Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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A case of solid pseudopapillary neoplasm incidentally detected during a diagnostic workup of acute pancreatitis
Yoshiko AbeMichimasa FujiwaraTooru ArakiAya KoderaKouichi YoshimuraTetsuya DoukeSeika KurodaToshimichi HasegawaJiro Watanabe
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2018 Volume 34 Issue 1 Pages 42-48

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I  はじめに

小児における急性膵炎の病因は,膵胆道系異常,薬剤,感染,特発性などの頻度が高いとされるが,膵腫瘍の頻度は稀である1).今回我々は急性膵炎を契機に膵腫瘍の一つであるsolid pseudopapillary neoplasm(以下SPN)を診断した.診断の際,腹部CT / MRI / Magnetic Resonance Cholangio Pancreatography(MRCP)が鑑別に有用であったため,SPNの画像上の特徴や鑑別のポイントを交えて報告する.

II  症例

症例:14歳,男児.

主訴:心窩部痛.

既往歴:反復性腹痛なし,腹部打撲なし.

家族歴:膵・肝疾患・腫瘍性疾患なし.

現病歴:発症当日(1病日),中学校で部活動中に心窩部痛が出現,徐々に増悪し自制困難となった.近医で急性腹症としてペンタゾシン・ヒドロキシジン筋注後に,発症後3時間で当院に救急搬送され入院となった.

身体所見:身長161.6 cm(−0.6SD),体重 50.1 kg(−0.5SD),体温36.9°Cで発熱はなく,脈拍67/分 整,血圧129/67 mmHg,呼吸数26回/分と正常であった.意識レベルはJapan Come ScaleではI-1でぼんやりした様子であったが,その約2時間後には意識清明になったため,前医でのペンタゾシン・ヒドロキシジン筋注の影響と考えた.顔色は良好で,頭頸部・胸部に異常所見はなかった.腹部は平坦・軟・腸蠕動音聴取可能であり,心窩部を中心に軽度の自発痛と,圧痛・筋性防御を認めた.四肢冷感はなかった.

入院時血液検査所見(Table 1):白血球数14,300/μl,好中球数91.1%と好中球優位の白血球増加を認めた.肝胆道系酵素に異常はなかったが,膵由来アミラーゼ225 IU/Lとリパーゼ677 IU/Lの上昇を認めた.CRPは0.1 mg/dlで正常であった.追加検査した腫瘍マーカーに異常はなかった.

Table 1  入院時血液検査所見
血算
 WBC 14,300/μl
 Neutrophil 91.1%
 Ly 5.7%
 RBC 539 × 104/μl
 Hb 15.5 g/dl
 Ht 47.2%
 Plt 256 × 104/μl
凝固
 APTT 27.4 sec
 PT-INR 1.06
 D-Dimer 0.5 μg/ml
 Fib 282 mg/dl
 FDP 1.8 μg/ml
生化学
 AST 24 IU/L
 ALT 22 IU/L
 LDH 227 IU/L
 ALP 645 IU/L
 γGTP 18 IU/L
 CK 245 IU/L
 Amylase 264 IU/L
 P-Amylase 225 IU/L
 Lipase 677 IU/L
 TP 7.4 g/dl
 Alb 4.9 g/dl
 T.Bil 0.7 mg/dl
 BUN 18 mg/dl
 Cr 0.72 mg/dl
 Na 140 mEq/L
 K 4.1 mEq/L
 Cl 104 mEq/L
 Glu 79 mg/dl
 T-cho 132 mg/dl
 CRP 0.1 mg/dl
腫瘍マーカー
 NSE 7.6 ng/ml
 CA19-9 3.51 U/ml

腹部超音波検査を行ったが,腸管ガスが多く評価困難であった.腹部造影CT(Fig. 1a)では,周囲の脂肪織の変化は目立たなかったが,膵尾部腫大と造影効果の低下を認め,急性膵炎(造影CT Grade 1)と診断した.石灰化はなかった.動脈早期相では膵尾部の内部不均一な1.5 cm大の低吸収域を認め,膵実質より造影効果が低く,動脈後期相では腫瘍の漸増性濃染を認めた(Fig. 1b).

Fig. 1 

腹部造影CT検査

a:入院時:周囲の脂肪織の変化は目立たなかったが,膵尾部腫大と造影効果の低下を認め,急性膵炎(造影CT Grade 1)と診断した.

b:膵炎治療後(退院後)

左―造影早期相:膵尾部に内部が不均一な1.5 cm大の低吸収域を認め膵実質より造影効果が低かった(矢頭).

右―造影後期相:動脈後期相で腫瘤の漸増性濃染を認めた.

入院後経過(Fig. 2):急性膵炎に対し,大量補液・抗菌薬・蛋白分解酵素阻害剤で治療開始し,絶飲食で管理した.治療開始後,腹痛は徐々に改善し,アミラーゼ,リパーゼは3病日には正常範囲となった.同日に腹部MRI検査・MRCP検査を施行した.膵尾部に1.9 cm大の腫瘤を認め,T1強調像で低信号,T2強調像で淡い高信号が散在していた.明らかな被膜は認めなかった.また肝転移は認めなかった.MRIのheavy-T2強調画像では腫瘤により主膵管が腹側へ圧排される所見を認めた.またMRCPでは,明らかな胆道系の器質的異常は認めなかった(Fig. 3).以上の画像所見からSPNの疑いが強いと考えた.4病日には腹痛は消失し,蛋白分解酵素阻害剤を投与中止し,飲水を開始した.6病日には抗菌薬を投与中止,食事摂取を開始した.以後症状の再燃なく経過良好であり,10病日に退院した.退院後CTで,腫瘤の漸増性濃染がより鮮明となった.

Fig. 2 

入院後経過

Fig. 3 

腹部MRI検査(3病日)

a:T1強調画像

b:T2強調画像

c:Heavy T2強調画像

膵尾部にT1強調像で低信号,T2強調像で淡い高信号が散在する1.9 cm大の腫瘤を認めた.腫瘤による主膵管(太矢印)の腹側への圧排を認めた.

手術(発症1か月後):確定診断と膵炎の再発予防を目的として,待機的に腹腔鏡下膵温存膵体尾部腫瘍切除術を行った.

摘出標本(Fig. 4):腫瘍は結節状を呈し3.0 × 2.5 cm大であった.割面では被膜形成はなく,周囲との境界は不明瞭であった.

Fig. 4 

摘出標本

a:腫瘍の全体像:結節状を呈し3.0 × 2.5 cm大であった.

b:腫瘍の割面:割面では被膜形成はなく,周囲との境界は不明瞭であった.

病理組織学的所見(Fig. 5)・免疫組織化学染色(Fig. 6):HE染色では,膵腺房細胞と腫瘍細胞が入り乱れ,境界は不明瞭であった.腫瘍細胞は,類円形腫瘍細胞の充実性または血管を軸とした偽乳頭構造を呈した.脈管浸潤や神経浸潤など悪性を示唆する所見はなく,膵断端は陰性であった.また,腫瘍細胞はVimentin,αACT,CD56に濃染した.AE1/AE3,CD10には淡染,Chromogranin-Aには陰性であった.これらの結果からSPNと確定診断した.

Fig. 5 

病理組織像

a:<HE × 40> 膵腺房細胞(実線)と腫瘍細胞(点線)が混在していた.

b:<HE × 100> 腫瘍細胞部位の拡大では,偽乳頭構造(矢頭)を認めた.

Fig. 6 

免疫染色

a:Vimentin:濃染

b:αACT:濃染

c:CD56:濃染

d:AE1/AE3:淡染

e:CD10:淡染

f:Chromogranin-A:陰性

腫瘍細胞はVimentin,αACT,CD56に濃染した.AE1/AE3,CD10には淡染,Chromogranin-Aには陰性であった.

術後経過:現在,術後11か月経過したが,膵炎の再発や膵腫瘍の再発・転移はない.

III  考察

SPNは1959年にFrantzによって,“papillary tumor, benign and malignant”と記載されて以降,様々な呼称で報告されてきた.未だその疾患概念や組織発生が十分に解明されていないが,低悪性度の分化方向不明の上皮腫瘍とされ,その主体を成すsolid成分と組織学的組織学的特徴であるpseudo-papillary構造を合わせsolid pseudopapillary neoplasmと称されている2,3).若年女性に好発するとされるが,膵腫瘍全体では0.17–2.7%と少ない47).一方,若年者では膵腫瘍の頻度はわずか0.3%(15/5,217)と稀とされるが8),SPNは小児全膵腫瘍のうち最多の約37%を占め913),小児膵腫瘍ではSPNの鑑別が重要と考えられる14,15)

従来,SPNは特有の症状に乏しく,腫瘍の増大により腹痛,胸部不快感,貧血などの症状が出現するため16),2.5~10 cm大の比較的大きいサイズであることが特徴とされていたが17),近年の画像診断の進歩により,無症状で小さな腫瘍径で診断される報告も増加している1822)

SPNに特徴的な画像所見と本症例の所見を(Table 2)で比較した.本来は充実性腫瘍であるが,SPNの細胞接着性が乏しいことから腫瘍増大に伴い出血・壊死などの二次性の退行性変化が起きるとされる.変性部分である嚢胞性部分・石灰化・被膜形成が混在するため,充実性主体,嚢胞性主体,充実性・嚢胞性の混合など多彩な性状を示すことが特徴とされる.またSPNが充実性腫瘍である場合,ダイナミックCTあるいはMRIの造影早期相では濃染が乏しく後期相にかけて濃染され,漸増性濃染という特徴的な造影効果を示す23,24)

Table 2  SPNにおける画像所見(CT・MRI・MRCP)の特徴と本症例の比較
典型例 本症例
性状 充実性主体
嚢胞性主体
充実性+嚢胞性
充実性主体
または
充実性+嚢胞性
CTまたはMRIの造影パターン 漸増性濃染 漸増性濃染
CT 石灰化 ×
MRI 新旧の出血・壊死
被膜形成 ×
主膵管像 拡張・圧排 圧排

〇:あり △:可能性あり ×:なし

本症例は腹部ダイナミックCT撮影で漸増性濃染を認め,主膵管像が圧排されている点はSPNに合致していたが,新旧の出血・壊死を示す嚢胞性部分が明らかではなく,石灰化・被膜形成を認めない点が典型的ではなかった.そのため,他の充実性腫瘍である膵内分泌腫瘍,膵腺房細胞癌,膵芽腫との鑑別が必要となる.それぞれの好発年齢や性差をみると,膵内分泌腫瘍は,平均年齢40歳で女性に多く25),膵腺房細胞癌は,平均年齢59.6歳,男性に多いとされる26).一方,膵芽腫は,平均年齢5歳で男女比は2:1とされる15).次に,画像上,特にCT上における鑑別点を(Table 3)に示した.まず,膵内分泌腫瘍はCTで境界明瞭な腫瘤で,著明な腫瘍血管があることが多く27),充実性腫瘍の場合は頭部に好発する28).造影パターンは造影早期相から強い造影効果が造影後期相まで持続し,造影効果が膵実質よりも強く27),肝転移をきたすことがあるとされる27).膵腺房細胞癌は,比較的境界明瞭な腫瘤で,壊死層に相当する不規則な低濃度領域を伴うことが多い27).また頭部や体部に好発し,造影パターンは造影後期相で濃染する27).膵実質よりも造影効果が弱く,早期の肝転移をきたすのが特徴である26).膵芽腫は,境界明瞭な類円形腫瘍で,腫瘍内部に充実部や嚢胞状部分が混在し,石灰化や被膜を有することが多いため,内部が不均一に造影される29).頭部に好発し,造影パターンは造影早期相も後期相も共に不均一な造影効果を認め,膵実質より造影効果が弱い29,30).約2割に転移がみられ,その9割近くが肝との報告がある15)

Table 3  鑑別を要した膵腫瘍と本症例のCT上の比較
CT所見 膵内分泌腫瘍 膵腺房細胞癌 膵芽腫 本症例
腫瘍の境界 境界明瞭 比較的境界明瞭 境界明瞭 比較的境界明瞭
部位 頭部 頭部or体部 頭部 尾部
造影パターン 早期濃染 後期濃染 不均一な濃染 漸増性濃染
膵実質との造影効果の比較 強い 弱い 弱い 弱い
肝転移 ×

〇:あり △:可能性あり ×:なし

本症例は,比較的境界明瞭な腫瘤を尾部に認め,膵実質よりも造影効果が弱かった.また明らかな肝転移は認めなかった.最終的には術後病理診断で確定診断したが,画像診断の段階で性状・造影パターン・主膵管像などからSPNの可能性が高いと考えた.また,本症例はMRI所見では充実部主体に微小嚢胞を伴うと考えたが,摘出腫瘍は出血・壊死のない充実性腫瘍であった.その違いが生じた原因として,一部膵管の枝や腫瘍細胞が粗になった部分があり,画像所見で微小嚢胞ととられたものに相当すると考えられた.

小児における急性膵炎の病因は,膵胆道系異常,薬剤,感染,特発性の頻度が高い1).Beniflaらによる589人の小児急性膵炎症例の原因は,原因の内訳が特発性23%,外傷22%,先天奇形を含む膵・胆道の構造異常15%,全身性疾患14%,薬物12%,感染10%であり31),腫瘍が原因となった症例の報告は明示されていない.我々が検索した限りでは,腫瘍が原因となった小児の急性膵炎は,計3例のみであり32,33)非常に稀と考えられる.

SPNにおける膵炎の発症機序は,①腫瘍増殖により膵管が破綻し,膵液が腫瘍組織内に侵入して壊死を起こし急性膵炎となる.②腫瘍増殖により膵管が圧排・狭窄され,急性閉塞性膵炎となる,などが考えられている32,33).SPNでは主膵管が腫瘤により拡張・圧排がMRCPで認められたとの報告が散見される23,24)が,本症例では,MRIのheavy-T2強調画像で腫瘤により主膵管が腹側へ圧排されている所見があった.本症例の場合,推測の域を出ないが膵炎の発症機序は,上記②にあたる可能性が考えられた.このように,急性膵炎症例は,腫瘍性病変が原因となる症例もあり,その原因検索のために積極的な画像診断の施行とその所見の詳細な検討が重要である.

SPNの予後は一般的に良好であり,リンパ節転移陰性かつ断端陰性例では手術により95%以上の症例で治癒が得られるが,肝転移や腹膜播種で死亡した症例も散見され,十分な経過観察が必要である34,35).本症例は術後約1年が経過しているが,再発なく経過している.引き続き今後も経過観察を継続する予定である.

今回我々は,急性膵炎を契機にSPNと診断した一例を経験し,その鑑別には画像診断が有用であった.急性膵炎例に対しては原因検索のための積極的な画像診断を行う必要があり,それは鑑別に非常に有用である.特に小児例では膵腫瘍が存在すればSPNの可能性も念頭に置き,腫瘍径,部位,内部の性状,被膜形成,石灰化の有無,主膵管の拡張・圧排,膵周囲の動脈浸潤や肝転移等の遠隔転移等を確認し,鑑別を行うことが重要であると考えられた.

 

本症例報告はヘルシンキ宣言に則り,患者のインフォームド・コンセントを取得して行い,当所属施設の倫理委員会の承認を得た.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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