Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Imaging approach for fever of unknown origin: ADEM, brain abscess, etc. involving the head
Hiroshi Terashima
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2018 Volume 34 Issue 1 Pages 2-7

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I  はじめに

頭部画像が不明熱の診断に役立つ場合として,①頭部に病巣がある(①-1:脳病変,①-2:脳以外の骨,軟部組織などの病変),②全身疾患の一症状として頭部に特徴的な病巣があり,他部位の症状が目立たない,といった状況が考えられる.今回,①-1として急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis;以下ADEM)と脳膿瘍について,症例呈示とともに記載した.また①-2として頭蓋底骨髄炎を,②としてシェーグレン症候群を取り上げた.

II  ADEM

1. 症例呈示

【症例】生来健康な6歳女児

【家族歴】特記すべきことなし

【現病歴】

入院1か月前:活気低下を認めた.

3週間前:発熱,頭痛,嘔吐が出現した.

10日前:痛覚過敏が出現した.前医の頭部MRIで異常を認めなかった.

その後も発熱,不機嫌が続くために入院となった.

【入院時現症】

体温37.6°C,心拍112回/分

項部硬直は嫌がって評価できず

頭頸部,胸腹部,四肢,皮膚に異常所見なし

【入院時検査所見】

血算:白血球16,630/μl

赤沈:1時間87 mm,2時間118 mm

生化学:肝酵素・腎機能・電解質:正常範囲内,CRP 0.52 mg/dl

【入院後経過】

入院後も発熱,頭痛,不機嫌が続いた.

入院6日目:頸部~骨盤の造影CTで異常を認めなかった.

8日目:うっ血乳頭と項部硬直を認め,頭部magnetic resonance imaging(MRI)で右視床,左脳梁体部,両側視床下部,両側中小脳脚にfluid attenuated inversion recovery(以下FLAIR)像で高信号を呈し,apparent diffusion coefficient(以下ADC)マップで淡い高信号を呈し,Gadolinium(以下Gd)造影効果を認めない,多巣性の病変を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

ADEM

a,c:FLAIR像,b,d:ADCマップ

左脳梁体部(矢頭),右視床(矢印)にFLAIR像で高信号,ADCマップで淡い高信号を呈する病変を認める.

9日目:傾眠が出現し,ADEMと診断した.

11日目:髄液検査で細胞数39(単核球24,多核球15)/μlと軽度の増加を認めた.ステロイドパルス療法1クール目を開始した(計5日間)ところ,速やかに解熱し,頭痛と傾眠,不機嫌の改善を認めた.

19日目:ステロイドパルス療法2クール目(計3日間)を開始した.脊髄MRIでは病変を認めなかった.

24日目:症状が消失し,退院となった.

2. 解説

ADEMは急性~亜急性に発症する中枢神経系の炎症性脱髄性疾患で,脳症症状(行動変化や意識変容)を含む様々な神経症状を呈する.発熱に伴い頭痛や嘔吐といった非特異的な症状で発症することが多い.治療として標準的なものはないが,第1選択としてステロイドパルス療法が行われることが多く,速やかに症状の改善を認めることが多いため,正しい診断をつけることが重要である1)

診断には頭部MRIが重要で,T2強調画像とFLAIR像で高信号を呈する病変が,脳室周囲白質,小脳白質,基底核,視床,脳幹,視神経などに,多巣性,非対称性に生じる.Gd造影効果は活動性の高い病変で認めることがある.ADCについては,T2強調画像の高信号域に一致して高値であったとする報告や,高値と低値が混在していたとする報告がある2)

ただし,病変の部位と程度によっては意識障害やけいれん,麻痺,視力障害などの神経症状が目立たないことがあり,不明熱としての臨床像を呈することがある3,4).実際,日本国内の小児不明熱症例をまとめたKasaiらの報告では診断の確定した185例中3例がADEMだった5)

本症例では意識障害(傾眠)の出現が遅く,それ以外の神経症状(頭痛,痛覚過敏)が非特異的な症状であったこと,また発症3週間後の頭部MRIで所見を認めなかったことから,ADEMの診断が遅れた.発症3週間後の頭部MRIで所見が乏しく,発症1か月~1か月半後の再検時に所見が明瞭になった成人ADEM症例が報告されている6)

発熱が軽微な神経症状を伴って続くときはADEMを鑑別に入れて頭部MRIを撮影し,初回に異常が無くても症状が続くときは頭部MRIを再検することが重要である.

III  脳膿瘍

1. 症例呈示

【症例】1歳8か月女児

【既往歴】5か月時,1歳3か月時に中耳炎

【周産期歴,発達歴,家族歴】正常

【現病歴】

転院2週間前:37°C台後半の発熱と活気・食欲の低下を認めた.

10日前:嘔吐を2回認めた.

9日前:発熱,活気低下が続くため前医を受診.白血球16,100/μl,CRP 5.87 mg/dlと炎症反応の上昇を認めて入院,セフトリアキソンが開始された.しかしその後も症状改善なく,さらに傾眠傾向が出現した.

7日前:髄液検査を施行したところ,細胞数44/μl,糖70 mg/dlと細胞数の増加を認めた.

4日前:頭部MRIで左前頭葉に径5 cmの腫瘤を認め,頭部造影CTで脳膿瘍と診断された.心臓超音波で卵円孔開存を認めたが疣贅は認めなかった.アンピシリンを追加し,マンニトールを開始したが,その後も症状が続くため当センターに転院となった.

【転院時現症】

体温37.1°C,心拍数110回/分

意識清明

項部硬直なし

鼻汁無し,口腔内にう歯なし

右上下肢の不全麻痺あり

【転院後経過】

転院1日目:起炎菌として口腔内嫌気性菌や黄色ブドウ球菌の可能性を考え,抗菌薬をメロペネムとバンコマイシンに変更した.

2日目:頭部造影CTで膿瘍による脳の圧迫を認めた(Fig. 2)ため,開頭脳膿瘍除去術を施行した.

Fig. 2 

脳膿瘍

a,b:造影CT

左前頭葉に,造影効果を持つ隔壁に囲まれた,径5 cmのほぼ円形の低吸収域を認める.容積効果により大脳鎌が右方に強く偏位している.矢状断像ではテントが下方に圧排されている.

その後徐々に,活気と右上下肢の不全麻痺が改善した.

5日目:手術時に採取した膿の培養で嫌気性菌を認めたため,バンコマイシンを中止した.

15日目:口腔内常在菌で通性嫌気性菌のGemella Morbillorumが膿から検出された.複数の菌種が起炎菌となっている可能性を考慮し,効果のあるメロペネムを継続した.

その後,頭部CTを経時的に評価し,膿瘍容積が徐々に減少するのを確認した.

メロペネムを6週間投与した時点で膿瘍が残存していたため,投与期間を延長し,

85日目:頭部MRIで膿瘍腔の消失を認め,メロペネムを中止とした.

89日目:後遺症なく退院となった.

2. 解説

脳膿瘍の感染経路は,①副鼻腔炎,中耳炎・乳様突起炎などからの直接浸潤,②心内シャント・肺内シャントを通じての血行性播種,③外傷・手術,④その他に分けられる.また臨床症状は,①感染による直接の神経障害症状,②血管の炎症性閉塞による虚血症状,③膿瘍による圧迫・脳圧亢進症状,④炎症による発熱・倦怠感などの全身症状に分けられる.原因病原体は好気性・嫌気性の連鎖球菌,グラム陰性嫌気性菌,腸内細菌科,黄色ブドウ球菌,真菌が挙げられる.

発症早期の症状は発熱,頭痛など非特異的なことが多く,血液や髄液の検査所見,培養結果も異常が目立たない事が多い.本症例でも症状が目立たず,診断まで10日を要した.なお,脳室内穿破が生じると化膿性髄膜炎と同じ病態になり,高熱,ショック,髄膜刺激徴候,意識変容が生じて予後が悪化する7)

診断には頭部MRIや頭部造影CTが重要である.頭部MRIでは,T2強調画像で,低信号を呈する被包の内部に膿瘍を示す高信号病変を認め,被包周囲には浮腫を示す高信号病変を認める.膿瘍は粘稠度,細胞密度が高いため,水分子の運動が妨げられ拡散が低下すると考えられており,ADCマップでは膿瘍が低信号を呈する.頭部CTではリング状の造影効果を示す被包内に,膿瘍が低吸収域として示される.腫瘍や脱髄性病変との鑑別にMR spectroscopyが有用であり,膿瘍内部にacetate,lactate,アミノ酸の信号を認める8).また,感染源の精査として副鼻腔と乳様突起などの評価も同時に行う.心内シャント評価目的に心臓超音波検査が必要となる7)

治療は外科的な膿瘍吸引と6~8週間の適切な抗菌薬の経静脈投与からなる.原因病原体の特定にはドレナージした膿瘍の培養が重要である7).嫌気性菌が原因となることも多いため,通常の細菌培養に加えて嫌気性培養を追加する.本症例では頭部画像所見を確認しながら,膿瘍腔が消失するまで計13週間,抗菌薬を投与した.

IV  頭蓋底骨髄炎

頭蓋底骨髄炎は小児では稀な感染症であり,症状が発熱,頭痛,頸部痛などと非特異的であること,画像所見が目立たないことから診断が難しい.Trückらは斜台に生じた小児の頭蓋底骨髄炎2症例を報告している9).その中の11歳女子例は1週間続く発熱,頭痛,動きで悪化する頸部痛を呈し,髄液所見,頭頸部CT所見は正常だった.頭頸部MRIは当初正常と判読されていたが症状が続くため見直したところ,頭蓋底病変が示唆された(Fig. 3).全身骨シンチグラフィーとsingle-photon emission computed tomography(SPECT)を追加し,両方の検査で斜台における核種の取り込みを認め,斜台骨髄炎の診断となった.6週間のセフトリアキソン静脈内投与とクリンダマイシン経口投与,引き続き6週間のアモキシシリン・クラブラン酸経口投与で治癒した.

Fig. 3 

頭蓋底骨髄炎(文献9)より引用)

A:T1強調画像,B:T2強調画像,C,D:骨シンチグラフィー,E,F:SPECT

A,Bで頸椎前方に浮腫を認め(白矢印),斜台の一部に骨膜下膿瘍を示唆する液体貯留を認める(赤矢印).C,D,E,Fでは斜台に核種の取り込みを認める.

頭痛,頸部痛を呈する不明熱を見たときには頭蓋底骨髄炎を鑑別診断の一つとして疑い,頭部造影MRIを行う.MRI所見が不明瞭でも臨床的に頭蓋底骨髄炎を引き続き疑う場合は,骨シンチグラフィー,SPECTの追加を考慮する.

治療としては抗菌薬に加え,時に外科的介入が必要となる.稀な病態であり,ガイドラインなども存在しないため,放射線科,耳鼻咽喉科,感染症科,神経内科など各専門家へのコンサルトを考慮する.

V  シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は涙腺・唾液腺を中心とした外分泌腺障害を特徴とする全身性の炎症性疾患である.小児では女児に多く,発症年齢は小児期全般にわたり,好発年齢は中学校入学前後である.小児患者では成人患者と臨床像が異なり,乾燥自覚症状がやや少ない(成人で85%,小児で口腔乾燥症状58.8%,眼乾燥症状48.7%).生検や画像所見では外分泌腺の障害が検出されるが,実際の分泌量は保たれている例が多いとされる.そのため発熱以外の症状が目立たず,不明熱の臨床像を呈することがある10)

小児慢性特定疾病の診断の手引11)では①自己免疫性疾患を示唆する血液検査所見(IgG値,抗核抗体,リウマチ因子,抗SS-A/Ro抗体,抗SS-B/La抗体),②外分泌腺障害を示す所見:唾液腺の組織所見や画像所見,唾液や涙液の分泌量,角膜・結膜の障害,の組み合わせにより,Definite,Probable,Possibleの判定がされる.診断にはシェーグレン症候群を疑って以下の画像評価を行い,外分泌腺の病変を明らかにすることが重要である.

①唾液腺破壊像の評価

・耳下腺シアログラフィー:Stenon管の開口部から逆行性に造影剤を注入し,X線で耳下腺を撮影する.耳下腺内の導管の拡張部位に造影剤が貯留した状態により,stage 0~4に分類され,1以上が陽性とされる.

・MRシアログラフィー:

耳下腺シアログラフィーと比べて,造影剤を使用しないで良いという利点がある.成人120例の検討で感度80.6%,特異度100%と有用性が示されている12)

②唾液腺機能の評価

・唾液腺シンチグラフィー:99mTcO4が唾液腺,甲状腺,胃粘膜に集積する.核種を静脈内投与した後,左右耳下腺,顎下腺の4つの大唾液腺での放射線放出量を経時的に計測する.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

謝辞

本稿の疾患選択について貴重なご助言を下さいました,国立成育医療研究センター感染症科 庄司健介先生,同センター腎臓・リウマチ・膠原病科 小椋雅夫先生,同センター脳神経腫瘍科 寺島慶太先生,同センター放射線科 堤 義之先生に深謝致します.

文献
 
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