2020 Volume 36 Issue 1 Pages 70-73
9/7 39度の発熱
9/10 近医(小児科)受診しウィルス感染症といわれた.その後解熱.
9/26 38度の発熱を認め再度近医受診.
9/27 左上肢を使いたがらないため近医整形外科を受診.明らかな腫脹や骨の異常を認めず経過観察となる.
10/9 再診時の単純X線写真で異常を認め紹介された.
10/12 受診時に発熱なし.患部(左前腕)の発赤・腫脹・熱感などの炎症所見なし.
Hb 12.1 mg/dl WBC 123 × 102/ml CRP 0.01 赤沈26 mm(1時間)
診断は?
はじめに撮影された左前腕部単純X線写真(Fig. 1)では異常は認められない.その12日後(10/9)の単純X線写真では尺骨遠位骨幹端に骨膜反応を伴う溶骨性変化(Fig. 5矢印)が認められ,骨幹端の骨皮質は一部不明瞭化している.骨膜反応は厚い硬化像を示す(Fig. 5矢頭).10/12撮影の単純X線写真は10/9とほぼ同様の所見で,その日に撮影されたMRIでは尺骨遠位骨幹端の骨髄はT1強調画像で低信号,T2強調画像で明瞭な高信号を示し,拡散強調画像で高信号,ADC mapで高信号の中心部に低信号を呈している(Fig. 6矢印).その部位で正常な骨皮質を示す低信号帯は不明瞭となり,低信号と高信号が層状に異常信号を示す骨髄周囲を囲んでいる(Fig. 6小矢印).さらにその周囲にT2強調画像で高信号,拡散強調画像で淡い高信号,ADC mapで高信号を示す結合織の腫脹が認められる(Fig. 6矢頭).
9/27
10/9
10/12
10/12 左前腕MRI
10/9
10/12 左前腕MRI
急性の経過を示す骨病変で,経過と画像所見から化膿性骨髄炎を疑ったが,炎症所見に乏しく,診断の確定のために生検が行われた.
《解答》左尺骨急性化膿性骨髄炎
術中に得た膿汁の培養からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出された.
《解説》単純X線写真の経過から急性骨髄炎をまず疑う所見であったが,炎症所見が乏しく,他の疾患との鑑別・診断の確定に生検が有用であった症例である.画所所見から悪性腫瘍の可能性は低いと考えられ,ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)やBCG骨髄炎との鑑別を要すると考えた.
小児の急性化膿性骨髄炎は,小さな擦り傷や刺し傷からの血行性播種により生じることが最も多く,起炎菌は黄色ブドウ球菌の頻度が最も高い1,2).血流の豊富な骨幹端が好発部位であるため,特に年齢の小さな乳幼児では治療開始が遅れると成長線や骨端に容易に炎症が波及し,治療後の発育障害や変形の原因になり得るため,早急な治療開始が重要である.そのため,本症例のように炎症所見が乏しい場合でも,画像所見から化膿性骨髄炎の可能性がある場合は早期の診断確定・治療開始のために早急に生検を行うことが重要である.また,単純X線写真で骨に異常を認めなくても,炎症所見や局所の腫脹・熱感を認める場合に化膿性骨髄炎・関節炎を考慮し,抗菌剤投与を開始することが必要とも言われている.化膿性関節炎の炎症波及により骨髄炎を生じることもあり,炎症の首座の診断や腫瘍性疾患との鑑別にMRIが有用である1).