2017 Volume 33 Issue 2 Pages 149-152
Crowned dens syndrome(CDS)は急激な頸部痛をきたす疾患で,断層撮影において歯突起周囲の石灰化により歯突起が冠をかぶっているように見えることから名づけられた1).現在まで成人しか報告がなく,特に高齢者に多く見られる2,3).頸部痛の原因は,歯突起周囲の石灰化が関与するとされている4).今回我々は,CDSと同様の症状,画像所見および臨床経過をたどった女児例を経験したので報告する.
症例:4歳,女児
主訴:頸部痛
現病歴:車で長距離移動をした翌日,突然首が痛くて動かせなくなり,近医整形外科と耳鼻科を受診したが異常は指摘されなかった.6日後,痛みが続き当院整形外科に紹介されたが,発熱もあったため,髄膜炎疑いで小児科紹介となった.
初診時現症:体温38.2°C,斜頸を呈しており,頸部に全周性に自発痛と圧痛を認めた.頸部の可動域制限が著明でわずかに前屈のみ可能であった.髄膜刺激症状は認めず,髄膜炎は否定的であった.
初診時検査所見:血液検査では,WBC 10,390/μlと上昇し,CRP 4.6 mg/dlと高値を認めた.血中のCa,P,Mgおよび副甲状腺ホルモン値は正常であった.頸部単純X線写真で歯突起周囲に石灰化を認めた(Fig. 1a).頸部コンピュータ断層撮影(computed tomography; CT)では,軸椎歯突起と環椎周囲に,歯突起先端から左方にかけて,また一部後方にも至る石灰化を認めた(Fig. 2a, b).CTで認められた後頭環椎間のmassは,核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging; MRI)でT1およびT2強調画像ともに低信号~等信号を呈しており,石灰化と考えられた(Fig. 3a, b).脂肪抑制T2強調画像では,歯突起腹側に等信号から一部高信号域を認め,炎症の存在が疑われた(Fig. 3c).
Radiographs of the neck
a: Onset
b: One month after onset (on admission)
c: Three months after onset
Radiographs of the neck show the calcification around odontoid process (a). Those got worse (b) and improved (c) (arrow).
Cervical CT
Onset: axial (a), sagittal (b)
One month after onset (on admission): axial (c), sagittal (d)
Three months after onset: axial (e), sagittal (f)
The axial and sagittal images show the deposit (arrowheads, arrow) surrounding the odontoid process (a, b). Those got worse (c, d) and improved (e, f).
Cervical MRI (onset)
a: Sagittal T1WI (TR/TE/excitations: 450/11/4)
b: Sagittal T2WI (3,600/100/2)
c: Fat suppression T2WI (4,000/50/2)
Sagittal T1WI (a) and T2WI (b) show low- or iso-signal intensity changes around the dens (arrow). Fat suppression T2WI (c) shows iso- or high-signal intensity changes around the dens (arrow).
臨床経過:ネックカラーで頸部の安静を図り,鎮痛剤の内服を開始した.アセトアミノフェンでは効果がなく非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)(メフェナム酸)に変更後,痛みは軽減し少しずつ動かせるようになった.NSAIDsの漸減中だった発症約1か月後に,再度頸部痛の増悪と発熱があり,CRP 14 mg/dlと悪化したため,精査目的に入院となった.
入院時検査所見:頸部単純X線写真では歯突起周囲の石灰化の増悪を認めた(Fig. 1b).頸部CTでは,歯突起を取り囲むように初診時よりも広範囲にわたる石灰化を認めた(Fig. 2c, d).MRIでは,T1強調画像で低吸収域を,T2強調画像で後頭環椎間に高信号域を認め,液体貯留が疑われた(Fig. 4a, b).脂肪抑制T2強調画像では,歯突起腹側に高信号域の増大を認め,炎症の悪化が考えられた(Fig. 4c).
Cervical MRI (on admission)
a: Sagittal T1WI (450/11.5/1)
b: Sagittal T2WI (4,900/96/1)
c: Fat suppression T2WI (3,900/36/2)
Sagittal T1WI (a) shows low-signal intensity changes around the dens (arrow).
Sagittal T2WI (b) and fat suppression T2WI (c) show high-signal intensity changes around the dens (arrow).
入院後経過:化膿性脊椎炎も否定できなかったためcefazolinの点滴投与を行ったが,頸部痛は持続した.安静とNSAIDs内服により徐々に頸部痛は軽減し,炎症反応も改善したため1週間で退院となった.
退院後経過:退院後1週間でNSAIDsは不要となり,退院2週間後に炎症反応は正常化した.以後,無治療で症状の再燃なく経過し,退院3か月後の頸部単純X線写真(Fig. 1c)と頸部CT(Fig. 2e, f)では後頭環椎間の石灰化は縮小し,退院1年2か月後の頸部CTで歯突起周囲の石灰化は消失した.
Bouvetらは,歯突起周囲に石灰化をきたし,急激な頸部痛を起こす疾患をCDSと呼んだ1).石灰化の原因として,calcium pyrophosphate dehydrate(CPPD)あるいはhydroxyapatiteの関与があると報告されている4).CDSはNSAIDs投与により速やかに症状が改善するため,偽痛風のような炎症性疾患であると考えられている.偽痛風は副甲状腺機能亢進症,低マグネシウム血症,ヘモクロマトーシス,遺伝性疾患等の基礎疾患が存在することがあるが,血液検査や家族歴等から本症例ではいずれも否定的であった.CDSは加齢が最大のリスクとされ,若年成人例の報告は少なく,小児における報告は未だない.
CDSにおいて歯突起周囲の石灰化は頸部CTでは顕著に認められるが,単純X線検査では認められにくいとされる3).また,MRIよりCTの方が,石灰化が小さいほどCPPDの沈着が確認しやすいが5),炎症を証明するためにはMRIが有用とされる6).本症例でもMRIで炎症像が認められた.このようにCDSの診断には画像診断が有用であるが,小児においては被ばく量を考慮し,CT検査は必要最低限にとどめるべきと考える.本症例では回復期にCTを2回施行したが,症状がなければ必須の検査ではないため,この点が今後の反省点である.逆に,頸部痛で受診された場合,CTを撮らない場合も多数存在すると思われる.また,CTを撮ったとしても,臨床医のみならず,放射線医によってもCDSは過少報告や過少認識されている可能性も指摘されている3).したがって,CDSの見落としを防ぐためには,頸部痛がある場合は,臨床医,放射線医ともにCDSを念頭に置いて診療にあたることが重要であると考える.逆に,歯突起周囲の石灰化は無症状でも認められる場合があるため,注意が必要である7).
CDSはCTでの石灰化のパターンにより5通りに分類されており8),本症例は歯突起を取り囲むように石灰化が起こるsurrounding typeに該当した.また,症状,臨床経過および画像所見から,本症例は小児における初めてのCDSであると考えられた.したがって,小児においても頸部痛と発熱がある場合には,CDSを鑑別疾患の一つと考えて,単純X線写真で疑わしければ頸部CTを施行することが重要と考えられた.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.