Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Case Report
Spinal epidural fluid collection on MRI after a lumbar puncture mimicking a hematoma on ultrasonography
Yusa Nagai Yoshiko UchidaYoshiyuki TsutsumiShunsuke NosakaSatoko UematsuMitsuru KubotaAkira Ishiguro
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2020 Volume 36 Issue 1 Pages 59-65

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要旨

腰椎穿刺後の合併症として,脊髄硬膜外血腫と症候性脊髄硬膜外液体貯留が知られているが,理学所見が類似するため,鑑別が困難である.一方で,この二つの疾患の予後や治療方針は大きく異なる.今回,有熱性痙攣重積の鑑別のために実施した腰椎穿刺後に,背部痛,歩行障害そして立位不能がみられ,血腫との鑑別を要した脊髄硬膜外液体貯留の2歳男児例を経験した.超音波検査では脊柱管内に高エコー輝度の構造物を認め,血腫を疑った.鎮静の上実施したMRI検査において,硬膜嚢周囲に脳脊髄液とほぼ等信号の領域を認め,馬尾周囲のくも膜下腔は狭小化し,硬膜外脂肪織信号の不均一化を認めたことから,脊髄硬膜外液体貯留と診断した.脊髄硬膜外液体貯留の診断には,超音波検査とMRI検査の長所,短所を使い分ける必要がある.

Abstract

Differentiating a spinal epidural fluid collection from a spinal epidural hematoma following a lumbar puncture is difficult due to the similarity of their physical findings. However, the respective neurological prognosis and therapeutic strategy differ. Herein we presented the case of a 2-year-old male patient with a spinal epidural fluid collection following a lumbar puncture. Ultrasonography showed a highly echoic area in his spinal canal suggesting a spinal hematoma. Magnetic resonance imaging revealed areas of iso-signal intensity surrounding the thecal sac, abnormal narrowing of the subarachnoid space in the cauda equina, and a heterogeneous signal in the epidural fat. Based on these findings, spinal epidural fluid collection was diagnosed. Appropriate use of ultrasonography and MR imaging can facilitate the diagnosis of spinal epidural fluid collection.

背景

腰椎穿刺は,中枢神経系感染症や脱髄疾患などの神経疾患,代謝疾患などの診断のために行われる一般的な検査である.腰椎穿刺後の合併症としては頭痛1,2),背部痛,感染3),脳ヘルニア4,5),硬膜外/硬膜下血腫6),類上皮腫7)などが知られている.感染,脳ヘルニア,硬膜外/硬膜下血腫は特に重篤な合併症であり,穿刺部位の感染や外傷を疑う場合,出血傾向がある場合,頭蓋内圧亢進を疑う場合には腰椎穿刺は禁忌とされている4,5,7)

脊髄硬膜外/硬膜下血腫は血腫による神経圧排のため不可逆的な神経損傷を来すことがあり,緊急手術の適応となり得る.一方,脊髄硬膜外液体貯留は経時的に軽快することが知られている8).両者の治療方針は大きく異なるが,身体所見のみによる両者の鑑別は困難である.診断にはMRI検査が有用だが,年少児では鎮静を要することがあり,検査の適応を慎重に考慮する必要がある.また,医療行為による合併症であるため,治療方針の選択・病状説明には細心の注意が求められる.今回,増悪する背部痛のため血腫との鑑別を要した脊髄硬膜外液体貯留の症例を経験したので報告する.

症例

症例:2歳,男児.

主訴:腰椎穿刺後の背部痛,歩行障害.

既往歴:特記事項なし.発達は年齢相応.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:受診当日,有熱時けいれん重積で救急搬送された.けいれんの原因検索目的に,腰椎穿刺を行った.髄液検査では細胞数増多はなく,意識も経時的に回復したため,ウイルス感染症に伴う複雑型熱性痙攣を疑い経過観察目的に入院した.

入院時身体所見:体温38.5°C,呼吸数24/分,心拍数110/分,SpO2 98%(室内気).

頭頸部:咳嗽・鼻汁あり,その他特記すべき所見なし.

胸部:心音整,呼吸音清明.

腹部,皮膚:特記すべき所見なし.

神経:GCS 15点,瞳孔左右同大,明らかな四肢麻痺なし,筋力低下なし,膝蓋腱反射およびアキレス腱反射の亢進減弱なし,Babinski徴候陰性,座位安定,立位はやや前傾.

入院時検査所見:Table 1

Table 1  入院時検査所見
血液学的検査 生化学的検査 尿検査
WBC 5,330/μL AST 32 IU/L pH 5.5
Neut 61.5% ALT 15 IU/L 蛋白 (−)
Lymph 31.6% Alb 4.4 g/dL (−)
Hb 12.8 g/dL CK 149 IU/L ケトン体 (−)
MCV 78.7 fL BUN 10.5 mg/dL 潜血 (±)
PLT 22.7 104/μL Cre 0.19 mg/dL WBC反応 (−)
Na 135 mEq/L 亜硝酸塩 (−)
K 4 mEq/L
Cl 102 mEq/L 髄液検査
CRP 1.39 mg/dL 細胞数 <1/μL
71 mg/dL

腰椎穿刺施行時の状況:看護師1人で左側臥位の体位固定を行ったが,体動は強かった.キシロカイン1%局所麻酔下に,23G 70 mmのスパイナル針(スタイレット付)を用いて第3/4腰椎間レベルに1回穿刺を行った.血性髄液ではなかった.針は軽度に弯曲したが,抜針はスムーズであった.

入院後臨床経過:腰椎穿刺当日は無症状であったが,翌日から背部痛と歩行困難を認めた.その後,背部痛の増強のため仰臥位になれず,背部を丸めた状態で母に抱かれて過ごし,立位も不能となった(Fig. 1).坐位で背部を丸めた状態では機嫌よく遊んでいた.筋力低下やBabinski徴候は認めず,感覚異常は明らかではなかった.深部腱反射は軽度に減弱していた.検査に合併した脊髄硬膜外血腫の可能性を考慮し,低侵襲の脊髄超音波検査をまずは行った.第1腰椎から第2仙椎レベルの脊柱管背側に高エコー輝度の構造物(*)を認め,血腫を疑った.また,その腹側には,無エコー域(両矢印)を認め,超音波検査時にはくも膜下腔の髄液を見ているものと考えた(Fig. 2:比較対象として健常像(2歳)も記載した).そのため,精査目的に,腰椎穿刺から48時間後に,鎮静の上,脊髄MRI検査を行った.脊髄MRI検査では,横断像にて,第11胸椎から第4腰椎レベルで脊柱管内の硬膜嚢背側に,T1強調像でもT2強調像でも脳脊髄液とほぼ等信号の領域を認め,脊髄および馬尾周囲のくも膜下腔は狭小化していた(Fig. 3:比較対象として健常像も記載した).超音波検査で高エコー域の腹側に認められた無エコー域は,くも膜下腔ではなく硬膜外の液体貯留を見ていたものと考えられた.矢状断像では,T1強調像で硬膜嚢背側に液体貯留を認め,T2強調像で,硬膜外脂肪織信号の不均一化を認めた(Fig. 4:比較対象として健常像も記載した).T2*および拡散強調像では,出血を示唆する所見は認めなかった.そのため,MRI検査上,血腫は否定的で,腰椎穿刺後の硬膜外腔の液体または軟部組織腫脹による神経圧排を原因とした症状と考えられた.鎮痛薬投与にて経過観察を行ったところ,経時的に症状の改善を認め,入院6日目に後遺症なく退院した.以後,けいれんの再発はなかった.

Fig. 1 

入院後経過

Fig. 2 

脊髄超音波検査

a(症例):長軸像 b(症例):短軸像 c(症例):長軸像

腰椎レベルの脊柱管背側に高エコーの構造物(*)とその腹側に無エコーの液体貯留(両矢印)を認め,さらにその腹側に硬膜嚢(●)を認める.椎体(▲),棘突起(片矢印)も図中に示す.

d(健常):長軸像 e(健常):短軸像 f(健常):長軸像

健常2歳児では,腰椎レベルに脊柱管背側の高エコーの構造物やその腹側の液体貯留は認められず,硬膜嚢(●)は圧排されることなく脊柱管内部に認められる.椎体(▲),棘突起(片矢印)はFig. 2a–cと同様に描出されている.

※第1腰椎から第2仙椎レベルにかけて同様の所見を認めたが,一画面に収まらず,一部の画像を掲載した.

Fig. 3 

脊髄MRI検査 横断像(第1腰椎下部レベル)

a(症例):硬膜嚢(片矢印)は脊柱管腹側に偏位し,くも膜下腔は狭小化している.その背側に低信号の液体貯留(両矢印)が位置し,さらにその背側に高信号の硬膜外脂肪組織(▲)を認める(T1強調像,500/11/1(TR/TE/excitations)).

b(健常):硬膜嚢(片矢印)と硬膜外脂肪組織(▲)の境界は明瞭である(T1強調像,490/11/1(TR/TE/excitations)).

c(症例):硬膜嚢(片矢印)周囲に,液体貯留を認め,硬膜外脂肪組織(▲)との境界が不明瞭である.液体の信号強度は髄液とほぼ等しい(T2強調像,5,000/100/1(TR/TE/excitations)).

d(健常):硬膜嚢(片矢印)の位置を示す(T2強調像,3,800/88/1(TR/TE/excitations)).

Fig. 4 

脊髄MRI検査 矢状断像

a(症例):脊柱管腹側に偏位した硬膜嚢背側(片矢印).その背側に液体貯留(両矢印)を認め,さらにその背側に高信号の硬膜外脂肪組織(*)を認める(T1強調像,565/12/2(TR/TE/excitations)).

b(症例):脊柱管腹側に偏位した硬膜嚢背側(片矢印).その背側の硬膜外脂肪組織はより不均一な信号強度を呈しており,液体浸潤による変化が疑われる(*)(T2強調像,4,500/98/1(TR/TE/excitations)).

c(健常):硬膜嚢(片矢印)と硬膜外脂肪組織(*)(T2強調像,4,000/82/2(TR/TE/excitations)).

考察

臨床経過および超音波検査所見から脊髄硬膜外血腫が疑われたが,MRI検査で脊髄硬膜外液体貯留と診断し,侵襲的治療を行わず治癒した症例を経験した.

病名に関して,脊髄を圧排している液体は漏出した髄液が疑われるが,病理学的な検証の報告はなく,過去の報告では「epidural cerebrospinal fluid collection」と表現されており,本報告でもそれに倣って「硬膜外液体貯留」とした.

症候性脊髄硬膜外液体貯留は,腰椎穿刺後に背部痛・下肢痛・歩行困難・失調・下肢腱反射減弱・知覚異常などの新たな症状が出現することが特徴である.Kochら9)は,小児25人の腰椎穿刺後の症候性硬膜外液体貯留を後方視的にまとめている.この報告では,平均年齢は5歳1か月であり,背景に血液凝固機能異常を認めたのは1例のみであった.全例,腰椎穿刺1~7日(平均2.3日)後にMRI検査を用いて診断された.安静や鎮痛薬投与などの保存的治療で後遺症を遺さずに軽快した.MRI検査では,脊柱管背側にT1強調像で低信号,T2強調像で髄液とほぼ等信号の液体貯留を疑う領域を認め,脊髄は腹側に偏位していた.また,硬膜外脂肪組織は不均一な信号強度を呈し,脊髄には異常信号は認めなかった.25例中5例はフォローアップのMRI検査で所見の消失が確認された.原因としては複数回の腰椎穿刺による硬膜の損傷を疑った報告もあるが,Koch9)やAronson10)らの報告では穿刺回数と貯留した液体量の相関はなく,穿刺回数との関係は否定的と考えられている.また,小児における硬膜外軟部組織の未熟性11)が示唆されているが,原因は未だ不詳である.病態としては,硬膜嚢周囲の髄液と同等の信号域の拡大と,これに伴う馬尾周囲のくも膜下腔狭小化の所見から,硬膜嚢周囲への髄液の漏出や軟部組織腫大による神経の圧排が疑われている11)

超音波検査に関して,新生児における報告でも,硬膜外腔に液体貯留を疑う無エコー域を認め,さらに背側には椎体に隣接する不均一なエコー域が指摘され,同部位はMRIにおける硬膜外脂肪組織の不均一化の所見にあたると記載されている12).本症例では超音波検査で脊柱管背側に高エコー域を認めたため血腫を疑ったが,この所見は硬膜外脂肪組織の所見であったと推測された.Kochら9)は,MRIにおける硬膜外脂肪組織内部の帯状の低信号域(Fig. 4bの*部分)を,液体浸潤に伴う硬膜外脂肪組織の浮腫性変化(floating fat pad)を捉えた所見と考えているが,硬膜外脂肪組織内部へ浸潤した液体によるchemical shift artifactを見ている可能性もあると考えられる.脊髄の評価はMRI検査が一般的だが,椎弓の骨化が未発達な新生児や乳児期早期には超音波による脊髄評価の有用性が報告されており,鎮静なしで非侵襲的に行える利点がある.また,新生児と乳児の腰椎穿刺において,盲検法で髄液採取が困難であった症例に対し,超音波ガイド下で腰椎穿刺を行うことが有用であったとする過去の報告もある13).本症例は幼児であり,本来であれば超音波による脊髄評価は難しい年齢であるが,検査による合併症である背景を考慮し,低侵襲である超音波検査を選択した.

脊髄硬膜外血腫は,適切な時期に外科的減圧術を行わないと神経学的後遺症を残す可能性のある腰椎穿刺の重大な合併症である.症状としては,圧排された神経領域の疼痛や四肢麻痺,知覚異常,膀胱直腸障害などの馬尾症候群を来すが,年少児では症状の正確な評価は難しい上,これらの症状は脊髄硬膜外液体貯留でも来たしうるため8),症状や身体所見のみで両者を鑑別することは困難である.診断にはMRI検査が有用だが,超急性期にはMRIにおける血液の信号強度変化は乏しく,T1強調像で髄液とほぼ等信号であり,T2強調像では不均一で境界明瞭な高信号の病変として描出される.亜急性期にはT1強調像,T2強調像共に高信号になることが多い14).また,T2*では超急性期において高信号と低信号が混在し,急性期には低信号,慢性期には高信号を示したという報告があり15),とくに慢性期における評価に有用とする報告がある16).したがって,超急性期に液体貯留と血腫の鑑別をMRIのみで行うことは困難な可能性がある.治療としては,血腫が少量で神経所見が軽度の場合には保存的加療(ステロイド投与など)が行われるが,緊急で外科的加療(椎弓切除術,血腫除去)を要することもあり,手術可能な施設で注意深く管理をする必要がある.

脊髄硬膜外液体貯留と血腫における画像所見の特徴についてTable 2にまとめた.超音波検査は,簡便で非侵襲的であることが長所だが,年長児では脊椎のアーチファクトにより正確な所見を得られない可能性がある点,検査施行者の経験により検査の質が異なる点が短所である.MRIは発症後一定時間経過していれば,髄液と血腫の信号強度に変化が見られるため,確定診断に有用だが,超急性期には両者の信号強度が同等で診断が困難である可能性や対象年齢によっては検査前鎮静を要する点が短所として挙げられる.年長児の脊髄超音波検査では,新生児のように全体像を描出することが困難であるため,得られた画像所見の解釈を慎重に行う必要がある.しかし,液体貯留により不均一化した脂肪組織が,血腫と類似した高エコー輝度の構造物として反映されることに留意すれば,診断の一助となりうると考える.診断的腰椎穿刺後に血腫をきたした小児では,11例中10例が血液凝固能の異常をきたす基礎疾患(白血病による血小板減少17)や血友病18))や血管奇形,抗凝固療法中であったことが報告されている9).また,成人を含めた40症例中35症例で血液凝固能異常を指摘した報告もあり6),血液凝固機能異常があることが血腫のリスクとなりうる.一方で硬膜外液体貯留25例の後方視的研究では,背景疾患のある児は1例のみであったことから9),両者の鑑別には血液凝固機能異常の評価は重要である.本症例では血液凝固能検査を行う前に,MRIにて血腫でないことを確認したため,凝固能検査を行わなかった.今後は,画像検査前に凝固能検査を行うことで出血傾向の有無を評価し,血腫を形成する可能性の高さについて検討後,画像評価を行う必要があると考える.

Table 2  亜急性期の超音波所見およびMRI所見の特徴
脊髄硬膜外液体貯留 脊髄硬膜外血腫
症状/神経学的所見 背部痛・下肢痛・歩行困難
失調・下肢腱反射異常・知覚異常
超音波 所見 無エコー+高エコー
(液体貯留+硬膜外脂肪組織)
高エコー
(血液)
長所 簡便で非侵襲的
短所 骨のアーチファクトによる観察可能範囲の制限
施行者により検査の質が異なる
MRI 所見 硬膜外の液体貯留とくも膜下腔の狭小化
T1強調像での信号強度 髄液と等信号 髄液より高信号
T2強調像での信号強度 髄液と等信号 髄液より高信号
その他の所見 硬膜外脂肪組織信号の不均一化
長所 より詳細な評価ができる
客観的な画像が得られる
短所 超急性期には血液の信号変化が乏しい
検査前に鎮静を要することがある

したがって,血液凝固機能異常がなく,血腫形成のリスクの低い児に対しては安静および鎮痛剤投与を行い,症状や理学所見の経過に応じて超音波検査に加えて,MRI検査を行うことが有用な可能性がある.

結論

腰椎穿刺後に背部痛や下肢痛などの新たな神経症状が出現した場合には,脊髄硬膜外液体貯留や血腫が疑われる.超音波では,硬膜外脂肪組織は高エコー輝度の構造物として認められ,特に椎弓の骨化が進行し観察可能範囲が狭い幼児では,血腫との鑑別が困難なことがある.したがって,その早期診断には,脊髄硬膜外液体貯留の超音波およびMRI所見の特徴と,各検査の長所,短所を理解した上で,検査方法を選択し,画像評価を行うことが重要である.

 

本報告に,日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

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