Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
A case of intestinal obstruction caused by trichobezoar
Shotaro Matsudera Shun WatanabeYukiko TaniTakeshi YamaguchiKei OginoShigeko KuwashimaTakashi Tsuchioka
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2019 Volume 35 Issue 2 Pages 116-121

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要旨

毛髪胃石は経口摂取された毛髪が胃内で一塊となったもので,稀に腸閉塞を引き起こす.今回我々は毛髪胃石による腸閉塞に対し小開腹により胃石を摘出した一例を経験したので報告する.症例は11歳女児.腹痛・嘔吐を主訴に来院した.腹部造影CTでは非絞扼性の内ヘルニアが疑われた.イレウスチューブを挿入すると大量の血性排液を認めたため緊急手術を施行した.中腹部正中切開にて開腹すると,Treitz靭帯から200 cmの小腸内に長径6 cmの毛髪胃石を認めたため摘出した.術後イレウス管抜去の際に胃内の胃石残存が疑われ,内視鏡的摘出の方針とし術後9日目に一旦退院となった.再入院後,胃石の内視鏡的摘出を試みたが困難で,初回と同じ創で小開腹し長径8 cmの胃石を摘出した.開腹歴のない腸閉塞の鑑別診断として稀ではあるが胃石によるものも考慮する必要がある.また胃石の画像的特徴を認識し重複毛髪胃石の確認を行うことが重要である.

Abstract

Trichobezoars are formed by ingested hair that coagulates in the stomach and sometimes causes intestinal obstructions. We report a pediatric case of gastrointestinal obstructions as a result of trichobezoars, which were successfully removed by laparotomy. An 11-year-old girl was referred to our hospital with acute abdominal pain and vomiting. An abdominal CT showed that the small intestine was dilated. At first, we suspected a non-strangulation of the ileum by an internal hernia. An emergency laparotomy was performed with a vertical midline incision. A trichobezoar was discovered in the ileum and removed. On postoperative day 6, an upper gastrointestinal contrast X-ray was performed and showed a second trichobezoar in her stomach. We attempted to remove the mass using an endoscopic procedure, but this proved difficult. A decision was made to undertake another laparotomy. The trichobezoar was found near the pylorus and removed. Her postoperative progress was satisfactory, with no recurrence. We need to consider that the gastrointestinal trichobezoar as a differential diagnosis of intestinal obstruction, if the patient has no history of surgery. In addition, we should try to better understand the imaging characteristics of trichobezoars and recognize the possibility of multiple trichobezoars before performing surgery.

はじめに

毛髪胃石は,経口摂取した毛髪が胃液や粘液により固形化し一塊となったもので,稀に腸閉塞を引き起こす.今回我々は毛髪胃石による腸閉塞に対し小開腹により胃石を摘出した一女児例を経験したので報告する.

症例

症例:11歳女児.

主訴:腹痛・嘔吐.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:入院4日前に急な腹痛,嘔吐が出現し,食事摂取がほとんど出来なくなった.翌日に近医を受診したが,胃腸炎の診断で経過観察となった.その後も症状改善なく第5病日に前医を受診し,腹部造影CT検査にて腸閉塞が疑われ加療目的に同日当科紹介となった.

理学的所見:血圧111/71 mmHg 脈拍数120/分 体温37.6°C SpO2 98%(室内気).腹部は平坦・軟で,下腹部に圧痛を認めた.

血液生化学所見:Na 123 mmol/L Cl 77 mmol/L UN 46 mg/dlと著明な低張性脱水と,WBC 21,500/μl CRP 2.01 mg/dlと炎症所見を認めた.

腹部臥位単純X線:小腸ガスの拡張を認める.free airや石灰化は認められない(Fig. 1).

Fig. 1 

腹部臥位単純X線写真

小腸ガスの拡張(矢印)を認める.free airや石灰化は認められない.

腹部造影CT:小腸の著明な拡張を認める.腸管壁の造影不良域や壁の菲薄化は認められず,腹水も認められない.小腸はbeak signを呈しており非絞扼性の内ヘルニアを疑った(Fig. 2).

Fig. 2 

腹部造影CT検査

a:小腸の著明な拡張を認める.腸管壁の造影不良域や壁の菲薄化は認められず,腹水も認められない.小腸がbeak sign(矢印)を呈しており内ヘルニアを疑う所見を認める.

b:矢状断像

同日イレウスチューブを挿入したところ大量の血性排液を認め,腸管の血流障害が示唆されたため緊急手術の方針とした.

1回目手術:全身麻酔下,仰臥位にて手術を開始した.中腹部正中切開にて開腹すると,Treitz靭帯から200 cmの小腸内に腫瘤を認め,口側腸管の著明な拡張を認めた.血流障害の所見は認めなかった.腫瘤部の小腸を小切開すると長径6 cmの毛髪胃石が小腸内腔を閉塞しており,胃石による小腸閉塞と診断した.胃石を摘出し,切開部はAlbert-Lembert縫合にて閉鎖した(Fig. 3).

Fig. 3 

1回目手術所見

a:Treitz靭帯から200 cmの小腸内に腫瘤があり(矢印),口側腸管の拡張を認める.

b:小腸内から摘出された長径6 cmの毛髪胃石

術後経過:術前の腹部造影CT検査を再検討したところ,小腸内に内部にairを含む構造物を認め,胃石が確認出来た.また,胃内にも同様のdensityの構造物を認めることが分かり胃石の残存を疑った(Fig. 4).術後6日目にイレウスチューブ造影をすると,胃内に腫瘤性陰影を認め胃石の残存と診断した(Fig. 5).イレウスチューブを抜去し経口摂取を開始し,症状増悪なく経過,術後9日目に退院となった.また,抜毛症・食毛症に関して心理カウンセリングも開始した.本人は無意識のうちに抜毛・食毛をしていた.母親は8歳頃から抜毛癖があったことは把握していたが,食毛癖があることは把握していなかった.胃内の胃石に関しては内視鏡的摘出の方針とした.術後21日目に上部消化管内視鏡検査を施行し,胃内に胃石を確認した.また,幽門の拡大と幽門部前壁に潰瘍瘢痕を認め,イレウスチューブ挿入時の血性排液は潰瘍によるものであったと推測した(Fig. 6).内視鏡的に胃石の摘出を試みたが,そのまま噴門を通るサイズではなかったこと,内視鏡的な器具による破砕は困難であることから開腹手術の方針とした.

Fig. 4 

腹部造影CT検査(冠状断像)の再検討

胃内と小腸内に内部にairを含む同様のdensityの構造物を認める(矢印).

Fig. 5 

術後胃造影検査

胃内に腫瘤性陰影を認める.

Fig. 6 

上部消化管内視鏡検査

a:胃内に毛髪胃石を認める.

b:幽門拡大,幽門部前壁に潰瘍瘢痕(矢印)を認める.

2回目手術:全身麻酔下,仰臥位にて手術を開始した.前回手術と同様の創で小開腹し胃を体外に牽引し前壁の小切開で,長径8 cmの胃石を摘出した.切開部はAlbert-Lembert縫合にて閉鎖した(Fig. 7).

Fig. 7 

2回目手術所見

a:開腹胃石摘出術

b:胃内から摘出された長径8 cmの胃石

術後経過:術後4日目に経口摂取を開始し,その後も症状増悪なく経過した.抜毛症・食毛症に対する心理カウンセリングも継続し,術後9日目に退院となった.現在術後10か月になるが再発なく経過している.

考察

胃石は経口摂取した食物や毛髪が胃液や粘液により固形化したもので,構成物によって植物胃石と毛髪胃石,混合石に分類される1).植物胃石の原因として本邦では柿の頻度が高いとされる2)

毛髪胃石は毛髪や体毛の長期摂取により形成される.毛髪胃石は若年女性に多く,ほぼ全例で抜毛症・食毛症があるとされており,ストレスなどの精神的要因が大きく関与している.人口の約1%に抜毛癖があり,抜毛癖の1/3で食毛癖を認め,食毛癖の約1%で外科的治療が必要とされている3).毛髪胃石による臨床症状は食毛から長期間経過して発症することが多く,胃石の増大とともに様々な腹部症状が出現する1).胃から肛門側腸管に毛髪胃石が伸びた状態を呈することがあり,このような病態をRapunzel症候群という4)

治療方法は内視鏡的摘出と胃切による外科的摘出がある.外科的摘出では腹腔鏡や内視鏡を併用する方法,胃内容物が腹腔内に漏出しないように小開腹創よりWound retractorを胃内に直接挿入する方法などが報告されている5)

毛髪胃石に関する報告は欧米では散見され,本邦においても近年報告例は増えてきている.その中でも,毛髪胃石により腸閉塞を発症するものは比較的稀とされる.医中誌で「毛髪胃石,腸閉塞」と検索すると,我々が検索し得た範囲で詳細な情報が記載されていたのは自験例を含め15例であった(Table 1618).年齢は4歳から22歳で全例女性であった.症状はほぼ全例で腹痛・嘔吐で発症していた.摘出方法に関しては開腹手術が主体であったが,近年では術前診断が出来ている場合は内視鏡での摘出や腹腔鏡手術が行われていた.近藤らはガストログラフィン注腸による回腸毛髪胃石の摘出に成功したと報告している6).また,食物胃石はコカ・コーラによる溶解療法が効果的であるという報告があるが,宗﨑らは毛髪胃石においても結晶成分が溶解し摘出が容易になると報告している5).胃石の場所に関しては胃内や回腸内が多く,15例中11例が重複胃石であった.回腸内で留まるのは回盲弁を通過できないためと考えられる.また15例中10例で胃内にも胃石を認めており,本症例のように小腸閉塞の原因が毛髪胃石の場合は,丁寧な触診や術中上部消化管内視鏡などを併用し,胃内やその他の小腸内の胃石の検索が必要である.

Table 1  本邦における毛髪胃石による腸閉塞を発症した症例(原著論文)
著者 年齢 性別 主訴 摘出方法 大きさ(cm) 胃石の位置
2018 自験例 11 腹痛・嘔吐 開腹 ①6
②8
①胃
②回腸
1984 羽伊佐 17 腹痛・嘔吐 開腹 6 × 3 回腸
2001 市来 15 上腹部痛・嘔吐 開腹 ①19 × 7
②12 × 7
①胃
②回腸
2007 石川 15 上腹部痛・嘔吐 開腹 ①25 × 5
②8 × 3
①胃
②回腸
2007 近藤 11 下腹部痛・嘔吐 ガストログラフィン注腸 6 × 3 × 3 回腸
2009 山根 6 腹痛・嘔吐 開腹 12 小腸
2009 吉敷 11 腹痛・嘔吐 開腹 胃~十二指腸
2011 笹田 15 腹痛・嘔吐 開腹 ①12 × 4.5
②10 × 4
①胃
②回腸
2012 山田 11 腹痛・嘔吐 開腹 ①15
②5 × 2
①胃
②回腸
2014 松下 12 腹痛・嘔吐 開腹 ①10 × 3
②8 × 3
①回腸
②回腸
2014 秋本 22 腹部膨満
発熱
開腹 ①胃
②回腸
2015 Marwah 15 腹痛・嘔吐 開腹 ①胃
②空腸
2015 福永 5 腹痛・嘔吐 腹腔鏡
内視鏡併用
①5 × 3 × 2
②15 × 6 × 3.5
①胃
②回腸
2015 Aoi 13 心窩部痛・嘔吐 開腹 ①19 × 8 × 6.5
②20 × 4.5 × 4
①胃
②回腸
4 嘔吐 開腹 ①8.2 × 3.5 × 3.2
②4.0 × 3.0 × 2.8
①胃
②回腸

外見や術前問診において抜毛・食毛症が明らかとなる場合もあるが,本症例のように不明の場合もある.それ故,毛髪胃石による腸閉塞という正確な術前診断が困難となる.また,画像診断においては,腸閉塞を発症している場合は腹部レントゲンで鏡面像を認める.超音波検査においては消化管内に腫瘤性病変として描出されるが,airを含むため不均一となる.腹部CTでは毛髪胃石が内部にairを含むdensityの構造物として描出されることを理解しておくことは術前診断の一助とはなるが,通常の胃内容でも同様の所見を呈するため,この所見のみでは胃石単独の場合の確実な診断は難しい.この所見を得た際には患者本人,両親への抜毛癖の有無に関する詳細な問診が重要と考えられる.術中においては小腸内に毛髪胃石を確認した場合,胃内の毛髪胃石が脱落した可能性を考え上部消化管内視鏡や腹腔鏡による胃内の検索を確実に行う必要がある.

結語

今回我々は重複毛髪胃石による腸閉塞を発症した女児例を経験した.開腹歴のない腸閉塞の鑑別診断として稀ではあるが胃石によるものも考慮する必要がある.また画像所見から重複毛髪胃石の確認を行うことが重要である.

謝辞

本論文の作成にあたり,英文抄録の作成を指導して下さった本学語学・人文教育部門の坂口美知子先生,William G. Hassett先生に感謝いたします.

 

本稿の要旨は第55回日本小児外科学会学術集会(2018年5月,新潟)において発表した.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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