Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Diagnosing splenic transient ischemic change by torsion of a wandering spleen: Case report of a 14-year-old boy
Kota YamazakiKentaro UenoMomoko TakedaHirotoshi UnnoAkira ItoHidehito UsuiTakeru Ito
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2018 Volume 34 Issue 1 Pages 31-35

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I  はじめに

脾梗塞は外科的治療を念頭に置き,早急な原因の究明が必要となる.また,遊走脾は非常に稀な疾患であり,捻転による脾梗塞をきたすことがある.本症例は,発熱及び腹痛を主訴に受診した.腹部超音波検査と造影CTで脾梗塞が疑われ,さらに腹部dynamic CTによって,遊走脾捻転を同定することができた.一般的には手術適応になるが,保存的治療で自然軽快した.経過としても稀であり,貴重な症例を経験したので報告する.

II  症例

症例:14歳,男児

主訴:腹痛,発熱

現病歴:入院4日前に発熱と突然の腹痛が出現し,近医を受診した.胃腸炎と診断された.その後も症状は改善せず,当院救急外来を受診した.便秘を考え浣腸を行ったが,症状改善なく,精査加療のため入院した.

入院時身体所見:体温37.5°C 脈拍数71/分 呼吸数20/分 血圧101/67 mmHg SpO2 99%(室内気).腹部所見は,グル音正常で,臍部を最強点とする圧痛があり,反跳痛はなかった.腫瘤は触知しなかった.軽度の筋性防御があった.外傷はなかった.

入院時血液検査所見:白血球数8,100/μl(好中球60.5% リンパ球28.0% 好酸球1.0% 単球15.5% 異型リンパ球0% 芽球0%)Hb 13.4 g/dl 血小板数12.6 × 103/μl AST 35 U/L ALT 6 U/L LDH 817 U/L CRP 3.36 mg/dl PT-INR 1.23 APTT 42.4 sec D-Dimer 2.71 μg/ml sIL-2R 543 U/L EBV-VCA IgM 10倍未満 EBV-VCA IgG 80倍 EBV-EBNA 20倍 プロテインC活性80% プロテインS 74% 抗核抗体40倍未満 リウマチ因子定量3 IU/ml未満 ループスアンチコアグラント1.0 ratio 抗カルジオリピン抗体0.7 U/ml未満

画像所見:腹部単純写真(B)(仰臥位)で小腸ガス像を認めた(Fig. 1).腹部超音波検査で脾腫(122 × 39 mm)があり(Fig. 2a),脾門部から脾実質内の血流像はなかった(Fig. 2b).腹部造影CTで脾臓全体に造影効果がなく,脾梗塞が疑われたが,明らかなwhirl sign(脾動脈の捻転像)は確認できなかった(Fig. 3a).さらなる原因検索を行うために腹部dynamic CTを行い,動脈相にて脾門部でwhirl signを確認できた(Fig. 3b矢印).また,実質相でも脾臓全体に造影効果を認めなかった(Fig. 3c).これより遊走脾の捻転と診断した.3D-CT再構築でも,脾動脈の捻転像は確認でき,脾臓は描出されなかった(Fig. 4a–c).

Fig. 1 

腹部単純写真

仰臥位で小腸ガス像を認めた.

Fig. 2 

腹部超音波検査

(a)脾腫を認めた.

(b)ドプラ法で脾門部から脾実質への脾動脈血流欠損像(矢印)を認めた.

Fig. 3 

腹部造影CTと腹部dynamic CT

(a)造影CT検査で脾臓全体にわたる造影効果を認めなかった.whirl signは明らかではなかった.

(b)ダイナミックCT動脈相で脾動脈捻転を示すwhirl sign(矢印)を認めた.

(c)ダイナミックCT実質相においても脾臓全体にわたる造影効果を認めなかった.

Fig. 4 

3D-CT

腹部dynamic CTの3D−CT再構成においても脾動脈捻転を確認できた.

(a)冠状断面,(b)脾動脈,(c)体軸断面

その後の経過:入院時から,脾臓に虚血性変化をきたす原因疾患として感染性心内膜炎を念頭におきメロペネム点滴静注を開始した.また,疼痛コントロールのためペンタゾシンを適宜点滴静注した.また,症状出現から数日経過しており,門脈内血栓なく,脾膿瘍の存在が疑わしい状況ではないことから当院外科で手術適応はないと判断した.入院経過中,心臓超音波検査で感染性心内膜炎を疑う所見はなかった.メロペネム使用するも入院3日目に症状改善なく,血液検査でCRP 11.89と悪化していた.当院でこれ以上の治療管理は難しく,県内小児専門医療機関の小児外科に相談し,同日転院した.転院先でも腹部超音波で脾実質へ血流を認めなかった(Fig. 5a).発症後既に1週間程度経過しており捻転解除後の脾機能回復は望めず,膿瘍形成もないことから外科治療ではなく栄養・疼痛管理を主とした保存的治療が続けられた.転院5日目に腹部超音波で脾臓内への血流を確認できた.症状消失し転院19日で退院となった.退院半年後の腹部超音波で脾実質内への良好な血流像を認めた(Fig. 5b).萎縮進行は認めなかった.現在まで再発はない.

Fig. 5 

転院後の腹部超音波検査

(a)転院同日,ドプラ法で脾門部から脾実質への脾動脈血流欠損像(矢印)を認めた.

(b)退院半年後,ドプラ法で脾門部から脾実質への良好な脾動脈血流(矢印)を認めた.

III  考察

遊走脾は先天的もしくは後天的理由による固定靭帯の欠損や緩みにより脾臓の可動性が増した状態である.稀な疾患であり,脾切除例の0.2%に満たない1,2).小児ではprune belly syndrome,腎無形成,胃捻転,横隔膜挙上,先天性横隔膜ヘルニアなどの先天性疾患に続発して起こることがある.遊走脾の症状は,1歳未満の小児では腹部腫瘤,それ以降は腹痛が最も多く,その中の14%は急性腹症だったという報告がある3).しかし非特異的な症状を伴うこともあり,受診時最初から推測することは困難である2,4).本症例も腫瘤触知せず,発熱と腹痛といった非特異的な症状であった.一般的に遊走脾捻転による脾梗塞は,緊急性が非常に高く,迅速な診断と治療決定が必要なことが多い.しかし本症例は手術を行うことなく軽快し,超音波検査所見の変化と治療経過から,遊走脾捻転による脾臓の一過性虚血性変化を呈し不可逆的な梗塞に至らず,自然に捻転整復したと考えられた.小児の場合,腹痛の診断アプローチとして,まず放射線被ばくのない腹部超音波検査から行うことが多い.しかしながら超音波検査では脾臓の軽度な位置異常や180°回転した遊走脾捻転の検出は難しく5),本症例は脾臓の位置異常まで見つけることはできなかった.超音波Doppler検査で捻転による脾血流の減少や消失が検出できることがあり6),本症例は脾門部と脾実質の血流消失を確認することができた.しかし,部分梗塞では脾実質の血流減少を特定できない症例も存在する1).超音波検査は検者の技量により評価に違いがでることもあり,腹痛の原因が明らかにならない場合はCTが推奨される1).遊走脾のCT所見はあるべき場所に脾臓がなく,骨盤内に脾臓に類似した腫瘤として描出される2,7).脾梗塞の場合は,単純CTでも脾臓が肝臓よりかなりの低吸収域を示し,これは何らかの理由で造影剤使用が困難な患児において有用な所見となりうる8).しかし正確な判断には造影CT検査は必須であり,遊走脾捻転による脾梗塞は,脾臓の増強効果減弱,whirl signといった特徴的な所見を確認できることから診断に有用である2).他にも脾血管内の高吸収域を呈する血栓像,whirl signを取り囲む脂肪像,腹水や小腸の拡張所見を認めることがある8).しかし遊走脾が稀なため,疑わしい所見があったとしても経験や読影力により正確に評価し発見することが困難なこともあり,本症例も確定診断に難渋した.今回超音波検査と造影CTを行い,早い段階で脾臓の造影欠損像が同定された.しかしその原因疾患の解明に難渋し,様々な鑑別疾患(感染性心内膜炎,伝染性単核球症,抗リン脂質抗体症候群,プロテインC/S欠損症,白血病,悪性リンパ腫,骨髄異形成症候群,血色素異常症など)を考え,各々に必要な検査を行うと同時に保存的に治療した.他疾患は否定でき,腹部dynamic CTにより明確な脾動脈の捻転を認め,総合的な判断のもと,遊走脾茎捻転を診断することができた.今回3D-CT解析を追加しており,脾動脈の異常走行像が描出され有用であると過去にも報告がある9).今回,腹部造影CTだけでなく,腹部dynamic CTや3D-CT解析を行うことで,より正確に遊走脾捻転の診断をすることができると考えられた.また,手術選択の必要性を外科医の協力を得ながら適宜相談し治療方針を決めることの大切さを経験した.

IV  結語

遊走脾捻転の診断には,通常腹部造影CTのみで診断できることが多い.しかし,本症例のように判断が難しい症例もあり,腹部dynamic CTを行うことで明確に診断できることがある.さらに手術が一般的であるが,小児外科の協力下で保存的な治療経過で捻転が自然解除され軽快した稀な症例を経験した.

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