2019 Volume 35 Issue 2 Pages 133-138
脳動静脈瘻(pial arteriovenous fistula)は,脳動脈と脳静脈が直接接続する血管異常を持ち,頭蓋内シャント性病変のうち1.6–4.8%程度を占める比較的まれな疾患である1).画像の特徴として,MRAや脳血管造影検査で脳主幹動脈や皮質動脈を流入路とし皮質静脈を流出路とする血管異常が見られる1).病態については不明な点が多いが,未治療の場合は予後不良との報告もあることから2),早期発見・早期治療が重要であると考えられる.今回発達遅滞を伴い,無熱性けいれんを契機に見つかった脳動静脈瘻の一例を経験したので報告する.
Pial arteriovenous fistula is a rare condition in which a pial artery connects directly to a pial vein in the brain. It accounts for 1.6–4.8% of all brain vascular malformations. Pial arteriovenous fistula is considered to be associated with a poor prognosis without treatment; thus, early detection and treatment are important.
We report a case of pial arteriovenous fistula which was caused by a seizure.
症例:1歳1か月 男児.
主訴:無熱性けいれん.
周産期歴:40週1日2,946 g新生児黄疸のため光線療法を施行した.
発達歴:頸定4か月 寝返り5か月 座位不可 数語の有意語が表出している.8か月健診時に左上肢の運動麻痺を指摘された.
既往歴:左後頸部と臍上部の単純性血管腫のため他院でレーザー治療を継続している.
家族歴:遺伝性出血性末梢血管拡張症を含め家族歴はない.
現病歴:6か月時(当院受診7か月前)に,10分程度の左共同偏視と意識障害(E4V1M1)を認めた.8か月健診時に座位不可,左上肢の運動麻痺を指摘されていたが,精査はされず経過観察となっていた.1歳時に1時間程度の左共同偏視と意識障害(E4V1M1)のため前医を受診した.発熱はなかった.受診時は意識清明であり,後日当院への受診を指示されて帰宅した.1歳1か月時,無熱性けいれんの精査目的に当院紹介受診となった.
初診時身体所見:意識清明.胸腹部に異常所見はない.左後頸部と臍上部に3 cm × 5 cm程度の血管腫あり.左上下肢の麻痺あり(MMT3/5).外傷なし.
血液検査所見:WBC 12,450/μl,Plt 40 × 104/μl,Hb 11.3 g/dl,Hct 34.5%,CK 95 U/L,AST 40 U/L,ALT 25 U/L,LDH 251 U/L,BUN 7.2 mg/dl,Creatinine 0.16 mg/dl,Na 139 mEq/L,K 4.3 mEq/L,Cl 108 mEq/L,Ca 10.3 mg/dl,NH3 42 μg/dl,CRP <0.05 mg/dl,Lactate 25 mg/dl,Pyruvate 0.79 mg/dl,Glu 104 mg/dl.
画像所見:MRI T2強調像において,左眼窩・脳幹周囲に拡張した脈管構造を認めた(Fig. 1a, b).右大脳半球は萎縮している(Fig. 1c).右頭頂部で矢状静脈洞と脳表の動脈の連続性が疑われる(Fig. 1d).MRA(magnetic resonance angiography)では右中大脳動脈拡張と蛇行がある.撮影範囲内にはnidusは認められない(Fig. 2).脳内に出血や梗塞を疑う異常信号はなかった.
頭部MRI T2強調画像横断像
(a, b)左眼窩(→)・脳幹周囲(▲)に拡張した静脈を認めた.(c)右大脳半球は萎縮(→)し,脳室が拡大している.島弁蓋部の皮質の肥厚が見られる(▲).(d)右頭頂部で上矢状静脈洞と脳表の動脈の連続性が疑われる(→).
頭部MRA冠状断像
右中大脳動脈の拡張と蛇行がある(→).右内頸動脈の拡張を認める(▲).nidusは認められない.
脳波所見:異常所見なし.
経過:頭部MRI・MRA所見から脳動静脈瘻が疑われた.当院では小児の脳血管造影検査や血管内治療を行うことができないため,高次機能病院へ紹介とした.紹介先での脳血管造影検査では,右中大脳動脈の中心溝動脈が上矢状静脈洞へ直接流入しており,nidusは認めなかった(Fig. 3a, b).上記結果より脳動静脈瘻の確定診断となり,後日動静脈瘻塞栓術を施行する方針となった.その後1歳3か月時,再び左共同偏視を認め,出血のリスクが高いとの判断で,紹介先の病院で塞栓術を施行された.右中大脳動脈からアプローチし,脳表の静脈との動静脈瘻をpure N-butyl cyanoacrylateを用いて塞栓した.塞栓術施行後,シャント血流は低下した(Fig. 4a, b).術後当院で継続的にリハビリテーションを行い,1歳4か月で座位は安定し,1歳10か月でつかまり立ちが可能となった.2歳3か月時点で二語文の表出はない.けいれんについてはLevetiracetam 20 mg/kg/dayを1歳3か月から内服しており,インフルエンザ罹患時(1歳8か月時)に1度けいれんを認めたほかは抑制できている.
脳血管撮影
a:正面像 b:側面像
脳動静脈瘻塞栓術前の脳血管造影検査.右中大脳動脈の中心溝動脈が上矢状静脈洞へ直接流入しており(→),nidusは認めなかった.
脳血管撮影
a:正面像 b:側面像
脳動静脈瘻塞栓術後の脳血管造影検査.塞栓術施行後,シャント血流は低下した.
脳動静脈瘻は近年,脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻から独立して認識されるようになってきた.その形態は,動静脈間にnidusを介して接続している脳動静脈奇形や,硬膜血管を流入路とする硬膜動静脈瘻とは異なり,脳主幹動脈や皮質動脈を流入路とし皮質静脈を流出路とする血管異常をもつ疾患である1).Nidusを介さずに流出路に接続する性質上,流出静脈の灌流圧が高くなり,出血率が高いといわれている.また硬膜動静脈瘻が成人で発見されることが多い疾患である一方3),脳動静脈瘻は93%が40歳未満で発見され,さらに10歳未満が40%を占めるとの報告4)があり,小児期に発症する割合が高い疾患である点で,上記二疾患が異なる原因によって発症している可能性が示唆される.
原因としては,先天性と後天性があり,先天性では遺伝性出血性末梢血管拡張症やKlippel-Trenaunay-Weber症候群等の遺伝性疾患と関連する場合がある5).なお本症例は遺伝子検索を行っているところであり,現時点で結果は出ていない.また後天性では頭部外傷や頭部術後,喫煙,アルコールが原因として考えられており,60歳以上での報告がある6,7).小児の報告はなかった.
脳動静脈瘻の自然経過は依然として明らかにはなっていないが,症候性では保存的に経過観察を行った場合,致死的な脳出血を来す確率が高かったとの報告もあることから2),早期発見・早期治療が求められる.治療は脳表の病変の場合は開頭術7,8)が,病変が深部にある場合や静脈瘤を伴う場合は血管内治療9–11)が選択される場合が多い.また本疾患は半数以上で静脈瘤を伴うとされており,静脈瘤が緩衝材となることでシャント部への圧が緩和され,出血のリスクが低下するとの考察もある12).本症例は静脈瘤を伴っておらず,出血リスクの高い症例であったと考えられる.
発見契機となる症状には,けいれん,頭痛,脳出血,頭囲拡大,神経学的異常,心不全等が報告されている.これらの症状は年齢により頻度が異なり,過去10年間で44例の症例報告があり,34例(77%)が40歳未満であった.このうち小児症例は22例(50%)であった.22例のうち年齢,発症契機となった症状,解剖学的異常,治療法を確認することができた16例を表で示す(Table 1).小児症例の初診時の主訴を確認すると,新生児(1例)では心不全13)で,乳幼児(14例)では心不全・頭蓋内出血・けいれん・発達遅滞8,10,14)を契機に発見される例が散見されたが,中には眼球突出15)や無症状で偶発的に発見された報告8)もあった.小児(7例)では頭痛やけいれんを契機に発見される例9,11)がある一方,興奮や錯乱などの精神症状が主訴であった例も報告されている16).症状は非特異的なものが多く,症状のみで本疾患を疑うことは容易ではないが,シャントに血流が豊富に流れ,脳や心臓の虚血を来すことにより生じる症状,すなわち心不全,脳低形成や萎縮による発達遅滞やけいれん,またこれらの組み合わせは,本疾患を検討するうえで重要な所見といえる.発達遅滞を契機に見つかった症例10)では,脳萎縮を伴う点で本症例と類似する(Table 1).一般的に脳形成が在胎1~5か月ごろに起きること18)から,発達遅滞を伴う症例では胎児期から慢性的に脳の虚血があったと思われ,胎児エコーで脳萎縮や異常血管などの頭蓋内病変を指摘できた可能性がある.また小児例では発達遅滞が発症契機となった例は確認できず,脳が形成される胎児期ではなく,出生後にシャント血流が増加したのではないかと考えられる.シャント血流が増加する時期の違いで,症状や発症年齢が異なるのではないかと推察される.
年齢 | 発症契機となった症状 | 解剖学的異常 | 治療 | 引用文献 |
---|---|---|---|---|
日齢0 | 心不全 | MRIで右大脳半球周囲に多発する蛇行した血管を認める.MRAで中大脳動脈を流入路とし上矢状静脈洞を流出路とする血管を認める. | 塞栓術 | 13) |
日齢30 | 無呼吸 | CTで右前頭部,頭頂部に硬膜下出血を認める.CTAで右後大脳動脈を流入路とし上矢状静脈洞を流出路とする血管を認める. | 塞栓術 | 17) |
4か月 | 眼球突出, 眼球結膜発赤 |
MRIで眼窩内の血管拡張を認める.MRAで脳血管造影検査で後大脳動脈を流入路とし海綿静脈洞を流出路とする血管を認める. | 塞栓術 | 15) |
6か月 | 頭囲拡大 | CT,MRIで後部窩に広範な血管塊を認める. | 塞栓術 | 18) |
1歳 | 眼球突出 | CTで脳梁下部に静脈瘤を認める.CTAで前代脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 開頭術 | 19) |
2歳 | 乳児期からの けいれん |
MRIで左側頭頭頂領域に蛇行した軟膜小血管を認める.左中大脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 塞栓術 | 20) |
3歳 | 発達遅滞 | MRIでは脳萎縮と左側頭部異常血管を認める.MRAで右中大脳動脈を流入路とし軟膜静脈を流出路とする血管を認める. | 開頭術 | 21) |
4歳 | 発達遅滞,興奮,頭痛 | CTで脳室拡大,脳室周囲の浮腫,くも膜下に拡張血管を認める.CTAで左中大脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 塞栓術 | 10) |
4歳 | 頭痛,嘔吐, 歩行障害 |
MRIで小脳に出血を認め,出血部位に隣接するようにflow voidをみる. | 塞栓術 | 9) |
6歳 | 頭痛,嘔吐 | MRIで第3,4脳室内の出血と延髄周囲に拡張した異常血管を認める.MRAで左椎骨動脈と左後下小脳動脈を流入路とし上錐体静脈洞を流出路とする血管を認める. | 開頭術 | 22) |
12歳 | 混乱,尿失禁 | CTで巨大静脈瘤を認める.左中大脳動脈を流入路とし上矢状静脈洞に流出する血管を認める. | 塞栓術 | 23) |
12歳 | 頭痛,けいれん | CTで右後部に静脈瘤を認める.MRAで左後大脳動脈を流入路とし右海綿静脈洞を流出路とする血管を認める. | 塞栓術 | 11) |
13歳 | 頭痛,嘔吐 | CTで右前頭部に出血を認める.右中大脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 塞栓術 | 24) |
14歳 | けいれん | MRIで左頭頂部にflow voidと蛇行した低信号域を認める.左内頸動脈を流入路とし上矢状静脈洞を流出路とする血管を認める. | 開頭術 | 25) |
15歳 | 精神状態の変化 | CTで右側頭葉に皮質下出血を認める.CTAで右中大脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 開頭術 | 16) |
15歳 | 右手の脱力 | CT,MRIで左頭頂部に石灰化した縁を有する腫瘤を認める.左中大脳動脈を流入路とする異常血管を認める. | 開頭術 | 26) |
発症契機となった症状は,新生児では心不全,乳幼児では心不全・けいれん・発達遅滞,小児では頭痛やけいれんが多い.発達遅滞を伴う例では脳萎縮が見られた.
脳動静脈瘻の診断には,一般的に脳血管造影が用いられている.脳血管造影で脳主幹動脈や皮質動脈と皮質静脈が直接接続していれば,本疾患の診断となる.CTA(computed tomography angiography)・MRAは流入路と流出路を検出できるため,本疾患のスクリーニングに有用ではあるが,血行動態を確認できないことが脳血管造影と異なる点である.またMRDSA(magnetic resonance distal subtractionangiography)という手法があり,これを用いるとある程度血行動態の把握は可能であるが,空間分解能は圧倒的に脳血管造影に劣る.頭部CT・MRIでは脳動静脈瘻自体の検出はしばしば困難であるが,拡張した異常血管が描出されることで発見の契機にはなる.このような所見を認める場合は,CTA・MRAを追加し,血管造影の適応を検討するべきである17).
けいれんに加え,意識障害,原因不明の発達遅滞,出血性疾患等を伴う場合は,早期発見の一助となるため,頭部CTA・MRAを考慮すべきである.本児は発達遅滞と左半身の運動障害を伴っており,頭部MRI・MRAを早期に行うことで脳主幹動脈から上矢状静脈洞へ流入する異常血管を同定できた.
無熱性けいれんを主訴に受診した際は,けいれんの様式や随伴症状に注意して診療を行う必要がある.心不全等のシャント性病変が示唆される場合や発達遅滞が見られる場合は,脳波・血液検査(血糖値,電解質)に加え,積極的に頭部CTA・MRAを施行する必要がある.
けいれんを契機に見つかった脳動静脈瘻の男児例を報告した.脳動静脈瘻は未治療の場合,予後不良との報告もあることから,早期発見・早期治療が求められる.本疾患の診断に頭部CTA・MRAは有用であり,けいれんに加えて心不全や発達遅滞,局所神経症状を伴う場合は,CTA・MRAを含めた画像検査を行うべきである.
画像を提供していただきました,国立成育医療研究センター脳神経外科の宇佐美憲一先生,萩原英樹先生に感謝の意を表します.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.