Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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A case of hepatosplenic cat scratch disease
Natsumi Mori Takeshi SahashiShota WatanabeJun OkamuraYoshiaki NagayaSyunsuke ShibataHiroko NishikawaYoshishige Miyake
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2019 Volume 35 Issue 1 Pages 61-65

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症例

8歳,男児.

主訴:発熱.

現病歴:入院3日前より38°C台の発熱があり,朝は解熱するが夜になると体温上昇するという間欠熱の状態であった.第4病日で当院受診.血液検査にて白血球が110 × 102/μl,C-reacted protein(CRP)が6.46 mg/dlと炎症所見を認めたが,全身状態良好であり,扁桃炎の可能性に対しAmoxicillin/Clavulanate(AMPC/CVA)の内服処方を行った.2日後(第6病日)の外来再診時に発熱は持続しており,血液検査にて白血球が100 × 102/μl,CRPが7.94 mg/dlと炎症所見の増悪を認めたため,熱源不明の遷延性発熱の精査・加療目的で入院となった.

既往歴や家族歴には特記事項なく,服薬歴・アレルギーの既往も特になかった.自宅では犬と猫,メダカ,金魚を飼育していた.犬や猫から噛まれたり引っ掻かれたりしたエピソードは認めず,海外渡航や旅行のエピソードも認めなかった.

入院時は体温36.4°Cであり,意識は清明,胸部聴診・腹部診察上も異常は認めなかった.両側の扁桃は軽度腫大を認めたが,発赤や白苔・膿は認めなかった.また,全身のリンパ節に明らかな腫脹を認めなかった.胸部単純X線写真上も明らかな異常を認めなかった.

各種検査所見はTable 1の通りである.白血球の軽度増加とCRPの上昇を認めた以外に,赤血球沈降速度の亢進を認めた.また,血液培養・尿培養・鼻腔分泌物培養からは原因菌として疑われるものは検出されなかった.

Table 1  入院時検査所見
WBC: 100 × 102/μl Cre: 0.40 mg/dl PT: 87%
(Seg: 57% Lymp: 27% BUN: 8.9 mg/dl PT-INR: 1.08
Eosino: 5% Mono: 11%) GLU: 102 mg/dl APTT: 37.9秒
RBC: 451 × 104/μl TP: 7.9 g/dl Fibrinogen: 583 mg/dl
Hb: 11.9 g/dl Alb: 3.6 g/dl FDP: 3.4 μg/ml
Hct: 36.3% CRP: 7.94 mg/dl D-dimer: 0.9 μg/ml
Plt: 40.9 × 104/μl フェリチン: 220 ng/ml
AST: 17 IU/L 【尿検査所見】
ALT: 9 IU/L 赤血球沈降速度: pH: 6.5
LDH: 210 IU/L 1時間値: 83 mm 蛋白 (−)
Na: 137 mmol/L 2時間値: 125 mm 潜血 (−)
K: 4.3 mmol/L PCT定性 (−) 白血球 (−)
Cl: 101 mmol/L β-Dグルカン: 感度以下 亜硝酸塩 (−)

入院後経過

入院後は原因不明の発熱に対しCefotaxime(CTX)の点滴静注にて加療した.一時的にCRPの低下がみられたが,間欠熱は持続し,血液検査データも著明な改善はみられなかった.入院4日目(第9病日)に熱源検索のため頸部から骨盤部にかけて造影CTを撮影したところ,肝実質内に多発する低吸収結節影を認めた(Fig. 1a).また,脾臓にも単発性の小さな低吸収結節影を認めた(Fig. 1b).経過と画像所見から熱源として膿瘍の可能性が疑われた.

原因菌不明かつCTX静注の効果が乏しいため,入院6日目(第11病日)に抗生剤をTazobactam/Piperacillin(TAZ/PIPC)の点滴静注およびClarithromycin(CAM)へ変更した.入院7日目(第12病日)の腹部MRIでは,肝実質内にT1強調像で低信号(Fig. 2a),脂肪抑制T2強調像で高信号(Fig. 2b)を示す結節影が多発していた.2日前の造影CTで認めた脾臓の単発性病変は同定困難であり,縮小したものと考えられた.

Fig. 1 

腹部造影CT(第9病日)

a:肝実質内に低吸収結節影を数箇所認める(矢印).

b:脾臓にも単発性の低吸収結節影を認める(矢印).

Fig. 2 

腹部MRI(第12病日)

a:T1強調像,b:脂肪抑制T2強調像,c:Heavy T2強調像.

肝実質内にT1強調像で低信号,脂肪抑制T2強調像で高信号を示す結節影が多発している.一部に脂肪抑制T2強調像で内部が低信号,被膜が高信号,周囲肝実質に淡い高信号を伴う病変を認める(矢印).Heavy T2強調像では,同病変の内部は低信号を示し,液体成分より充実性腫瘤を疑う所見である.

画像所見とペットの飼育歴から,肝臓脾臓の多発性肉芽腫をきたすCSDを鑑別に挙げ,血清抗体価検査を行った.抗生剤変更後は徐々に夜間の発熱は収束し,入院11日目(第16病日)の血液検査にて白血球が112 × 102/μl,CRPが2.55 mg/dlと低下を認めた.その後の体温は36°C台まで解熱が得られ,入院14日目(第19病日)に抗生剤をTosufloxacin(TFLX)内服に変更とし退院とした(Fig. 3).

Fig. 3 

入院後経過

尚,肝実質内病変については診断のための穿刺も考慮したが,全身状態が改善傾向にあったことや穿刺のリスクも考慮し施行しなかった.

後に血清でB. henselaeの抗体価は第4病日・第19病日ともにIgGが512倍以上の上昇を認め,CSDと診断された.

その後はTFLXの内服からCAMの内服に変更し,再発熱なく経過した.退院後は外来通院にて血液検査をフォローアップしたが,白血球・CRPの値は徐々に低下し,退院後3週間経過した時点での血液検査で白血球が79 × 102/μl,CRPが0.03 mg/dlと正常値となった.

3か月後に経過観察目的で撮影された腹部MRIにおいて,肝実質内の多発結節影は消失していた(Fig. 4).

Fig. 4 

退院3か月後の腹部MRI(T2強調像)

肝内の多発結節影は消失している.

考察

CSDは猫との接触後1–3週間で有痛性の局所リンパ節腫脹・発熱・全身倦怠感・悪心・嘔吐・頭痛等の症状を呈する疾患である.

これまで報告された疫学的なデータでは,CSD患者の20%では非典型的な症状を呈し,7%でParinaud症候群(耳周囲のリンパ節炎,眼球運動障害等),12–14%で神経学的障害(脳症,痙攣発作,視神経網膜炎,脊髄炎,対麻痺,脳動脈炎),2–11%で肝脾病変がみられるといわれている13).発症は猫による咬傷やひっかき傷からのB. henselae侵入によるものが多いが,明らかな受傷のエピソードなく発症している例4)や,犬からの感染例も報告されており5),原因として菌のベクターと言われている猫ノミの関与が疑われている.本患児においても猫による直接的な受傷のエピソードはみられなかった.

B. henselaeにおける肝・脾病変は病理的には肉芽腫性病変と言われている6).第12病日の腹部MRI検査で,肝実質の多発結節影のほとんどはT1強調像で低信号,脂肪抑制T2強調像で高信号を呈し(Fig. 2a, b),拡散強調像で高信号を呈した.このような所見を示す病態としては膿瘍,肉芽腫,悪性リンパ腫が鑑別に挙げられる.肝実質内の多発結節影は大小不同で,一部に脂肪抑制T2強調像で辺縁が高信号・内部が低信号を示す不均質な病変も認められた.同日に撮影されたにも関わらず肝内結節影の信号にばらつきがあり,異なる段階の病変をとらえていることが示唆された.3日前の造影CTと比較して,モダリティの違いはあるものの結節影に明らかな増大を認めたこともあり,臨床経過と併せて,悪性リンパ腫病変よりも膿瘍・肉芽腫といった炎症性変化の進行段階が疑われた.また,Heavy T2強調像で確認すると,結節の内部は液体成分としては低信号であり,膿瘍よりも充実性の病変が疑われた(Fig. 2c).

以上を踏まえ,今回の肝病変に関しても肉芽腫性病変が最も疑われた.尚,第9病日の造影CTで認めた脾臓の小さな低吸収結節影は,3日後のMRI検査では拡散強調像(非提示)でのみわずかに認められる程度に縮小していた.質的評価は困難であるが,一連の病変であったものと推察された.

過去に報告されたCSD患者の腹部MRI画像では,本症例に見られたような不均質な病変は認められていない610).本症例の肝病変のMRI画像では,脂肪抑制T2強調像で辺縁が高信号・内部が低信号の病変がみられたが,その周囲の高信号領域のみHeavy T2強調像で他の病変よりも高信号を呈した(Fig. 2c).このことより,同じ脂肪抑制T2強調像で高信号を呈した病変のなかでも同領域は異質のものと考えられる.

CSDの過去の生検結果にて肉芽と壊死成分が混在した病変や,壊死成分のみの病変があったという報告がある3)が,これらの報告を参考にすると,本症例でみられた,Heavy T2強調像で高信号を呈した領域は,肉芽組織よりもより水成分に近い壊死組織を反映していることが伺える.従って,本症例の画像所見はCSDの肉芽腫性病変の進行を反映している可能性が示唆され,MRIで肝病変の質的評価を行うことにより,臨床経過と合わせることで最終診断に至ることができた.

B. henselaeの診断に関しては現在血清抗体価による診断が侵襲も少なく有用であり,米国では血清診断が広く普及しているが,本邦では検査施設も未だ少なく,自然軽快例もあることから,猫ひっかき病は症例としては多いものの診断に至ることが少ないのが現状と思われる.

Jacobsら11)は小児のFever of unknown originの原因として,感染症の中ではEBV感染,感染性骨髄炎に次いでBartonella感染が多かったと報告しており,遷延する発熱の原因の鑑別としてCSDは常に念頭に置いておくべきである.

本邦において肝臓(および脾臓)病変を呈した猫ひっかき病の症例報告は少なく,検索するかぎり8例である6,810,1215).8例中7例は多発性の肝・脾病変を認めており,単発性病変を認めたのは1例だった.いずれもリンパ節腫脹等の典型的な症状を欠き,遷延する発熱の精査目的で行ったCT,MRI,または高周波数超音波プローブによる腹部エコーにて肝脾病変を指摘されていた.中には生検まで至った症例も認めたが,小児患者の侵襲性の観点からは画像により診断し治療を開始することが望まれる.

外来での簡便で侵襲性の低い検査としては腹部エコーも有用であるが,全体像の把握や,検者の手技能力によらない客観的な評価方法としてCTやMRIは有用である.特に小児患者においては,放射線被ばくの観点からもMRIでの評価が特に重要であると思われる.本症例の肝病変のスクリーニングとして造影CTは有用であったが,MRI検査を行ったことで,個々の病変の異なる質的所見をとらえ,診断に結びつけることができた.

結語

原因不明の発熱を主訴として来院し,肝臓脾臓型猫ひっかき病の診断に至った1例を経験し,以下の結論を得た.MRIは肝病変の質的評価に有用であり,臨床経過と合わせることで本症診断のための重要な検査となり得る.

謝辞

今回猫ひっかき病の診断にご協力いただいた山口大学大学院医学系研究科保健学専攻 常岡英弘先生にこの場を借りてお礼申し上げます.

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