Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Special Feature: Surgical pediatric surgery cases as seen from imaging
Preoperative three-dimensional simulation for liver resection
Sho Ibuki Masaki HondaKaori IsonoShintaro HayashidaKeita ShimataYasuko NaritaTomoaki IrieYuzuru SambommatsuMichihiro HaraHidekazu YamamotoHirotoshi YamamotoYasuhiko SugawaraTaizo Hibi
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2019 Volume 35 Issue 2 Pages 90-93

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要旨

肝胆膵外科領域,特に肝切除においては脈管のバリエーションが豊富で術前の解剖把握が必須である.当科では以前より富士フイルムSYNAPCE VINCENT®を用いてドナー肝切除におけるグラフト容積および残肝容積の測定を行ってきた.近年は静脈の灌流域の計算ならびに胆管情報も統合した画像を用いて術前3Dシミュレーションを行っている.肝腫瘍においても肝臓解析の技術を応用し腫瘍と脈管の位置関係を把握している.ドナー肝切除および肝腫瘍切除における当科の工夫を実際のシミュレーション画像を用いて紹介する.

Abstract

Precise understanding of each patient’s anatomy is crucial in hepatobiliary and pancreatic surgery, especially in liver resection. We have long been using simulation software SYNAPCE VINCENT® to calculate graft volume and remnant liver volume in living donor hepatectomy. More recently, we introduced preoperative three-dimensional fusion imaging, which allows excellent visualization of the complex conformation of the hilar structures and major hepatic veins and their tributaries. We also applied this technique for hepatic tumors to understand the relation between the intrahepatic vasculature and lesion. Herein, we demonstrate our technique in living donor hepatectomy and liver tumor resection in our department.

はじめに

肝胆膵外科領域は血管,胆管の走行がバリエーションに富み,術前のその正確な解剖把握が必須である.特に肝切除においては動脈,門脈,胆管,静脈それぞれに破格がありその3次元的な解剖把握は安全な肝切除においては必須である.術中の超音波による脈管走行の確認がゴールドスタンダードであることには現在も異論の余地はないが,いかに術前に症例の脈管構造をイメージ出来ているかが術中の超音波での誤認を避けるために求められる.近年のCTおよび画像解析技術の進歩により術前CTから三次元的な画像を術前に得ることが一般的となりつつある1).またその画像を用いて,術前の切除肝容積並びに残肝容積の算出も容易となっている.

当院は移植ドナー肝切除において以前から画像解析ソフトを用いて肝切除容積およびグラフトサイズを算出しており,小児肝悪性腫瘍の肝切除においてもその技術を用いてきた.また近年は,3D構築画像を作成し,より複雑な肝門部の脈管の位置関係を胆管も含めて把握し,術者のみならずチーム全体で症例の解剖を共有することも可能となっている2,3).一方で,小児外科領域においてはCT撮像における体動,線量の減弱,造影剤の減量,撮像のタイミングなどで鮮明な画像が得られない場合もまま見受けられ,腫瘍の境界が不明瞭となる症例も存在する.実例を交えて当院の取り組みをお示しする.

1. ドナー肝切除

生体肝移植におけるドナー肝切除においてはa)得られるグラフトのサイズ予測,b)ドナーの安全性を担保する残肝容積の算出,という2点において肝容積の算出が必須となり,それらを元に用いるグラフト(右葉,左葉,外側区域,外側区域など)を決定する.当院では富士フイルムSYNAPCE VINCENT®を用いて画像解析を行っており指定した門脈の支配領域並びに静脈の灌流域を詳細に算出でき,自在な切離ラインの設定によっても切除肝容積が容易に算出される.再建静脈については静脈径ならびに灌流域をもとに決定している.構築した画像はVINCENT採用端末であれば3次元的に自由な操作で観察可能であったが,外部端末では制限があった.しかしながら近年のソフトウェアの進歩により解析結果をPDFとして出力し,外部端末でも自在に操作が可能となり,より簡便に術前の個人でのシミュレーションや術中の確認に用いることが可能となっている(Movie 1).

ドナー肝切除においては胆管切離ラインの術前シミュレーションも重要なポイントとなりMRCPがしばしば利用される.しかしながらMRCPは画像が不明瞭となり術中に予期せぬ破格に遭遇する場合も見受けられるため,当院では原則DIC-CTを造影CTと同時もしくは別日に撮像している.得られたDIC-CTの画像をVincent上で再構築することで,通常の手法では得られない,胆管と動門脈の位置関係を詳細に観察出来る3D構築画像を作成している(Movie 2).肝門部の立体的な脈管の関連が明瞭に把握出来,チーム内での共通認識を持って手術にあたることが可能となっている.

脈管構造のみならず腫瘍についても同様に3D構築が可能で,DIC-CTに比して不明瞭とはなるもののMRCPとのフュージョンも可能である(Movie 3).

2. 小児肝腫瘍

前述の通り小児症例においては時に不明瞭なCT画像で術前の手術プランを強いられる場合がある.特に肝腫瘍についてはCT画像のみでは境界が不明瞭となり,術前の切除ラインの設定に難渋する場合がある.当院においては肝腫瘍症例においては術前にEOB-MRI画像を撮像し,腫瘍境界を明瞭にした上で手術に臨んでいる.実際の症例を提示する.

症例

1歳3か月男児,2018年腹部膨満を主訴に近医を受診し肝腫大を指摘され,精査の結果巨大肝腫瘍(11 cm × 11 cm)を指摘,同時に肺転移を認め肝芽腫の疑いで当院小児科紹介受診となる.腫瘍は右葉を中心として内側区域および尾状葉にまたがる腫瘍で化学療法開始前に開腹下で腫瘍生検を施行した後にPediatric Hepatic International Tumor Trial(JPLT-4: PHITT protocol)に順じPLADOレジメンで化学療法を3クール施行した.化学療法後のCTにて腫瘍の著明な縮小を認め,肺転移は消失,alpha-fetoprotein(AFP)は最高値740,000 ng/mlから1,000 ng/mlまで低下し切除の方針となる.

化学療法後CT:肝右葉頭側に前後区域にまたがる充実性腫瘍を認める.中肝静脈を巻き込む腫瘍で,頭側の腫瘍境界は比較的明瞭なものの,肝門周囲の境界は不明瞭であり肝門の切離ラインの決定に難渋した.

MRI:鎮静下で撮像したMRI画像で体動なく撮像された.EOB-MRI 20分後の画像では腫瘍境界は非常に明瞭で,肝門の胆管との関係も明瞭となり,本症例においては中肝静脈合併切除を伴う拡大右葉切除が選択された(Movie 4).

MRI画像もVincent上に取り込みは可能で,CTとの同期はしばし困難な場合も多いが,MRIで辺縁を確認しながら,CT上で腫瘍辺縁をマーキングしていき,肝臓解析画像に腫瘍位置を表示することも可能である(Fig. 1).

Fig. 1 

肝芽腫術前シミュレーション画像

EOB-MRI画像を用いて腫瘍輪郭を明瞭にした.

手術においては術前のシミュレーション通り腫瘍が肝門から剥離可能で,中肝静脈合併切除を伴う拡大右葉切除が施行された(出血65 ml 手術時間5 hr 55 min,Fig. 2).腫瘍断端は陰性で術後補助化学療法施行し,現在術後5か月でAFPは陰性,無再発生存を得ている.

Fig. 2 

摘出検体

肝門を剥離しR0切除を達成し得た.

おわりに

画像解析ソフトの進歩およびCT画像の発展により,術前の詳細な解剖把握が小児肝腫瘍の領域においても可能となっている.肝切除領域における術前シミュレーションは今回紹介したもの以外にも3Dプリンターによる肝臓モデルの作成4,5)や,肝臓の硬度に基づいた術中の肝臓の変形も考慮されたシミュレーションソフトウェア5)など進歩が著しい.シミュレーションのみならず,術中ナビゲーションの技術も研究が重ねられており,ヴァーチャルリアリティを用いたヘッドマウントシステムによる術前,術中のシミュレーションおよびナビゲーション6),腹腔鏡下肝切除ではICGを用いたリアルタイムの肝切離面の描出が盛んに行われている7).また開腹肝切除においてもプロジェクションマッピングの技術を応用してICGのイメージをリアルタイムに術野に投影するMedical Imaging Projection System(MIPS)8)も開発されており進歩が著しい.一方で,このようなシミュレーションやナビゲーションの技術はあくまでも補助的な技術であり,術前CTで描出しきれていない脈管や,3D画像で構築仕切れていない脈管に術中遭遇する場合がしばしば存在するのが現状である.シミュレーション画像に頼るのではなく,従来通りのCTの詳細な検討や術中超音波は依然として安全な肝切除に必要不可欠な技術であることを改めて強調したい.今後も肝切除においては従来の方法に併せてシミュレーション,ナビゲーションの進歩とともにより安全で正確な手術に向けての取り組みが期待される.

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