2019 Volume 35 Issue 2 Pages 72-77
急性虫垂炎は小児の急性腹症をきたすcommon diseaseである.急性虫垂炎と診断された場合,標準治療は手術による虫垂の切除だが,複雑性虫垂炎に対してはinterval appendectomy(以下,IA)を選択することもある.軽症の場合,手術や抗菌薬投与を行わずとも症状の軽快が得られるspontaneously resolving appendicitis(以下,SRA)の報告もある.
東京都立小児総合医療センター(以下,当施設)では,急性虫垂炎が疑われる場合は小児外科医が超音波検査を施行,急性虫垂炎の確定診断及び当施設独自のGrade分類を行い,治療方針を決定している.虫垂壁の構造が保たれている,または不整であっても血流が亢進している場合は,補液のみで経過観察を行う.壁構造の不整かつ血流の低下,もしくは壁構造の消失がみられる場合は準緊急的な手術,もしくはIAの方針としている.腫瘤形成性虫垂炎に対しては,抗生剤加療を先行し,膿瘍消失後3か月以降にIAを行っている.
超音波による虫垂の形態評価,血流評価は,急性虫垂炎の診断のみならず,治療方針を決める上で有用であると考えられた.
Acute appendicitis is a common disease that causes acute abdomen in children. When acute appendicitis is diagnosed, the standard treatment is excision of the appendix by surgery, but interval appendectomy (IA) may be selected for complicated appendicitis. In mild cases, it has been reported that spontaneously resolving appendicitis (SRA) can relieve symptoms without surgery or antibiotics.
At the Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center, pediatric surgeons perform the ultrasound examination, make a definite diagnosis of acute appendicitis and classify the original severity grading, and decide on the treatment policy. If the structure of the appendix wall is maintained or if the blood flow of the wall is increased even if it is irregular, we administer an intravenous bolus infusion only with follow-up.
If the wall structure is irregular and the blood flow is reduced, or the wall structure is lost, a semi-emergency operation or IA is adopted. Appendicecal mass is preceded by antibiotic treatment, and IA is performed 3 months after the abscess has disappeared.
It was considered that the evaluation of the form of the appendix and the evaluation of blood flow by ultrasound are useful not only for diagnosis of acute appendicitis but also for determining the treatment policy.
急性虫垂炎は小児の急性腹症をきたすcommon diseaseであるが,症状は多様であり,診断が困難な症例も少なくない.急性虫垂炎と診断された場合,標準治療は手術による虫垂の切除だが,膿瘍や腫瘤を形成している複雑性虫垂炎などは抗菌薬治療が先行され,IAが行われることもある1).一方で,急性虫垂炎と診断されたものでも,軽症の場合,手術や抗菌薬投与を行わず症状の軽快が得られるSRAが存在することも報告されている2).
虫垂炎の診断は,1. 虫垂炎の診断を確定し,適切な時期に手術を行い,穿孔を避けること,2. 不要な手術(negative appendectomy; NA)を避けることが重要である1)が,症状が非特異的なことが多い小児虫垂炎においては,画像診断の役割は非常に大きい.加えて,虫垂炎の診断が得られた場合,さらに虫垂の炎症の進行を画像的に評価することで,その治療方針に大きく寄与することとなる.
当施設ではERで小児科医のトリアージ・初期評価の後,急性虫垂炎が疑われる場合は小児外科医がconsultを受け,超音波検査による急性虫垂炎の確定診断と当施設独自の超音波Grade分類を行い,治療方針を決定している3).
虫垂炎は炎症の程度により組織学的に3つに分類される.すなわち,カタル性,蜂窩織炎性,壊疽性である.カタル性は炎症が粘膜のみに限局した状態,蜂窩織炎性は粘膜下層,筋層,漿膜まで炎症が波及し,高度に腫大するが壁構造は保たれる状態,壊疽性はさらに炎症が進行し,虫垂壁は壊死に至り,壁構造は破壊された状態を呈する.
腫瘤形成性虫垂炎は,炎症の波及に伴い周囲の大網や周囲腸管が一塊となり炎症性腫瘤を形成,または限局性膿瘍形成が指摘される虫垂炎を指す.
また,海外では複雑性虫垂炎,単純性虫垂炎という用語が用いられることが多い1).複雑性虫垂炎は組織学的診断上,壊疽性虫垂炎に相当し,腫瘤形成性の有無や汎発性腹膜炎合併の有無は問わないとされる.単純性虫垂炎は,画像診断で急性虫垂炎と診断され,複雑性虫垂炎に含まれないもので,組織学的診断ではカタル性と蜂窩織炎性に相当する.
術前の画像診断の目的は1. 虫垂炎の診断を確定し,適切な時期に手術を行い,穿孔を避けること,2. 不要な手術を避けることが重要である1).
超音波検査は高周波プローブを用いることで,脂肪の少ない小児では高分解能の画像を得ることができる4).放射線被ばくの問題もなく,鎮静を要さず,リアルタイムで繰り返し観察を行うことができるばかりではなく,虫垂の形態とともに血流を見ることによって炎症の程度を評価することができる.欠点は術者の技術によるところが大きく,すべての施設で24時間検査が可能というわけではない.一方,CTは検査者に左右されず,短時間に撮影することができる.しかし,放射線被ばくの問題,造影剤による副反応や腎障害のリスクなどの欠点がある.
Meta-analysisによる小児虫垂炎に対する診断能は,超音波が感度88~95%,特異度92~95%,CTは感度92~97%,特異度94~97%でややCTが超音波に勝るとされる5).また,近年超音波で虫垂炎がはっきりしなかった場合のsecond-lineとして,CTやMRIを行うことで診断能が上がるとされている6).
当施設でも臨床的には虫垂炎が疑われるも,超音波で虫垂が不明瞭な場合は,造影CTの追加検査を行う方針としている3).
1. 超音波検査当施設での超音波検査による虫垂炎診断は,まず低周波のコンベックス型プローブで腹水の有無,膿瘍形成の有無を確認し,高周波で見落としやすい盲腸の背側や骨盤腔を含めた虫垂の検索を行う.次に同定された虫垂に対して,高周波のリニア型プローブを用いて虫垂壁の層構造,パワードプラを用いた虫垂壁内の血流評価を行っている.4 cm以上の深部では,リニア型プローブによる詳細な層構造や血流の評価が困難となる7).
1) 虫垂の同定虫垂の位置(向き)は症例によって異なるため,虫垂の同定は超音波診断で最も重要である.まずは最も一般的な位置である右総腸骨動静脈の周囲を検索し,見つからない場合は盲腸から連続する病変を検索する.この際,プローブで腹壁を圧迫することで消化管ガスを排除することが重要で,特に理学所見で盲腸背側の虫垂炎が疑われる場合は丹念に検索する必要がある.
虫垂は蠕動のない盲端となる管腔状の構造物であり,6 mm以上を腫大と判定する.虫垂に一致した圧痛の有無(エコー下触診)とプローブでの圧迫で変形しないことが虫垂炎診断に重要な所見である.当施設での検討では狭窄像の有無は再発リスク因子となるため,虫垂径は3か所以上で計測を行っている3).
正常虫垂の描出は容易ではないが,検査に習熟することで描出できるようになり,より確実に虫垂炎を否定することが可能となる.
2) 虫垂壁の層構造の評価超音波検査において,消化管壁の構造は内側から粘膜表面(高エコー),粘膜深部(低エコー),粘膜下層(高エコー),筋層(低エコー),漿膜(高エコー)と5層に分かれている8).粘膜下層に相当する第3層の高エコー領域について,肥厚の有無や連続性の評価を行う7).
当施設でのGrade分類では,層構造が明瞭であるものをGrade I,不整であるものをGrade II,消失しているものをGrade IIIとしている3).
3) パワードプラを用いた虫垂壁内の血流評価高周波リニア型プローブでの観察下に,パワードプラで虫垂壁の血流を評価する.パワードプラはカラードプラに比し,より流速の遅い血流も鋭敏に検出でき,容易に血流評価として用いることができる.
当施設では概ね全体の1/2を超えた領域に血流信号があるかどうかで血流亢進の有無を判定している3).正常血流と血流減少の鑑別は困難である.急速輸液によって血流が回復する場合があり,判断に迷う場合は補液後に再検査を行うと,より正確な診断につながる可能性がある.
4) その他の参考所見糞石像は重要な所見であるが,治療方針の決定には用いていない.保存加療を行った後にフォローの超音波検査を行った際に,糞石が残存している,屈曲がみられる場合,再発のリスクとなると判定している9,10).
近年,保存的治療の適応とされることが多い腫瘤形成性虫垂炎の定義は施設によって異なる.我々は虫垂周囲の脂肪組織(虫垂間膜及び大網,腸間膜)と腸管を隔壁成分とする占拠性病変で,中心に虫垂を含むものを腫瘤形成性虫垂炎と定義している3).
現在当施設では,超音波検査で虫垂壁の層構造・血流を評価し,Grade I,IIa,IIb,III,腫瘤形成性と5つのGrade分類を行っている3).虫垂腫大を認めるものの,層構造が保持され血流なし,もしくはあっても増加のないものをGrade I,層構造が不整で血流増加を認めるものをIIa,層構造が不整で血流増加のないものをIIb,層構造が消失し血流のないものをIII,虫垂周囲の脂肪組織(虫垂間膜および大網,腸間膜)に炎症が波及あるいは膿瘍を形成し腫瘤形成を伴うものを腫瘤形成性としている(Fig. 1)11).
超音波検査による急性虫垂炎の重症度診断
検査者の技量に依存せず高い診断能を有し,穿孔性虫垂炎の診断および膿瘍のサイズや位置の把握,盲腸背側に隠れるような虫垂の把握が容易であること,皮下脂肪の厚さや腸管ガスが障害とならない,虫垂炎以外の鑑別疾患の診断など多くの利点がある.しかし,放射線被ばく,発がんリスクのため必要最小限にすべきである.また,細かい層構造や血流の評価は超音波検査の方が有用である.このため,当施設では超音波検査のみでは虫垂炎の診断確定ができない場合,もしくは膿瘍形成を生じている場合の膿瘍の範囲の同定のためにCT検査を考慮する.撮影時も被ばくを軽減するため,単純CTは行わず造影CTのみを施行している3).
急性虫垂炎と診断された場合,虫垂切除が原則であり,開腹手術もしくは腹腔鏡下手術が選択される.穿孔などによる汎発性腹膜炎を伴う場合,絶対的手術適応となる.その他の手術に関しては,手術待機時間に依らず,術後成績に有意差はないとされており,単純性虫垂炎では深夜に緊急手術を行う必要はなく,準緊急手術でも安全な治療が可能といえる1).
腹腔鏡手術は開腹手術に比し,術後疼痛の緩和から,早期離床が可能となり,食事再開までの期間が短縮され,入院期間も短縮,日常生活までの復帰も早くなるため,腹腔鏡手術が推奨されている.
一方,小児腫瘤形成性虫垂炎における緊急手術は,手術関連合併症が多いとされ,合併症を回避するために,抗生剤加療後に虫垂切除を行うIAが主流になりつつある.
当施設では,先の超音波による虫垂炎のGrade評価の上,治療方針の決定を行っている3).Grade I,IIaはいわゆるSRAと判断し,急速補液を行い,症状改善を確認の後に帰宅としており,翌日に症状増悪のないことを確認している.Grade IIb,IIIに対しては入院の上(準)緊急的な手術,もしくは家族の希望によりIAの方針とし,抗生剤投与による保存的加療を行っている.穿孔性虫垂炎を含む腫瘤形成性虫垂炎に対しては,基本的にIAを行う方針とし,抗生剤加療を先行し,膿瘍の消失後3か月以降を目安に腹腔鏡下虫垂切除を行っている.
Grade IIb(Movie 1),腫瘤形成性虫垂炎(Movie 2),IA(Movie 3)を行った症例における術中動画を示す.Grade IIbでは虫垂周囲の癒着はほぼないか軽度となる.腫瘤形成では虫垂周囲への炎症波及が顕著で,癒着を呈している.炎症の強い虫垂壁は脆く,扱いに注意を要する.膿瘍形成例や術中穿孔がみられた場合には,大量の温生食で腹腔内の洗浄を要する.
超音波検査によるGrade評価と組織学的な分類は必ずしも一致するものではないことに注意が必要である.これまでの当施設からの報告で宇戸らは,Grade IIb症例の内,46%が蜂窩織炎性,56%が壊疽性または穿孔性,Grade III症例の内,13%が蜂窩織炎性,87%が壊疽性・穿孔性であった.カタル性虫垂炎は,Grade IIb,IIIと判断したものの中に含まれなかったとしている3).
Quillinらは炎症により虫垂の血流が増加することを示し12),Patriquin,内田らは虫垂炎が進行するに従って血流が増加し,壊疽性になると消失すると述べた13,14).虫垂の炎症が起こればある時点まで血流が増加し,その後炎症の増悪により血流がなくなって壊死にいたるというプロセスが考えられ,このどこかで不可逆的になるといえる.Migraineらは自然に軽快する虫垂炎(spontaneously resolving appendicitis; SRA)を報告した2)が,志関らは虫垂壁の血流がみられる症例では,保存的に経過を見ることが可能である15)とした.我々の症例では虫垂壁の構造が保たれている(Grade I),もしくは不整であっても血流が多い場合(Grade IIb)は90%の症例が抗生剤の使用を行わずとも軽快が得られた11).
Fig. 2に我々の考える急性虫垂炎治療のアルゴリズム11)を示す.
超音波検査による急性虫垂炎の治療方針
超音波による虫垂の形態評価,血流評価は,急性虫垂炎の診断のみならず,治療方針を決める上で非常に有用であると考えられる.
小児では超音波検査の利点が大きく,見落としによる病状の進行を防ぐためにも,検査に習熟し,診断技術を高めることが肝要である.急性虫垂炎の診断は時に難しいが,疑われた患者に対して正確な画像診断を行うことが大切である.