Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Case Report
A case of pneumococcal meningoencephalitis associated with an inner ear malformation
Tatsuto Shimizu Ritsuyo TaguchiShuya KanekoYoshihiro TaniguchiHideo Tsuda
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 35 Issue 2 Pages 139-142

Details
要旨

先天性難聴の原因となる内耳奇形は,小児における反復性髄膜炎の主な原因である髄液瘻を合併しうる.我々は肺炎球菌髄膜脳炎を呈した5歳女児例を経験した.症例は先天性難聴の既往があり2歳時に側頭骨CT検査で内耳奇形と診断された.当院受診時,意識障害と片麻痺を認めていた.頭部単純CT検査で高度の脳浮腫,頭部単純MRI拡散強調画像で左前頭頭頂弁蓋部に高信号を認めた.過去の側頭骨CT検査において髄液瘻が明らかとなり反復性髄膜炎のリスクがあると考え内耳充填術を施行した.術後髄膜炎の再発は認めていない.内耳奇形を合併する患者においては髄液瘻の合併と髄膜炎のリスクを評価することが重要である.

Abstract

An inner ear malformation that causes congenital deafness, can be associated with cerebrospinal fluid leakage, which is a well-known major cause of recurrent meningitis in childhood. We encountered a case of pneumococcal meningoencephalitis in a 5-year-old girl. She had been diagnosed with hearing loss and inner ear malformation by temporal bone computed tomography (CT), when she was 2 years old. She presented with consciousness disturbance and hemiplegia. Brain CT and diffusion magnetic resonance imaging (MRI) revealed marked brain edema and a high-intensity signal in the left frontoparietal operculum, respectively. Since the earlier temporal bone CT scan had revealed a cerebrospinal fistula, she was considered to be at risk of recurrent meningitis; thus, she underwent inner ear reconstruction surgery. Since the surgical intervention, she has been free from meningitis. It is important to check for concomitant cerebrospinal fistulae and evaluate the risk of meningitis in the management of patients with inner ear malformations.

はじめに

内耳奇形は先天性難聴を来たす原因の一つであり,骨迷路・膜迷路の低形成を認め,画像診断できるものも存在する.内耳奇形は髄液瘻を伴う場合があり,髄液瘻は反復性髄膜炎の原因となることから1),髄液瘻閉鎖を目的とした内耳充填術により髄膜炎の反復を予防することができる.我々は,過去に側頭骨CT検査により内耳奇形と診断された女児が肺炎球菌髄膜脳炎を発症した症例を経験した.内耳奇形に合併する髄液瘻の存在を確認し,早期に外科的治療を施行したことで髄膜炎反復を予防できたので報告する.

症例

症例:5歳,女児

主訴:意識障害

既往歴:先天性両側感音難聴(右側は聾,左側は補聴器を使用している).2歳時に側頭骨CT検査で,右蝸牛,前庭部半規管の嚢胞状拡大と外側半規管異形成による内耳奇形(incomplete partition type I)を指摘されている(Fig. 1).

Fig. 1 

2歳時での側頭骨CT検査

A:右側蝸牛には内部構造が確認できず嚢胞状で,前庭部の拡張を伴っていることからIncomplete partition type I(cystic cochleovestibular malformation)と診断した.外側半規管は異形成である.B:中耳および乳突蜂巣には液体貯留を認め,異形成の卵円窓部に連続している(白矢印).

予防接種歴:肺炎球菌結合型ワクチン(7価)・ヘモフィルスb型ワクチン・三種混合ワクチン(生後5,6か月),BCGワクチン(生後5か月),麻疹風疹混合ワクチン(1歳11か月)

家族歴:特記すべきことなし

現病歴:入院4日前より39.5°Cの発熱があり,3日前より頸部を後屈するようになった.呼びかけに対して発語を認めたが,意識障害が持続するため当院入院となった.

身体所見:体温は39.8°C,Glasgow Coma ScaleでE4V2M4と意識障害を認めた.頸部は後屈しており四肢は屈曲位で軽度硬直していた.鼓膜は異常なく,咽頭は児の姿勢から観察困難であった.胸腹部には異常は認めなかった.

入院時検査所見Table 1):血液検査では好中球優位の白血球増多,CRP高値を認めた.髄液検査では細胞数増加と糖濃度低下,白血球のグラム陽性双球菌貪食像を認め,髄液の肺炎球菌抗原検査は強陽性であった.免疫グロブリン分画,血清補体価は正常であった.

Table 1  入院時血液・髄液検査所見
血算 生化学 髄液(入院2日目)
​WBC 16,800/μl ​CRP 9.55 mg/dl ​細胞数 3,968/μl
​ Seg 78.5% ​BUN 6.6 mg/dl ​ 分葉核球 2,901/μl
​ Lym 15.0% ​Cr 0.3 mg/dl ​ 単核球 1,067/μl
​ Mo 6.5% ​TP 7.0 g/dl ​蛋白 211 mg/dl
​RBC 508 × 104/μl ​Alb 2.9 g/dl ​糖 4 mg/dl
​Hb 13.0 g/dl ​AST 19 U/L ​Cl 114 mEq/L
​Ht 38.5% ​ALT 15 U/L
​Plt 29.9 × 104/μl ​LDH 300 U/L
​Na 127 mEq/L
​K 3.9 mEq/L
​Cl 94 mEq/L
​IgM 184 mg/dl
​IgG 1,375 mg/dl
​Glu 116 mg/dl

髄液からpenicillin resistant Streptococcus Pneumoniae(血清型19A)を検出し,咽頭培養からはStreptococcus Pneumoniae,beta-lactamase-negative ampicillin-resistant Heamophilus influenzaMoraxella catarrhalisが検出された.血液培養は陰性であった.

頭部単純CT(Fig. 2A)では,脳溝や皮髄境界が不明瞭で脳室が狭小化しており,高度の脳浮腫を呈していたが,膿瘍や出血病変は指摘できなかった.頭部単純MRIでは脳浮腫所見に加え,両側乳突蜂巣や副鼻腔に液体貯留を認め髄液瘻が疑われた(Fig. 2B).拡散強調画像(diffusion weighted imaging; DWI)では左前頭頭頂弁蓋部に高信号を認め,脳実質の炎症が疑われた(Fig. 2C).

Fig. 2 

入院時画像検査結果

A:頭部単純CT検査,脳溝,皮髄境界は不明瞭で脳室狭小化を認めた.B:MRI T2強調画像,両側乳突蜂巣,上顎洞に液体貯留を認める.C:MRI拡散強調画像,左前頭頭頂弁蓋部に脳表優位の高信号を認める.

入院後経過

意識障害の原因として髄膜脳炎を考え,抗菌薬,ステロイドパルス療法等を行い,後遺症なく治癒した.2歳時に施行された側頭骨CT検査を再確認したところ,内耳腔と髄腔の交通と両側の乳突蜂巣内の液体貯留を認めたことから(Fig. 1),髄液瘻が今回の髄膜炎発症に関与していると考えた.髄膜炎反復の危険性を考慮し,髄液瘻閉鎖が必要と考え,2か月後に右内耳充填術と,左内耳充填術・人工内耳埋め込み術を施行した(Fig. 3).以降は,髄膜炎の再罹患は認めていない.

Fig. 3 

右内耳充填術の術中所見

A:卵円窓は膜性に閉鎖されており針穴状の穿孔を認め,拍動性の髄液漏出を認めた.B:結合組織,軟骨片を充填し,髄液の漏出停止を確認した.

考察

本症例は難聴に対する定期受診を自己中断しており,定期予防接種も完遂されていなかった.要支援家庭であったこともあり,医療機関受診が遅れ,髄膜脳炎に伴い麻痺症状を呈したと考えられる.幸い神経学的後遺症を残すことなく治癒し,内耳充填術により髄膜炎の再発を予防することが出来ているが,内耳奇形を診断した段階で髄液瘻の評価と髄膜炎発症のリスク評価・家族への説明がなされていなかった点が反省点である.

先天性難聴を来たす原因には,胎児期の感染や先天異常が挙げられる2).そのうち,CT検査やMRI検査で診断できる内耳奇形は20%を占める3).内耳奇形のSennarogluらの分類4)によると,本症例は蝸牛内の骨性構造(回転間の骨性隔壁,蝸牛軸)に何らかの欠損を認めるIncomplete partition typeに分類され,蝸牛軸,隔壁のない嚢状蝸牛で大きな嚢状前庭を伴うtype I(IP-I)と診断される.IP-Iは内耳奇形の20%を占め,アブミ骨底板の欠損と蝸牛内に髄液が流入することが特徴的である.そのため,内耳開窓時に脳脊髄液が漏出するcerebrospinal fluid gusher(CSF gusher)が50%の症例で認められる髄膜炎のリスクを考慮すべき内耳奇形といえる.一方,Common cavity,Cochlear hypoplasia,Incomplete partition type IIではCSF gusherはほとんどなく,IP-IIIでは100%の症例でCSF gusherを認めるもののアブミ骨底が正常構造であるため髄膜炎を反復しないと推測されている3).本症例では,2歳時の側頭骨CT検査で乳突蜂巣内に液体貯留を認めており,IP-Iであることを考慮すると髄液瘻を疑うことは可能であったかもしれないが,本症例同様,過去のほとんどの症例報告では髄膜炎を発症後に髄液瘻の存在が確認されている.髄膜炎の発症を予防するためには,先天性難聴患者では内耳奇形と診断した時点で病型分類を行って,髄液瘻の有無を確認し,髄膜炎の発症リスクを評価することが重要といえる.

本症例の髄膜炎が重症化した要因に予防接種が完遂していなかったことも挙げられる.反復性髄膜炎の起炎菌は髄液瘻の部位により異なり,腰仙骨部の瘻孔ではEscherichia coliStaphylococcus aureusが多いが頭蓋内の瘻孔ではStreptococcus Pneumoniaeが最も多い5).先天性内耳奇形に髄液瘻を伴う患者では肺炎球菌による髄膜炎の発症のリスクが高いと考えられることから,肺炎球菌ワクチンを積極的に行うべきである6).本児が途中まで接種していた肺炎球菌ワクチンは結合型7価肺炎球菌ワクチンであり,今回の血清型19Aは含まれていなかった.13価肺炎球菌ワクチンを追加接種していれば重症化を予防しえた可能性も考えられる.

おわりに

内耳奇形を診断した場合には髄液瘻の有無を確認するとともに髄膜炎発症のリスクを評価することが重要である.内耳奇形に合併した髄膜炎では髄液瘻の存在を疑い,早期の瘻孔閉鎖を目的とした外科的介入を視野に入れ画像検査・治療にあたることが重要である.

謝辞

内耳奇形を診断いただいた福井県立病院 放射線科,吉川淳先生,内耳充填術を施術いただいた福井県こども療育センター 耳鼻咽喉科,吉田博先生,自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児耳鼻咽喉科,伊藤真人先生に深く感謝申し上げます.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

文献
 
© 2019 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top