Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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A boy with acute lymphoblastic leukemia: Usefulness of MR signal of bone marrow
Yuka TomidokoroKazutoshi FujitaYoko NamikiMotohiro MatsuiYuki Yuza
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2017 Volume 33 Issue 2 Pages 133-137

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I  はじめに

急性白血病の経過中に髄外病変を生じることは知られているが,初発症状となることはまれである.特に小児の急性リンパ芽球性白血病において,皮膚病変が初発症状である例は1.7%程度と少ない1)

小児の頭部腫瘤の多くは良性であるが,悪性腫瘍の原発巣や転移病変であることもあり,鑑別は多岐に渡る.画像診断だけでは診断がつかないものが多く,最終的には生検に診断を頼らざるをえない.

我々は頭部腫瘤に対し原因検索目的に生検を予定していたが,頭部MR所見から急性白血病を疑い,骨髄穿刺を行ったことで生検を回避できた一例を経験した.白血病における骨髄のMR所見や文献的考察を加えて報告をする.

II  症例

患者:4歳男児

主訴:頭部腫瘤

出生歴:在胎40週6日,3,850 g,帝王切開にて出生.

既往歴および発達歴:特記事項なし

現病歴:来院3か月前より母が児の頭頂部腫瘤に気づいた.来院1か月前より頸部にも同様の腫瘤を認め,頭頂部腫瘤も徐々に増大傾向であったため,受診した.

初診時の身体所見:体温36.4°C,心拍数96回/分,血圧109/46 mmHg,呼吸数18回/分.

頭頂部傍正中に径7 cmの腫瘤を触知した.可動性はなく,弾性硬であり,圧痛はなかった.皮膚表面は不整で,やや紅色調であった.脱毛はなかった.

両側前頸部,耳介後部に径1–3 cmのリンパ節腫大を数個触知した.可動性はなく,弾性軟であり,圧痛はなかった.

眼瞼結膜貧血なし,咽頭扁桃発赤腫脹なし,腹部腫瘤なし,肝脾腫なし,精巣腫大なし.

初診時の血液検査所見(Table 1):ASTは微増していたが,その他には特記すべき所見はなかった.

Table 1  初診時血液検査
​WBC 5,680/μl ​BUN 17.2 mg/dl ​PT-INR 0.98
​ Neu 23.5% ​Cr 0.36 mg/dl ​aPTT 31.3 sec
​ Lym 72.5% ​UA 5.2 mg/dl ​Fib 233 mg/dl
​ A-Ly 1.0% ​AST 74 IU/l
​ Blast 0% ​ALT 12 IU/l
​Hb 12.3 g/dl ​LDH 255 IU/l
​Reti 10‰ ​Ca 9.4 mg/dl
​Ht 35.5% ​CRP 0.06 mg/dl
​Plt 13.4 × 104/μl ​ESR 12 mm/1 hr

超音波所見(Fig. 1):頭頂部に軟部組織腫瘤を認め,周囲組織と比べてやや高輝度を呈する部分と,周囲組織と同様の輝度を呈する部分を認めた.正常組織との境界は明瞭で,カラードプラで内部血流は認めなかった.腹部臓器は特記すべき異常所見なく,腹部リンパ節腫大はなかった.

Fig. 1 

頭部超音波

a:グレースケール b:カラードプラ

頭頂部の軟部組織腫瘤は周囲組織と比べてやや高輝度を呈する部分と,周囲組織と同様の輝度を呈する部分を認める.正常組織との境界は明瞭である(a).

カラードプラで内部血流は確認できない(b).

頭部MR所見(Fig. 2):頭頂部左傍正中に半球形の腫瘤を認め,筋膜深部にも存在するが,骨浸潤はなかった.病変は,T2強調画像で低信号を呈し,造影後T1強調画像で造影効果を有していた.

Fig. 2 

頭部MR

a:T2強調画像矢状断像 b:造影後T1強調画像冠状断像

頭頂部左傍正中に半球形の腫瘤を認め(矢印),筋膜深部にも存在するが,骨浸潤はない.

病変は,T2強調画像で低信号を呈し(a),造影後T1強調画像で造影効果を有している(b).

臨床経過:頭部腫瘤に対する生検目的に入院予定であったが,入院前に頭部MRで頭蓋骨の骨髄がT1強調画像,T2強調画像のいずれにおいても低信号,脂肪抑制T2強調画像で軽度高信号を呈し,拡散強調画像で高信号,ADC mapでは低信号を呈していたこと(Fig. 3)に気づいた.骨髄内の脂肪髄の消失と,細胞密度の高い組織による置換が示唆され,急性白血病をはじめとするびまん性骨髄疾患が疑われた.骨髄穿刺が施行され,有核細胞数 44万/μl,芽球比率が98%,リンパ芽球の増殖等の所見が認められたため(Table 2),急性リンパ芽球性白血病と診断された.この結果を元に生検は中止となり,日本小児白血病リンパ腫研究グループのプロトコールに従い,治療開始となった.

Fig. 3 

頭部MR

a:脂肪抑制T2強調画像冠状断像 b:拡散強調画像冠状断像

頭蓋骨内の骨髄(矢頭)が脂肪抑制T2強調画像で軽度高信号を呈し(a),拡散強調画像でも高信号を呈している(b).ADC map(非呈示)では低信号である.

Table 2  その他検査(フローサイトメトリー等)
フローサイトメトリー:cyCD22,c-CD79a,CD19,CD10,CD24,CD22,CD20,cyTDT,HLA-DR,CD58,CD34,CD99,CD38
染色体検査(骨髄):46XY
キメラ遺伝子スクリーニング:異常なし
髄液検査:細胞数2/3,細胞診class II
sIL-2 receptor:1,110 U/ml(正常上限496 U/ml)

III  考察

急性白血病の初発症状は通常,非特異的であり,不特定の症状が長引くことで疑う契機となる.比較的多い症状は発熱,倦怠感,易出血性,骨痛などである.血液検査では白血球増多,減少のいずれも起こり,白血球数が正常でも芽球の出現や好中球減少がみられることもある.その他,貧血や血小板減少,高LDH血症がしばしみられる.急性白血病は骨髄増殖性疾患であり,各臓器・組織内にびまん性に浸潤し,増殖する.そのため,リンパ節腫脹や肝脾腫がみられ,さらには中枢神経や精巣などへの浸潤,皮下腫瘤を形成するなど髄外病変を認めることがある2–4)

急性白血病の経過中に髄外病変を生じることは知られているが,初発症状となることはまれである5).骨髄性においては,病初期から結節性の腫瘤を形成する白血病が存在し,顆粒球性肉腫や髄外骨髄性腫瘍,骨髄性肉腫などと呼ばれている.リンパ芽球性においては,初発時に髄外病変を認める場合,骨髄内に芽球が25%以上存在する場合には急性リンパ球芽性白血病,25%以下である場合はリンパ芽球性リンパ腫として区別される6).小児の急性単球性白血病やCD30陽性未分化大細胞性リンパ腫では皮膚浸潤を起こすことは知られているが,急性リンパ芽球性白血病やリンパ芽球性リンパ腫において,皮膚浸潤はまれであり,Millotら1)によれば,皮膚病変が初発症状である例は1.7%程度(1,359例中24例)と報告されている.皮膚病変は頭部に認めることが多い(24例中21例).

小児の皮下腫瘤は,基礎疾患に付随して生じる腫瘍から,小児に好発する良性腫瘍,外傷などを契機に発症する腫瘤,感染にて生じる結節など多岐にわたる.頭部腫瘤の代表的な鑑別疾患として,皮様嚢腫,類表皮嚢腫,血管腫,血管奇形,線維腫,結節性筋膜炎,脂肪腫など多くは良性疾患であるが,急性白血病や悪性リンパ腫,ランゲルハンス組織球症の原発巣や神経芽腫,横紋筋肉腫などの悪性腫瘍の転移病変であることがある.小児の皮下腫瘤に対する画像検査としては,非侵襲的で外来にて施行できる超音波検査が第一選択である.超音波検査は局在診断(位置関係,大きさ,形状の評価)が主体であり,エコー輝度によりある程度の質的診断が加味されるものの,超音波検査だけで確定診断にいたる疾患は少ない.超音波検査で,病変が深部に及ぶ場合や周囲組織・臓器との連続性が疑われる場合,手術による切除や生検を検討する場合はMRやCTなどによる詳細な検査が必要となる7,8)

本症例では頭部腫瘤以外の症状に乏しく,血液検査上も明らかな異常所見を認めなかった.超音波検査や頭部MRにおいても腫瘤自体の所見は非特異的であり,確定診断には至らず,頭部腫瘤に対して生検を予定していた.しかし,頭部MRで頭蓋骨の骨髄信号に注目することが診断に重要な手掛かりとなり,生検を回避することができた.

頭蓋骨は外板-板間層-内板の3層構造より成り立つ.外板・内板は皮質骨であり,石灰化成分が主体であるため,頭部MRにおいて無信号を呈する.一方で,板間層は海綿骨であり,その間には骨髄が存在する.髄腔内は,出生時には造血を行う赤色骨髄で満たされているが,成長するにしたがって徐々に脂肪髄化が進み,脂肪信号を反映してT1強調画像で高信号を呈するようになる.そして,T2強調画像においては軽度高信号,脂肪抑制T2強調画像においては低信号を呈する9).しかし,本症例においてT1強調画像,T2強調画像のいずれにおいても頭蓋骨の骨髄は低信号であり,脂肪抑制T2強調画像においては軽度高信号を呈していた.さらに拡散強調画像においては高信号,ADCmapでは低信号を呈しており,骨髄内に拡散障害が引き起こされていると考えられた.つまり,骨髄中の脂肪髄が芽球により置換され,芽球が密に増殖した状態になっていることが予想されたため,急性白血病の可能性が高いと判断し,腫瘤生検に先行して骨髄穿刺を行う方針となり,急性リンパ芽球性白血病の診断に至った.

IV  結語

急性白血病において,髄外病変が初発症状となることはまれである.小児の軟部組織腫瘤を診た場合は,症状に乏しく,血液検査で明らかな異常を呈していなくても,急性白血病を必ず鑑別に入れる必要がある.画像診断においては,病変部の局所所見だけでなく,骨髄所見にまで目を配ることで診断の重要な手がかりとなりうる.

 

日本小児放射線科学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

謝辞

ご校閲いただきました東京都立小児総合医療センター放射線科河野達夫先生に深謝致します.

文献
 
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