2026 Volume 21 Issue 3 Pages 209-214
【目的】メサドンは難治性がん疼痛に使用され,導入には複数の方法が報告されている.先行オピオイドを中止しメサドンを開始するstop-and-go(SG)法,オピオイドの一部をメサドンに切り替えるpartial switching(PS)法,メサドンを上乗せするadd-on(AO)法の効果と安全性を探索する.【方法】後方視的研究.2018年1月から2021年12月に当院でメサドンを処方された症例が対象.SG法,PS法,AO法の3群について,有効性,安全性を評価した.【結果】64例(SG群15例,PS群23例,AO群26例)が対象となり,有効例はSG群12例(80%),PS群13例(56.5%),AO群17例(65.4%)だった.重篤な副作用は認めなかった.【結論】3群ともにメサドンは有効かつ安全に導入可能だった.
Objective: Methadone is used for the management of refractory cancer pain, and several initiation strategies have been reported: the stop-and-go (SG), partial switching (PS), and add-on (AO). This study aimed to explore the efficacy and safety of three methadone initiation strategies. Methods: This retrospective study included patients who were prescribed methadone at our hospital between January 2018 and December 2021. SG was defined as discontinuation of the preceding opioid before methadone initiation, PS as replacement of part of the opioid dose with methadone, and AO as addition of methadone to the existing opioid regimen. The efficacy and safety of methadone were evaluated in the SG, PS, and AO groups. Results: A total of 64 cases were included: 15 in the SG group, 23 in the PS group, and 26 in the AO group. The number of effective cases were 12 (80%) in the SG group, 13 (56.5%) in the PS group, and 17 (65.4%) in the AO group, respectively. No serious adverse events were observed. Conclusion: The findings suggest that methadone can be effectively and safely introduced across all three groups.
がん疼痛は,進行がん患者の64%が経験するとされ,そのうち3分の1以上が中等度から高度の疼痛である1).がん疼痛に対してはWorld Health Organization(WHO)方式がん疼痛治療法(非オピオイド鎮痛薬,オピオイド鎮痛薬,鎮痛補助薬を組み合わせて使用する)が標準治療として実践される.オピオイドは基本的にμオピオイド受容体アゴニストとして薬効を発揮し,オピオイド間の鎮痛効果に差はないとされているが2),それでもコントロールできない難治性がん疼痛が存在する.がん疼痛は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛,双方が混在する混合痛に分類される.難治性がん疼痛は神経障害性疼痛を含むさまざまな要素が組み合わされた複雑な疼痛であることが多い3).
メサドンは1937年にドイツで合成された合成ジフェニルヘプタン誘導体であり,本邦では2013年3月から発売されている.メサドンはμオピオイド受容体に対する親和性とN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗作用により鎮痛効果を発揮すると考えられている4,5).他の強オピオイドで治療困難な難治性がん疼痛に対し,強オピオイドから切り替えて使用され,経口モルヒネ量60 mg/日以上の強オピオイドを要するがん疼痛であることがメサドン導入を検討する一つの指標となる6).しかしながら,他のオピオイドとの交差耐性が不完全であるため換算比は確立していない.これは,オピオイドの耐性形成および持続にはNMDA受容体が重要な役割を担っているといわれており7),NMDA受容体拮抗作用を有するメサドンは耐性の形成を遮断するためと考えられる6).また,脂溶性が高く,血漿蛋白結合率が高いことにより半減期が長いこと,複数のシトクロムP450(CYP)分子種が代謝に寄与しその遺伝子型は個人差が大きいことも換算比が固定されない要因にあげられる6,8).そのため本邦の添付文書では,経口モルヒネ量換算60–160 mg/日,160–390 mg/日,390 mg/日以上でそれぞれメサドン15 mg/日,30 mg/日,45 mg/日への切り替えが推奨されており9),European Association of Palliative Care(EAPC)のガイドラインでは,経口モルヒネから経口メサドンへの換算比は1 : 5から1 : 12または24以上と広範囲にわたり,推奨比は確定できないとされている.さらに,経口モルヒネが高用量になるとメサドンとの換算比は大きくなるという報告もある2).加えて,メサドンは半減期が30.4±16.3時間と長いことや血中濃度の定常状態に達するまでに約7日間と日数を要すこと,血中濃度や薬効に個人差が大きいこと,QT延長や心室頻拍,呼吸抑制といった重篤な副作用に対する懸念から個々の患者ごとに慎重な投与が求められる10).
メサドンの導入方法は,本邦の添付文書に記載されている先行するオピオイドを中止しメサドンを開始するstop-and-go(SG)法のほか,先行するオピオイドに少量のメサドンを上乗せするadd-on(AO)法11,12),先行するオピオイドを3日間かけて3分の1ずつ段階的にメサドンへ変更する3-days switch(3DS)法が報告されている13).SG法は速やかにメサドンへ切り替えられるが,疼痛コントロールが不安定になる可能性が指摘されている11).AO法では重篤な副作用が懸念されるメサドンを医療スタッフの訪問が少ない在宅環境でも安全に導入できたとの報告や,3DS法ではSG法よりメサドンの副作用や内服中断例が少なかったとの報告がある12,14).しかし,それぞれを比較した先行研究は限られており,患者背景に即した適切な導入方法は明らかではない.
以上のことから,実臨床におけるメサドンの導入方法別の初期有効性と安全性を探索する目的で本研究を行った.
2018年1月から2021年12月に国立がん研究センター中央病院でメサドンを処方された症例を対象に後方視的研究を行った.メサドンを処方された症例のうちメサドン導入前後の疼痛をnumerical rating scale(NRS)を用いて評価ができた症例について,導入方法ごとのメサドン有効例数,安全性をカルテ記載から求めた.導入方法は,メサドン導入時のメサドン量にかかわらず,先行するオピオイド量の変更法により,先行オピオイドを中止するSG法,先行オピオイド量を変更せずメサドンを上乗せするAO法,先行オピオイドの一部を減量するpartial switching(PS)法の3種類に分類した.定時オピオイド1日量を経口モルヒネ等換算1日量(oral morphine equivalent daily dose: OMEDD)で表記した.すべての症例がOMEDD 60 mg以上のオピオイドを必要とする難治性がん疼痛患者であることを確認した.NRSが経時的に評価できなかった症例,メサドン導入と同時に他の鎮痛薬も増量された症例,メサドンの初回処方が他院だった症例,自己都合でメサドンの内服を中止した症例は除外した.また,今回は3DS法が1例のみだったため除外した.メサドンの換算比については便宜的に,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは65歳未満で先行オピオイドがOMEDD 60–199 mgの場合,経口モルヒネ10に対しメサドン1で換算を提唱していることを参考に15),メサドン導入後のOMEDDを算出した.NRS値は,患者本人への問診で取得しており,外来患者では受診時に医師が問診を行い,入院患者では病棟看護師が1日数回問診を行った結果をカルテ記録から収集した.メサドン導入後2週間以内のNRS最大値がメサドン導入前24時間以内と比較して30%以上減少した症例を有効例とした.疼痛評価のデータを最大限に確保し,他の鎮痛薬の影響を抑えてメサドン導入単独の有効性および副作用を評価するため,評価期間は導入後2週間とした.3群のメサドン導入前後のNRS変化量,有効例数を求め,それぞれ一元配置分散分析およびカイ二乗検定を用いて比較した.また,メサドン導入後2週間以内に発生した有害事象をCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)に基づいてGradeごとに集計した.
対象期間中にメサドンを処方された100例のうち,NRSによる疼痛評価が可能だった症例を抽出した.NRS未評価31例,他の鎮痛薬の同時増量2例,他院で初回処方された1例,自己都合による中止1例,および3DS法で導入された1例を除外し,64例を解析対象とした.解析対象64例の内訳は,SG群が15例,PS群が23例,AO群が26例だった.患者背景を表1に示す.
| 全体 N=64 |
SG群 N=15 |
PS群 N=23 |
AO群 N=26 |
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|---|---|---|---|---|---|
| 年齢(中央値,範囲) | 56 (19–78) | 51 (19–73) | 58 (25–78) | 54.5 (23–76) | |
| 性別 | 男性 | 34 (53.1%) | 9 (60.0%) | 13 (56.5%) | 12 (46.2%) |
| 女性 | 30 (46.9%) | 6 (40.0%) | 10 (43.5%) | 14 (53.8%) | |
| 原発部位 | 頭頸部 | 10 (15.6%) | 4 (26.7%) | 4 (17.4%) | 2 (7.7%) |
| 呼吸器 | 15 (23.4%) | 6 (40.0%) | 4 (17.4%) | 5 (19.2%) | |
| 消化管 | 10 (15.6%) | 2 (13.3%) | 2 (8.7%) | 6 (23.1%) | |
| 軟部組織 | 11 (17.2%) | 2 (13.3%) | 4 (17.4%) | 5 (19.2%) | |
| その他 | 18 (28.1%) | 1 (6.7%) | 9 (39.1%) | 8 (30.8%) | |
| 疼痛の原因 | 侵害受容性 | 18 (28.1%) | 1 (6.7%) | 5 (21.7%) | 12 (46.2%) |
| 神経障害性 | 5 (7.8%) | 2 (13.3%) | 1 (4.3%) | 2 (7.7%) | |
| 混合性 | 41 (64.1%) | 12 (80.0%) | 17 (73.9%) | 12 (46.2%) | |
| メサドン導入環境 | 入院 | 41 (64.1%) | 13 (86.7%) | 19 (82.6%) | 9 (34.6%) |
| 外来 | 23 (35.9%) | 2 (13.3%) | 4 (17.4%) | 17 (65.4%) | |
SG: stop-and-go法.先行オピオイドを中止し,メサドンを導入する.PS: partial switching法.先行オピオイドの一部を減量し,メサドンを導入する.AO: add-on法.先行オピオイド量を変更せずメサドンを上乗せする.
メサドン導入前の先行オピオイド量OMEDDは全体で中央値192 mg(範囲30–806.4 mg)だった.メサドン導入量および導入前後のオピオイド総量の変化を表2に示す.
| 全体 | SG群 | PS群 | AO群 | |
|---|---|---|---|---|
| メサドン導入量 〔OMEDD〕 |
15 (5–45) 〔150 (50–450)〕 |
15 (15–45) 〔150 (150–450)〕 |
15 (5–45) 〔150 (50–450)〕 |
10 (5–15) 〔100 (50–150)〕 |
| 導入前OMEDD | 192 (30–806.4) | 165 (90–480) | 240 (90–806.4) | 180 (30–480) |
| 導入後OMEDD | 270 (80–850) | 150 (150–450) | 270 (140–850) | 262.5 (80–580) |
| 導入前後の変化量 | +65 (−60–+180) | +30 (−42–+120) | +30 (−60–+180) | +100 (+50–+150) |
OMEDD(oral morphine equivalent daily dose):経口モルヒネ等換算1日量
メサドン導入前のNRS(平均±標準偏差)はSG群6.33±2.69,PS群6.83±2.64,AO群7.04±2.31だった.導入後のNRS変化量はそれぞれ2.60±3.00,2.22±2.50,2.92±2.58であり,群間の有意差は認めなかった(P=0.65).メサドン導入後にNRSが30%以上減少した有効例は,全体で42例(65.6%),SG群12例(80%),PS群13例(56.5%),AO群17例(65.4%)であり,群間差は認めなかった(P=0.33).結果を表3に示す.
| 全体 N=64 |
SG群 N=15 |
PS群 N=23 |
AO群 N=26 |
P-value | |
|---|---|---|---|---|---|
| 導入前 NRS | 6.80±2.50 | 6.33±2.69 | 6.83±2.64 | 7.04±2.31 | 0.69 |
| 導入後 NRS | 4.20±2.34 | 3.73±2.46 | 4.61±2.46 | 4.12±2.20 | 0.52 |
| NRS 変化量 | 2.59±2.63 | 2.60±3.00 | 2.22±2.50 | 2.92±2.58 | 0.65 |
| 有効例数 | 42 (65.6%) | 12 (80.0%) | 13 (56.5%) | 17 (65.4%) | 0.33 |
NRSはNRS平均±標準偏差で示した.
有害事象を表4に示す.全体で延べ33件の有害事象が認められたが,いずれもCTCAE Grade 2以下であり,Grade 3以上の有害事象は認めなかった.呼吸抑制およびQT延長といった重篤な有害事象は認めなかった.
| 全体 N=64 |
SG群 N=15 |
PS群 N=23 |
AO群 N=26 |
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|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全Grade | ≧Grade3 | 全Grade | ≧Grade3 | 全Grade | ≧Grade3 | 全Grade | ≧Grade3 | |
| 症例総数 | 30 (46.9%) | 0 | 5 (33.3%) | 0 | 10 (43.5%) | 0 | 15 (57.7%) | 0 |
| 悪心・嘔吐 | 6 (9.4%) | 0 | 1 (6.7%) | 0 | 2 (8.7%) | 0 | 3 (11.5%) | 0 |
| 傾眠 | 21 (32.8%) | 0 | 4 (26.7%) | 0 | 5 (21.7%) | 0 | 12 (46.2%) | 0 |
| 便秘 | 4 (6.3%) | 0 | 1 (6.7%) | 0 | 1 (4.3%) | 0 | 2 (7.7%) | 0 |
| 呼吸抑制 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| QT延長 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| せん妄 | 1 (1.6%) | 0 | 0 | 0 | 1 (4.3%) | 0 | 0 | 0 |
| ミオクローヌス | 1 (1.6%) | 0 | 0 | 0 | 1 (4.3%) | 0 | 0 | 0 |
| 延べ数 | 33 (51.6%) | 0 | 6 (40.0%) | 0 | 10 (43.5%) | 0 | 17 (65.4%) | 0 |
Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)に基づき分類した.
本研究では後方視的にメサドン導入におけるSG法,PS法,AO法ごとの有効性,安全性を検討した.その結果,いずれの導入方法においてもメサドン導入後2週間以内にNRSの改善が認められ,有効割合は全体で65.6%,SG群,PS群,AO群ではそれぞれ80.0%,56.5%,65.4%だった.導入方法間で有効割合およびNRS変化量に統計学的有意差は認められず,いずれの方法においても一定の有効性が確認された.有害事象の頻度はSG群33.3%,PS群43.5%,AO群57.7%と,AO群が最も多かった.重篤な有害事象は認めなかったことから,適切な管理下で安全に使用可能であることが示唆された.患者背景としては,メサドンの入院導入はSG群,PS群,AO群がそれぞれ86.7%,82.6%,34.6%であり,SG群が最も多く,AO群は外来導入の方が多かった.導入前OMEDD(中央値)はそれぞれ165 mg/日,240 mg/日,180 mg/日とPS群が最も高用量だった.
本研究のメサドンの有効割合は65.6%と,先行研究の46–89%と同等だった16–18).国内第II相臨床試験ではメサドンの至適用量到達までのタイトレーション期間は7–22日,増量回数が0–3回だったと報告されている19).本研究ではメサドンの導入後2週間以内のみの評価だったが,多くの症例で疼痛の軽減が得られており,その後の適切な増量や切り替えを行うことでNRSがより改善できると期待される結果でもあった.導入方法別の有効割合ではPS群が56.5%と他の2群と比較して低値だった.しかし,PS群では導入前OMEDD(中央値)が240 mgと高かったため,より難治性の疼痛症例が含まれていた可能性が示唆された.そのため,本研究で無効と判断した症例中には導入後のメサドン増量によって有効となりうる症例も含まれていたと考えられる.
安全性については,有害事象の頻度がAO群で57.7%と最も多かった.導入前後の総オピオイド変化量(中央値)が,SG群+30 mg/日,PS群+30 mg/日,AO群+100 mg/日とAO群が最も大きかったためと推察される.その一方で,AO群においてもGrade 3以上の重篤な有害事象は認められなかった.
また,本研究においてPS群およびAO群では,メサドンを5–10 mg/日という低用量で導入し疼痛が改善した症例をそれぞれ4例(17.4%),16例(61.5%)認めた.この用量は適正使用ガイドに記載されたメサドン初回投与時目安の換算表に示されている最小量15 mg/日を下回っており6),低用量メサドンの追加が疼痛コントロールを改善しうる可能性を示している.加えて,致死的不整脈の原因になりうるQT延長は用量依存性であると報告されている20).低用量でのメサドンの導入は副作用発現リスクの低減に寄与しうる安全な導入方法の一つと考えられる.
本研究では,各群に導入環境や先行オピオイド量といった患者背景に偏りがみられた.メサドンの特性上,導入時に先行オピオイドを減量する場合は一時的に疼痛コントロールが不安定となるリスクがあり,さらに,導入に伴う不整脈および遅発性の呼吸抑制など特有の副作用リスクもある.AO法は先行オピオイドを維持したまま少量メサドンを上乗せできるため,導入直後の疼痛悪化やメサドン特有の副作用リスクを回避するために外来導入の際に多く選択された可能性がある.これに対してPS法は先行オピオイドを部分的に減量しながらメサドンを導入できるため,先行オピオイドが高用量であり,SG法ではメサドン導入量が多くなりやすく,AO法では総オピオイド量増加による副作用の懸念があるときに選択された可能性が考えられる.
本研究の結果および先行研究を踏まえると,SG法は先行オピオイドからメサドンへ迅速に切り替えることができる点が利点であり,先行オピオイドの副作用に困っている症例や,導入時の説明およびオピオイドの管理をより簡潔にしたい場合に適していると考えられる.AO法は総オピオイド量増加による副作用への注意は必要だが,段階的かつ安全に疼痛コントロールを維持しながらメサドンの導入を行えることが利点である.そのためNRSが高い症例,疼痛悪化やメサドンの副作用に対する不安が強い症例,外来導入症例において有用であると考える.PS法に関する報告は限られており,本研究は高用量オピオイド使用例に段階的導入の実態を示した点で意義を有する.オピオイド総量およびメサドン導入量の双方を調整しながら開始できる点が利点と考えられ,より高用量の先行オピオイドを使用している症例に有効な選択肢となりうる.
本研究の強みは,がん専門施設における実臨床データを用い,入院・外来を含む多様な難治性がん疼痛患者を対象として,特定の導入方法に限定せず比較検討を行った点にある.また,複数の医師が診療に関与しており,単一医師の判断に偏らない実臨床の状況を反映することができた.一方で本研究にはいくつかの限界がある.まず,単施設における後方視的研究であり症例選択バイアスが存在する.また,メサドン導入は事前に規定されたプロトコールに基づいておらず,治療者および導入時期によって方法が異なる.疼痛評価の方法および評価時期は統一されておらず,測定バイアスの影響を受ける.治療者と評価者は異なり,評価者への標準化されたトレーニングは行われておらず,評価者バイアスが存在する.さらに,レスキュー薬およびオピオイド以外の鎮痛薬・鎮痛補助薬は解析に含まれておらず,その影響も評価できていない.加えて,症例数が限られていたため多変量解析を実施しておらず,患者背景などの交絡因子を十分に調整できていない.最後に,メサドンは適切な用量調整により高い鎮痛効果を示すが,本研究ではメサドン増量過程の評価には至っていない.
メサドンによるがん疼痛治療を後方視的に検討し,SG法,PS法,AO法のいずれにおいても一定の有効性および安全性が示された.今後は症例背景を層別化し,より適した導入方法を探索する必要があると考える.
この報告に関して資金提供の受領はない.
里見絵理子:講演料(塩野義製薬株式会社,株式会社ツムラ)
その他:該当なし
鈴木,石木は研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析と解釈,原稿の起草および原稿の重要な内容に関わる批判的な推敲に貢献した.松岡,里見は構想およびデザイン,研究データの収集および分析と解釈,原稿の重要な内容に関わる批判的な推敲に貢献した.石川,荒川,天野は研究データの解釈,原稿の重要な内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.