える意義や伝え方を助言した者もいた.しかし,それでも病名を伝えることに迷う患者に対しては,これ以上どのように関わればよいのかがわからず何もできない状況に陥っていた.
茶園ら 16)の調査では,子どもに親の病名を説明した方がよい・できるだけした方がよいと考えている看護師が約9割と報告されている.その背景としては,親子の信頼関係が保たれることや,子どもから病気の理解やサポートが得られ本人や家族の生活の安定が図られることなどが報告されている 17,18).さらに,親の病名を告知された子どもは,親の病状が進行するともに親の喪失を受け止めるようになることが報告されており 19),子どもに病名を伝える意義は大きい.このように医療者が子どもに病名を伝える必要性を理解すると「どうにかしてあげたい」「子どもに伝えなければ」という思いが強くなることがあるといわれている 20).そのため,患者に子どもに病名を伝える意義や伝え方について助言しても,伝えるか否かの選択に悩み揺れている場合には,今回の対象者のようにどうすることもできない困難を抱えるのではないかと推察される.
患者が子どもに病名を伝えていない背景としては,子どもにとって適切なタイミングではないと判断している場合 21)や,子どもに伝えることが患者の精神的負担となる場合 22)があると報告されている.今回の対象者も,患者が病状の受け止めに困難な時期においては,精神的負担や患者の拒否的反応を危惧し,子どもへの病状説明についての話題には触れることができずにいた.そのため,患者の思いについては推察するにとどまり,子どもに病名を伝える意義や,患者が何に悩みどのような看護介入を望んでいるのかを把握できていない状態であった.
さらに看護師は,患者を継続的に支援するための情報共有や部署間・他職種間での連携が不十分であり,患者が子どもに病名を伝えるか否かの悩みに向き合い,考えることができる状態なのかを把握できず,関わることが困難であった.加えて,看護師が患者と子どもへの病状説明についての話をする必要性を感じていても,多忙な業務の中で患者と腰を据えて関わる時間を確保することが難しい勤務体制上の課題があった.よって,看護師が子どもに病名を伝えることに悩む患者を支援するためには,勤務の調整や部署・職種を超えた協力体制を築くことが必要不可欠である.
2. 患者への支援に困難を抱く看護師へのサポート本研究から看護師は,患者が子どもにがんの話をすることを望んでいないのではないかという恐れを抱いていることがわかった.しかし,患者は子どもに病名を伝えるか否かに関する問題について医療者に援助を求めてよいのかわからず悩んでおり 23),看護師の方から患者と話す機会を設けることを求めている 24).また,子どもに病名を伝えるか否かについて悩む患者が,がん罹患に伴うつらい気持ちや子どもに病名を伝えることの是非に揺れる思いを表出することで,自らの悩みを振り返りながら意思決定をしていくことが報告されている 25).したがって子どもに病名を伝えるか否かに悩む患者を支援するためには,精神的負担を考慮しながらも患者の悩みや思いの表出を促す関わりが必要とされる.
患者の思いに踏み込めないことで困難を抱く看護師に対しては,自分の言動や行動で患者を傷つけてはいないかと思い,介入に躊躇する看護師の心情を理解したうえで,支援を行う必要がある 26).井上 27)は,子どもとのコミュニケーションは取れているかなど普段のケアの中で話を促すと患者の侵襲が少ないと報告している.そのため,いきなり子どもに病名を伝えるか否かの核心に触れるのではなく,入院・治療中の子どもの世話や学校行事など話しやすい話題から介入できるように促すなどコミュニケーションスキルについて教育していくことが重要である.
また子どもに病名を伝えるか否かに悩む患者は,病気や治療のことで精一杯の状況であることが予測されるが,患者が病気を受け入れ,治療がひと段落ついて心身が安定した時期や,病気の進行によって状態が悪化し病名を隠すことが困難になったときなどそれぞれの患者が悩みに向き合うタイミングが生じると考えられる.そのタイミングを逃さないためには,看護師が患者の病気の受け止め方や子どもに対する思いについて継続的に確認し,悩みがあればいつでも相談に乗ることを伝えていく必要がある.
したがって,看護師が多忙な業務を抱えながらも継ぎ目のない看護実践を行うために,看護師同士が情報共有や他部署間で連携を図り 28),患者と関わる時間を確保できるような組織・協力体制を構築していく必要がある 29,30).例えば勤務開始前のチームカンファレンスで,あらかじめ患者と関わる時間を確保できるようにスタッフに協力を依頼し,業務を調整するなどの工夫が挙げられる.
さらに看護師だけでは介入が困難である複雑な事例に対しては,水準の高い実践力を有する乳がん看護認定看護師や,倫理的な問題の解決を図る役割を担う専門看護師の助言や指導を得ることで,看護師が抱える困難感の軽減が期待できる.その他,心理社会的支援に関しては医療ソーシャルワーカーや臨床心理士,子どもへの支援に関してはチャイルドライフスペシャリストなど必要に応じて専門家と協働することが望ましい.
看護師は患者や子どもの安寧を思うが故に,最期まで子どもに病名を伝えていないことで起こりうる問題を危惧し,なんとかしたいがどうすることもできない葛藤を抱え苦悩している.そのため,看護師ひとりで患者の悩みを解決しようと抱え込まないよう配慮する必要がある.看護師は他職種と連携しながら,能動的に情報を共有し,カンファレンスの場を設定するなど医療チームとして機能を担っているため 31),患者の願いや希望をチーム内で共有し,実践や評価を行うことが重要である 32).患者への支援に困難感を抱く看護師をサポートするためには,子どもに病名を伝えるか否かの決断に囚われず,最期まで親子が過ごす時間を大切にするための支援の方向性についてチームで検討し,協働できる環境を築くことが求められる.
3. 研究の限界と課題研究に協力した対象者は,子どもに病名を伝えることに悩む患者への支援に対する困難を自覚し,子どもに病名を伝えていないことで生じる問題を予測していたことから,がんの親が子どもに病名を伝えることに関する知識や関心が高い看護師であると考えられ,それが語りの内容に影響を与えている可能性がある.また今回は看護師の主観的体験に焦点を当てた分析を行ったが,今後は患者の病期や子どもの年齢,親子の関係性など看護師が困難感を抱いた事例の特徴を踏まえて調査していく必要がある.
子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者への支援に困難を抱く看護師と研究者が対話を行った.その結果,看護師は【患者を支援する時間が十分にもてない】,【医療者間での連携が不十分で継続的に関われない】,【患者の精神的負担に配慮すると,子どもへの病状説明に関する話題に触れられない】,【子どもに病名を伝えないことで最期に生じる親子関係や子どもへの影響を危惧するも,どうすることもできない】という困難を体験していたことがわかった.子どもに病名を伝えるか否かに悩む乳がん患者への支援に困難を抱く看護師に対して,段階的に患者の思いを把握できるようにサポートし,病名を伝えるか否かの是非に囚われない支援の在り方についてチームで検討していくことの重要性が示唆された.
本研究に協力頂きました対象者の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は石川県立看護大学大学院の博士論文として提出した一部を加筆・修正したものである.
本研究において申告すべき利益相反はない.
瀧澤はデータの収集・分析,原稿の起草;牧野は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は研究の構想もしくはデザイン,研究データの解釈,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.