Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Diffusion-Weighted Imaging of Pediatric Brain
Toshio Moritani
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2017 Volume 33 Issue 2 Pages 79-90

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はじめに

拡散強調像はその簡便性と臨床的価値により,小児脳疾患の臨床に役立つルーチンのMRIシーケンスとして使用されて久しいが,拡散強調像による小児中枢神経疾患の画像診断は必ずしも容易ではなくピットフォールが存在する.小児脳は小さな成人脳ではなく,その解剖,疾患の種類,病理,病態生理・生化学は多くの点で異なっている.小児脳は水分量が成人に比べ多い。従ってADC値は年齢より異なるが一般に成人脳より高値を示す.髄膜,脳血管関門や髄鞘形成がいまだ未熟である.小児脳の各種レセプターの分布,種類が成人とは異なり,興奮毒性に対する感受性が高くなる,などである.また,拡散異常に対応する小児脳の病理や病態生理もいまだ十分に理解されているとは言えない.その一方で,MRIはCTに比べ組織特異性に優れるが,拡散強調像を加えることでさらに組織特異性が増し,臨床的に重要あるいは診断困難な小児中枢神経疾患の鑑別を,たった1つに絞れることも度々経験される.この教育講演では,拡散強調像の異常が病理との対比で一体何を示しているのか,また多くの病態でみられる細胞性浮腫のメカニズムについて,代表的な症例を用いて解説する.

拡散強調像は何を示しているのか.

拡散強調像が小児中枢神経疾患の診断に非常に役立つのは,水分子の動きを利用して生体組織の病理を鑑別するのに適しているからである.T1,T2強調像などの従来のMRIが,双極子・格子,双極子・双極子相互作用などの分子や原子の物理現象の違いを画像化しているのに対して,拡散強調像はマイクロメーター(μm)オーダーの水分子の拡散運動の違いを画像化している.細胞の大きさが20–30 μm,細胞内小器官や軸索,ミエリン梢が1–10 μmであることを鑑みると,拡散強調像はまさに細胞,組織レベルの現象を取り扱っていることがわかる.細胞,組織内で主に水分子の拡散を制限するものは巨大分子と膜構造である.

ストークス・アインシュタインの式(ADC = kT/6πr × η)より,見かけの拡散係数(ADC)は温度(T)に比例し,巨大分子の半径(r)と粘稠度(η)に反比例する.これはアインシュタインの博士論文であったらしい1)(ちなみにノーベル賞は相対性理論ではなく光電効果).すなわち,細胞,組織の粘稠度(細胞内,細胞外マトリックス)と膜構造の形態(細胞膜,細胞内小器官の膜)がADC値を決定する.

高粘稠度の液体と膜構造

高粘稠度の液体の例として,鼻腔副鼻腔内の粘稠な液体や粘液嚢胞が挙げられる.粘稠度が高いと拡散強調像で高信号を示すよい例である(Fig. 1).主に組織の膜成分による拡散制限の例として類上皮腫が挙げられる(Fig. 2).脳膿瘍は著明な拡散制限,ADCの低値を示すが,膿内好中球の細胞膜成分と粘‍稠な液状壊死を反映していると考えられる(Fig. 3).その他,血腫,細胞性浮腫や壊死,細胞成分の増加,細胞過多(炎症細胞浸潤,腫瘍)に伴う拡散制限も,粘稠度(細胞内,細胞外マトリックス)と膜構造の形態(細胞膜,細胞内小器官の膜)で拡散強調像の高信号が説明できる.

Fig. 1 

鼻腔副鼻腔内の粘稠な液体 8歳男児

T2強調像で上顎洞,鼻腔内,乳突蜂巣内に液体貯留を認める.鼻腔,副鼻腔内の拡散強調像の高信号は粘稠な液体であることを示す.

Fig. 2 

類上皮腫 9歳女児

A:T2強調像で大脳鎌近傍に高信号腫瘤を認める.B:拡散強調像で腫瘤は高信号を示し,類上皮腫に一致する.C:病理では重層扁平上皮と乾燥ケラチン物質を認め,拡散制限の原因と考えられる.(文献2より転載)

Fig. 3 

脳膿瘍 7歳男児

A:造影T1強調像で左前頭葉にリング状に造影される腫瘤を認める.B:拡散強調像では著明な高信号を示す.C:ADCマップで内部に液面形成が見られ,著明なADCの低下を示し,脳膿瘍に一致する所見である.また,周囲の血管性浮腫を認める.D:病理では無数の好中球と周囲の肉芽線維被膜を認める.(文献2より転載)

脳浮腫のメカニズム

脳浮腫は種々の小児中枢神経疾患で認められる.大きく細胞性浮腫と血管性浮腫に分けられる.T2強調像では何れの浮腫も高信号であるが,拡散強調像では細胞性浮腫は高信号でADC低値,一方,血管性浮腫は低から等信号でADC高値を示す.細胞性浮腫成因のメカニズムは単なるエネルギー障害だけではなく,細胞膜の輸送物質はさまざまな物質が関与する.それらの物質には,グルタミン酸やアスパラギン酸のような興奮性神経伝達物質や,サイトカイン,一酸化窒素,フリーラジカルなどがある.特にグルタミン酸は,主な興奮性アミンによる脳障害の原因であり,細胞膜のレセプターを介して,細胞性浮腫生成のメカニズムの最終経路と考えられている2,3)Fig. 4).このメカニズムは,児童虐待による頭部外傷梗塞,低酸素性虚血脳症,てんかん重積発作,びまん性軸索損傷,脳挫傷,白質脳症,脱髄疾患,脳炎など,多くの小児脳疾患に関連する.

Fig. 4 

興奮中毒性メカニズム

シナプス前細胞の小胞からグルタミン酸がシナプス間隙に放出され,非NMDAレセプターに結合するとナトリウムイオンがシナプス後細胞に流入し,細胞性浮腫を生ずる.また,NMDAレセプターに結合すると,カルシウムイオンが流入し,アポトーシスあるいは細胞壊死を生ずる.シナプス間隙のグルタミン酸は,シナプス前細胞と星状細胞による再取り込みで調整されている.(文献2より転載)

児童虐待による頭部外傷

児童虐待による頭部外傷では,硬膜下血腫,クモ膜下血腫,脳内血腫などの頭蓋内血腫に加えて,種々のパターンの脳実質病変を生じる.低酸素性虚血性脳症に類似したパターン,痙攣性脳症に類似したパターン,び漫性軸索損傷に類似したパターンがある.外傷の種類や程度により異なるが,年齢が低いと脳実質障害が著明なことが多い(Fig. 5).この理由として,新生児や乳児の頭蓋骨や髄膜の脆弱さに加え,興奮毒性に対する脳内レセプターの数,分布,種類が異なり,アポトーシスと壊死に関連するNMDAレセプターが優位と言われる.また,シェィクンべイビーの乳児ラットモデルで,髄液中のグルタミン酸濃度が正常の7倍にもなるという報告もある4).児童虐待による頭部外傷では,グルタミン酸の再取り込み阻害,漏出,異常放出により障害が助長される(Fig. 6).拡散強調像とADCマップは細胞性浮腫の描出に優れ,その脳実質病変の大きさ,範囲は予後と関連するとされる.

Fig. 5 

児童虐待による頭部外傷

硬膜下血腫(b, c, d, f),クモ膜下血腫(c),脳内血腫(a, c)などの頭蓋内血腫に加えて,種々のパターンの脳実質病変を生じる.低酸素性虚血性脳症に類似したパターン(a, b, c, d),痙攣性脳症に類似したパターン(e, f),び漫性軸索損傷に類似したパターン(f)がみられる.MRスペクトロスコピー(マルチボクセル,TE 35)でグルタミン・グルタミン酸のピークを認める(f矢印).

Fig. 6 

児童虐待による頭部外傷のメカニズム

児童虐待による頭部外傷では,低酸素性虚血性脳症,脳挫傷,び漫性軸索損傷,痙攣などを認め,それに伴うグルタミン酸の再取り込み減少,漏出,放出が相加して,興奮中毒性メカニズムにより,しばしば広範な脳傷害を生ずると考えられる.

低酸素性虚血性脳症

低酸素性虚血性脳症は拡散強調像でび漫性の高信号が認められるが,低酸素,虚血の程度と曝された時間,脳の発達程度,画像が撮られたタイミングにより分布が異なる.一般的に虚血が長いと大脳皮質の広範囲に左右対象性,あるいは非対称の高信号病変がみられる5).脳皮質と基底核,脳幹は白質線維で繋がっているため,皮質脊髄路や脳梁に沿って高信号病変が観察されることがある(Fig. 7, 8).

Fig. 7 

低酸素性虚血性脳症 生後10日男児

A:拡散強調像で両側前頭葉,基底核,左側頭頭頂葉に広範な高信号病変を認める.B:拡散強調像で両側大脳脚に高信号を認め,早期のワーラー変性を示す.(文献2より転載)

Fig. 8 

低酸素性虚血性脳症 生後6日男児

両側前頭側頭頭頂葉および基底核,視床に高信号が見られ,脳梁の著明な高信号が目立つ.

てんかん重積発作に伴う脳症

てんかん重積発作に伴う脳症では,痙攣に伴い神経細胞よりグルタミン酸が放出され,興奮毒性により皮質,皮質下白質に細胞性浮腫を生ずる.いわば純粋な興奮毒性による細胞性浮腫といえる.拡散強調像とADCマップでは,細胞性浮腫の血管支配に一致しない特徴的な分布より診断が可能である6)Fig. 9).また,同側の海馬,視床枕や内側核に病変がみられることが多い.病変はしばしば可逆性であるが,重症の場合は選択性壊死,あるいは萎縮がみられる.

Fig. 9 

てんかん重積発作に伴う脳症 2歳女児

A:T2強調像では左半球の淡い高信号を認める.B,C:拡散強調像では,視床枕と視床内側を含め左半球に著明な高信号を認め,ADC値の低下を伴う.

び漫性軸索損傷

び漫性軸索損傷は外傷性軸索損傷,剪断性白質損傷ともいわれる.受傷直後のMRIでは出血性と非出血性軸索損傷が認められ,区別できる.前者は磁化率強調像が,後者は拡散強調像が病変の描出能に優れる.病変は皮質白質境界部,脳梁,脳幹の後外側部,基底核,視床,小脳脚などによくみられ,典型的の病変分布を示す.軸索のランビエ絞輪が剪断力に脆弱な部分で,周囲の組織に細胞性浮腫を生ずる3)Fig. 10).病理学的には軸索の腫脹,退縮球を認める.

Fig. 10 

びまん性軸索損傷 11歳男児

A:T2強調像で脳梁膨大部に高信号病変を認める.B:拡散強調像では著明な高信号とADC値の低下を認める.C:軸索のランビエ絞輪が剪断力に脆弱な部分で,周囲の組織に細胞性浮腫を生ずる.(文献2より転載)

脳梁膨大部の可逆性病変

脳梁膨大部の可逆性病変は抗痙攣剤,外傷,髄膜悪性腫瘍,偏頭痛,種々の脳炎,脳症に関連して生ずる7).拡散強調像で高信号を示し,MRIで経過を追うと消失する(Fig. 11).脳梁は興奮毒性に関わるレセプターが豊富で,おそらく髄鞘浮腫が可逆性の理由と考えられる.一方,抗痙攣薬の一つであるビガバトリンはγ-アミノ酪酸(GABA)の濃度を上昇させるが,幼児の脳では興奮毒性として働き,淡蒼球,視床に可逆性の髄梢浮腫を生ずる(Fig. 12).

Fig. 11 

脳梁膨大部の可逆性病変 19歳女性 抗痙攣剤使用中

A:FLAIR画像で脳梁膨大部に楕円形の高信号病変を認める.B:拡散強調像で高信号を示す.C:一か月後の経時的MRIで病変の完全な消失を認める.

Fig. 12 

ビガバトリンによる空胞性髄鞘障害 9か月男児

A:T2強調像で両側淡蒼球に高信号を認める.B:拡散強調像でも高信号を示す.C:三か月後のMRIで病変の完全な消失を認める.

脱髄性疾患,急性散在性脳脊髄炎や多発性硬化症の急性期でも拡散強調像で高信号がみられることがあるが,髄鞘性浮腫を示すと考えられる(Fig. 13).

Fig. 13 

急性散在性脳脊髄炎 11歳男児

A:T2強調像で大脳白質に散在性多発性の高信号病変を認める.B:拡散強調像では著明な高信号を呈する.(文献2より転載)

白質脳症

小児の白質脳症は中毒性あるいは先天性代謝性疾患など膨大な種類があり,種々の分布を示すが,急性期では白質や基底核,視床に対称性,び漫性に拡散強調像で高信号を示すことが多く鑑別診断や活動性の評価に役立つ8)Fig. 14).拡散強調像での高信号は髄鞘や軸索,星状細胞の浮腫を示すと考えられる.Vanishing White Matter病は軸索変性症で深部白質の嚢胞変性が特徴であるが,皮質下白質の拡散強調像の高信号が病早期にみられる(Fig. 15).病理学的には乏突起細胞の浸潤を示すといわれる9)

Fig. 14 

グルタル酸血症 タイプ1 14歳男児

A:T2強調像で深部白質に対称性の高信号病変を認める.B:拡散強調像で高信号を示す.

Fig. 15 

Vanishing White Matter病 2歳男児

A:T2強調像で白質のび漫性の高信号を認める.B:拡散強調像で深部白質は低信号,皮質下白質は高信号を示す.この高信号は乏突起細胞の増多を示すと考えられる.

脳炎

新生児,幼児では脳血管関門,脳-脳髄液関門,髄膜が未熟である.そのため新生児の細菌性髄膜脳炎では,軟膜・くも膜の感染が脳表から血管周囲腔を通して容易に血管に達し,軟膜,細動脈や細静脈の血管炎を生じるため,軟膜下皮質の脳炎を形成する2)Fig. 16).脳炎に伴う細胞性浮腫,壊死,好中球浸潤が拡散強調像高信号の原因となる.

Fig. 16 

溶連菌による髄膜脳炎 1か月男児

A:T2強調像で両側前頭葉皮質と脳梁膨大部に高信号病変を認める.B:拡散強調像ではこれらの病変は高信号を示す.C:病理では細動静脈炎と周囲の感染巣を示す.(文献2より転載)

小児のヘルペス脳炎は典型的には拡散強調像での高信号病変が片側側頭葉優位に認められるが,病変が頭頂葉優位な症例や前頭後頭葉に広がる症例もみられる(Fig. 17).新生児では典型的には皮質,白質が広範に侵される(Fig. 18).白血病治療後の免疫低下患児の播種性血管浸潤性アスペルギルス症には,皮質白質境界部あるいは基底核,視床には拡散強調像で円形の高信号病変がみられ,辺縁の軽度の造影効果が特徴である(Fig. 19).

Fig. 17 

単純ヘルペス脳炎 2歳女児

A:FLAIR画像で両側前頭頭頂葉に高信号病変を認める.B:造影T1強調像で皮質の異常造影効果を認める.C:拡散強調像でこれらの病変の高信号を認める.左側の病変は出血を伴う.

Fig. 18 

新生児単純ヘルペス脳炎 生後14日男児

A:T2強調像でび漫性非対称性の広範な高信号病変を認める.B:拡散強調像で病変の高信号はより明瞭である.(文献2より転載)

Fig. 19 

播種性浸潤性アスペルギルス症 4歳男児 白血病化学療法後

A:造影T1強調画像で両側側脳室前角周囲,基底核,視床に辺縁の淡い造影を伴う病変を認める.B:拡散強調像ではこれらの病変は高信号を示す.

脳腫瘍

小児脳腫瘍の診断と悪性度の推定で拡散強調像は重要な役割を示す.一般的に脳腫瘍の細胞密度が高いと拡散強調像は高信号,ADCは低値を示す.逆に細胞密度が低い場合,あるいは細胞外マトリックスが多い場合,微小嚢胞が存在する場合には,拡散強調像は等信号から低信号,ADCは高値を示す.髄芽腫(Fig. 20),非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍,多層性ロゼットを有する胎児性腫瘍10)Fig. 21)や悪性リンパ腫は高細胞密度で細胞外マトリックスが少なく高信号となる.ADCは0.8 × 10−3 mm2/sec以下の低値を示すことが多い11).一方,細胞密度が比較的低く,細胞外マトリックスが多い低分化の神経膠腫のADCは高値を示す.特に細胞外マトリックスと微小嚢胞が存在する毛様細胞性星細胞腫では,ADC値は1.4 × 10−3 mm2/sec以上となることが多く,悪性腫瘍との鑑別に役立つ(Fig. 22).また,上衣腫はその中間のADCを取ることが多い.脈絡叢腫瘍はグレードに従いADCが低下する.

Fig. 20 

髄芽腫 10歳男児

A:造影T1強調像で,小脳正中部に辺縁小嚢胞を伴い,やや不均一に造影される腫瘤を認める.B,C:拡散強調像の高信号とADC値の低下は高細胞密度による.(文献2より転載)

Fig. 21 

多層性ロゼットを有する胎児性腫瘍 14ヶ月男児

A:造影T1強調像で右側頭葉にわずかに造影される境界明瞭で円形の腫瘤を認める.B:拡散強調像で高信号とADC値の低下を示し,高細胞密度の腫瘍が示唆される.

Fig. 22 

毛様細胞性星細胞腫 10歳男児

A:造影T1強調像で小脳正中部に均一に造影される実質性部分と大きな嚢胞を伴う腫瘤を認める.B,C:拡散強調像で実質成分は高信号を示し,ADC値は高値を示す.D:病理では粘液様変性と微小嚢胞を認める.(文献2より転載)

まとめ

小児中枢神経疾患の拡散強調像と病理を供覧した.細胞,組織内で主に水分子の拡散を制限するものに巨大分子と膜構造がある.拡散強調像は組織特異性が高く,粘稠な液体,膿瘍,血腫,細胞性浮腫や壊死,腫瘍などが高信号となり区別される.小児脳は多くの点で成人脳と異なり拡散強調像の解釈も異なってくる.小児中枢神経疾患の拡散強調像を読影する際,どういう病態で,病理学的に実際何を示しているかを推察することは,正しい診断,病変の解釈,鑑別診断に不可欠なプロセスである.

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