Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Clinical characteristics and contrast enhanced CT of the neck in pediatric patients with deep neck abscess
Yoshihisa TakahashiTakeshi OkinagaRumi UenoAyumu TakeharaSanae YamazakiKoji TsuchiyaAtsushi YamauchiMasahiko KaiRika HashiToshio Oshima
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2017 Volume 33 Issue 2 Pages 138-143

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I  背景と目的

深頸部感染症は頸部間隙内に生じた感染症の総称である.深頸部感染症の中で頸部の組織間隙や組織の崩壊によって生じた空洞に限局性に膿が貯留し,膿瘍を形成したものを深頸部膿瘍という1).一般的に,頸部内のリンパ節炎あるいは,疎性結合織の炎症が先行し,炎症が進行して膿瘍形成すると深頸部膿瘍となる2).発熱や頸部腫脹でその存在を疑い,頸部造影CT等で膿瘍形成を確認して診断する.その治療には抗菌薬による保存的治療と,外科的な処置による切開排膿治療がある.深頸部膿瘍は気道閉塞や縦隔炎などの致死的な合併症をきたす危険性があり1),時に重篤な経過をとる.よって切開排膿の時機を逸せずに早期診断と早期治療をおこなうことが重要である.小児においては成人と比較し,保存的治療で治癒しえたとの報告はあるが36),切開排膿の適応やその時機について検討した報告は少ない7).当院で経験した小児の深頸部膿瘍の16例について抗菌薬による保存的治療と切開排膿を要した例を頸部コンピュータ断層撮影(computed tomography; CT)の画像所見と臨床像を後方視的に検討し,切開排膿の適応について考察したので報告する.

II  対象と方法

当院に2007年3月から2015年10月までに入院した小児深頸部膿瘍16名について診療録より年齢,性別,症状,膿瘍部位,膿瘍の大きさ,治療経過,入院時白血球数,入院CRP,培養検査結果を後方視的に検討した.診察医が頸部の診察所見と臨床経過より深頸部膿瘍が疑わしいと考えた症例において頸部造影CT検査をおこなった.頸部造影CT検査で低吸収域の辺縁に造影効果を認めたものを膿瘍形成と診断し,頸部の筋膜間隙内に膿瘍を認めたものを深頸部膿瘍例と診断した.膿瘍の大きさはCT水平断の最大径より楕円と近似して計算した.全例で当院の耳鼻咽喉科にコンサルテーションをおこない,切開排膿の適応と治療効果の評価を小児科と共におこなった.当院では入院当日に緊急で切開排膿をおこなう適応として,①気道狭窄を認めるか,もしくは気道狭窄の恐れのある例,②縦隔膿瘍,静脈血栓症などの合併症を認める例のいずれかであれば適応とした.緊急の切開排膿の適応のない例に対しては,まず経静脈的に抗菌薬治療をおこない,その治療効果を評価した.抗菌薬治療の効果は熱型,症状の推移,膿瘍の大きさ,血液検査でのCRP値,白血球数を指標にして総合的に評価をおこない,治療開始後24時間後に改善が見られない例で切開排膿をおこなった.切開排膿群と抗菌薬治療のみの保存的治療群に分けて,年齢,膿瘍面積,入院時CRP,入院時白血球数をMann-Whitney U検定を用いて,男女比はFisherの正確確率検定を用いて比較検討した.P値 < 0.05を有意とした.

III  結果

切開排膿を要した症例は16例中5例であり,抗菌薬による保存的治療のみで治癒しえた症例は11例であった.全例で予後は良好であり,死亡例や重篤な後遺症をきたした症例はなかった.膿瘍部位は切開排膿群では3例が咽後膿瘍,2例が扁桃周囲膿瘍であった.保存的治療群では,5例が咽後膿瘍,4例が扁桃周囲膿瘍,1例が副咽頭間隙膿瘍,1例が梨状窩膿瘍であった.切開排膿を要した症例のうち,膿瘍面積が大きい咽後膿瘍(Fig. 1)と扁桃周囲膿瘍(Fig. 2),および保存的治療のみでは縮小しなかった咽後膿瘍(Fig. 3)の頸部造影CTを示す.

Fig. 1 

切開排膿群 症例2 咽後膿瘍

頸部造影CT 横断像

咽頭後間隙に4.7 cm2の膿瘍形成を認める.

Fig. 2 

切開排膿群 症例4 扁桃周囲膿瘍

頸部造影CT 横断像

右中咽頭扁桃に5.7 cm2の膿瘍形成を認める.

Fig. 3 

症例3 咽後膿瘍

頸部造影CT 横断像

左:入院1日目.後咽頭間隙に0.5 cm2の膿瘍形成を認める.右:入院8日目.後咽頭間隙に2.8 cm2の膿瘍形成を認め,前回と比較して増大傾向を認める.

症状は切開排膿群,保存的治療群ともに発熱を全例で認めた.切開排膿群では,頸部痛1例(20%),頸部腫脹2例(40%),咽頭痛4例(80%),嚥下障害1例(20%),頸部可動制限2例(40%),開口障害1例(20%)であった.保存的治療群では,頸部痛8例(73%),頸部腫脹6例(55%),咽頭痛1例(9%),嚥下障害2例(18%),頸部可動制限1例(9%),開口障害1例(9%)であった(Fig. 4).保存的治療群では頸部痛が多く,切開排膿群では咽頭痛と頸部可動制限が多い傾向を認めた.

Fig. 4 

切開排膿群5名と保存的治療群11名の症状

切開排膿群5例,および保存的治療群11例の年齢,性別,切開排膿の有無,診断名,膿瘍面積,入院時白血球数,入院時CRPをTable 1にしめす.症例1と症例4の2例で入院当日に緊急で切開排膿をおこなった.いずれの症例も膿瘍が大きく,その位置より気道狭窄の恐れがあったため緊急で切開排膿をおこなった.症例2と症例5の2例は抗菌薬治療においても発熱持続し,頸部可動制限などの症状の改善が乏しく入院2日目に切開排膿をおこなった.症例3は抗菌薬開始後24時間では発熱と炎症反応は改善傾向であったが頸部腫脹の改善を認めず,入院当日の頸部造影CT検査で膿瘍面積が0.5 cm2であったものが入院8日目に2.8 cm2と増大傾向を認め,切開排膿がおこなわれた(Fig. 3).縦隔膿瘍,内頸静脈血栓症,敗血症,播種性血管内凝固症候群などの合併例は認めなかった.

Table 1  切開排膿群5例および保存的治療群11例の年齢,診断名,切開排膿の有無,膿瘍面積,入院時白血球数,入院時CRP
症例 年齢(歳) 診断 切開排膿の有無 膿瘍面積(cm2 入院時白血球数(/μl) 入院時CRP(mg/dl)
1 3 咽後膿瘍 2.4 18,700 18.97
2 5 咽後膿瘍 4.7 26,100 11.21
3 5 咽後膿瘍 0.5⇒2.8 23,400 5.38
4 5 扁桃周囲膿瘍 5.7 19,900 4.40
5 12 扁桃周囲膿瘍 3.5 11,900 1.64
6 6 咽後膿瘍 1.9 18,000 7.06
7 6 咽後膿瘍 0.9 10,900 2.82
8 6 咽後膿瘍 0.8 22,800 5.73
9 7 咽後膿瘍 0.3 14,300 8.55
10 8 咽後膿瘍 0.4 17,700 21.13
11 1 扁桃周囲膿瘍 1.4 21,300 15.68
12 5 扁桃周囲膿瘍 0.7 35,600 18.26
13 6 扁桃周囲膿瘍 0.5 16,400 1.50
14 7 扁桃周囲膿瘍 0.5 16,100 10.80
15 3 梨状窩膿瘍 0.6 26,800 6.04
16 4 副咽頭間隙膿瘍 0.5 32,300 27.03

切開排膿群と保存的治療群に分けて,年齢,膿瘍面積,入院時CRP,入院時白血球数をMann-Whitney検定を用いて,男女比はFisherの正確確率検定を用いて比較検討した(Table 2).年齢の平均値(歳)は切開排膿群で5 ± 3.1,保存的治療群で6 ± 1.9と有意差は認めなかった.膿瘍面積は最小値が0.3 cm2,最大値が5.7 cm2であった.膿瘍面積(cm2)の平均値は切開排膿群で3.8 ± 1.2,保存的治療群で0.6 ± 0.3と有意差(p値 = 0.001)を認めた.入院時CRPの平均値(mg/dl)は切開排膿群で8.32 ± 6.13,保存的治療群で12.22 ± 7.83と有意差は認めなかった.入院時白血球数の平均値(/μl)は切開排膿群で20,000 ± 4,818,保存的治療群で21,109 ± 7,609と有意差は認めなかった.

Table 2  切開排膿群と保存的治療群の比較
切開排膿群(平均 ± SD) 保存的治療群(平均 ± SD) P値
年齢(歳) 5.0 ± 3.1 6.0 ± 1.9 0.604
男女比 2対3 2対9 0.546
膿瘍サイズ(cm2 3.8 ± 1.2 0.6 ± 0.3 0.001
CRP(mg/dl) 8.32 ± 6.17 12.22 ± 7.83 0.461
白血球数(/μl) 20,000 ± 4,818 21,109 ± 7,609 0.865

切開排膿群と保存的治療群の使用抗菌薬と培養検査結果をTable 3に示す.切開排膿群では膿汁の細菌培養検査をおこない,症例1でStreptococcus salivarius/Actinomyces turicensis,症例3でStreptcoccus viridians,症例4でAnaerococcus prevotii/Parvumonas micraが検出された.切開排膿例の使用抗菌薬と培養結果をTable 3に示す.耐性菌の検出は認めなかった.使用抗菌薬は,切開排膿群でカルバペネム系が3例,セフェム系が2例,ペニシリン系が1例で選択され,CLDMが4例で併用されていた.保存的治療群では,カルバペネム系が5例,セフェム系が4例,ペニシリン系が2例で選択され,CLDMが5例で併用された.

Table 3  切開排膿群(症例1~5)と保存的治療群(症例6~16)の抗菌薬と培養結果
症例 抗菌薬 培養(膿汁) 培養(咽頭/後鼻腔培養)
1 MEPM + CLDM Streptococcus salivarius/Actinomyces turicensis ND
2 ABPC/SBT⇒ABPC/SBT + MEPM + CLDM 検出せず Streptococcus pneumoniae (PISP)
3 CTRX + CLDM Streptcoccus viridians 検出せず
4 CTRX + CLDM Anaerococcus prevotii/Parvimonas micra 検出せず
5 PAPM/BP 検出せず group A Streptococcus (GAS)
6 PAMP/BP + CLDM ND 検出せず
7 CTM ND ND
8 DRPM ND ND
9 CTRX + CLDM ND 検出せず
10 CTRX + CLDM ND Staphylococcus aureus
11 DPRM ND group A Streptococcus (GAS)
12 PAPM/BP ND 検出せず
13 CTRX + CLDM ND 検出せず
14 SBT/CBZ + CLDM⇒MEPM ND 検出せず
15 ABPC/SBT ND ND
16 ABPC/SBT ND Streptococcus pyogenes

MEPM: Meropenem, CLDM: Clindamycin, ABPC/SBT: Ampicillin/Sulbactam, PAMP/BP: Panipenem/Betamipron, DPRM: Doripenem, ND: not done

IV  考察

深頸部膿瘍の診断はまず症状から深頸部膿瘍を疑うことから始まる.深頸部に炎症が波及していると考えられる症状として,頸部腫脹,嚥下障害,頸部可動制限,開口障害などがある.頸部可動制限が最も頻度が多いとする報告,また上方注視時の頸部進展制限を重視する報告もある8).しかし,深頸部膿瘍は身体所見に乏しい場合もあり,特に幼児では症状の訴えが明確ではなく,疑われる場合は早期に頸部造影CTといった画像評価をおこなうべきと考えられる.症状の出現から48時間以内であっても造影CT検査により高率に膿瘍が描出された報告がある9).また,当院の検討でも発熱,頸部痛といった非特異的な症状のみの例もあった.非特異的な症状であっても,症状が遷延する例や血液検査で炎症反応の上昇を認め,深頸部膿瘍が疑われる場合には頸部造影CTによる画像評価を早期に考慮すべきと考えられる.

深頸部膿瘍の治療には抗菌薬治療と切開排膿がある.切開排膿を基本治療とする考えがあるが10,11),その一方で小児においては抗菌薬治療のみで治癒しえたとの報告もあり,また小児においては治療を安全かつ確実におこなうために鎮静や全身麻酔を要することも多く,切開排膿の処置にはリスクを伴う.切開排膿が必要であれば時機を逸することなく,より低リスクにおこなうことが肝要であるが,明確な切開排膿の適応はなく,実際には症例ごとに試行錯誤しながら各施設でその適応を決めているのが現状である.切開排膿の適応を考慮するうえで,病状,膿瘍部位,処置に伴うリスク,合併症の有無,抗菌薬治療の有効性などが検討課題となると考えられる.当院ではまず①気道狭窄を認めるか,もしくは気道狭窄の恐れのある例,②縦隔膿瘍,静脈血栓症などの合併症を認める例のいずれかであれば緊急で切開排膿を要すると判断した.

抗菌薬治療が有効であれば48時間以内に臨床症状の改善を認めるとされ1),抗菌薬開始後24~72時間後に効果判定をして効果が乏しければ切開排膿をおこなうという考え方がある12).当院では,緊急で切開排膿を要しないと考えられた例では経静脈的な抗菌薬治療をおこない,治療開始後24時間後に改善が見られない場合に切開排膿をおこなった.抗菌薬治療の効果判定の指標として熱型,症状の推移,膿瘍の大きさ,血液検査でのCRP値,白血球数を用いた.当院の検討では2例が抗菌薬治療においても発熱持続し,頸部可動制限などの症状の改善が乏しく入院2日目に切開排膿をおこなった.1例では抗菌薬治療開始24時間以内に発熱と炎症反応の改善認め,抗菌薬治療の有効性を示唆していたにも関わらず,膿瘍の増大傾向を認め切開排膿をおこなった.深頸部膿瘍の治療効果は発熱,血液検査の炎症反応や白血球数だけでなく,膿瘍の大きさなども併せた総合的な評価が必要である.

当院の検討では,膿瘍部位による外科的アプローチのしやすさで切開排膿を考慮した例は認めなかった.膿瘍部位と切開排膿の適応は症例の蓄積により,さらなる検討が必要と考えられる.

当院での切開排膿群の膿瘍面積は全て2.4 cm2以上であった.膿瘍の大きさが切開排膿の予測因子として有用であったとの報告は他にも散見される.Kimらの報告では扁桃周囲膿瘍において抗菌薬の反応良好群の予測因子として低年齢(7.5歳以下),膿瘍サイズが小さい,咽頭炎の既往が少ないことが有用であったと報告されている13).また,Pageらは咽後膿瘍においてCT検査で膿瘍面積が2 cm2以上であることが切開排膿の予測因子であったと報告している14).当院の検討では症例が少なく評価は困難であるが,切開排膿を要する例と膿瘍の大きさには関連があると考察できる.

性差,年齢,入院時白血球数,入院時CRP値は切開排膿群と保存的治療群では有意差を認めなかった.また,膿瘍部位や起炎菌においても両群間の特徴は明らかではなかった.当院の検討では症例数が少なく,各群での症状の比較は困難であったが,切開排膿群では咽頭痛と頸部可動制限は多い傾向を認めた.

以上の検討から,当院の深頸部膿瘍の治療方針は以下のとおりとした.①気道狭窄を認めるか,もしくは気道狭窄の恐れのある例,②縦隔膿瘍,静脈血栓症などの合併症を認めるいずれかの例であれば緊急で切開排膿をおこなう.緊急の切開排膿の適応がないと判断した例では,経静脈的な抗菌薬治療をおこない,治療開始後24時間で抗菌薬の有効性が低いと考えられた場合には切開排膿をおこなう.特に膿瘍面積が2.4 cm2以上の症例では切開排膿が必要となる可能性が高いことを念頭におく.ただし膿瘍面積が2.4 cm2未満であっても抗菌薬の治療効果がなく切開排膿を要した例を経験したことから,治療効果の評価は頸部造影CTの再検を含め,注意深い観察をおこなう必要がある.

V  結論

当院における深頸部膿瘍16例を検討した.当院の検討では,頸部造影CT検査における膿瘍の面積が抗菌薬治療の有効性を予測する因子として有用であることが示唆された.膿瘍の大きさが2 cm2未満で気道閉塞などの重篤な合併症をきたす可能性が低く,全身状態が比較的良好であればまずは抗菌薬治療による有効性を評価するべきと考える.評価は24~72時間以内におこない,抗菌薬の有効性が乏しいようであれば切開排膿をおこなう.特に,当院の検討では膿瘍面積が2.4 cm2以上の例では抗菌薬治療の有効性が乏しく,切開排膿を要した.膿瘍の部位や大きさを評価する上で頸部造影CT検査は極めて有用であった.

文献
 
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