Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Special Feature: Surgical pediatric surgery cases as seen from imaging
Navigation surgery using ICG-fluorescence method for hepatoblastoma and hepatocellular carcinoma
Norihiko Kitagawa
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2019 Volume 35 Issue 2 Pages 84-89

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要旨

インドシアニングリーン蛍光法は,肝芽腫および肝細胞癌の原発巣・転移巣の術中検出に有用である.転移巣ではコントラストが良いため非常に小さな病巣を描出できる.原発巣では肝切除断端の残肝に遺残する腫瘍の有無を確認できる.注意点として,比較的疑陽性が多いことは銘記すべきである.ICG蛍光法が肝芽腫および肝細胞癌の予後を直接改善するかどうかは不明であるが,術中に遺残腫瘍の有無の検索のため迅速病理診断を待つ必要がなく,手術時間の短縮につながることは確かである.さらに切除断端を逐次確認できるため,症例によっては区域切除や葉切除をしなくとも部分切除で安全に病巣を摘出できることがあり,有用である.

Abstract

Indocyanine green fluorescence method can be used for detecting primary or metastatic lesions of hepatoblastoma and hepatocellular carcinoma intraoperatively. Using this method for lung metastatic surgery, extremely tiny lesions can be visualized and extirpated easily. For primary liver surgery, tiny residual tumors on cut surface of the liver can be visualized and extirpated. Users should be reminded that false positive rate is relatively high. Whether this method can improve the prognosis of these diseases is still unclear, but it can certainly reduce the operation time because of avoiding intraoperative histopathological confirmation. This navigation can permit partial resection of the lung or the liver safely instead of lobectomy or segmentectomy, confirming no residual tiny tumors on cut surface.

はじめに

肝芽腫は本邦で年間50症例前後が発症する.その治療成績は年々向上し,日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の最新の集計(2006–2010年登録症例)では全症例の5年生存率は87%まで達した1).しかし病期別に見ると遠隔転移例の成績が足を引っ張る形になっている.遠隔転移のほとんどが肺であり,肺転移をいかに制御するかが肝芽腫治療成績向上の鍵と言える.肝芽腫は他の腫瘍と比較して外科的完全切除が治療成績を左右するとされており,これは転移巣にも当てはまる24).CTで描出できないような微小な転移巣を術中にいかに発見して切除するか,この問題を解決するために導入したのがインドシアニングリーン(以下ICG)蛍光法であった.本稿ではICG蛍光法を用いたナビゲーション手術について動画を用いて概説する.

ICG蛍光法の原理と適応

ICGは静注されると血中蛋白と結合し,肝細胞に取り込まれる.肝芽腫および肝細胞癌は肝細胞由来の腫瘍であるから,これらの腫瘍細胞の原発巣および転移巣に取り込まれる.正常の肝細胞はICGを胆汁中に排泄するが,腫瘍細胞はこの排泄機構が破綻しているためICGは長時間腫瘍細胞中に残留する.一方,ICGは中心波長760 nmの赤外線を照射すると波長830 nmの蛍光を放射する性質を持つ.したがって,術前にICGを静注しておき,術中に赤外線を照射して蛍光カメラで検出すれば腫瘍の部分が可視化できることになる5)

なお,ICGの承認適応は肝機能検査,循環機能検査,乳癌,悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の同定であり,このような使用は適応外使用に該当するため各施設での承認およびインフォームドコンセントが必要である.

観察は,Photodynamic Eye(PDE®,浜松ホトニクス)等の装置を使用する.PDE®は筐体の外周部から赤外線を照射し,同時に筐体中心部のCCDカメラでICGから出た蛍光を検出し,画像化する.このカメラは可視光による通常のCCDカメラとしても機能する(Fig. 1).最近は内視鏡型の製品もあり,内視鏡下手術に限らず,開胸や開腹で使用しても体腔の奥にある病変まで観察できるため有用と思われる.しかし受光素子を小型化することによる感度・解像度の低下については比較報告がなく,今後明らかにすべきと思われる.

Fig. 1 

左:赤外観察カメラシステム(PDE®: Photodynamic Eye,浜松ホトニクス).右:ICG蛍光法を使用した手術.専用ドレープを装着したPDE®を使用し,室内を暗くして術野を観察する.

原発巣での使用

上述の通り腫瘍中に長時間ICGが残留することを利用するが,正常肝細胞にも少量は残留し,また胆汁から排泄されたICGが腸管内で強く発光して腫瘍の観察に不利になる.このため,手術3日程度前に0.5 mg/kgを静注(ジアグノグリーン,第一三共)しておけば,術中にコントラストを持って腫瘍が発光する6).これを用いて,我々は肝切除あるいは肝移植時に,主に残存肝の断端あるいは剥離温存した血管上の残存腫瘍の有無,さらには所属リンパ節の転移の有無の判定に用いている.また,ICGは術中にも胆汁中に排泄され続けているため胆道が発光する.これを用いて肝外胆管の確認にも利用している.肝葉切除の際の胆管の分岐部の確認に有用である(Movie 1).

転移巣での使用

肺転移のみならず,リンパ節転移,胸膜,腹膜播種巣などにも有用である.通常,これらの臓器は元来ICGを取り込まないためコントラストが非常に良く(Movie 2),通常手術1日前に0.5 mg/kg静注する7).高いコントラストのため,我々の経験では肺で最小0.053 mm(顕微鏡で計測)の転移巣を術中に可視化して切除できている8)Fig. 2).

Fig. 2 

腫瘍径(鏡検で計測)と蛍光強度

病巣の深さによる限界

蛍光の特性上,ICG蛍光法で観察できる深度は10 mm程度と言われている5).したがって肺の深部に存在する転移巣は発見が難しいことになるが,肺転移巣はほとんどが肺末梢(表層近く)に存在するため,この深度でも見逃すことは少ない.さらに肝芽腫で多い幼小児の場合は,肺を虚脱させることでほとんどがこの範囲内に収まる.一方,年長児では肺を虚脱させても厚みがある.このため術前にCTで疑う深部病巣があれば,深部観察用の透明な圧迫器具を用いて観察している7).当然CT陰性の深部微小病変の発見は難しい8,9).また,肝原発巣の観察でも10 mm以深の病巣の観察は難しいが,観察したいところは肝切離断端の遺残病巣の有無なので,通常問題にはならない.

当科での経験症例

2019年4月までに,当科では肝芽腫23症例,肝細胞癌2症例に対してICG蛍光法を使用した.うち原発巣手術では10例,転移巣手術は20例に使用した.ICG静注による有害事象は経験しなかった.赤外線照射,発光の画像化はPDE neo®を使用した.ICG蛍光法により摘出した病巣は,肺転移巣419個,肝原発巣10個,リンパ節12個,他に胸膜播種巣,腹膜播種巣があった.

ICG蛍光法の疑陽性,疑陰性

ICG蛍光法では時に術中に判断に迷うことがある.リンパ節転移であれば1個のリンパ節全体が発光するため迷うことはないが,肺の微小転移を探している場合に疑陽性を見ることがあり,我々の施設での肺病巣の疑陽性率は25%であった.疑陽性の原因としては,①縫合糸 ②血液 ③それ以外がある(Fig. 3).縫合糸は青系の着色が疑陽性になりやすい.しかし術中には縫合糸そのものが発光するため判断に迷うことは少ない.血液はICGを含んでいるため,肺表面等に血餅が乗っている場合,また組織内での出血巣も発光する.実際,誤って切除したものが疑陽性だった場合,病理組織では出血巣のことが多かった.表面の血液は拭えば取れるため問題ないが,臓側胸膜下の場合は時に迷うことがある.我々の経験では,転移巣の発光は輪郭が明瞭で均一な球形であるが,疑陽性の場合はそうではないことが多い(Fig. 4).定量的な判別は難しく,どうしても経験に頼る必要があり,何らかの基準が必要なことを痛感している.それ以外の疑陽性としては,特殊な蛍光顕微鏡を用いた結果,まれに肺胞細胞そのものが発光することも分かった.また,膵全体が斑状に発光した症例を経験した.発光部位の病理組織学的検査では腫瘍は認めず,胆汁の膵への逆流による発光と推察した.

Fig. 3 

疑陽性の原因

ICGの蛍光波長に合わせた蛍光顕微鏡を用い,観察した.

Fig. 4 

真陽性と疑陽性のICG蛍光の違い

矢印が真陽性で,疑陽性(△)と比較して円形の境界明瞭な発光の傾向があるが,判断に迷う発光も少なくない.

一方,疑陰性の頻度は低い.我々は,多発する転移巣の中に疑陰性が混在した経験はなく,手術を繰り返した患者で,ある時点から全く発光しなくなった症例を2例経験した.これは細胞がICGを取り込む機能を喪失し,以後そのクローンが増殖した結果だと理解している.

ICG蛍光法は肝芽腫・肝細胞癌治療に何をもたらしたか

1. 開胸での使用

我々はICG蛍光法導入以前から肺転移巣の積極的切除を行っており,視触診で病巣を探していた.9回の開胸で,視触診のみで42個の病巣を摘出して寛解に至った症例もあり,ICG蛍光法を使用しなくても積極的切除で良好な予後を得ることは可能である.この症例では最短1か月で肺転移が再発しており,術中の微小な転移巣の見逃しが早期の再発を来すのではないかという仮説を立てた.そこで導入したのがICG蛍光法であり,微小転移巣を発見,摘出できるようになった.2013–2016年の当科症例での解析では,ICG蛍光法を用いて発見,摘出した肺病巣は261個であり,193個が病理組織学的に転移であった.このうち術前CTで描出できたものは腫瘍径が4 mm以下だと半数に満たなかった(Fig. 5).視触診との対比では,ICG蛍光法で摘出した全病巣の視触診陽性/陰性のデータがないため正確な割合は算出できないが,手術記録では視触診で発見できずICGで見出した病巣は多数存在する.したがって,ICG蛍光法の導入により画像診断,術中視触診陰性の微小な肺転移巣が発見,摘出できていることは確かである.一方,上記の仮説については,これらの微小な転移巣が見逃された場合に,その後増大することが前提になる.このことについては証明する手段がない.化学療法を使えば微小転移巣は消失する可能性もあり,このような微小転移が予後に影響するのかどうか,明らかではない.したがって,ICG蛍光法が予後に寄与するかどうかは不明である.

Fig. 5 

ICG蛍光法を用いた肺転移切除病巣の大きさと術前CT陽性率

別の観点として,転移巣が微小な時期に摘出しておくことにより,その後の開胸回数が減らせる可能性も考えている.多数回の開胸では癒着が増加し,その剥離による臓側胸膜の欠損で呼吸機能が低下するため,開胸回数の減少は患者のQOLを改善する.しかしこれも比較試験は現実的ではなく,本当に手術回数が減らせるのかを証明するのは難しい.

胸膜播種の有無が即座に分かることは非常に有意義である.実際に,肺転移を繰り返した若年肝細胞癌で,開胸時にICG蛍光法で胸膜播種を認め(Movie 3),播種巣を全摘出したところ,その後の胸膜播種の再発が抑制できた症例を経験した.この場合,開胸創に近い胸膜の観察は難しいため,内視鏡型の観察器具があれば有用であったと思われる.

また,縦郭・肺門リンパ節転移の有無の確認も有意義である(Movie 4).腫大リンパ節が転移であるかどうかは摘出して病理組織学的検査を必要とするが,ICG蛍光法を用いることによりその場で判別ができるため,不要な摘出は避けることができ,転移リンパ節のみを選択的に摘出することが可能である.

2. 開腹での使用

原発巣切除時の残存病巣の評価は明らかに有用である.特に,残肝側の肝内肝静脈壁に腫瘍が癒着しているが壁に浸潤はない状態で,マージンなしで腫瘍を剥離しなければならない場合,ICG蛍光法で遺残腫瘍があれば細かく摘出し,最終的に遺残がないことを確認することで肝切除を完了できる(Movie 5).このような方法を2例で行ったが,術後再発を認めていない.これらの症例ではICG蛍光法を用いたことで肝移植が回避できており,有用性は明らかである.また,PRETEXT Iの小型の肝芽腫で脈管浸潤もないような場合,術中にICG蛍光法で切除断端を逐次確認しながら切離していくことで,脈管処理を伴う区域切除をすることなく部分切除で腫瘍を摘出することが可能になる.この方法がなければ断端の確認を術中に病理組織学的検査で行うしかないが,腫瘍全周に対して行うことは不可能である.我々はこの方法で2例切除し,再発を認めていない.また開胸と同様,腹膜播種やリンパ節転移の有無の検索は極めて有用である10).特に肝切除や肝移植時の肝門部,肝十二指腸間膜の転移リンパ節の検索には威力を発揮する.

おわりに

肝芽腫・肝細胞癌におけるICG蛍光法について概説した.微小病巣の発見が直接的な予後の改善に寄与するかどうかはさらなる研究が必要と思われるが,いまだに視触診に頼らざるを得ない骨肉腫等の肺転移手術と比較すると,術者にとって見逃しの危険を低減させてくれる安心感,怪しい部分の迅速病理診断を待たなくて済むことのストレス低減は間違いない.今後は検出器の形態・機能のさらなる改善,低価格化を期待するとともに,わが国発のこの技術が海外で普及することも望みたい.

 

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