2019 Volume 35 Issue 2 Pages 99-106
[背景]Fibromatosis colliは新生児の頸部腫瘤で斜頸の原因となる疾患である.過去に多くの画像所見が報告されているが,その画像所見は日齢に応じて変化する可能性がある.
[目的] 本研究の目的はfibromatosis colliのUSとMRIの画像と検査時の日齢をと画像所見を検討し,その多様性を明らかにすることである.
[対象と方法]対象は臨床的にfibromatosis colliと診断された13症例(M:F=6:7)である.超音波検査が12例に対して21検査(8例に1検査,1例に2検査,1例に3検査,2例に4検査),MRI検査が5例に対して7検査(3例に1検査,2例に2検査)が行われていた.USでは,長軸像における患側の胸鎖乳突筋の最大径,健側と比較した胸鎖乳突筋の輝度,筋束の不連続性,胸鎖乳突筋内の低輝度域,MRIでは胸鎖乳突筋の最大径,T2WIでの胸鎖乳突筋の高信号域のパターン(斑状またはびまん性),胸骨頭および鎖骨頭の腫大の有無を評価した.4例のUS,2例のMRIについて画像所見の推移を評価した.
[結果]USが行われた12例中,胸鎖乳突筋の高信号を12例,筋束の不連続性を4例,胸鎖乳突筋内の低輝度を8例に認められた.MRIが行われた5例中,斑状高信号が2例,びまん性高信号が3例,胸骨頭の腫大が4例,鎖骨頭の腫大が1例に認められた.胸鎖乳突筋の最大径と検査時の日齢の間に有意な相関を認めなかった(R=0.111).USでの経過観察で,胸鎖乳突筋の輝度は4例中2例,筋束の不連続性は1例中1例,胸鎖乳突筋内の低輝度域は4例中2例で改善を認めた.
[結論]Fibromatosis colliのUSおよびMRI所見は時間経過とともに変化すると考えられた.
[Background] Fibromatosis colli is an infantile neck mass resulting in torticollis. Previous studies have reported numerous image findings linked to fibromatosis colli and that they may depend on the patient’s age at examination.
[Purpose] We aimed to reveal the diversity of ultrasonogram (US) and magnetic resonance image (MRI) findings by assessing the patient’s age (in days) at examination.
[Material and Methods] We enrolled 13 infantile (6 male; 7 female) patients clinically diagnosed with fibromatosis colli in this retrospective study. US was performed in 12 cases (one examination in eight cases, two examinations in one case, three examinations in one case, and four examinations in two cases) and MRI was performed in five cases (one examination in three cases and two examinations in two cases). Using US, we evaluated the maximum diameter in the long axis and echogenicity of the sternocleidomastoid, discontinuity of the muscular bundle, and presence/absence of hypoechoic lesion in the sternocleidomastoid. Using MRI, we evaluated the diameter of the sternocleidomastoid, patchy or diffuse hyperintensity areas on T2-weighted images (T2WI), and swollen sternal or clavicle head of the sternocleidomastoid. We assessed the imaging findings’ time course in four and two cases using several US and MRI examinations, respectively.
[Result] We observed hyperechoic sternocleidomastoids on US in all cases (12/12). Discontinuity of the muscular bundle was seen in 4/12 cases; hypoechoic lesion in the sternocleidomastoid was seen in 8/12 cases. In two/five and three/five cases, we observed patchy and diffuse hyperintensity on T2WI, respectively. The sternal head was swollen in four/five cases and the clavicle head was swollen in one/five case. No correlation was observed between the diameter of the sternocleidomastoid and patient age on US examination (R = 0.111). Echogenicity of the sternocleidomastoid was normalized in two/four cases following several US examinations. In one/one and two/four cases, disappearance of discontinuity of the muscular bundle and hypoechoic lesions were observed, respectively.
[Conclusion] Our study shows various findings on US and MRI during the clinical course.
Fibromatosis colliは新生児の胸鎖乳突筋に生じる腫瘤であり,病側への頸部の傾きや腫脹を契機に発見される.その本態は分娩時外傷や静脈鬱滞による胸鎖乳突筋の線維化とされる.生後1か月は増大するが,その後は徐々に縮小し,臨床症状も軽快するのが一般的である.ところが,1か月以内に症状が消失する症例もあれば1),1か月後も増大し続ける症例もある2).このように臨床経過は症例ごとに様々であり,症状の改善までの期間は一定しない.
超音波画像(US)では胸鎖乳突筋内の腫瘤あるいは胸鎖乳突筋の紡錘状腫大を認め,磁気共鳴画像(MRI)では胸鎖乳突筋が軽度腫脹し,T2強調像にて下側1/3が高信号を呈するといわれている3).USで病変内部の輝度は低輝度,等輝度,高輝度いずれも示すとされ,画像所見が経時的に変化する可能性が考えられるが4),検査時の日齢を考慮した画像所見の詳細な報告はなされていない.
本研究の目的はfibromatosis colliのUSとMRIの画像と検査時の日齢を検討し,画像所見の多様性を明らかにすることである.
本研究は侵襲を伴わない後方視的研究であり,公立甲賀病院の院内倫理委員会の承認を受け実施された(承認番号:393).対象は2006年10月から2014年11月までの期間で臨床経過からfibromatosis colliと診断された13症例(M:F = 6:7)のUS検査およびMRI検査である.超音波検査が12例に対して21検査(8例に1検査,1例に2検査,1例に3検査,2例に4検査),MRI検査が5例に対して7検査(3例に1検査,2例に2検査)が行われていた.診療録から発見契機,発見された日齢,US検査時の日齢,MR検査時の日齢,治癒が確認された日齢を調査した.なお,斜頸の消失と頸部腫瘤を触知しないことをもって治癒と判断した.評価した検討項目は,USでの長軸像における患側の胸鎖乳突筋の最大径,健側と比較した胸鎖乳突筋の輝度(Fig. 1),筋束の不連続性(Fig. 2),胸鎖乳突筋内の低輝度域(Fig. 3A)を評価した.MRIでは胸鎖乳突筋の最大径,胸骨頭および鎖骨頭の腫大の有無(Fig. 3–6),T2WIで健側と比較した胸鎖乳突筋の高信号域のパターンを斑状高信号patchy high intensityとびまん性高信号diffuse high intensityに分類した(Fig. 3–6).初回超音波検査時の日齢と胸鎖乳突筋の最大径の間の相関を検討した.また,超音波検査で経時比較が可能な症例に関しては,検査時日齢と最大径に対して画像所見の推移を評価した.
日齢53日女児(症例2)
A:右胸鎖乳突筋の超音波画像(長軸像),B:左胸鎖乳突筋の超音波画像(長軸像).
患側の右胸鎖乳突筋(A:▲)は紡錘状に腫大しており,内部の輝度は健側の左胸鎖乳突筋(B:▲)と比較して高輝度を呈している.
日齢30日男児(症例9)
左胸鎖乳突筋の超音波画像(長軸像).
左胸鎖乳突筋の筋束の連続性が低輝度の腫瘤様構造(▲)により途絶えている.
日齢84日女児(症例7)
超音波画像(長軸像)で腫大した右胸鎖乳突筋内に低輝度領域(A:▲)を認める.T2強調画像(軸位断)で,びまん性に腫大し高信号を示す右胸鎖乳突筋内に点状低信号域を認める(B:▲).背側の鎖骨頭には腫大を認めない(B:→).T2強調像矢状断像(矢状断)で腫大し高信号の胸骨頭(C:▲)と腫大せず低信号の鎖骨頭(C:→)を認める.
日齢43日女児(症例3)
T2強調画像(軸位断)で腫大した右胸鎖乳突筋内に縞状の高信号域を認める(A:▲).T2強調画像(冠状断)では胸骨頭に腫大と筋束に平行な高信号域を認める(B:▲).鎖骨頭に腫大はみられないが,一部に斑状高信号を認める(B:→).
日齢46日女児(症例4)
T2強調画像(軸位断)で鎖骨頭と考えられる背側の一部を除き(A:→),びまん性に高信号を呈し,腫大した右胸鎖乳突筋を認める(A:▲).T2強調画像(冠状断)では胸骨頭にびまん性の高信号域を認める(B:▲).鎖骨頭には腫大はなく等信号を呈している(B:→).
日齢56日男児(症例8)
T2強調画像(軸位断)で左胸鎖乳突筋内に腫大を伴わない腹側の胸骨頭と(A:→),びまん性に高信号を示し腫大した背側の鎖骨頭を認める(A:▲).T2強調画像(冠状断)では胸骨頭は保たれているが(B:→),胸鎖乳突筋鎖骨頭にびまん性の高信号域を認める(B:▲).
対象症例の発見契機,発見時の日齢,性別,病側,検査時日齢,転機をTable 1に示す.全例が腫瘤触知にて発見されており,発見時の平均日齢は47.4(20–123)日,病側は右が6例(46.2%),左が7例(53.8%)であった.治癒が確認された日齢は平均231.3(94–790)日であった.
症例 | 発見契機 | 日齢 | 性別 | 病側 | US検査時の日齢 | MR検査時の日齢 | 治癒が確認された日齢 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 腫瘤触知 | 28 | M | 左 | 35,42 | 41,48 | 135 |
2 | 腫瘤触知 | 53 | F | 右 | 63 | NA | |
3 | 腫瘤触知 | 20 | F | 右 | 43 | 182 | |
4 | 腫瘤触知 | 36 | F | 右 | 37,44,62,142 | 46 | 120 |
5 | 腫瘤触知(1か月健診) | 35 | M | 右 | 35,62,117,207 | 210 | |
6 | 腫瘤触知 | 45 | M | 左 | 73,150,273 | 129 | 275 |
7 | 腫瘤触知 | 84 | F | 右 | 84 | 86,130 | 790 |
8 | 腫瘤触知(1か月健診) | 49 | M | 左 | 49 | 152 | |
9 | 腫瘤触知(1か月健診) | 30 | M | 左 | 30 | 94 | |
10 | 腫瘤触知(1か月健診) | 38 | F | 左 | 38 | NA | |
11 | 腫瘤触知 | 44 | F | 右 | 44 | NA | |
12 | 腫瘤触知(4か月健診) | 123 | M | 左 | 122 | NA | |
13 | 腫瘤触知(1か月健診) | 31 | F | 左 | 31 | 124 |
M:male,F:female,NA:not available
初回USでは患側の胸鎖乳突筋の輝度は全検査で健側と比較して高輝度であり,筋束の不連続性は12例中4例(33.3%),低輝度領域は12例中8例(66.7%)で認めた.筋束の不連続性を認めた4例では全検査で低輝度領域を伴っていた(Table 2).USにおける初回検査時の日齢と胸鎖乳突筋の最大径には相関を認めなかった(R = 0.111)(Fig. 7).複数回の超音波検査が行われていた4症例において,胸鎖乳突筋の最大径は徐々に減少した(Table 3).そのうち2例で胸鎖乳突筋の輝度が正常化し,筋束の不連続性を認めていた1例中1例,低輝度領域を認めていた4例中2例でこれらの所見の消失を認めた(Table 3, Fig. 8).
症例 | 検査時日齢 | 最大横径 | 胸鎖乳突筋の輝度 | 筋束の不連続性 | 低輝度領域 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 35 | 14 | high | 0 | 1 |
2 | 63 | 10 | high | 0 | 0 |
4 | 37 | 10 | high | 0 | 1 |
5 | 35 | 14 | high | 1 | 1 |
6 | 73 | 11 | high | 0 | 1 |
7 | 84 | 25 | high | 1 | 1 |
8 | 49 | 9 | high | 0 | 0 |
9 | 30 | 14 | high | 1 | 1 |
10 | 38 | 12 | high | 0 | 0 |
11 | 44 | 9 | high | 0 | 0 |
12 | 122 | 9 | high | 1 | 1 |
13 | 31 | 10 | high | 0 | 1 |
症例 | 検査時日齢 | 最大横径 | 胸鎖乳突筋の輝度 | 筋束の不連続性 | 低輝度領域 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 35 | 14 | high | 0 | 1 |
42 | 13 | high | 0 | 1 | |
4 | 37 | 10 | high | 0 | 1 |
44 | 10 | high | 0 | 1 | |
62 | 7 | high | 0 | 1 | |
142 | 6 | iso | 0 | 0 | |
5 | 35 | 14 | high | 1 | 1 |
62 | 12 | high | 1 | 1 | |
117 | 10 | high | 1 | 1 | |
207 | 8 | high | 0 | 1 | |
6 | 73 | 11 | high | 0 | 1 |
150 | 9 | high | 0 | 0 | |
273 | 7 | iso | 0 | 0 |
初回超音波検査時の日齢と患側の胸鎖乳突筋の最大径の相関
両者の間に相関を認めなかった(R = 0.111).
症例4の超音波画像(長軸像)の経時変化
日齢37日(A),日齢44日(B)では,胸鎖乳突筋は高輝度を示し,その最大径は10 mmであある.内部には低輝度領域(▲)を認める.
日齢62日(C)では,胸鎖乳突筋は依然として高輝度を示すが,最大径は7 mmに減少し,低輝度領域も消失している.
日齢142日(D)では,胸鎖乳突筋は等輝度となり,最大径も6 mmと正常化している.身体診察上も異常を認めなかった.
MRIでは5例中4例(80.0%)に胸鎖乳突筋の胸骨頭,5例中1例(20.0%)に胸鎖乳突筋の鎖骨頭に腫大を認めた.T2WIで患側の胸鎖乳突筋内に5例中2例(40.0%)に斑状の高信号域patchy high intensity,5例中3例(60.0%)にびまん性の高信号域diffuse high intensityを認めた(Table 4).2例において,複数回のMR検査が施行されていたが,画像所見に経時変化を認めなかった(Table 5).
症例 | 検査時日齢 | 最大横径 | 胸骨頭 | 鎖骨頭 | 胸鎖乳突筋の信号 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 41 | 15 | 腫大 | 正常 | patcy high |
3 | 43 | 15 | 腫大 | 正常 | patcy high |
4 | 46 | 12 | 腫大 | 正常 | diffuse high |
7 | 86 | 25 | 腫大 | 正常 | diffuse high |
8 | 56 | 10 | 正常 | 腫大 | diffuse high |
症例 | 検査時日齢 | 最大横径 | 胸骨頭 | 鎖骨頭 | 胸鎖乳突筋の信号 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 41 | 15 | 腫大 | 正常 | patcy high |
48 | 15 | 腫大 | 正常 | patcy high | |
7 | 86 | 25 | 腫大 | 正常 | diffuse high |
130 | 25 | 腫大 | 正常 | diffuse high |
Fibromatosis colliは新生児に発生する胸鎖乳突筋の腫瘤であり,病理組織学的には線維増生を認める5).新生児の0.4%に発生するとされ,男児に多く発生する.原因は明らかにされていないが,分娩時外傷や子宮内での体位に起因する静脈鬱血が関与していると考えられる.また遺伝要素の関与も示唆されており,本症の患児の11%では家族歴があるとも言われている6).基本的に病変は片側性であり右側に多いとされる.斜頸で発見されることもあれば,触診で胸鎖乳突筋に硬い腫瘤を触知することもある.
基本的に周囲の軟部組織には異常は見られないとされ7),病変が胸鎖乳突筋に限局していることが,横紋筋肉腫や神経芽腫などの悪性腫瘍との鑑別の上で重要とされる.多くの症例は2年以内に自然軽快するが,改善に乏しい場合は外科的治療やA型ボツリヌス毒素の注射が行われることもある8).なお,画像所見の改善は臨床症状の改善よりも2週間程度遅れると報告されている9).
画像検査に関してUS,CT,MRIの報告がなされているが,いずれのモダリティでも胸鎖乳突筋の紡錘状腫脹が特徴的である.USでは低輝度から高輝度まで様々な内部輝度を示し,胸鎖乳突筋内に腫瘤様の所見を伴う場合もあるとされる7).今回の検討で筋束の不連続性がみられた症例の中にも腫瘤様の所見がみられたが,正常部と腫大した病変部の境界が腫瘤様に描出されたと考えられる(Fig. 2)7).USでは内部には低輝度領域がみられたが,過去のUS所見の報告では,これが胸鎖乳突筋の低輝度として報告されていた可能性がある4,7).USでの低輝度領域はMRIのT2強調像では病変内に島状に散在する低信号域に相当しており,浮腫や炎症からspareされた筋肉組織に相当すると考えられた(Fig. 3).
CTでは健側と比べて低~等吸収を示すと報告されている10,11).出血の既往を反映して石灰化を認めることもあるとされる12).MRIでは胸鎖乳突筋の下側1/3に腫大を認めるとされる13).胸鎖乳突筋には胸骨に付着する胸骨頭と鎖骨内側に付着する鎖骨頭があるが,fibromatosis colliの発生部位に関してこれらを区別した報告はない.今回の検討でMRIが行われた5例では4例に胸鎖乳突筋の胸骨頭,1例に胸鎖乳突筋の鎖骨頭に腫大を認めた.胎児期や分娩時の体位により,障害される筋束が異なることが背景にあると考えられる.USでは両者を区別して撮像されておらず,検討できなかったが,長軸像と短軸像を詳細に評価することで胸骨頭と鎖骨頭の分離が可能と考えられる.過去の報告ではT2強調像で腫大した胸鎖乳突筋内にびまん性の高信号を認めるといわれている13).ところが,今回の検討では2症例3検査にて斑状かつストライプ状に高信号を認めた(Fig. 4).分娩時外傷は静脈鬱血が原因として考えられているが,外傷により強く進展され障害を受けた筋束あるいは静脈鬱血が強く生じた血流支配域が優位に障害された結果であると推測する.また胸鎖乳突筋に腫瘤は認めなかったと報告されおり,腫瘤様所見を伴うとされるUS所見の報告とは異なる.US,MRI問わず,障害が局所的である場合は腫瘤様所見を示すと考えられる(Fig. 2).CTは放射線被ばくを伴い,MRIは鎮静下に行う必要があることを考えると,本疾患の診断および経過観察にはUSを第一選択にすべきと考える.
画像検査以外の検査としてはfine-needle aspiration(FNA)で本疾患に特徴的な線維芽細胞と変性した萎縮様の骨格筋を同定することで診断可能と報告されている14,15).一方,臨床症状と画像所見が特異的であるため生検をすべきでないという意見もある7).FNAの報告はUSが普及していない発展途上国からのものが中心であり,USが普及している本邦では,USが診断の中心的役割を担うと考える.
経過観察が行われた4例に関しては,胸鎖乳突筋の最大径は日齢が増すに従って減少する傾向にあった.本疾患が自然に軽快するself-limitingな病態であることを反映した結果である.US画像の経過が追えた症例の中には,胸鎖乳突筋の輝度が高輝度から等輝度に変化していることが確認できる症例もあった(症例4,6).筋束の不連続性(症例5),低輝度領域(症例4,6)に関しても経過中に改善を確認できた.過去のUS所見の報告では病変内部の輝度は様々とされていたが,US検査を行う時期により性状が変化すると考えられる.すなわち,出生後早期は浮腫や炎症が強いため高輝度を示すが,治癒過程で浮腫や炎症の消退に伴い,胸鎖乳突筋の輝度が高輝度から等輝度に変化し,浮腫や炎症による筋束の不連続性,島状に残存した正常筋組織を反映した低輝度領域も消失するものと考察する.一方,ほぼ同時期に検査が行われた,個々の症例においては,それぞれが多様な画像所見を呈していた.これは,胎児期または分娩時に受けた外力の方向や強度により,障害される胸鎖乳突筋の筋束,胸鎖乳突筋の腫大の程度,胸鎖乳突筋内部の性状が異なるためであり,同じ日齢でも症例ごとに様々な画像所見を呈すると考えられる.
同一症例の経時比較では,臨床症状の改善に伴い,画像所見も正常化するが,個々の症例間の比較ではほぼ同じ日齢であっても多様な画像所見を呈することが示された.
本論文の内容の要旨を第50回日本小児放射線学会学術集会で発表した.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.